ティコの朝は眠りの時間である。世間で言う日の出と日の入りはティコにとって丸で逆である。そしてそれは否応無しに弟子であるルヴェルにも強制される生活習慣となってしまっていた。  
「だからって何で眠ろうとした瞬間に買い物に出されるんじゃろうか………」  
ぶつぶつと呟きながら焼きたてのパンや卵を籠に入れ、ルヴェルはレミュオールの朝の町を目の下にたっぷり隈を作って歩いていた。  
ここ、港町レミュオールでティコと言えばちょっとは名の知れた錬金術師だ。問題はその腕よりも悪い噂の方が遥かに大きい点であるのだが。  
曰く、借金を踏み倒す。曰く、酷い気分屋だ。  
だが、そんな状況でもティコが日干しにならずに済んでいるのは、一重に住み込み弟子のルヴェルのおかげであろう。  
少々言葉遣いが珍妙な点を除けば、彼はまっとうな人間であり、社会的常識も持ち合わせている。そしてどういうわけだか一向に愛想を尽かさず一身にティコに仕えているのだ。  
街の人はそんなルヴェルのことを最初は真剣に心配し、次に真性のMだと噂し、そして今では何らかの弱みを確実に握られているのだという方向で決定付けつつあった。  
当のルヴェルはと言えば、大概曖昧に笑って誤魔化してしまうので真意は汲み取れず、それがさらに噂に拍車をかける。  
「………とはいえ、こんな姿を見られては無理も無いことかもしれんのう」  
フラフラになりつつ籠を下げて歩く彼の姿は正にゾンビ。しかも空には燦燦と照る太陽。一種シュールな絵だ。  
 
「あれ?ルヴェルさーん」  
大きな声を上げて近寄ってきた少女がいる。ショートカットの少女は名をシオ。そのあどけない外見には反してなかなかの腕前の冒険者だ。  
何故かティコになついており、からかわれてもからかわれても良く遊びに行っている。最もコレに関してはシオは出会う人間の八割にからかわれているフシがあるが。  
「ああ、こんば………おはようじゃ」  
フラフラと手を挙げて答えるルヴェルの姿にシオは苦笑した。  
「また徹夜ですかー?んもー。体に悪いですよ」  
「それは師匠に言ってくれじゃ………ワシはもっと普通の生活がしたい………」  
目をシバシバさせながら言うルヴェルの言葉にはあまりにも実感がこもっており、シオは更に苦笑するしか無かった。  
「んもー、そんなんじゃ駄目ですよう!こうね、もっとビシっ!と言わなきゃ!」  
「誰が誰にビシッと言うなんて恐ろしいコトが出来るんじゃ」  
悲痛な表情でぼそりと吐き出す彼の姿は正に虐げられた奴隷そのものであった。  
 
「師匠、ただいまですじゃ………」  
「遅いっ!」  
 ここのところ三日ばかり研究に没頭してカリカリしているせいだろうか、いつもは極めてダルく喋るティコの声がピリピリしている。  
「す、すいませんですじゃ、今すぐ食事にしますですじゃ」  
「五分ね」  
「ひぃぃぃ、ど、努力いたします!」  
 ルヴェルは疲れた体に鞭打ち、必死で朝食を作り始めた。  
 
 
「ん〜〜〜〜ッッッッ、終わり!!」  
 大きく猫のように伸びをしてティコは研究の終了を宣言。傍らのルヴェルは安堵の深い溜め息をついた。  
「お疲れ様ですじゃ、師匠。風呂を沸かしておきましたのでどうぞ入って下さいですじゃ」  
「あら、ルヴェル君にしては気がきくじゃない」  
 そう言いながらも顔は満更でもない。確かに疲れた体にとっては一番のご馳走であろう。  
「それじゃ、お先に頂くわよ」  
「はいですじゃ。ああ、食事は………」  
「肉」  
一言だけ残し、ティコは鼻唄混じりにバスルームに向かっていった。  
「肉って、今はもう朝なんじゃけど………」  
小鳥がちゅんちゅん鳴く中、ルヴェルはステーキを焼いた。  
 
「ぷっはぁ、ご馳走様!」  
 入浴も食事も終わり、すっかりご満悦の様子のティコ。対照的に疲労極まれりのルヴェル。  
「し、師匠、ではワシも風呂をいただきますじゃ」  
「はーい。じゃあ、私は先に寝るわよ」  
「はいですじゃ」  
 派手に欠伸をしながらティコが奥に消えて行くのを見てから、ルヴェルはヨロヨロと風呂場に向かった。  
 
「はぁ………」  
全身が辛うじて稼動しているのが奇跡に思える。ルヴェルは何とか体を引きずってベッドに倒れこんだ。  
「………?」  
ベッドが狭い。というか何かいる?ぼんやりとした頭で横を見たルヴェルの目の前に、  
 
