蔵を改造したという図書館の二階は、少し黴臭くてとても静かだった。
どうしてあんなにこの場所が怖かったんだろう?
静かに勉強している生徒たちを見ながら、わたしは深いため息をついた。
最近立て続けにいろんなことが起こっているから――――少し神経が過敏になっているのかも。
「もう、こわくない?」
ここまで手を引いて連れてきてくれたともゑくんが、じっとわたしの顔を覗き込むようにする。
「うん……ありがとう」
うなづいて微笑んで見せると、
「………とも?」
本棚の向こうから、聞き慣れた声がした。
「すぅちゃん!」
ともゑくんは、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねながら手を振る。
「図書館で騒いだらダメだろ? お前の声、ずっと向こうまで聞こえてたぞ」
たしなめるような菫くんの声に、
「えへへ、ごめんなさぁい」
ともゑくんは屈託なく答えた。
このふたりが双子だなんて……なんだか不思議。
じっと菫くんの顔を見ていたら、不意にその頬が赤く染まった。
どうしたんだろう?
「お前たち……その手……」
「あ……」
菫くんの視線の先に気づいて、わたしはカアッと頬が熱くなった。
ともゑくんにしっかりと握られたままの手を、見られてしまった……。
「あのね、こ、これは……」
どうしよう、なんて言い訳しよう。
ぐるぐると頭の中で言葉を並べ替えようとするわたしの隣で、
「いいでしょー?」
ともゑくんがまた、子犬みたいに飛び跳ねる。
「べ……別に」
ぷい、と目をそらした菫くんに動じることもなく、
「えへへ、すぅちゃんはこっちね」
って、ともゑくんは空いていたわたしのもう片方の手をとって菫くんに渡す。
「オレは……」
「はい、ぎゅーっ」
菫くんはまたかすかに頬を染めて。
けれど、押し付けられたわたしの手を、振り払うことなく、そっと握った。
「ねぇ、すぅちゃん、たまちゃんに色々見せてあげようよ」
「……ああ」
「えっ、ちょっと二人ともっ」
こんなときばかり息がぴったりなふたりは、それぞれわたしの手を握り締めたまま、『関係者以外
立入禁止』とかかれたプレートをあっさり無視して、奥の部屋へと進んでいく。
「ちょっと、ここ、関係者以外立入禁止って……」
「いーの、僕たち関係者」
「ああ」
二人に繋がれた手にひきずられるようにして、わたしもその後を追った。
一番奥の部屋まで来ると、ともゑくんがためらいもせずにドアを開けた。
「宝生家の私有書庫だ。と言っても、つまらないアルバムばかりだが」
菫くんは廊下で立ち止まったまま肩をすくめる。
「つまんなくないよー」
部屋に入ったともゑくんは、いくつもあるアルバムを取り出して、机の上にポンポンと並べる。
「宝生の歴史って長いからさ、明治とか大正とかの写真もずいぶん残ってるんだよ。すごいよねー」
「本当ね……」
セピア色の風景に魅入られたように、その机に近づいて、アルバムに貼られた写真を見つめる。
どのひとも綺麗だけどどこかさびしげに見えるのは、「宝生」という血のせい、なんだろうか。
『元気で、笑顔でいてくれるなら……』
そういって一粒だけ涙をこぼした綾芽くんのことを思い出して、胸が痛んだ。
わたしの胸に身体を預けるようにして告げられた言葉。
『お前はいろよ。オレのそばに……』
わからない。――――わたしに何ができるというのだろう?
