いつもの四人が居間でのんびり、そんなある休日の昼下がり。  
 ある者は本を読み、ある者は菓子をつまみ、またある者はテレビをだらだら眺めている。  
 若者にあるまじきだらけ具合だが、まあそんな日もある――本当に平穏な様相。  
 だが、それは何の拍子のことだったのか。  
 
「ところで多汰美さん、ちょっといいですか?」  
 八重のその疑問は、特に何の脈絡も無かった。前の雑談の流れに乗ったとかそういうことも無い。  
 本当に、降って沸いたように思い出したようだった。  
 
「ん、どしたん八重ちゃん?」  
 呼ばれた多汰美が顔を上げる。のみならず、他の二人、真紀子と景子も八重のほうに視線をちらり  
と向ける。  
 みんな暇してたのだ。話題があるなら、注目しない手はない。  
 
「この間、スズメバチの巣をみんなで見たじゃないですか」  
「ああ……その節は八重ちゃんの実家を壊してしまいまことに申し訳……」  
「もうそのネタはいいですから。じゃなくてですね」  
 えーっと、とそこで八重は一拍置いて考える。思い出しながらしゃべろうとしているようだった。  
 
「ほら、あの時多汰美さん、巣におでこをぶつけちゃったじゃないですか」  
「うんそうやね。で?」  
「それで、あの時私、『大丈夫ですか』って聞いて、それから、えーと」  
「?」  
「『大丈夫』って多汰美さんが答えられた、その後ですよ」  
「???」  
 つかみどころの無い八重の言葉に、多汰美の表情の疑問符が増える。  
 その時、横で聞いていた景子が言葉を繋いだ。  
 
「ああ、そうそう私も疑問だったのよ」  
「ですよね。最初、聞き違いかと思ったんですけど」  
「え、え? 何の話?」  
 二人で納得されて、多汰美は一層困惑を深める。それに答えるように八重が続けた。  
 
「『やおかった』ってなんですか? 『ぶつけたところがやおかった』って言ってたと思うんですけど」  
「ああ……」  
 なるほど納得、と手を打つ多汰美。  
 
「『やおい』言うんは広島弁で『やわらかい』ていう意味なんじゃよ。じゃけえあの時は『おでこを  
ぶつけたところがやわらかかった』って言うとったんよ」  
「「へぇーー」」  
「今思うと、ぶつけたんはハチの巣じゃったけえ、やおいんは当たり前じゃよね」  
 苦笑混じりに答える多汰美。まあハチの巣に頭をぶつけるなど、滅多にある経験ではない。  
 その多汰美の発言に、さらに八重と景子が二人して続ける。  
 
「ですよね。空っぽのハチの巣なんかは『やおい』に決まってますからね」  
「そうそう。まあ違うものにぶつけてたとしても、あの押入れの中って布団とか枕とか『やおい』も  
のばっかりだったはずだけどね」  
「じゃよねえ。でもまああの時は急に閉じ込められたからびっくりしてしもて、周りが『やおい』もの  
しかないとか頭に浮かばんかったんじゃけど」  
「う、それは本当にごめんなさい……でもこれですっきりしました、『やおい』ってそういう意味だっ  
たんですね」  
「――ああ、だったら青野なんかは、体じゅう『やおい』ところだらけよねー?  
 ……あれ、青野?」  
「真紀子さん? どうしたんですかさっきから黙り込んで」  
「マキちーどうしたん、そんな縁側のはじっこに寄って顔赤くしてそっぽ向いて?」  
「い、いやいやべべべべ別に!? そうやな今日は天気も良くて風が気持ちええなあと!? うんそれだ  
けやでほんまやで!?」  
 
 
(言えへん……話題のかなり序盤から話の流れが読めて、その流れどおりに話が進んで、その間に頭の中で  
桃色時空パラダイスな妄想が爆発してもうたなんて、みんなには絶対に言われへん……!)  
 
 
「マキちー?」  
「真紀子さん?」  
「ちょっと大丈夫青野? なんか顔赤いのに体は小刻みに震えてるんだけど……」  
「直射日光強いしその割りに風は冷たいんよ足から冷えたんやねそうやねんそうに違いないて!!」  
 
 以後30分ほど、真紀子は周囲の追及から逃れるのに必死だったそうな。どっとはらい。  
 
 

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