「お・じ・い・さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
老婆は雪のように白い髪を掴み覆い被さる。
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
男は力の限り叫ぶが…悲しいかな誰も助けにはこない。
押しのけようにもジャングル産の老婆の力はすさまじい。
「おじいさんおじいさんおじいさんおじいさんおじいさんおじいさん……!!」
呪文のように呟きながら男の顔に熱い息を吹きかける。
これがウェダちゃんだったらどんなにいいことだろう…!
全身が恐怖で打ち震えながらも男の頭の隅にそんな思いがちらつく。
「…おじぃさぁン…」
瞳を潤ませかすれた甘い声でそう言うと(男にとっては気持ちが悪いだけだが)
老婆はそっと目を閉じた。
チャンスだ! ここで逃げなきゃ殺(ヤ)られてしまう!
男は老婆の腹に渾身の力を入れて蹴りを喰らわす。
「うぅぅぅ……!」
腹を押さえ呻き声をあげる老婆に目をくれることもなく男は全力で保健室から逃げ出した。
一人残された老婆はしばらく蹲っていたがやがて立ち上がり男が出て行った方向を見た。
「ヒドイじゃないの、おじいさん……まだ記憶が戻らないのね……
でも大丈夫。きっと、きっと思い出すわ……あたし達のあの熱い愛の日々を……!」
酔いしれるように呟いた後、ポケットから口紅を取り出し壁に愛のメッセージを残す。
「あたしは諦めないわ、おじいさん、おじいさん、おじいさんおじいさんおじいさんおじいさん」
アフロな老婆は保健室を後にした。