ウェダさんが俺の気持ちに応えてくれるなんて、絶対、ありえない。  
大体、ウェダさんは御結婚もされててアメ様というお子様もいらっしゃるのだから。  
でも、少しは期待してもいいのだろうか。  
 
 
とりあえず冷静になって今の状況を把握してみよう。  
この部屋には見覚えがある。だが、自室ではない。それは分かる。  
高価そうな、それでいて品の良い絨毯、テーブル、椅子、ソファーなど調度品。  
窓際に飾ってあるあの花は確か今朝ベルさんが持っていたのを記憶している。  
そして自分がいま身を置いている…ベッド。  
ベットの側に散らかっている大量の酒とビールの空き瓶、空き缶。  
ここまで見ればもう誰の部屋にいるのか理解できた。隣りに眠る彼女を見なくても。  
 
ウェダさんの部屋?  
 
誰の部屋にいるのかは分かった。じゃあ、なんでこの部屋に俺はいるんだ。  
朝からの記憶をたどってみる。  
今日は確かハレ様達は学校が休みだった。  
いつもならご友人のところへ遊びに行かれるのを護衛するのだが  
あいにく外はひどい雨で時折雷も聞こえた。  
庭で遊ぶわけも行かず、ハレ様とグゥさんは部屋で学校の宿題をしていた。  
俺も一緒にいてお昼もそのまま部屋でとったはずだ。  
宿題の終わったハレ様達はTVゲームをはじめて、  
それから俺は…そうベルさんに呼ばれた。  
ベルさんに「お嬢様から何か話があるらしい」と言われてウェダさんの部屋に向かった。  
それから…それから…??? 記憶が無い。  
 
「ン……うぅん…」  
びくりとして横を見遣るとウェダさんが寝返りをうち、こちらの方に体を向けていた。  
 
お酒の匂いが鼻に届く。また、かなり飲んでるな…  
……俺に話ってなんだったんだろう。  
っていうか、こんなところベルさんに見られたら殺されてしまう。  
とりあえず早くここから出てまた後で聞いてみよう。  
何故、彼女のベッドにいたのかは忘れることにしてベッドから下りる。  
皺ができてた服を整えドアから出て行く前にベッドの方を振り返ってみる。  
ウェダさんは相変わらず下着姿でだらしなく寝ていた。  
風邪をひいてしまうなと思ったので毛布を掛けようとベッドに近づく。  
つい視線がウェダさんの胸や腰にいってしまう。自分の少し顔が熱くなってるのが分かった。  
何を考えてるんだ俺…  
多分蹴飛ばされて下に落ちたのであろう毛布を拾い寝ていた彼女に掛ける。  
その時いきなり腕を掴まれ引っ張られた。  
「うわっ!」  
バランスを崩しベッドに倒れこんでしまう。  
強いアルコールの匂いと自分の体の下に暖かく柔らかいものを感じた。  
 
「やぁだ、ロバート、もう帰っちゃうの?」  
耳に直接笑いの混じりの声が響く。  
「…起きてたんですか?」  
「んーん、さっき起きたとこよ。  
 だってロバート全然目覚まさなかったから、待ちくたびれて寝ちゃった」  
「……」  
したたかに酒を飲んで火照った体が自分のすぐ下にある。  
この状態で話をするわけにもいかないので上半身を起こしウェダさんの体から離れようとした。  
しかし、どういう訳か彼女は腕をしっかり掴み放さない。  
自然と一緒に身を起こす形になった。  
「で、俺に話って何ですか」  
ウェダさんはクスクス笑うだけで何も話さない。  
「また後から出直しましょうか?ウェダさん相当酔ってるようですし」  
呆れ半分でそう言って立ち上がろうとすると今度はベッドから倒れるようにのしかかってきた。  
 
「ウェダさんっ!?」  
気分でも悪くなられたのかと思って驚いて受け止める。  
「大丈夫ですか?」  
顔を覗き込もうとすると先にウェダさんの方が顔を上げた。  
そして、ぐいっと顔を近付けてきた。  
口にアルコールの味が染みる。  
唇に柔らかいものが当たっている。  
呆然としている俺に構わず腕を首にまわしもっと深く口付けてきた。  
「……っ………っっ!…!」  
「…………………ぷはっ…」  
ようやく解放される。  
「なな、なななな、何するんですかッ!?」  
「おめでと、ロバート」  
「は?」  
「はたち、おめでとう」  
そう言って彼女はにっこりと微笑んだ。  
 
はたち…ハタチ…二十歳?  
「この間、ジャングルまでビデオレター持ってきてくれた時、そう言ってたじゃない」  
首に腕をまわしたまま耳元で囁かれる。  
「もうお酒も飲める歳だし、いつもお仕事頑張ってくれてるから、  
 労いをこめて一緒にお酒でも飲みたいなーと思って」  
「はぁ、それはどうも…」  
ありがとうございます、と言い終わらないうちにまた口を塞がれる。  
肩を押し彼女との距離を作る。  
「っ!!一体どういうつもりなんですか!?」  
ウェダさんは一瞬むっとした表情を見せ、質問に答えずサイドテーブルに腕を伸ばす。  
そこには、飲みかけの酒の瓶とまだ開けてないものが何本か置いてあった。  
そのうちの飲みかけの瓶を一本取りこちらに近づく。  
「だーかーらー」  
後ろに身を引こうとするとネクタイを掴まれる。  
「一緒にお酒を飲むのっ」  
 
酒を一口、口に含んだかと思うと顔を寄せて俺の口に流し込む。  
「んぐっ」  
アルコール度がかなりきつい酒だ。  
口端から零れた酒が首筋まで伝ってきたのが分かる。  
ウェダさんの両手が自分の両頬にそえられていた。  
無意識に自分の両手も彼女の両頬にそえていた。  
 
「っはぁ…はぁ…」  
気付くと俺はベッドにウェダさんを押し倒していた。  
さっき飲まされたお酒が香る。  
「やーね、ロバート、酔うのが早すぎよー」  
「誰のせいです…」  
そっと、今度は自分から顔を寄せる。  
窓の外から未だ降り続く激しい雨の音とひときわ大きい雷鳴が聞こえた。  
 
 
 

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