「……ねえ、たまちゃん」
その声にわれに返った。
「……たまちゃんは、綾芽がスキなの? 僕たちのことよりも」
「え?」
「あいつは――――ダメだ。あいつだけは、絶対に」
笑っていないともゑくんと、真剣すぎるような菫くんの声。
「わたし、そんな……」
バタン、かちゃり。
菫くんの後ろで、いやに大きい音が響いた。
「……ど、したの?」
振り向くと、菫くんは無言でわたしの方まで歩いてくる。
「怖がらないで、たまちゃん。……怖がるたまちゃんも可愛いけど」
ともゑくんの手が、わたしの、頬に触れる。
「僕、勉強はすぅちゃんにメンドーみてもらってばっかりだけど、こっちはセンセーになれるかな?」
「ああ」
ふたりの会話が、よく、わからない。
「ねえ、たまちゃん。怖がらないで。僕たちをキライにならないで?」
「キライ……って……」
「すぅちゃん、たまちゃんを抱きしめてあげて。そっと……ね?」
「え……」
後ろから伸びてきた手は、ゆっくりとやさしく――――わたしを拘束する。
「菫くん?」
「あんたを、アイツには絶対渡さない」
耳元の声が震える。
「僕もヤダな……。たまちゃんとちゅーしたとき、すごい甘くて、気持ちよくて……だから」
頬に触れていた手が、そっと唇をなぞる。
「僕たちのものに、なってよ?」
抵抗しなくちゃ。
そう思うのに、声が出ない。
「すぅちゃんはたまちゃんとちゅーした? 凄いよ。僕、飛ぶかと思ったもん」
からかうような声のあとで、身体に回っていた手のひらがくいっとわたしの顎を掴む。
「ん――――っ……」
噛み付くようにして唇が奪われる。身体中の力が抜けそうになる。
「キモチいんだ? すぅちゃんのちゅー?」
ともゑくんの手がわたしの襟元をすっと撫でる。
「ん……うん、んっ」
だめ、バカなことはしないで。
そういいたいのに、菫くんの唇は離れてくれなくて。
「うわ、いまどきシュミーズなんて着てるんだ。でもいいかも、かえってえっちくさい」
ぷつん、ぷつん、とブラウスのボタンが外れていって。
「たまちゃん、やっぱりすぅちゃんのちゅーで感じたんだ。……ここちょっと尖ってる」
下着の上から胸の先を摘まれて、びくん、と身体が跳ねた。
「ブラだけ先にとっちゃおうか。……あ。フロントホックだ。こんなの、悪戯してくださいって言ってるようなモンなのにね」
ともゑくんがくすり、と笑って、ばちん、とホックをはずす。
「すぅちゃん、後ろからブラウスの中に、手、入れてみて。たまちゃんの胸、ゆっくり揉んであげながらちゅーしてあげて?」
「んんっ……」
首を振るわたしにはかまわずに、菫くんの手が襟元からゆっくりと差し入れられる。
おずおずと探る手が外れたブラジャーをかいくぐって胸元に伸びる。
きゅっ、と掴まれて、また小さく首を振る。
振動でこぼれた涙を、ともゑくんの唇がそっと吸い上げた。
「可愛い、たまちゃん。……ね、もっと気持ちよくしてあげるね?」
耳朶をやわらかく噛んでから、うなじに唇を落とす。首筋にキスされながら、ゆっくりとスカートがたくし上げられる。
「パンティストッキングって新鮮だなー。いつも遊んでもらうおねーさんたち、ガーターベルトとかだから」
「んんっ……ね、もうやめて? おねがい……」
唇が外れた瞬間に、菫くんにも問いかけてみる。
菫くんはぷいと視線をそらして、不意に襟元に忍ばせたわたしの胸をぎゅっと掴んだ。
「いた……っ」
「――――ダメだ。あんたは、俺たちのものだ」
「うん。ごめんねたまちゃん。僕たち、決めたんだ。たまちゃんは一生僕たちのものだって」
ふたりは同時ににっこりと微笑んだ。
「だから、たくさん、可愛がってあげるね」
長いキスの間にすっかり腰が砕けて座り込む。
いつの間にかともゑくんはわたしの背中にいて、後ろから身体の線を指で何度もなぞるようにする。
「……ん……あっ………」
すっかりはだけたシャツの間に菫くんの銀色の髪。ちゅうちゅうと、子供みたいに胸の先を吸われて声が漏れた。
「きもちいい?」
もう片方の胸をやわやわと揉みながら、ともゑくんがそういって耳朶を噛む。
「んっ!……あ、いや……」
「うそつき。ここ、もうこんなにしてるくせに……」
はだけられたスカートの中に手を差し入れ、ストッキングの上から脚の間を探られて、わたしはいやいやと小さく首を振った。
「破いちゃおうか、ストッキング。――――ほら、これで楽になったでしょ」
ストッキングの上から爪を立てられて身体が弓形に反る。
「…………!!」
「ごめんたまちゃん、痛かった? ね、すぅちゃん。ここ、指入れて裂くの手伝って?」
「ん……」
胸元から唇を離した菫くんがぼんやりとこっちを向いた。口の端から胸の先に、細い銀の糸がひいた。
