「はぁ〜あ……」  
ため息混じりにシオが足を運ぶのは『ティコ魔法堂』。  
 ここイシュワルドに突如現れ、瞬く間に人気店に名を連ねた店。  
庶民の為の傷薬から、貴族が欲しがる秘薬まで手に入ると言う品揃え  
そして女主人の妖艶な魅力がこの店の急成長の大きな原動力だった。  
――需要が高まれば当然、供給もそれに答えねばならない  
 (仕入れると儲けが減るのよ!原価は安く利益は高くよ!!のティコの指示の元)   
  フィルもシオ薬品の元となる薬草集めに森へ山へと大忙し―――  
 
 それが二ヶ月前の話しである。  
急に『新しい研究を始めるから』と下僕……もとい、弟子のルヴェルに店を任せ…  
いや、食事も掃除も洗濯も買出しも――と、とにかくルヴェルに任せて  
店舗地下の研究室に入ったっきり、仕事の依頼はプッツリ途絶えていた。  
 
 
 
 
 そのティコからの久しぶりの依頼があったのが昨日の話し。  
『研究も1段落ついたから、またよろしくね。  
    PS、また忙しくなるんだからきっちり仕事して頂戴。』  
しかし、結果は散々。  
秘密の薬草ポイントが全て他の探索者に見つかったらしく  
知っている場所の薬草が全て取り尽くされていたのだった。  
「久しぶりの依頼だから張り切ってたのになぁ…。」  
 
 依頼品が取れない事も今まで少なからずあったが  
『そう、まぁいいわ。』 の一言で済ますのがティコ。  
(代わりにルヴェルがストレスをぶつけられるのだが、それはシオの知らぬ事。)  
許してくれるのは嬉しいが、探索者としてはあまり聞きたくない言葉だった。  
そうこう考えてる内に店の前に辿り着く。  
「…ありのままに報告するしかない、かぁ…。」  
と、顔を上げたその時だ。  
 「うわぁああ〜!し、師匠、勘弁してくだされ〜!!」  
 情けない悲鳴を上げながら店から転がり出てきたルヴェルに思わずシオは身を引く。  
当の師匠ティコは怒りに身を震わせながら不出来な弟子に続き店から出てくる。  
「ル〜ヴェ〜ル〜君〜?私の店『ティコ魔法堂』は何処にあるのかしら〜?」  
「そ、それは師匠の後ろにありますですじゃ……」  
「どこがよ!なんで店の棚が全部武器になってんのよ!!  
 『ヴァルキリーボーガン大量入荷予定』!?何考えてんのよ!!」  
 チラシをクシャクシャに丸めてルヴェルにぶつけるが、怒りの収まる様子は無い。  
「いや、武器と言うのはいつの時代も男心をくすぐりましてな…」  
 どうやら、ティコの研究は当分長くなると見て商品の傾向を変えた  
…までは良かったがいささかルヴェルの選択に偏りがあった様だ。  
「ばっかじゃない!?」  
そう叫ぶとルヴェルの襟首を掴み耳元で声を潜めて続き言う。  
「武器なんてそう簡単に壊れたり買い変えたりしないでしょう?  
 単価が高くても消耗品の薬より儲からないのよ!?」  
そう伝えるとルヴェルをドンと突き飛ばす。  
――『儲け』店舗を武器屋にされた事よりこの点が一番頭に来てるようだ。  
  金に意地きたな……いや、商魂逞しいものである―――  
「とにかく、今日は臨時休業!店舗を元に戻してからー  
 そうね、武器の仕入れた分は土下座してでも業者に返品して頂戴。」  
「そんな、殺生な…ししょ」  
「黙りなさい。全部貴方のやった事…落とし前は付けてもらわなきゃ。」  
「う、うぅ、解りましたですじゃ…とほほ。」  
 
