「口づけは、初めて?」  
 
奪った後に小さな声で問いかけると、夢を見るような目をしていた  
女学生は、私にふと視線を戻し、そして紅をさしたように赤い頬を  
さらに赤らめて、こくりとうなずいた。初めてであると。  
 
「悪いことをした?。ひょっとして初めてのを捧げたい相手が居た?」  
 
腕の中の、ほっそりした少女に微笑みを送る。育ちの良さそうな、  
烏の濡れ羽色をした髪のお嬢様然とした少女は、年の頃なら17,8だろう。  
こんな保養地まで来て学校の制服を着ていると言うのだから、  
どれほどの箱入り娘か想像がつく。きっと家は見上げるような邸宅だろう。  
 
彼女は私を見上げると、つと視線をそらせて目を伏せた。想い人が  
居たのだろう。  
 
「いいんです」  
 
ほんのかすか、聞き取れるか聞き取れないかの声が帰ってくる。  
 
想い人が居て、なお、見知らぬ人に唇を奪われるままにする。  
好奇心なのだろう。むろん、唇を奪われたくらいで人間は汚れたり  
しないし、誰に知られるわけでもない。ただ、繊細なこの少女は  
心の中に秘密を持つ小さな喜びを今味わっているだけなのだ。  
避暑地の罪のないアバンチュール。  
 
「そっか」  
 
大きな声を出しても誰が来るわけではない。だが、朝霧に包まれた  
この地で、私は彼女のささやかな背徳心を砕かないよう、気を遣う。  
そして、もう一度唇を奪う。  
 
夢のように柔らかい唇を吸いながら、彼女の黒い髪をなで、絹糸  
のような手触りに満足する。健康で、髪も肌も生気に満ちあふれ  
ている。  
 
「ん」  
 
と、ふさがれた口の奥で少女が声を上げ、身体を硬くする。制服の  
下に私の手が潜り込んできたからだ。  
 
「大丈夫。優しくするから。本当に嫌ならいって。ちゃんと止めるから」  
「でも、わたし…」  
 
そうささやき、優しく微笑むと、全部言わせずにもう一度唇を奪う。  
 
夏の制服の下は、思った通り素肌ではなかった。多少涼しいこの地方  
に来ているからか、あるいは普段から素肌を他人の視線にさらさないた  
めか、掌を差し入れた脇のあたりは、シミーズで守られている。手触りは  
絹だろう。  
 
あまりせいて驚かしてもよくない。ゆっくりと手を這わせ、脇腹から手を  
上へと動かす。少女にも私の意図ははっきり分かっているはずだが、  
先ほどの言葉を信じているのか、抵抗はしない。  
 
私はこれ幸いと気をよくすると、さらに掌を勧める。そうして、シミーズと  
さらにもう一枚の下着に守られた柔らかな膨らみに到達する。  
 
「あ」  
 
唇を離して少女が声を漏らす。そして声を漏らしたことに恥じ入るように  
顔を背ける。  
 
「大丈夫。優しくするから」  
 
同じ言葉を繰り返すと、少し離れ気味になった少女の身体を優しく  
引き寄せ、そうして今や私の掌に収まったその旨の膨らみに神経を  
注ぐ。年頃の少女らしく、まるで育ちの良さを表すように、大き過ぎも  
小さすぎもしないその膨らみは掌に肌の張りと肉の柔らかみを伝えて  
くる。少女の乳房だけが持つ柔らかさ。  
 
「あん」  
 
中指が乳首を探り当てる。そこだけ皮膚が薄い頂は、きっと桜色だろう  
まだ男を知らない身体は胸を触られても官能に震えることが出来ない。  
ただ、初めて他人に乳房を許しているという事そのものに興奮している。  
それでも、乳首をまさぐられて二度、三度と身体を震わせているのは  
羞恥だけではあるまい。  
 
「ああぁ」  
 
乳房から手を引くと、ようやく解放された少女が小さくため息を漏らす。  
 
「私…」  
「恥ずかしかった?」  
 
消え入るように何か呟く少女に声をかけてなだめる。顔を赤らめてて首を  
振る彼女は口元にごくわずかな笑みを浮かべていた。羞恥と、悦びの  
混じったよい微笑みだ。  
 
そしてもう一度優しく抱き寄せ、唇を奪う。目を閉じ、夢の中のように  
うっとりとした表情の彼女は、だが、ぴくりと身体をこわばらせる。  
 
それが彼女の最期の動きだった。  
 
崩れ落ちそうになる彼女をしっかりと抱き寄せたまま、背中から腎臓を  
一突きした鉄針を抜く。出血はないから露見する恐れはない。抱え上げ、  
急いで藪に入ると用意した穴に、まだ暖かい彼女を横たえる。ほんの  
さっきまで何不自由なく幸せを謳歌していた彼女。今はもう、ただの  
肉塊でしかない。だが、私には少女の短い人生について感傷に浸る  
時間はない。用意しておいたナイフで首の向こう側の動脈を掻き切り、  
手早く血を抜く。みるみる間に美しい死に顔から血の色が失われていく。  
 
彼女は、好奇心に身をゆだねたばかりに、命を失った。昨晩から今朝  
までの間にこっそり呼び出されて若い命を散らしたのはこれで3人目。  
なんということか。避暑地で出会った知らない大人に心を許してしまう  
とは。本当に夢のように生きているのか。  
 
私は血の気を失ってなお美し彼女の顔をもう一度見る。そうして柔らかな頬に  
手を当てた。一呼吸おくと、先ほど初めて他人に奪われた唇に刃を当てる。  
 
これで三人目。日が昇れば騒ぎになる。肉の質を考えれば、一度血の  
巡りをよくしてから殺し、すぐに活け絞めするのが一番よいが、  
これほど多くの少女に性的な悦びを与える時間はない。仕方が無い、  
三人の唇は主人と主賓にだし、残りは活け締めだけで我慢してもらおう。  
 
忙しい朝になる。  
 

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