少し大きめの街にはギルドと呼ばれるところがある。  
 そこでは様々な職業名のついたカテゴリがあり、基本的に1人につき1つ所属することができ、個人や団体が出した依頼をギルドが介してカテゴリに分類し、ギルド員に割り振るシステムとなっている。まあ派遣会社と言えなくはないだろう。  
 少し大きめ、とつけたのはやや語弊があるかもしれない。村であってギルドはあるが、カテゴリの数が極端に少ないことがある。つまり少し大きめの街では様々なカテゴリを扱うギルドがあるため、わざわざ移住して登録する者も少なくはない。  
 そう言った点では、イシュワルドはカテゴリ、ギルド員の数ではかなりのものだろう。その証拠に移住してくる者を多く、子供の将来の夢を集計した結果「ギルド員(その多くは冒険者ギルド)」が7割近く占めていた。  
 さてイシュワルドのギルドでは、キルド員はもちろん、そこで働く事務や経理の者を多い。不公平なく依頼を分別するにあたっては、その者達は決して欠かせない存在である。  
 そんな者達の中に、サラサと言う、俗に言うメガネフェチの方々から厚い支持を得ている(シバの便利屋100£情報)女性がいる。  
 
 サラサは冷めていた。たしかにギルドでの仕事は悪くない。毎日多くの人たちと関わることに苦痛を感じるわけでもなく、上司や部下、同僚などからの信頼もある。決められた仕事以上のことも難なくこなせる。  
 ほっておいても人気は出るし、昇格もあるだろう。信頼だって捨てるほど出てくる。が、サラサはそれらに興味がなかった。もちろん人気や信頼はあって損はないだろうし、出世欲もないこともない。けれど、それらがサラサを熱くさせるほどのものでもない。  
 そしてタチの悪いことに、刺激がほしいと思ってもいないことだ。今さら職を捨ててギルドに所属する気はもちろん、立場を利用して私腹を肥やす、なんて気も起きない。  
 
 つまらなかった。こうしてギルドが閉まったあと、たった1人で残業することも、帰宅して時間を持て余すぐらいなら……と思ってのこと程度である。  
 カチリとパソコンの電源を落とし、ほんのわずかにずれていたメガネを直す。これで2〜3日分の仕事は終わった。また明日、上司に仕事を与えてもらわないといけない。  
 部屋の電源、窓の鍵などを確認し、セキュリティを作動させて裏口から出る。どうやら守衛も先に帰ったようだ。とっぷりと闇に染まった街は、防衛がしっかりされているイシュワルドとは言えど気味が悪い。  
 サラサはカバンの内ポケットから、無地の巾着袋を出し、そこから何かを取り出す。  
 煙草とマッチ。頭をとんとんと叩き、口から伸びた煙草を咥え、火をつける。マッチの燃えカスはちゃんと携帯灰皿に入れる。  
「……ふぅ」  
 サラサが煙草を吸うことを知る人間は少ない。誰にも見つからないように、細心の注意を払っている。  
 仕事の後の一服などではないが、ほんの片手間潰しである。帰宅の際の習慣だろうか。イシュワルドでは歩きタバコは注意と罰金だが、こんな時間だと堅苦しい大剣の彼さえ出歩いていない。  
 自宅へは大通りをまっすぐなので歩いて5分ぐらいのもの。ちょうど煙草を1本吸い終わるころには玄関前いる計算である。  
 だが、サラサは立ち止まった。煙草を消し、軽く腕を組んで何かを考えるような仕草をする。  
 そして思いついたように、すぐ脇の細い道へ入っていった。  
 
 この道を通るときはいつも夜。昼間は仕事に追われているし、休憩のときでもこの方向へは行かない。この道は、ほぼ1つの店にしか通じていない。  
 すでに明かりの落ちた、とある店。人気は上々だが、少し黒い噂のある店。  
「こんばんわ」  
 closeと吊られた扉を開け、中の主人に挨拶をした。  
「おう……サラサか」  
 店の主人――シバ・アーカイマは、にやにやとした笑みを向けて返した。  
「あいかわらず趣味の悪い店ね」  
「売り上げはいいんだぜ。特に男性客にな」  
 サラサはシバをよく思っていない。粗雑で、どう見ても悪人。まともな商品を扱っておらず、卑猥な商品でイシュワルドの美観を損なう店。  
 そして、読み取れないこの男の性格。  
 