ティコの寝顔が飛び込んできた。  
 
一気に覚醒した。  
「し、師匠っっっ!?」  
何故。何で。ここは自分のベッド。師匠の寝室は別。っていうか師匠の普段見せないあどけない寝顔(普段は寝起きの不機嫌な顔しか見ていない)。  
っていうかさっきから左腕にあたっているのはこれは胸?胸ですか?  
「ん〜〜………」  
寝ぼけているのだろうか、ティコはそのままルヴェルを抱き寄せる。  
「!」  
 一気に体中の血が駆け巡るのがわかった。今更いうまでも無いがティコは美人でスタイルもいい。そういう目で見たコトも無いとは言わない。  
というか、ぶっちゃけ多少なりとも惚れていなければこんなずぼらで怠け者で無茶と我が儘ばかり言う師匠についていけるものではない。  
どっくんどっくんと狂ったように心臓が暴れまわる。ティコの方はと言えば寝ぼけているせいか、更にその豊満な胸を押し付けんばかりに擦り寄ってくる。  
自制心、自制心自制心!!落ち着け、落ち着くんじゃルヴェル。いいか?ココはワシの部屋、ワシのベッド。ソレは間違いない。という事は師匠が間違えてワシのベッドに潜り込んだんじゃろう。  
もしくは他愛ない悪戯か。よし、それはOK。さて、この状態じゃが、師匠が寝ぼけて抱きついているわけでワシには何もやましいコトはっ  
「……ん………」  
 何気なく軽く顔を擦り付けるティコ。その肌と吐息の感触に、ルヴェルは必死で耐える。いかん、落ち着け。ここで激情に身を任せてはいか  
「……ん?………ルヴェル君?」  
 
うっすらとティコが目を開けた瞬間、ルヴェルは時が止まる音を聞いた気がした。  
 
「で、言い訳はそれで終わり?」  
 何故かベッドの上で正座をさせられてルヴェルは必死で弁明した。が、一通り聞き終わってのティコの言葉はこれであった。  
「い、言い訳じゃ無いんですじゃ、師匠!本当に気づかなくってっ」  
「人が一人ベッドで寝てて気づかない人がいるわけないでしょう。大体百歩譲ってそうだったとして」  
 とニヤニヤ笑いながらティコはルヴェルの背後に回る。  
「し、師匠?」  
「何ですぐに私を起こさないの?もしくは君が別の部屋にいくなり、ソファに行くなりも出来たわよね?そして………」  
 すすす、と手がルヴェルの体をまさぐり。  
「し、師匠っっ」  
「ココをこんなに硬くしといて、なぁにが『違う』のかなぁ?ルヴェル君?」  
 ティコの手の中には、服越しでもはっきりと分かるほど硬直したルヴェル自身が屹立していた。  
 
「ち、違うんですじゃ、師匠っ、これは生理現しょ………あ、ぅっ、し、師匠、そのっ」  
「ん〜?どうしたの、丸で女の子みたいな声出しちゃって」  
 服の上からとはいえ、自分の惚れた女性に肉棒を擦られている。それだけでルヴェルの動悸は更に上がる。  
「し、師匠、止めて……っ、ぅぁ、止めて下され……っ」  
「何がよ?こんなにガチガチにしちゃって。正直におっしゃい。本当は自分でもそうしたかったから私を起こさなかったって」  
「う、うぁあ、師匠、手、手を止めっ……」  
「ん?どうしたのよ?そんな切なそうな声あげちゃって。フフ、本当に女の子みたいね」  
「し、師匠、駄目ですじゃ、勘弁して下されっ」  
「駄目。ほら、だいたいどうして腰が浮いてるの?私はルヴェル君の正座を解いては無いわよ」  
 そう言いながらもより強く、より快感を与えるように、強く早くティコの手は動く。先ほどから背中には胸も押し付けられ、耳朶を打つ声もルヴェルの興奮を加速させていた。  
「し、師匠っ、本当にっ、あっ、……ぅあっ」  
「フフ。駄目よ?私が許す前に出したりしたら」  
「そ、そんなコトを言われても……ちょ、し、師匠!」  
 遂にティコの手がズボンの中に侵入して来た瞬間、思わずルヴェルは再び腰を浮かしてしまった。  
「駄目だって……言ったわよね?」  
 ぎゅっ、と激しく強く、直接にルヴェル自身が握られた。  
「!か、ぅあっ!」  
「あらあら。こんなに太くて硬かったんだ?それに先からこんなにオツユをたらして。いやらしいのね、ルヴェル君」  
 そのまま、ティコの手が時に緩やかに、時に強くルヴェル自身を擦り続ける。必死で耐えようと頑張るが、限界が近いのはルヴェル自身が一番良くわかっていた。  
「し、師匠!!駄目ですじゃ、もう、……もうっ、ぅあ!」  
「出しちゃ駄目って言ってるでしょ?我慢なさい」  
 妖しく響くティコの声は火に油、爆発への加速剤でしかない。背後から聞こえるティコの声、背中に感じる豊かな膨らみ、緩急をつけながらも常に刺激され続ける自身、そこから感じるティコの指の柔らかさ。  
「し、師匠、すいませっ、あ、ああぅあっ!!」  
 悲鳴のような声を上げてルヴェルは自らの肉棒から大量の白濁を撒き散らした。  
 