「この穴に、指入れて。上に引っ張って」
「ああ……」
腿に手をかけられて、じっとそこを覗き込まれながら――――
ぴしっ…………
菫くんの指と、ともゑくんの指が、わたしのストッキングを切り裂いていく。
「すぅちゃん、どう? 濡れてる?」
「ああ……すごい」
「あぁん!」
布越しになぞられただけで、ぞっとするほど感じた。
「すげ……また濡れてる」
「そこね、舌でなぞってあげると喜ぶよ……。だよね? たまちゃん」
「だめ……おねがい、おかしくなるから、あ、ああ、あああっ」
下着越しに舌を這わされ、両胸をぎゅっと抓られてまた身体が跳ねる。
「スキだよ、たまちゃん。だから、もっとおかしくなって……?」
ぴちゃ、ぴちゃという音に耐え切れず両手で顔を覆う。
こんなのダメなのに、おかしいのに。
気持ちよくて気が狂いそうになる。
「すぅちゃん、舐めてあげながら、指でゆっくり開いてかき回してあげて? 下着下ろして、こんな風に……」
ともゑくんの指が、破れたストッキングを潜り抜けて下着を撫ぜ、掻き分ける。
くちゃり、と音を立てながら沈んでいく指に、ああっと大きな声が漏れる。
「……こうして、ゆっくり入れたり出したりするときもちいいんだよね? ね、センセ?」
「やぁ……あ、ああ……っ、しないで、すみれくん、おねがい……」
赤くなったままじっとその様子を見ていた菫くんが、一瞬わたしの顔を見て、そして目をそらした。
「あ、ふ……ぁ、あああっ」
そのまま腿の間に身体を挟んで、恐る恐る、指と舌で触れてくる。
「ここがクリトリス。ここいじられるだけで、女の子はイッちゃうよ。きっとセンセもそうだよ。ね?」
「く、ふぅ、ん、ああああんっ!」
びくびくっと身体が震えて、一瞬気が遠くなる。
「すげ……」
驚いたような菫くんの声。
「いっぱい舐めて濡らして、そしたら今度は、僕たちが気持ちよくしてもらおうね」
「ふぁ、あああっ」
イッたばかりで敏感なそこをさらにぎこちなく舌でなぞられる。
「ねぇ……もういいよたまちゃん。きもちよくなろうよ? たまちゃんが素直になったら、もっともっときもちいいよ?」
きゅっと乳首を抓られながら、何度も何度も、繰り返しともゑくんが囁く。
菫くんが歯でこりこりとしこった芽を甘く噛んだ。
もう、なにも、かんがえられない。
「……おねがい……」
「たまちゃん、何がほしい? どうされたい?」
ともゑくんの声が遠く感じる。
身体中が熱い。かきまわされているそこをおさめてほしい。このままじゃ……足りない。
「もうだいじょうぶだよ、すぅちゃん。……でもあんまり強くしないで? そのあと、僕もしたいから」
「あ……」
かきまわされた指が引き抜かれ、ひくり、と中が疼いた。
「ん、く…………っ」
低いうなり声と一緒に、熱い塊がゆっくりと押し込まれる。
ゆっくりと腰が振り下ろされる。短い声が漏れる。
「すぅちゃん、きもちい?」
「ああ…………おかしく、なりそうだ」
「じゃ僕、ここ弄っててあげる。もっときもちよくなるよ?」
中をこすられながら指で秘裂を探られる。
こんなの、しらない。こんなせっくすはしらない。
「も…………いく」
腰を揺らしながら菫くんが悔しそうにつぶやいた。
「じゃ、たまちゃんもイっちゃいなよ? もう一回」
秘裂の尖りにきゅっと爪を立てられて、足の甲が丸くしなる。
「ん、あ、あぁぁぁぁあんっ!!」
目の前が白くちらついたとき――――身体の奥に熱い飛沫を感じた。
目覚めたときには、すでに身体には何もつけていなかった。
「二回目は、やさしくするね」
そう言って、まだ白く濡れているわたしのそこを指でゆっくりかき回してから、
こんどはともゑくんが中に入ってきた。
背中にいるのは菫くん。何度も何度も指で髪を梳いてくれる、その手はやさしい。
「……ねぇ、たまちゃん」
ゆっくりと腰を打ちつけながら、ともゑくんは無邪気に笑う。
「……婚約者、すぅちゃんに決めなよ。すぅちゃん、僕と違って頭もいいし、きっと将来しゃちょーさんとかになるよ。
そしたら、僕、秘書になる。そしてね、ふたりでずっと、こうしてたまちゃんを可愛がってあげるんだ」
「ん……あ、あっ」
「そうしろよ。……絶対、俺たちが、幸せにしてやるから」
――――いいのかな。
それでも、いいのかも。
「……ともゑ? 菫? ……桐原先生!? そこにいるんですよね? 返事をしてください!」
どこか遠くで、桔梗先生の声が聞こえたけれども。
「ききょうちゃんにはわけてあげない。たまちゃんは――――」
「”オレ”と”とも”、ふたりのものだから」
ふたりの唇を頬に感じて、わたしはゆっくりと、あいまいに微笑んだ。