保健室のドアが開いた。
一瞬、あいつが来たのかと思った。
「先生〜、バスケで転んじまって。」
・・違った。
「そんなもん、唾でも付けとけ。」
言いながら消毒薬を手に取る。
「先生、ヒドイよ。それって給料泥棒じゃん。」
ピンセットで綿をつまみ傷口を消毒する。
…作業しながら、俺のどこかで酷くがっかりとしている自分を感じる。
なんなんだ、この気持ちは。
自分の中に芽生えた気持ちに戸惑った。
俺が好きなのは男だぞ?
女なんて騒がしくて我が侭でうざいだけじゃないか。
・・でもあいつなら抱ける気がする。
うわ、俺、いま一体何を考えた?
思わず手付きが荒くなった。
「うわ、先生いてぇよ!」
「…すまん。」
『コンニチハー!』
『オウ!今日はどうした?』
繰り返される会話。
初めはおもしれー奴が飛び込んできたな。
…ぐらいにしか考えていなかった。
なのに何時の間にだ?
あいつの存在が大きくなる。
あいつとお茶をする午後のひとときを楽しみに心待ちににしている俺がいる。
…やばいな。
あいつには好きな男がいるんだ。その男の為に男子校に潜り込んでいるんだからな。
自分に言い聞かせる。
バカみたいだ。
「せんせ…。」
瑞稀?
ドアを開けて入ってきたこいつの格好に唖然とする。
「おまえ、どうしたんだ?」
「せんせぃ・・。」
引き裂かれたシャツ、手首には痣がある。
こいつがどんな目に会ったかは一目瞭然だ。
「先生、ごめん。中津にバレちゃった。」
中津だぁあぁぁぁあぁッ!!
あの金髪小僧ッ!!!
「どうする。医者に行って洗浄してもらえば妊娠の確率は・・・・。」
「先生・…俺、そこまでされる前に中津の・…急所蹴って逃げてきた。」
そ、そうなのか?よかった・・・。
心の底からの安堵感に戸惑う。
俺は本当にこいつの事・・・。
自分の中に芽生え始めている感情に揺れ動かされていたら突然、瑞稀が抱き着いてきた。
「お、おいっ。」
「せんせぃ、怖かったよぉ。」
よしよしとこいつの髪をぐしぐしと撫でる。
「お前、さっき襲われた所で不用心過ぎ。そんな格好で抱きついたらまた襲われるぞ。」
「・・・・先生になら・・・・いいよ。」
なに?
今、お前なんて言った?
「俺、中津に無理やり押し倒された時に俺が助けを求めたの、先生だったんだ。
いつも俺の話聞いてくれて、励ましてくれて、先生がオンナ嫌いなの知っているんだけれど、
俺が本当に好きなのは・・・んっ。」
俺は瑞稀の唇を奪いながら自問する。
何やってるんだ、俺?
オンナは嫌いなんじゃなかったのか?
でも、うれしかったんだ。こいつの気持ちが。
こいつなら抱けるかもじゃない。こいつを抱きたい。
それも今、ここで、すぐに。
・・・・俺にこんな感情があったなんて。
舌を絡めて何度も吸い上げる。
お前の唾液は甘いな。
「う・・・っくん。」
お前の声に我を忘れてしまいそうだ。
もっともっと喘がせてみたい。
シャツを捲りあげる。
所々に奴の痕が残っている。
「・・・・消毒してやるよ。」
痕の上に唇を落とし吸い上げる。
俺の色に塗り替えてやる。