――空気が重い、とはこういう事を言うんだろう。
そんな事を思うほどに、私と彼女――枕崎ルナの間に漂う空気は暗く沈んでいた。
「……」
「……」
阿久野家の脱衣所の中。私たちは無言のまま、服を脱いでいる。
別に険悪な雰囲気という訳ではない。
今の私に彼女に対する敵意は無いし、それは向こうからも感じられない。
――ただ、何を話せばいいのか分からないだけで。
「……」
「……」
まあ、この状況も当たり前と言えば当たり前だ。
何せ、私と彼女が出会ってからまだ数時間しか経っていないのだから。
……数時間しか経っていないのに、なぜ私たちは一緒にお風呂に入ろうとしているのだろう?
「……先、行ってるね」
「……う、うむ」
ラフな格好だった為、脱ぐのはすぐに終わった。
逆に彼女はドレスを脱ぐのに手間取っているようだ。
「……ん、む……むむ」
はぁ……しょうがない。
「!?」
「動かないで」
驚く彼女を尻目に、私は背中にあるドレスのボタンを外していく。
なんでこんな所にボタンなんて付けるのだろう。
見た目が大事なのは分かるけれど、それより実用的な方がいいに決まっているのに。
「はい、終わり」
「え、えと、その……」
「ん?」
「そ、その……なんでもない」
私が離れると同時に、彼女の身体からドレスがふわりと舞い落ちる。
うわ、肌しろー。
思わず、日に焼けた自分の肌と比べてしまう。
「……日焼け止めくらい塗るべきだったか」
「?」
「なんでもない、こっちの話」
塗ったところで、元々の肌の色自体違うのだから比べられるものじゃないのは分かっている。
それでも、ちょっと悔しいと思ったり。
……いかんいかん、張り合ってどうする。
「じゃあ、行こうか」
「あ、ああ……」
タオル一枚だけを巻き付けた姿で、私と彼女はお風呂場へと向かう。
最初は私が前を歩いていたが、ふと思いついて彼女の方を先に行かせる。
「?」
私の不自然な行動に首を傾げる彼女。
だがその理由は、彼女が脱衣所の扉を開けた瞬間、目の前に広がった。
「おおっ!」
扉を開けた姿勢のまま、彼女は感嘆の声を漏らす。
それもそのはず、エミさんは温泉としか言ってなかったし、私たちもあえてそれを隠していたから。
温泉は温泉でも、それが露天風呂だとは思わなかったのだろう。
広い浴場と、その上に広がる満天の星空を、彼女は口をぽかんと開けたまま見つめる。
「さすがキルゼムオールの拠点……すごいな!」
「そ、そうね」
これが『正義の味方』に壊滅させられた時に出た温泉である事は黙っておこう、うん。
そういう私も、昨日ここを見た時は同じ様な反応をして、エミさんに笑われたのだけど。
「あれ、でもあんたって鹿児島出身よね? 向こうの方は温泉多いからこんなの見慣れてるんじゃないの?」
「確かに多いが、拠点に温泉が湧いている組織なんてほとんどないからな。珍しいのは確かだ」
「なるほど」
私が呟いている間に、彼女ははやる気持ちを抑え、でも隠そうとはせずに湯船へと向かう。
ちゃんとかけ湯をして汚れを落としてから、ゆっくりと湯船の中に身体を沈めていく。
「……ふぅ」
思わず零れた可愛いため息。
それを聞いて、私から小さな笑みが零れる。
「な、何がおかしい!」
「ううん、さまになってるって思っただけよ」
温泉の多い地域出身と言うだけあって、かけ湯からため息を零すまでの流れは慣れたものだった。
そんな彼女の動きを真似しながら、私もそっと湯船に足をつける。
「……ふぅ」
そこまで真似する気はなかったのに、何故か零れてしまうため息。
ニヤニヤとこちらを見ている彼女に、今度は苦笑を零すしかなかった。
「……」
「……」
――再び訪れる、無言。
だけどそこに、さっきまでの緊張感は無かった。
私も、彼女も、湯船に身を沈めたまま、頭上に広がる星空を無言で見上げていた。
湧き出る温泉は湯船にそそがれ、小さな波音を立てて私たちの身体を揺らす。
たまに迷子になった蛍が視界を横切り、それを呼び止めるかのように虫達の声が響く。
音はある。
それでも静かに思えるのは、きっと私たちの心が静かだから。
「――すまない」
賑やかな静寂の中に響いたのは、彼女の発した小さな呟きだった。
「何が?」
「その……さっき、お前を……」
足蹴にした事に対してなのか、それとも操った事に対してなのか。
どっちかは分からなかったけれど、多分その両方だと判断して、私はパタパタと手を振る。
「いいよ、さっきの事なら。私もちょっとやりすぎたし……ごめんね」