「あらあら。お行儀が悪い事、大体師匠の言うコトを聞けないの?ルヴェル君?」  
「う、あぅ………っ、も、申し訳無いですじゃっ、あ、し、ししょ……うッ!!」  
背後からの責めは射精後も一切緩まず、たちまち若いルヴェルの一物は硬さを取り戻す。  
「ふふ、本当にやらしいのね………んっ、困ったな、私もシたくなってきちゃったじゃない……」  
そう言いながらルヴェル自身を弄ぶティコだったが、次の瞬間。  
「し、師匠ッ!!」  
ついにルヴェルが我慢の限界を超えてやおらがばっと向き直り、ティコの両肩を掴んで押し倒した。  
「ふふ、どうしたの?っていうか、師匠にコレは無いんじゃないの?」  
「す、すまんですじゃ……で、でももう、し、師匠っ……」  
 哀願するかのような目でルヴェルはティコを見る。押し倒しているのはルヴェルなのに、完全に力関係がわかる絵であった。  
「ふふ。何?きちんと言いなさい。でないとこれ以上何もさせてあげないし、これ以上何もしてあげないわよ」  
 うっすらと上気した頬で、しかし圧倒的な余裕でティコは哂う。一方のルヴェルはと言えば一つ間違えば泣き出しかねない顔であった。  
「し、師匠、それはあんまりですじゃ……こ、ここまでしておいて……」  
「んふ……だからどうしたいか言ってごらんなさい?」  
「う、うう……その、させて、下され……」  
「ナニを?」  
「な、何をって、……そ、その、う、あ……」  
 言い出すのが恥ずかしいのでは無く、何か言うのがためらわれている感覚。自分にとって絶対の存在にそれを言っていいものかと悩む。  
「ふふ。まぁ良いわ、ルヴェル君に多くを期待しても無駄だものね」  
「……今凄い酷いことをさらっと言いませんでしたか師匠」  
「ん?なあに、じゃあきっちりと言えるのかしら?」  
「う、あう、そ、その……」  
 再び顔を真っ赤にして口ごもるルヴェルを、いつに無く優しい顔です、とティコは抱き寄せ、  
「いいわ、好きにして」  
そしてそのまま、深い口付けをする。  
 
 舌と舌が生き物のように絡まり、お互いの唾液を潤滑油として激しく動き回る。お互いの歯を、唇を、なぞり、吸いまわす。  
しかしキス一つとってもやはりティコにルヴェルが叶うはずも無く、次第にルヴェルはティコのされるがままとなる。  
舌と柔らかい肉の絡まる淫靡な音、そして長いキスによる酸素欠乏でルヴェルは朦朧としてくる。そしてようやくティコが唇を離した時、彼はティコに被さる様に倒れた。  
「あら、ふふ、どうしたの?」  
「し、師匠、物凄いですじゃ………こ、こんなキスは初めてですじゃ……」  
「あら、生意気にキスはしたことあるんだ?ルヴェル君の癖に」  
「そ、それは一応、………う、あっ、し、師匠………」  
 そのまま、ティコの舌がルヴェルの体の上を走る。そのえもいわれぬ感触と背徳感にルヴェルは思わず呻く。  
「ふふ、このままじゃさっきと変わらないわよ?ほら、師匠に尽くしなさいな」  
 そう言いながらティコは自ら胸元をはだけていく。形の良い大きな胸が徐々に顕わになり、ごくりとルヴェルは生唾を飲んだ。  
「し、師匠、……き、綺麗ですじゃ」  
「ありきたりねぇ……でも、嫌いじゃないわ、そう言われるのは」  
 いつしか、途中からルヴェルは自らの手でティコの着衣を剥いでいく。そうしながら、懸命に、だが稚拙に前戯を必死で行う。そんなルヴェルを見て軽く愛しげにティコは微笑んだ。  
「下手糞ねぇ。まあルヴェル君だし仕方無いか」  
「う、あうう、申し訳無いですじゃ……」  
 それでも、必死で乳房をこね回し、乳首を吸い、そして手はいつしか下へと伸びる。  
「んッ、………そう、もっと強くしてもいいわよ……」  
 軽く頭を撫でながら、ティコはルヴェル自身も軽く刺激し続け、そして啄ばむようなキスを降らす。  
「し、師匠、ぅあ、き、気持ちいいですじゃ……」  
「んッ、ルヴェル君も……悪くないわ、んッ!!ん、ソコ……イイわよ、あ、んあッ!!」  
 闇雲に動かすルヴェルの指が時々ティコの弱いトコロを触れるらしく、時々ティコは体をびくんとふるわせてのけぞり、その度に大きな胸がぶるりと震えた。  
 