 首根っこを掴み、ルヴェルを連れて行こうとするティコに慌ててシオは声をかける。  
「あ、あの〜、お取り込み中に申し訳ないんですけど…。」  
「あら、シオちゃん。もしかして恥ずかしい所見られちゃったかしら?ふふ。」  
いつもの調子で答えるティコ。逆にシオはそれが怖かった。  
「えっとですね、その、エルフの薬草が取れなくって…ごめんなさい。」  
「あら、そうなの。じゃあ今日も探索の継続をお願いできるかしら?」  
「え?あ、はい!それはもちろん…!」  
「焦らなくていいわ、じっくり探して来て頂戴。たっぷり時間はあるから…  
 君のおかげでね。ねぇ、ル・ヴェ・ル・くぅ〜ん?」  
「いだだだだだだだ!!!!腕が、腕が折れますじゃ師匠!!!」  
「じ、じゃあ行ってきまーす!」  
「はぁ〜い、気を付けるのよぉ〜?」  
シオはその声に振り向くことなく、メロウの森へとひた走った。  
まるで、絡み付いて来る悪夢と恐怖とルヴェルの悲鳴を振り切るかの様に――  
 
 
 小鳥の囀りと射しこむ木漏れ日の中シオは愚痴をこぼす。  
「んもぉー、ここにも無いのぉ!?」  
 思わずそんな言葉がでるがそれも無理からぬ事だった。  
ホントに何処にも薬草が無いのだ。  
幾つかは話しの上でフィルに喋ってしまった場所もあったが  
今来た場所はフィルにも教えたことも無い秘密の場所なのに……  
「でも、いい機会…かな?よーし、目指せ新規開拓!いっくぞー♪」  
どんな時でもポジティブ。それがシオの最大の魅力であり人気の元なのだ。  
……いや、可愛い、愛らしいというにもあるのだろうが。(本人に自覚は無いが)  
 「ふ〜ん♪ふふ〜ん♪ふ〜ん♪」  
 シオのレベルならここに出てくるモンスターなど相手にならない。  
軽いピクニック気分で鼻歌交じりに辺りを散策する。  
ふと、あるものに目を奪われ足を止める。  
「んん〜?」  
昨日まで無かった道。道と言うよりは『ただ人が通った跡』というべきか――  
うっそうと生い茂る背の高い草むらの一部が踏み倒されているのだ。  
「これは…行くしかないよね!」  
一人、小さくガッツポーズをすると深緑の道へと駆け込んでいった。   
遠くでその様子を見つめる視線に気付く事のないまま……。  
 
 
 もうどれ程進んできたのか、時には岩を、時には朽ちた倒木を飛び越えながら  
見知らぬ先駆者が作ったコースをシオは走り続ける。  
「薬草♪薬草♪おっと!だーれも知らない♪いよっと!秘密の群生地〜♪  
 ぃよいしょっと!!…あれ?」  
浮かんだ歌詞を口ずさみながら岩を跳び箱のように飛び越えると  
開けた場所にでる。  
 色とりどりの花が地面に所狭しと咲き乱れ、崖と崖とを結ぶ橋があった。  
「うわぁ…すごい!こんな場所があったんだ…。」  
こうして新たな風景を発見して行くのも、探索者シオの喜びの1つなのだ。  
「綺麗…。」   
 競うように咲く花をみながら釣り橋へと近づく。  
蔦や蔓が絡まり、随分と古い物だと言うのが見て取れる。  
足を乗せると『ギシリ』と重々しい音を立てた。  
「く、崩れたりしないよね?私、スリムな方…だと思うし。  
 もし落ちてもそれは盾とか荷物とか所為よね…?よし!」  
自分に言い聞かせるように呟くと、意を決してシオは橋を渡り始める。  
遥か眼下には小川…高さの所為で小さく見えるのかもしれないが――  
ゴツゴツとした岩の見え隠れする川が見えた。  
幾多の試練を越えてきたシオと言えども、タダでは済まないには明白。  
不安になりながらも足をすすめていく…彼女の抱いたモノは杞憂に終わる。  
橋全体が軋む様な音を立てながらもなんとかシオを対岸へと導いてくれた。  
 
