「はっ!
「どうしたん八重ちゃん?
「えっとですね、
はっと思いついたんですが・・・
「うんうん。
「『帽子を忘れてはっとする。』
「・・・」
「・・・」
しばらくの沈黙の後
「あはははは。」
「あはは。」
よく分からない笑いが起こり
「・・・」
「・・・」
再び沈黙が訪れる。
「・・・」
「・・・」
それから数分その状態が続く。
多太美は微動だにしない。
八重も動くに動けない。
例えるならばば抜きの最後の一枚辺りな状況だろうか。
もっともここで八重が引く事ができるカードは何枚かあるのだが・・・
「・・・」
(うー・・・)
どうする?
どうするの私?
何とか笑いを取る。
もう少しじっとしている。
お茶を濁す。
ここから離れる。
何とか笑いを取る。
もう少しじっとしている。
ニアお茶を濁す。
ここから離れる。
「お茶を入れてきましょうか?」
お茶をいれると言いお茶を濁す。
今度こそいい洒落を思いついたが、
今はそんなことを言える状況ではない。
それよりもこれで多太美が反応しなかったらどうしよう。
もしそうなると時間を止める能力が開花してしまったとしか・・・
「おやつはまだいいけえさ、ちょっとこっちに来て。」
普段の会話と同じくらいの間を置いて、
多太美は小さく手招きをしながら返事をした。
八重はばば抜きが終わった事にほっと胸をなでおろし、
言われた通り多汰美の近くに座り込んだ。
「後ろ向いて。」
言われるがままに後ろを向く。
「あの
「何ですか?」と聞こうとした矢先、
さわっ
「!!?」
何かが八重のお尻を撫でた。
八重はとっさに立ち上がろうとしたが、
スカートを押さえられているらしく、
足を前に出す事ができない。
「え!?あれ!?」
そして八重が混乱しているところに
後から多汰美もたれかかってきて
「わあ!?」
どすん
八重達はそのまま床に倒れた。
「え?え!?」
八重の混乱は頂点に達した。
起き上がろうとしたが体は殆ど動かず、
そこでやっと何かが自分の上に乗っている事に気がついた。
「ふふ、暖かい。」
頭のすぐ後ろから多太美の声が聞こえた。
間違いない、これは多汰美の仕業だ。
「ど、どうしてこんな事を?」
「んー」
「多汰美さんですか!?」
「どうじゃろうねー」
多汰美はというと混乱する八重を適当にあしらいつつ、
倒れたときに下敷きにされた手をもぞもぞと弄るように動かしている。
「あ、手を下敷きにしてますか!?」
「うん。でも私はこのほうがいいけえ。」
そういいつつ多太美は八重の肋骨と腹のたるみを軽く揉んだ。
八重がなれない感触に微かな呻き声を上げると、
多太美はその辺りを重点的に弄るようになった。
「や・・・止めてください・・・」
「何で?」
ぎゅぅ
「いっ・・・」
「ねえ、何で?」
ゆっくりと確実に、
多汰美は八重を精神的に追い込んでいく。
その目的についてはあまり考えたくないが、
これならばば抜きをしていたほうがまだ良い。
「あの、もう一度ばば抜きを・・・」
「駄目。」
あっさりと断られてしまった。
こうなったらもう力ずくで逃げ出すしかない。
「は、離してください!!」
「わっ!?」
八重は必死に暴れた。
足を多汰美の支配から逃してばたばたさせてみたり、
転がってたたみと位置を入れ替わろうとしたり、
頭を振ってみたり。
出来ることは全部やってみたが、
それで多汰美から逃れる事なんてできるわけもなく。
無意味に体力を使い切っただけだった。
「はー・・・はー・・・」
後に残ったのは絶望感だけだった。
自分の力ではどうすることも出来ない。
ただ多汰美にされたいがままになるしかない。
「あれ?八重ちゃんなんで息切らしとるん?」
「え・・・いやさっき」
「どきどきしとる?体熱いよ。」
「あ、あの・・・だから」
「もぞもぞされるの気持ちよかった?」
「そんなこと・・・くすぐったいだけです。」
「気持ちいいってそういう感じなんよ?」
「え・・・そんな・・・」
「してほしいじゃろ?」
「う・・・う・・・」
「さあほら・・・」
執拗な言葉攻めの末、八重は
「わあああああああああ!!!」
「!!?」
叫んだ。
とにかく叫んだ。
頭の中から何もかもをけすように、
沸き立ってくる感情をかき消すように、
のどが少しひりひりするくらいまで叫んだ。
「・・・あれ?」
いつの間にか八重は多汰美の支配から解き放たれていた。
体を起こして辺りを見回すと、
部屋の入り口で多汰美が申し訳なさそうに八重の事を見ていた。
「あ・・・」
「・・・」
その後八重と多汰美のばば抜きは、
場所を変えながら5ラウンドまで繰り広げられたとさ。