あれを『ちょっと』の一言で済ますかは置いておいて、私も素直に謝る。
確かに彼女にされた事は屈辱以外の何者でもなく、その他いろいろと複雑な感情がわき上がったりわき上がらなかったりしたけれど、
それは全てジローを手に入れる=組織を救うという信念に基づいての行動だったと分かっている。
正直、なんであんな奴を? と思わなくもないが、発明品の評価にジロー本人の性格は関係無いのだろう……多分。
「よいしょっと」
私は立ち上がり、近くにあった手頃な大きさの岩へと腰を下ろす。
夏とはいえ、木々に囲まれたこの場所は都会と比べるとかなり涼しい。
木の香りを含んだ風が、火照った肌に心地良かった。
「風が気持ちいいな」
ふと横を見ると、彼女も同じ様に岩に腰掛けて涼んでいた。
「……」
「? どうした?」
「え、う、ううん、何でもない!」
まさか彼女の姿に目を奪われていたとは言えるはずもなく、私は慌てて目を逸らす。
北欧系の血が混ざっているのか、全体的に色素の薄い彼女の身体は月光に照らされ、夜の闇の中で輝いているように見えた。
今でさえ綺麗と思うほどなのだから、あと数年もしたら、彼女はきっとすごい美人になるだろう。
「……」
数年後の彼女の姿を想像した後、現在の自分の姿に視線を落としてみる。
自分が彼女と同じ年の頃はどうだっただろうか、と。
・二年前
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「まるで成長していない……」
「ど、どうした!? 何か今にも死にそうな顔してるぞ!?」
「き、気にしないで……ちょっと時の流れの残酷さにうちひしがれていただけだから」
いやいやいや、まてまてまて、私だってまだ若いんだ。
若さとは振り向かない事!
そう、あと数年したら私だって――
・BEFORE
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・AFTER
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なんと言う事でしょう!
「いやー! こんなまったく劇的じゃないビフォーアフターはいやー!」
「ど、どうした!? いきなり錯乱して!?」
「き、気にしないで……お願いだから気にしないで」
お、落ち着け、私。
というか、なんで私は中学生の女の子に負い目を感じなきゃならないのよ!
「って、あれ?」
……中学生……そっか、まだ中学生なんだよね。
「あんたってさ……」
「……ルナ」
「へ?」
「あんたじゃない、ルナだ」
それが呼び方を指しているのだと気付くのに、数秒かかった。
「あ、ああ、えーと、ルナ……ちゃん?」
「ルナでいい」
「分かった、じゃあ私もキョーコでいいよ」
そう言えば今まで自己紹介してなかったっけ。
キョーコ、キョーコか……と口の中で呟くかの……じゃなかった、ルナを見て思い出す私。
「じゃあ、改めて……ルナって、組織の首領なんだよね」
「うむ」
「今更だけど、なんでその年で首領なの?」
ルナのお母さんとエミさんは知り合いと言っていたし、きっと歳も近いだろう。
そんなエミさんがまだ現役なのだから、ルナのお母さんだってまだ首領でもおかしくはないはずなのに。
「……私の能力はさっき見ただろう?」
「うん」
見たというか、感じさせられましたが。
「あれは血筋的なものでな……それも若い内に発現するものなんだ」
「若い、うち……」
「そうだ。そして歳を取ると、少しずつ弱くなっていく」
弱くなる……つまり……
「今、母さまに昔ほどの力はない。だから私が首領になった」
「……なるほど」
能力の有無が首領の条件という訳か。
で、その能力が弱いからジローに助けを求めに来た、と。
「……首領って大変だね」
「そりゃ、首領だからな」
「遊びたくなったりとかしないの?」
「……組織の方が大事だ」
ルナは少しだけ逡巡したけれど、それでもはっきりと言い切る。
「……」
「? どうした?」
「うん……ちゃんと考えてるんだなって、感心してた」
まだ中学生だというのに、ルナはしっかりと組織の事を考えて行動している。
ううん、ルナだけじゃない。
ジローだって悪の組織の首領になる為に、外の世界に飛び出した。
いや、飛び込まれたこっちにはたまったもんじゃないけれど……それでも、ジローはジローなりに考えている。
それに引き替え、自分はどうだろう。
自分が中学生の時――いや今でも、そこまで考えているだろうか?