「……っやったー!!」  
シオは眼前に広がる物に文字通り飛び上がって喜ぶ。  
花も混じってはいるが、それは今までに見た事も無い規模の薬草の群生地だった。  
「薬草♪薬草♪エルフの薬草♪だーれも知らない秘密の群生地〜♪んふふ♪」  
多少、歌詞が変わったさっきの歌を口ずさみながら  
大きな皮のシートを広げ、薬草をその上に積み上げて行く。  
あっという間に山積みになった薬草をシートで包み、背負う。  
「ぅ…重い。でも……えへへ〜♪」  
 これだけの量だ、ティコからもしかしたら臨時ボーナスが出るかもしれない。  
そう考えると自然と笑みがこぼれる。おやつのビスケットも当分買い放題だ。  
あとは来た道を戻るだけ意気揚々と橋を渡り終えようとしたその瞬間  
「きゃ……っ!?」  
 急に足場が消え、シオは空中に投げ出される。  
大量の薬草の重みに耐えかね、釣り橋が音を立てて崩れ落ちたのだ。  
 女の子と言えども立派な探索者である。  
シオはすぐに薬草の詰まったシートを放り投げ、元は足場であったロープを掴む。  
シ−トは崖の岩肌に何度か叩き付けられながら落下し、小さな飛沫を上げて消えた。  
アレが自分だったらと思うと…軽く身震いするが、それ所ではない。  
 なんとか助かる方法をと考えるも、掴んだロープが嫌な音を立てる。  
『ミシッ…ミリミリ…』  
 ほつれていくロープを見つめながら感じたのは、絶望よりも自己嫌悪だった。  
(草を踏み倒した跡はあったけど…薬草は誰も採取した形跡は無かった…  
 ここに来た人はちゃんと危険を考えて橋を渡らずに引き返したんだろうなぁ  
 なのに私は、ただ浮かれて何にも考えないで…なにやってんだろ?)  
自分の行為の愚かさに涙があふれてくる。と、同時に恐怖が込み上げる。  
「やっ、やだっ!怖いよ!!死にたくないっ!!だれか…っ!!」  
 
 いつも気丈で明るいシオの表情が恐怖と涙でグシャグシャになる。  
今、自分の命を守っているのは剣でも盾でも探索者の知恵でもない  
紐へと姿を変えつつある1本のロープである。  
 ロープの強度を考えると壁を蹴りながら登るなど自殺行為だ。  
「助けて!!お願いっ!!誰かぁぁああ!!!」  
恥も外聞もかなぐり捨てて叫ぶ。  
 
その時、シオの体に影がかかる。  
「シオ!早く掴まって!!」  
差し出された手を握り締め、声の主の顔を見上げる。  
「あ…あ…」  
名前を言いたいのに声が出ない。  
「よし!今、引き上げるから!頑張って!」  
いくらシオが小柄とはいえ、盾や剣、リュック等含めれば十分重い。  
ましてや、崖から身を半分近く乗り出した状態だというのに  
片手でグイグイとシオ体は持ち上げられ、ついに崖の上に引き上げられる。  
「大丈夫!?シオ、何処も怪我してない!?」  
琥珀色の髪の少年―――それはシオのみなれた顔―――  
「ぅっ…フィ、フィル…っ君…!!ひっく……!」  
ようやく声はでたが、嗚咽混じりな為うまく喋れないシオをなだめる。  
「うん…もう平気だから、ほらなかないで…って、ぅわぁ!」  
張り詰めていた物が切れたのかシオはフィルに抱きつく  
フィルの決して広いとは言えない胸にシオはすがり付き  
大声で泣き始めた。何度も、何度も、フィルの名を呼びながら。  
それは、敏腕の探索者のシオではなく、一人の女の子としてのシオの姿だった。  
 
 パチパチと枝が爆ぜる音が夜のメロウの森に響く。  
そこには焚き火を囲むシオとフィル、2人の姿が照らし出される  
―が、二人ともずぶ濡れになっていた。  
別に夕立が降ることも珍しくないが、二人は雨で濡れたわけではない。  
 