「くくっ」  
「何かしら?」  
「いや、実は来ると思ったんだ、お前さんが。今日あたり満月だからな」  
「どんな根拠だか」  
「結果、お前さんは来た。違うかい?」  
「そうね」  
 サラサはカバンを漁り、薄い封筒を取り出し、カウンターに置いた。その封筒に、シバが「ほぅ」と  
「いつもの。よ」  
「どれどれ……ひいふうみ……ん?」  
 枚数を数え間違えたのか、シバはもう一度数える。が、間違えではないようだ。  
「おい。約束は5本のはずだ」  
「そうね」  
「じゃあ何で……3本多いように見えるんだが?」  
「そうよ」  
 サラサはシバのほうに近づく。何を考えているのかわからない表情。人の顔色から心情を読み取ることに長けているシバでさえ、わからない。  
「これは、追加の口止め料よ」  
「追加?」  
「ええ」  
 
「今夜は激しくしてほしいのよ。3本多い分、私を満足させて頂戴」  
 
「ん……うんっ……」  
 路地裏にある怪しげな店、シバの便利屋の奥にある主人の部屋では、ベッドの上で絡み合う一組の男女がいる。二人とも服を着たまま、女性に至ってはメガネをつけたまま、男性が女性を押さえつけるように少し荒々しく弄っている様子が見える。  
 店主のシバと、ギルドの窓口嬢のサラサ。片やチンピラ崩れ、片や堅実な役所勤め(?)。両者を知る者は、この二人の間に関係があるとは何ら思わないだろう。  
「あいかわらずいい声出すな。ムラムラしてくる」  
「ぁっ……どうも、ん……」  
 サラサがシバの腕の中で喘ぐ。表情はどこか冷めた感じだが、頬は少し赤い。普段の氷のような顔が、男の手により溶け出してる。  
 シバはまだ知らないかもしれないが、サラサの秘部はとろりと熟しだしていた。  
 
 シバにとってそれは晴天の霹靂というものであった。ある日の晩、閉店後にいけ好かなかいギルドの受付嬢(名前は知っていたが職種のほうで覚えていた)がやって来た。何かお咎めでも受けるのだろうかとも勘ぐったが、それにしては出張ってくる者が違う。  
 女はシバと向き合うなり、無地のシンプルな封筒を差し出して言った。  
「ここにお金が入っています。これは私ががんばって出せる口止め料よ」  
「俺はあんたなんかの弱み握った覚えはねーよ」  
「いえ、これから握るのよ」  
 サラサはギルドの制服のネクタイは外し、白い首筋を露出させた。メガネを外し、うつむき加減に小さく見上げて呟いた。  
「私を……抱いて」  
「はぁぁっ!?」  
 金>女のシバだが、これでもそれなりの経験はある。が、これは想定の範囲外だった。  
「何言ってんだ、アホか!?」  
「あら? たしかこうすれば大抵の男はその気になると思ったのに……」  
 目の前で考え込むサラサの前でずいぶん慌てふためいたことを覚えている。  
 その日、サラサを抱いた。シバにしてみれば、金を貰えて性欲を吐き出せるのは、ずいぶんおいしい仕事であった。  
 