「……ダメだな、私は。今も、昔も、自分の事しか考えられなくて」
「?」
不思議そうにこちらをのぞき込むルナに、私は頭を掻きながら呟く。
「……私さ、お母さんいないんだ」
「む?」
「私がルナ位の歳の時にね、死んじゃったんだ、お母さん」
「っ!」
視線を揺らすルナに、私は優しく微笑み返す。
気にしないで、と。
「ちょっと色々あって、その事を正面から受け止めれなくて……私はお母さんが死んだ事から逃げてた」
「……」
「やっと最近それに向き合える様になったんだけど……それも、結局はジローとか友達のおかげでね。自分が頑張った訳じゃないんだ」
「……」
「だからかな、頑張ってるルナを見ると、その……羨ましいって思う。私は誰かの為に頑張った事って無いから」
それは、本心からの言葉だった。
自分が頑張ってなかったとは思わない。
だけどそれは、全て自分の為。
他の誰かの為に頑張っているルナやジローとは違う。
「……すまない。さっき、嘘を付いた」
「へ?」
「遊びたくないか? と聞いただろう」
「う、うん」
「……たまに、遊びたくなる」
なるほど、さっきの逡巡はそれか。
それでも言い切ったのは、きっとルナの覚悟の現れ。
「だから、さっきお前は誰かの役に立った事が無いって言ったけど、それは違うぞ」
「え?」
「その……今日、お前達と遊べて……ちょっと楽しかった、から……」
顔を背けて、ルナは小さな声で呟く。
その顔が少し赤いのはきっとのぼせているから……という事にしておこう。
私は微笑を浮かべたまま、ルナの頭にそっと手を伸ばす。
「ありがとうね、ルナ」
「こ、子供扱いするな!」
拗ねたように俯くルナ。
だけど、本気で嫌がっている様には見えない。
だから私は、そのままルナの頭を乱暴に撫でる。
「ふみゃ!」
「まだ中学生が何言ってんの!」
今度はちょっと嫌がってるように見えるけど、それ以上にルナが楽しそうなので私は撫でるのをやめない。
「また、こっち来るよ。その時はルナの所に遊びに行っていいかな?」
「私の所?」
「そう。ルナの組織、案内してよ」
笑顔で言う私を、ルナは驚いた顔で見上げる。
「そ、そこまで言うなら……また操られても知らないからな」
「望む所よ」
口を尖らせて、でもやっぱり嬉しそうにルナは言う。
そんなルナを見て、私は満面の笑みを返す。
次に来るのは冬休みだろうか。
雪を見ながら温泉というのもいいかもしれない……って、こっちって雪降るんだっけ?
「それなりに降るわよ。積もる事もあるしね」
「へー、降るんだ……って、誰?」
私でもルナでも無いその声に、私たちは慌てて振り向く。
振り向いた先にいたのは――
「ふふ、いつの間にか仲良くなってるのね」
「お邪魔していいかな」
「エミさんと、アヤさん……?」
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