 ――取りあえず歩ける様になったシオと共に移動したフィル。  
しかしシオがそこまで気を持ち直した時には日が傾き始めていた。  
 良く来る森とはいえ、暗くなって歩き回るのは得策ではない。  
品物は明日、朝の10時までに届ければ良いので  
森で一晩明かしても余裕はあると判断し、川の近くで一夜を明かす事にした。  
 「じゃあ、燃やせる枝探してくるから…。」  
と立ち上がったフィルに、まだ恐怖が体に残るシオは  
ついていこうとする。一人になるのが怖かった。だが…  
「あっ!まってフィルく…っ!きゃあ!!」  
慌てて立ち上がった為、足がもつれよろめくシオ。  
「わっ!シオ、あぶな…!!」  
 
           『バシャアッ!』  
 
両者、川に転落。怪我はしなかったが――――  
 
「「ひっ、クシュッ!!」」  
それが20分ほど前の話しである。  
 
「ごめんね、フィル君…。」  
「ううん、気にしなくて良いよ。」  
恐怖こそ薄れてきたが、フィルに対して申し訳ないやらで  
シオは酷く気落ちしていた。  
「服…このままだと風邪引いちゃうね。」  
 そんなフィルの問いにもシオは上の空だ。  
「うん、そーだね…。」  
「服、脱いで乾かそうか。」  
「うん、そーだね…って、えぇ!?」  
手早く鎧を外し、上着を脱いでいくフィルに思わず目を白黒させる。  
「ちょ、ちょっとフィル君!!」  
「あ、ごめん!そうだよね。はいどーぞ。」  
そう言うとフィルは体を拭く布とシオが薬草を詰めた物と同じ皮のシートを渡す。  
 実はこのシートは探索者の必需品とも言えるアイテムで  
物を詰めたり、落とし穴の蓋にして獲物を捕らえたり  
布団の代わりに地面に敷いたり、体温維持の為に体に巻いたり…  
色んな用途があり、探索者なら1つは常備する物なのだ。  
「それじゃあ俺は、向こうの木の後ろで脱ぐから。」  
そう言い残すとそのまま太い木の向こうにフィルは姿を消した。  
「え?あ…」  
シオが声をかけようとしたが、木の根元にフィルの衣服が脱ぎ捨てられていく。  
流石にシオも女の子だ、衣服を脱ぐのに戸惑う。  
しかし濡れた衣服は冷たく体にまとわり付き、容赦なく体温を奪う  
これで風邪を引いたらフィルにまた迷惑をかけてしまう…。  
その想いがシオの衣服を脱がしていった。  
 
「シオ?もういい?」  
顔を出して見るわけには行かないので声をかける。  
「ま、まだ!もう一寸待って…。」  
白く、きめ細かい肌。小さいながら形の良い胸。  
括れのある腰にキュッと引き締まったお尻……生まれたままの姿のシオ。  
それは探索者の姿とは思えない、寧ろ探索者が探す妖精やエルフの様だった。  
無論、シオにそんな自覚は無い。ただ…今日のシオは何だか違った。  
シオはただ、裸でいるという状況の所為と決め  
皮のシートを一枚は胸から太ももに掛けて巻く。  
所謂、女性がお風呂で体を隠す時の巻き方である。  
そしてもう一枚のシートを肩にかけ、火のそばに座る。  
「もういいよ、フィル君。」  
「うん、じゃあそっちに行くよ。」  
フィルは腰からスカートのように1枚巻き、肩にもう一枚を掛けていた。  
「あ、あのさ。フィル君準備良いんだね!シート4枚も持ってるなんて…。」  
「そりゃあ…何かの為に常に備えてるからね。」  
 ―実は大嘘。過去に無くしたり落としたりで困ったことが幾度か有った為  
  余分に持ち歩いているだけなのだが、シオの手前で格好つけたかったのだ―  
「そっか。あ、そう言えばフィル君。なんで私があそこにいたって  
 知ってたの?あの崖の所に…。」  
「ルヴェルさんに頼まれたものを取りに来てたんだけど…  
 たまたまシオがあの獣道に入っていくのが見えたからさぁ。  
 前にシバさんと森で会った時にあっちには危ないから行くなよって  
 聞いた事があったから…慌ててシオを追いかけたんだ。」  
「そ、そうなんだ…」  
軽くシオは狼狽した。  
 
――フィル君よりずっと先に森に足を踏み入れたのに   
――メロウの森なんてもう自分の庭みたいに思ってたのに  
――――それなのにフィル君が知ってて私が知らない事があるなんて―――  
 
