「あ、あれ……?」  
「おお、気がついたかキョーコ」  
 
ジローはぱたぱたと扇いでいたマントを止めずに、  
頭の上に乗せていた氷を外す。  
 
「あたし、どうしたの」  
「待て、急に起き上がるな!」  
「な、なによジロー」  
「湯あたりしたらしい。急に起き上がると良くないと母上が言っていたから、  
 横になっていろ。そら、氷だ」  
 
キョーコは良くわからないというような表情で、氷どおしが触れ合う  
冷たそうな音を立てるそれが頭に載せられるのを見ている。  
つめたーという言葉の響きから、ジローにもいつものひねた笑みが戻った。  
 
「あたし、そんなに湯につかってたかなー。覚えてないんだけど。  
 ……あれ、あたしいつのまにパジャマに?」  
「姉上がさっきな。昔着ていたものだそうだ」  
「ふーん、お姉ちゃん、意外とかわいい趣味だね」  
「小学校の頃に」  
「……あ、そー」  
 
静かな怒りの波動は、ジローには届かないようだ。  
ぱたぱたと扇がれる音しか聞こえない中、キョーコはジローの顔から視線を逸らした。  
 
「まあ、ありがと。看病してくれたみたいで」  
「フ、なに、運ぶことも満足にできなかったからな。このくらい」  
「運ぶ?」  
「……いや、違うぞ? オレが運んだのは、2歩くらいで、あとは姉上が」  
 
寝たままでも見事に首を締め上げている。洗いざらいゲロさせられたのは一分程度だった。  
 
「今回は緊急避難ということで見逃すけど。  
 あんた、本当に変なことしてないでしょうね」  
「変なことというのはなんだ! そもそも母上と姉上たちがいるのだ、何ができる!」  
「まーそうよねー、お母さんお姉ちゃん大好きのジローちゃんにはねー」  
「ぐ、それは……」  
 
マントが止まってははためき、はためいては止まってを繰り返している。  
扇ぎ続けようという意識を忘れないのはたいしたものだ。  
 
「言っておくが、オレはそんなにすごーく帰りたかったとかそういうのではなくな、」  
「いいね。やさしそうなお母さんで」  
 
はにかむように笑う。  
そこに何かを感じ取ってしまったのか、ジローの顔が少しく後悔の色を浮かべる。  
珍しい気働きだ。かえって反応したのはキョーコのほうだった。  
 
「あ、いや、違うよ、ジロー」  
「……」  
「あの、そんなふうにとってもらう意図とかはなくてっ」  
 
一気に起き上がろうとするキョーコの体。それを静止しようとするジローの手は  
及ばない。  
 
「お、おおおおおお?」  
「キョーコ!」  
 
ぱたりとまた布団に戻ってこようとした体をジローの手が受け止める。  
布団の上に二人の影が重なった。  
 
「急に起き上がるなというのに」  
「うん、忘れてた」  
「大丈夫だよ。ジロー」  
「む?」  
「お母さんのことは」  
 
笑顔を向ける。楽しそうな笑顔だ。オレも最近ひさしぶりに良く見るようになった。  
それを向けられたほうのジローは、なにも言えずにいる。  
 
フ……しょうがない男だ。少しだけ、後押ししてやろう。  
かりかりと爪でオレの足からそれをはがす。  
たたみに落ちたそれを前足ではたき、自白シールをジローへと飛ばした。  
 
「惚れてしまうから、そんなに見るな、キョーコ」  
「は」  
「……オレがずっと一緒にいるから」  
 
「な?」  
「なに?」  
「な、なにいってんのあんた……」  
「い、いやちょっとまて、これはオレが言いたいことではなく!」  
 
そこまで言ってジローはさすがに思い起こしたのか、体中をはたいた。  
ひらりとほどけたシールは、抱かれたまま顔を赤くしたオレの大事な家族へと。  
 
「ばっ、馬鹿ジロー! そんなこと言われたら、もっと意識しちゃうでしょ!  
 ほ、本当にあんたのこと好きになっちゃったらどうすんのよ!」  
「!」  
「!!」  
 
慌てて口をふさぐキョーコ。ふむ、このくらいが頃合か。  
紅潮した顔を見せ合う二人の間に歩み寄り、キョーコにくっついたシールをくわえて  
元通り前足にはりつける。  
 
「し、師匠ー!」  
「ぽ、ポチー!」  
 
「お前たち、つがうならふすまの影に気をつけろ」  
 
振り向かずに告げたのと同時に、ふすまの先からギシリと物音が聞こえた。  
 
「母上ー!」  
「お姉ちゃんー!」  
「うあああポチの裏切り者ー!」  
 
居間に戻ると、丸まったタオルケットが用意されていた。  
そばにはジローの大きい姉が礼の姿勢で立っている。  
 
「お疲れ様でした、ポチさん」  
「うむ、お休み」  
 
ひさしぶりに野山をさんぽした疲れからか、別の部屋から聞こえてくる  
うるさい物音にも影響されず、今日はゆっくり眠れそうだった。  
 

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