「脱がなくていいのか? このままだと皺になるんじゃないか?」  
「着たまま触るのが、好きなくせに……っ」  
「嬉しいねぇ、俺の好みを覚えててくれて」  
 シバはサラサのこめかみにキスをして、そのまますぅっと首筋まで落としていく。軽い電流が走ると共に、胸への責めが強くなる。標準ほどのサイズだが、彼女は服の着方を工夫してあまり強調されないように気を配っている。  
「んー、いい香り」  
「あ、あぁっ」  
「おーおー、大きくなってきたな」  
 首筋のちろちろと舐めながら、手は胸から下半身へと伸びていく。なぞるように、服の下にあるであろう秘部がじくじくと湿気ている。サラサは、喉が渇いたときのような、すぐにでも満たしてしまいたい欲求に駆られてた。  
「感じやすいの知ってるくせに……早く脱がせなさい」  
「へいへい。お嬢さんはワガママだねぇ」  
 堅く締まったネクタイを外し、ボタンを1つ1つ外していく。うっすらと赤い肌が服の下から見えてくるたびに、両者の興奮はヒートアップしていく。   
「お嬢さん、ボタンは外したから脱ぐくらいはやってくださいな」  
「………」  
 レンズの下からきつく睨むと、サラサは上半身を起こしてシバに背を向けそそくさと脱ぎだした。脱がされるならともかく、自分で脱ぐのは抵抗がある。まるで、食べてくれと言わんばかりのようだからだ。  
 脱いだ律儀に服をたたみ、下着だけになったサラサは脱ぐ前のようにベッドに寝転んだ。  
 下着は上下共に黒いレースのついた下着。普段の彼女からしてみればずいぶんと大胆な物だろう。シバがこれを見るのは二度目である。一番多く見た下着は燃えるような赤い物で、まだ一回しか見たことがないのが、パープルのシースルー。  
「おう、相変わらずの内弁慶」  
「黙って手を動かしなさいっ」  
「おうお〜う? 赤味魚は口が達者だねぇ」  
 シバはどこから出したのか、小型の宝箱程の箱を手にしていた。そしてその箱から、いくつかの品を取り出した。  
 黒皮の品が数点と、にょきりと伸びた黒い棒。  
 
「じゃじゃーん、シバ特製『拘束&SMプレイごっこセット』。今ならレッドジェリーのローションつきで2000£!」  
「え、えっ……?」  
「刺身もいいけどたまには照り焼きも食べたいってこった。おらよっ!」  
 シバは寝転がったサラサの腕を上に持ち上げ、黒皮のベルトでベッドの上部にひっかけるように繋ぎ止めた。  
「こんなことまでしなくてもいいから!」  
「3本多く払ったヤツが何言ってやがる」  
 拘束されてすぐに、今度は黒皮の首輪をつけさせられてた。まるで犬につけるような、ぞくりとする冷たさがある首輪。  
(あっ……)  
 首輪をつけられた瞬間、愛撫されていたときとは違う、びりりとするような何かが走った。  
(やだ、感じてる……?)  
「んでもって、これが一番の自信作、どこぞの魔女も御用達の高級鞭(のレプリカ品)」  
 サラサは目の前が真っ暗になった。拘束されている下着姿の自分、見下す男の手には鞭。簡単すぎる問題だった。  
 無駄と思いつつもサラサはぎしぎしと動いて逃れようとしたが、当然腕輪が役目をまっとうする。  
「や、やだっ」  
「安心しな。ちゃんと手加減してやるよ」  
 シバが指先で弾くとそれはぴいんと弓形に反った。  
 パチィィィィっ。  
「あああああぁぁあ!」  
 脚に鋭く走った痛覚はサラサの意識をめちゃくちゃに曲げた。世界がすべて線となりぐるぐると円を描くような、変な幻が脳裏を走った。  
「んー、どうだい?」  
「かはっ、あ、はぁっ! はぁっ! はぁっ!」  
「元気なお嬢さんだな。それ!」  
 ピシィィィィンっ。  
「ぁぁああああぁあぁぁあ!」  
 胸部に生まれた刺激と悲鳴が体内に響く。そして、認めたくないある感情。  
「う、うくっ……う……」  
 サラサの目には涙が見えた。さすがのシバも罪悪感を感じる。  
「どうした? もうやめとくか?」  
「っ……けてよ」  
「あっ?」  
「続けてよ!」  
 吐き出した声が室内に響く。意表をつかれたような、まぬけ顔をシバは浮かべていた。はあはあと、サラサは荒く呼吸をしながら再び吐き出した。  
 