そこで、ハッと気付いた。今、自分が感じている違和感に。  
「ん?どうしたのシオ?」  
「んー…今日は私とフィル君が逆になっちゃったみたいだね。」  
「え?どういうこと?」  
「だって、いっつも私が助ける側で、フィル君を守るように前歩いてさぁ。  
 木の根っこに躓いたフィル君を起こしたり…いつもそんな感じだもんね。」  
「ひどいなぁ、シオってば。何だか俺がシオの足引っ張ってる見たいに…。」  
「ふふ。それに――――」  
(フィル君が私の事いっつも気にしてるけど  
 あんまり私はフィル君の事気にしてなかった。  
 なんか手の掛かる弟だと思ってたけど……さっきからドキドキする。  
 命を助けてくれて、ずっと泣いてるのを慰めてくれて…  
 何時の間にか私の前をあるいてるんだね。  
 悔しいって言うより、ちょっぴり寂しいなぁ…。)  
「それに――――なんなの?」  
「んー、じゃあ1回しか言わないからね?」  
「う、うん。なぁに?シオ。」  
「私…フィル君の事少しだけ好きになっちゃったかも。」  
「そっか…。え?えぇ?!えぇぇぇぇええええ!?  
 そ、それってシオ、まさか……告白?」  
「まっさかぁ!そうだなぁ〜、少しフィル君を見直しただけ。」  
「な、何だよもう。」  
「あはは。なんかいつものフィル君に戻っちゃったね。」  
「うぅ、なんだかなぁ…。でも、やっぱり泣いてるより  
 そうして笑ってるシオの方が俺は好きだよ?」  
「え〜?それは反撃?それとも告白?」  
冗談交じりのシオに対して、フィルは真顔で返す。  
「俺のは、告白だよ。本気の。」  
 
 目を丸くして固まるシオに、フィルは続けて言う。  
「シオ、俺はずっと好きだよ。たぶん、これからもずっと…。」  
 シオは、恋愛に興味が薄かった。だが決して、鈍感という訳では無い。  
フィルが好意、またはそれ以上の気持ちを向けてるのは気付いていた。  
しかし、こうもハッキリと目の前で口に出されると―――  
ただただ、顔を赤らめ俯いてしまう。正に、『顔から火が出そう』。  
「や、やだなぁ、フィル君たら…冗談ばっかり。」  
――冗談じゃない、こんなに真剣なフィルの声は聞いた事が無い。  
  フィルの本気が伝わるだけに、まともに顔を会わせられない―――  
「シオ、はぐらかさないで。それとも、俺の事と…嫌い?」  
「そ、そんな事…どうしてそんないい方するの!?  
 ずるい、ずるいよフィル君!!」  
―違う、ずるいのは私の方。今までフィル君の気持ち解ってたのに。  
 今まで子供扱いしてお姉さんぶったりしてたくせに。  
 ただ、一度助けてもらった途端にこんなに意識する様になって…――  
「ごめん…、今の言い方は無いよね。」  
―違う!謝るのは私の方なのに…  
 なんでこんなに意地張っちゃうんだろう?  
 なんでこんなにフィル君は…―――  
「シオ、どうしたの?もしかして…怒っちゃった?」  
そういいながら顔を覗きこむフィルにシオが飛びついた。  
 
