どういうことなのか時計が動いていない気がする。
電池を入れなおしても、新しいものを買っても、全く反応がない。
時間が止まったというわけではない。
みんないつも通りに生活しているし、
ニュースは淡々と時事を伝えている。
しかし時計は動いていないように見える。
理由はいくら考えても分からない。
ひとつだけ確かなのは、このことを考えている時は漠然とした不安感に襲われるということだ。
やはり自分がおかしいのだろうか。
そういえば最近は同じようなことばかりをしている気がする。
時計が止まっていることをおかしく感じるのはきっとそのせいなんだ。
思い立ったが吉日、私は体を鍛えることにした。
「ふん!ふん!」
「そんなに無茶すると大変なことになるよ・・・。」
「無茶をしないときっとこの体は良くなりません!」
「でもそういうのは段階を踏んでやらんとだめじゃよ。」
家族の一人があきれたような顔で私に忠告をする。
私のしていることは決して無茶なトレーニングではないのにだ!
「ぜーはーぜーはー・・・」
「どうなってもしらんよー。」
そして翌日、忠告通り私はシップのミイラになった。
「どうしてそんなことをしたん?」
「ええっと・・・」
シップのミイラたる私は昨日忠告をくれた彼女に事情を説明した。
すると私の傍らに座る少女の顔つきが変わった。
諭すような、これから大事なことを話すような顔だ。
彼女の口から出る言葉を私は固唾をのんで待った。
「それは考えがこんがらがっとるからじゃよ。」
「・・・そうなんですか。」
「でも、体を鍛えるのは根本的な解決にならんよ。」
「え?」
「無理やり問題を挿げ替えても結局は元の場所に戻ってくることになるけえ。」
「・・・そうですよね。」
「とりあえず頭の中を整理してみて。」
「・・・」
そもそも何でこんなことになったんだろう。
何か迷っていることでもあるのだろうか。
自分は結婚できるのか。
あまり自信がない、でも結婚はしたいかな。
将来職は見つかるのか、
料理が得意だからそれを生かせないかな。
この体でいつまで生きていけるのか。
考えたくない。
みんなが帰っても大丈夫だろうか。
大丈夫。遠く離れても家族なことには変わりはない。
いくらかまとまらない考えを整理する。
しかし時計が止まっている感じはなくならない。
(あー・・・)
答えに行きついたような気がしたが、
眠気に負けてうやむやになった。
答えが見つかった。
これは夢なのか、それとも現実なのか。
夢にしてはいやに鮮明だったような気がするが、現実のことだとは思えない。
当然が当然ではないことに気がついた瞬間、まるで地滑りにあったような気分だ。
疑いたい、否定したい、しかし真実からは逃れられないだろう。
目が覚めると、傍らに昨日忠告をくれた彼女がいた。
彼女はいつものように柔らかな面持ちだった。
もう外は暗い、彼女には一日中介抱してもらったことになる。
「次からはちゃんとトレーナーの指示を仰ぐこと。」
「は、はい・・・」
「じゃあ晩御飯持ってくるけえ。」
忠告を無視した上に一日中介抱させてしまったのはとても申し訳ない。
しかし、おかげで答えを見つけることが出来た。
またしばらくは同じ日々が繰り返されれ、しばらくは時計は止まってしまう。
私は「はあ」と息をついた。