「さっきから! 鞭で打たれたり首輪さらたり拘束されたりして感じてるの! 触ってよ、早く!」  
「え、ああ、どこを……?」  
「下よ、下!」  
 立場逆転で気に食わないがシバは言われるままに弄ると、たしかに下着越しにでもわかるくらい濡れていた。  
「するってぇと何かい、お嬢さん。こんなソフトSMでいつも以上に感じるのかい?」  
「あ、あぁぁぁっ」  
 するすると下着を脱がしていくと、サラサは小さくうめきながら遠ざかる下着を見つめていた。  
 シバの手が秘部に触れた。  
「ぁんっ」  
「こりゃ真性のマゾだな。こんなお嬢さんは――」  
 鞭がほんの少し振り上がる。  
(あっ……)  
 打たれる。その思いが、彼女の体内の芯を熱くした。  
「お仕置きだな!」  
 バチィィィィッ!  
「―――――!」  
「どうだ、痛いか?」  
「気持ちいいっ、痛いのに気持ちいい!」  
 サラサは痛いはずの鞭打ちが快楽に変わる理由はわからなかったが、とにかく今の自分が渇望しているものということだけは本能的に気づいていた。  
 打たれたい、苛められたい。この男に家畜のように扱われたい。言えない本音が体内でがんがんと響く。  
「疼くの、下がじんじんして……ほしい、ほしいの!」  
「しょうがねぇ女だ、俺が直々に挿れてやるよ!」  
 シバが自分のモノを取り出すと共に、サラサは自ら股を開いた。そして割れ目にあてがい、一気に突いた。  
「ああああああああっ!」  
「くっ、ローションなしでもこの潤滑か、淫乱だなコイツは!」  
 前後に動くたび、ぬるぬるとした液体が擦れあうような音が大きく響く。  
「あ、すごいっ、はげし、はげしぃぃぃっ! ひぃっ!」  
 
 ピストン運動が行われているすぐ上の、ぽつりと咲いた花弁をいじられると、サラサに強烈な熱が縦に貫通した。  
「あんっ、だめ! くる、きちゃぅ、いやああああああああああ!」  
 サラサは体を仰け反らせ、大きく何度も痙攣させた。  
「勝手にイくなよ。俺はまだイってねぇぞ」  
 シバはサラサの胸を揉みくだすと、サラサの体は何かに反応するように鼓動し、膣内がびくびくと吸い付くように動き出した。  
「うお、急にそうされたら……イくぞ!」  
「ほしい……熱いのをいっぱい、ほしいのっ!」  
 シバはモノを引き抜き、体を乗り上げて――  
 サラサの胸部に白濁液をぶちまけた。  
 
「じゃあ、帰りますね」  
「ああ」  
 あのあと、拘束から開放されたサラサは胸にへばりつく精液を拭き取り、すぐに服を着て髪を整えて、帰り支度をしていた。  
 シバは今日の売り上げを計算して帳簿をつけている。先ほどまでベッドで絡んでいた関係には到底見えない。二人の関係がわかりやすく現れている。  
「おいサラサ」  
「なんでしょうか?」  
「今日みたいなことしてほしかったら追加は1本でいいぜ〜。8本じゃ生活苦しいだろ?」  
「親切ね。それじゃあ、今度から8本ね」  
「……話し聞いてんのか?」  
「ええ」  
 サラサは店に入って初めて笑顔を見せた。  
「なら今度から2本多い分、満足させて頂戴」  
 
 シバの便利屋を出てすぐ、サラサは煙草を加えて火を点けた。もう寄り道をするところはない。まっすぐ帰るだけだ。  
 今から帰って寝ても数時間程度しか眠ることはできない。けれど、それで疲れるということも特にない。  
 また明日から、いつも通りの日々が待っている、それだけ。  
 
 刺激が欲しいわけでも、彼に期待していたわけでもなかった。  
 ただ、寂しさを紛らわせたいだけだったのかもしれない。けれど、自分が素直になれるはずがなかった。  
 出すものさえ出せば抱いてくれるし黙っていてくれる。彼は条件のいい取引先。両者満足、不満はない。  
 煙草の灰が、ぽとりと落ちた。  
 

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