「ぅわぁっ!?」  
不意を衝かれ倒れたフィルの上に、シオが馬乗りになる形になる。  
――シオの太もも…凄く白くて、柔らかい―――  
 腹部の感覚だけが鋭くなったような、そんな錯覚に陥る。  
だが、それはすぐに消えてしまった。  
「…シオ、泣いてるの?」  
数滴、胸の上に涙が落ちてきた。  
「だって!!フィル君が…フィル君が優しすぎるから…!!」  
そんなシオの顔をに目を奪われていた、が――  
「あ、あ、あの、しし、シオ、む、胸!胸!!」  
 飛びかかった拍子で巻いていたシートがはだけ、胸が露になっていた。  
白い双丘、淡い桜色をした突起―――  
フィルは無意識に生唾を飲む。  
「いいよ、フィル君になら…見られても平気…。」  
「――え?シオ、それって」  
言いかけた刹那、シオの顔で視界がいっぱいになる。  
「ん…。」  
「んむッ!?…んん…。」  
 ――あー、シオの唇…こんなに柔らかかったんだ―――  
シオのキスに最初は驚いたものの、シオの気持ちを思うと……  
「ん…ぷぁ…ごめんね…フィルく…んん…っ」  
泣きながらのキス。これはフィルにとって、望んだものではなかった。  
だが、不器用なりの精一杯の愛情表現。  
そんなシオが愛しくてたまらなくなる。  
「あっ…フィル君…。」  
 だから余計に泣きながらのキスは耐えられなかった。  
シオの肩を掴み、互いの唇を引き離した。  
軽く糸を引いた唾液はシオの唇から胸と細い線を描く。  
「どうして止めちゃうの?フィル君…。」  
 
 シオの瞳が濁って見える。  
恐らくこのキスはシオの本意ではなく、抑えていた何かが  
一気にあふれた衝動的な物なのだろう。  
「フィル君…ねぇ、もっと…。」  
 頬はほんのりと朱に染まり、目はトロンとしていた。  
――違う、こんなの…!!――  
「こんなの、いつものシオじゃない!」  
シオの体がビクッとする。  
「あ、あぁ…。」  
――私、何してるんだろう。私、フィル君に…!!―――  
「嫌ぁぁぁあああっ!!」  
今までのキスが一気にフラッシュバックする。  
「シオ!落ち着いて!!」  
フィルは震えるシオを抱きしめると優しく言い聞かせる。  
「シオ、俺が好きなシオは…いつもの、元気で、可愛くて  
 お姉さんぶって…そんないつものシオが好きなんだよ!  
 だから、変に無理しなくってもいいんだよ……。」  
 その言葉を聞いた瞬間、シオは体も気持ちもスッと軽くなった気がした。  
顔を上げると、フィルが優しく微笑む。  
「うぅ…フィル君…。」  
「ああ、ほら!泣かないで!いつも見たいに笑ってよ。  
 シオは笑顔が一番可愛いんだから、ね?」  
「え?や、やだ!恥ずかしいよ!!…フィル君のばか!!」  
言葉とは裏腹に笑みがこぼれる。  
ちょっぴり目が赤いけど、その笑顔は間違いなくいつものシオだった。  
「はは、やっぱりシオは可愛いよ。」  
「もう、やめてよぉ!!」  
――近くにいたのに、声が、気持ちが、今頃届くなんて  
  そんな想いで二人は笑った。―――  
 
 「ねぇ、シオ…また、キスしてもいい?」  
「えぇ?!えーっと…う、うん、いいよ。」  
了承を得ると、今度はフィルから唇を近づける。  
「ん…んむ!?んんんーー!!ぷはっ!」  
シオは始めての感覚に驚き思わず叫ぶ。  
「なななな!何!?フィル君、何したの!?」  
「え?えっと俺の舌をシオの口の中に…。」  
――『いいか、好きな相手とのキスはだな…』とディープキスのやり方を  
  フィルはシバに教えられていた。最初こそ疑ったが  
  シバの口車に乗せられ、これが恋人のキスだとフィルは想っている―――  
そのまま、『シバさんに言われた―』と前置きしてシオに説明する。  
 
 「そっかぁ…そうなんだ。私、全然知らなかった。」  
シスター、ヤヨイと、キスの話しをする様な女友達のいないシオは  
あっさりと信じてしまう。  
「うん、俺も聞いた時は凄くびっくりしたよ。」  
ルヴェルにヘルシンキ…張本人のシバを除けば、フィルも似たようなものだった。  
「じゃ、じゃあ改めて…いい?」  
「う、うん。私も頑張ってみる!」  
 