 
「師匠……っ、も、もう、我慢がっ、お、お願いですじゃ、……させて下さい……ッ」  
 真っ赤になり、呼吸も荒く、全身には薄っすらと汗をかき、ルヴェルは哀願する。一方のティコも流石に吐息も荒く、全身が上気していた。  
「んッ……、良いわよ、私ももう、ね………」  
ティコはそう言うと再びルヴェルを抱き寄せ、再度軽くキスをした。  
 
 
「い、行きますじゃ……」  
ごくり、と唾を飲んでルヴェルは自身をゆっくりと少しづつ、だが確実にティコの中に沈めていく。  
「う、うぁ、ぁぁ……っ、し、師匠……っ」  
「んッ、……っあ、ふとッ……ああ、あッ!る、ルヴェル君ッ、……ああっ!」  
 今まで終始余裕を保っていたティコから、初めて余裕が消える。予想外のルヴェルの一物にティコの蜜壷はぎちぎちになっていた。  
「師匠っ、……う、動かしても……」  
「ん、ッ……イイ、わ……うぁっ!!あッ、ああッ!!る、ルヴェル君っ、……き、気持ち、……イイっ……!!」  
 稚拙な、それでいて乱暴な動きだが、すでにいっぱいになっている膣内ではその乱暴な動きですら肉壁に強烈にあたり、ティコはあられもなく痴態を晒す。  
「し、師匠……っ」  
 自分の惚れた女性が自分のモノでよがる姿にルヴェルの呼吸もより激しく、より動きも早くなって来る。  
「あ、ああ、い、イイっ、……気持ち、良いっ……!!る、ルヴェル君っ、あ、ああっ、………うあっ!!」  
びくん、びくんと体がはねる。軽く気をやりながら、より大きな、そして頂点へとどんどんと二人は登りつめていく。  
「し、師匠、もう、もう……っ、す、すいませんっ、もたな……ぃっ……」  
 はあっ、はあっと荒い呼吸。激しく、そして早く腰を打ちつける。  
「ああっ、る、ルヴェル君……っ、イイわっ、この……ままっ、あ、ああ……あッ!!」  
 一際大きい波が訪れ、ティコは達する。そして同時に、ルヴェルも大きくティコを抱き締め、  
「くぅ、ぅあッ!!」  
 ティコの中に大量の自らを吐き出し、そのまま果てた。  
 
 
「屈辱だわ」  
ティコはルヴェルの隣に寝転びながらルヴェルの頬をつねり続けていた。  
「ひひょう、いらいれすじゃ」  
「うるさいわね。何でルヴェル君にイカされなきゃなんないのよ。大体あんた顔や態度と大きさが反比例しすぎよ」  
「ひょんな事いっへも」  
「うるさい。ルヴェル君の癖に生意気なのよっ」  
「いひゃい、いひゃいれすひひょうっっ!!」  
ロマンスには程遠い光景であった。  
 
 
「師匠、帰りましたですじゃ」  
 またしても朝日がさんさんと降り注ぐ中。目の下にたっぷり隈を作ってルヴェルは買い物から帰って来た。  
「遅いっ!早くご飯を作りなさい、後お風呂もさっさと沸かすっ!!」  
「し、師匠、そんないっぺんには無理ですじゃ」  
「うるさいわね、口答えなんて百年早いのよ。ホラホラホラホラさっさとしなさいっっっ!!」  
 ………どうもあの日以来、ティコはルヴェルに殊更主従関係をはっきりと示したがる。余程イカされたのが悔しかったようだ。  
ルヴェルにして見れば実はアレでラブラブな日々が送れるんじゃないかと一瞬でも期待してしまい、そしてそれがあっさり夢想であると知ったわけだ。  
「し、師匠、あんまりですじゃ、コレでも一生懸命頑張って」  
「結果が出なけりゃ何の意味も無いわよ、さっさとご飯を作りなさいっ!!」  
「は、はいっ、………あの時はあんなに可愛かったのに、上手くいかないもんじゃ……」  
 ぼそりとこぼしたその言葉が、当然ティコに聞き流されるわけも無かった。  
「………ル〜ヴェ〜ル〜く〜ん〜〜〜〜?」  
ひょいと方に置かれたその手に、ルヴェルが震え上がったのは言うまでも無い。  
 
 

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