「ん…シオ…すごく可愛いよ…んむ…。」  
「ひゃぁう…なんか…あむ…頭がぼーっとひひゃ…んん…っ。」  
―『男女が体を重ねる』ということは知っていても  
 実際なにをどうするのか…二人の乏しい性知識では解らない。  
 その結果としてのキスなのだが、まるで互いの唇を貪る様な濃厚な物だ。  
 性の知識とまるで反比例のキスは、あまりにも淫靡な光景だった。―――  
「ん…んぁ…はぷ…んちゅ……。」  
「んー…ぷぁ…んん…っ!」  
シオの口にフィルの舌が、フィルの口にシオの舌が…と行き来する。  
ピチャピチャと言う水音と僅かに漏れる二人の吐息だけが森に響く。  
口を離し、揺れる炎に照らし出される互いの肢体にしばし見入る。  
シオの柔らかそうな肌と、フィルの細身ながら引き締まった体は対照的…  
自分の体とはまったく違う互いの体の魅力に鼓動が速くなる。  
「フィル君…強くなったんだね…。」  
フィルの胸板に手を伸ばし、指を這わす。  
「シオ…その…む、胸…シオのも触っていい…かな?」  
「んもぉ、フィル君たら!…い、一々聞かなくて良いの!」  
「じゃ、じゃあ…いくよ?」  
「うん…んっ!!あぁ……っ!!」  
(凄い…シオの胸ってこんなに柔らかかったんだ…あれ?)  
「ここ…硬くなってる。」  
「な…っ!?そんな事いわなくても―んんぅっ!!…んむぅ…。」  
――こんな時だけ行動力あるんだ。やっぱりフィル君ずるいかも―――  
唇を再度奪われながら、溶ける思考の中でそう想うシオであった。  
 
延々と続くかに見えたが、何時の間にだろう。  
二人は体を折り重ねて眠っていた。  
 
「んん…。」  
朝日がやけに眩しく感じる。  
(あぁ、そっか。私、メロウの森でフィル君と………!!!)  
ガバッと体を起こすとフィルは服を着ている所だった。  
「ご、ごめん。起こしちゃった?あ、これ乾いたから。」  
そう言ってフィルはシオの衣服を渡す。  
はだけたシートを掴み、慌てて胸を隠す。  
「あぁぁ!!フィ、フィル君…あれ?そ、その服…。」  
渡された衣服はキチンとたたまれていた。という事は…もしかして――  
「わ、私のパンツも…見た…の?」  
「うん、白と青の横縞でちっちゃいリボンがついてたヤツでしょ?  
 あれ、シオに似合ってるとおもっ…」  
「フィル君のばか――――――っ!!!!!」  
森に怒号と破裂音が響き、それに驚いた鳥達がザァッと木々から羽ばたいた。  
 
「裸は平気だったくせに何で下着だと…ブツブツ…」  
「もぉ!恥ずかしいんだから止めてよ!フィル君ったら…。」  
そんな会話をしながら二人は店に入る。  
 「おはようございまーす!あの『メロウの森』ですけど  
 何にも見つかりませんでした…。」  
「あら、そう…シオちゃんには引き続き探索を依頼するわ。」  
少し残念そうにするシオをティコは励ます。  
「んで、俺の方ですけど―」  
フィルがゴトッと荷物を置くが、ティコとルヴェルの視線はフィルの顔に向く。  
「なぁ…その顔はどうしたんじゃ?」  
「まぁ、見事ねぇ…作者はシオちゃんかしら?」  
フィルの左頬には真っ赤な手形がついている。無論シオにやられたのだが。  
「うぅ、ひりひりと痛そうじゃのう…。」  
「ほ、ほっといてください。で、ルヴェルさんから依頼をうけた――」  
ハッと何かを思い出し、ルヴェルの顔が青ざめる。  
「い、いかん、フィルそれは…!!」  
「『ドライアドの木』が120個取れました!  
 ルヴェルさん、これなら結構な量の『ヴァルキリーボーガン』が―」  
「ル〜ヴェ〜ル〜くぅ〜ん?」  
「あ、いやその…し、師匠…ッ!!」  
 
 「武器なんかに無駄金使うな!この…っ馬鹿弟子がぁ―――!!!」  
 
渾身の右ストレート、ぶっ飛ばされるルヴェル  
逃げ出すシオ&フィル、ドアの修理費5000£。  
 
また、イシュワルドの1日が始まる――――  
 

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