「平和じゃねぇ…」  
「そうですねえ…」  
 多汰美さんがこたつにあごを乗っけながらともなく呟いた言葉に、八重は安穏と呟きを返した。  
「こういう日はこう、畳のふちをひねりたくなりますねえ…」  
「そうじゃねぇ…」  
「…意味はさっぱり分からないですけど」  
 ゴッ、と多汰美さんがこたつにおでこをぶつけた。  
 窓の外ではお母さんが洗濯物をばらまいている。  
「…どうしたんですか?」  
「いや…何でもないけえ気にせんでええよ…」  
「そうですか…」  
 多汰美さんちょっと変な顔してるけど…何でもないなら、いっか。 考えるのも面倒だ。  
 日曜日の昼過ぎ。  
 とっくに昼ごはんも食べてやることもなく、暇で、退屈で、こたつの温もりで頭の中もとろける至福の一時。  
 少しぬるくなったお茶をこくこくと飲みほすと、八重は「はぁ…」と気の抜けた表情で溜息をついた。  
 
 もぞもぞ。  
 昨日からにわちゃんがうちに泊まりにきている。 土日はいつものことだ。  
 昼頃に起きてきたにわちゃんは、こたつでくつろいでいる八重を見つけると、  
 「な〜なせっ」と甘えた声で言いながら後ろから抱きしめてきて、そのままこたつに足を入れてきたのだった。  
 二人羽織よろしくすっぽりと抱きしめられて少し気恥ずかしかったが、  
 代わりに暖かくもなったので抵抗はしなかった。  
 ちなみに起き抜けみたいなのでお腹は空いてないか聞いてみたものの、「七瀬と離れるのはヤダ」らしい。  
 嬉しさ半分の半分、恥ずかしさ半分の半分、心配半分の八重だったが、  
 「まぁ腹が空いたら何や言い出すじゃろ」との多汰美さんの言葉を受け、  
 「ちゃんと食べたくなったら言ってくださいね」と渋々了承した。  
 しばらくは隣に座っていた多汰美さんと3人で色々と談笑していたのだが、  
 にわちゃんはいつの間にかすうすうと寝息を立てて眠ってしまっていた。  
「んん…七瀬…」  
 そして今、八重の耳元で寝言をささやきながら背中でもぞもぞと身じろいでいる。  
 ちょっとくすぐったい。  
 
「にわちゃん昼過ぎまで寝てたんに、まだ眠いんじゃろか」  
 多汰美さんは頬杖をつくと、八重に後ろから抱きつきながら  
 幸せそうに眠るにわちゃんを見つめ、呟いた。  
「夜更かしでもしてるんでしょうか」  
 でも、にわちゃんは八重の部屋で寝ているのだ。  
 いつも一緒の時間に寝ていると思っているんだけど…。  
「……まぁにわちゃんにも色々あるんよ。でもまぁ…」  
 含ませた多汰美さんの言葉に、八重は頭の上に疑問符を浮かべながらその目を見つめた。  
「八重ちゃんと一緒におるいうんが、一番の原因じゃと思うよ」  
 微笑しつつ軽く目を閉じながら、多汰美さんがこたつから出て立ち上がる。  
 こたつの中に少し冷たい空気入ってきて、身体にぶるっ、と寒気が走った。  
「トイレですか?」  
「いや…っていうかどうしてトイレから入るんよ。じゃのうて、ちぃとコンビニに肉まん買いにこ思うて」  
「肉まんですか」  
「八重ちゃんもいる?」  
 一瞬、「いえ…」と返しそうになるが、昼食からそこそこ時間も経ち、確かに小腹は空いている。  
 それに、にわちゃんも起きたら食べるかもしれない。  
「…えっと…じゃあ、2つお願いします」  
 腰に回された腕を撫でながら遠慮がちにお願いすると、  
 多汰美さんはどてらを脱いでたたみ、「了解」と一言置いて部屋を出て行った。  
 
 部屋が静かになった。  
 テレビも付けていないので、聞こえるのはすうすうというにわちゃんの寝息だけだ。  
 腰ににわちゃんの腕が回されている。 こうやってにわちゃんが八重を抱きしめるのは、もはや日常茶飯事だった。  
 いわゆるボディランゲージというものだろうか。  
 確かにこうやって抱きしめられると、言葉以外の、言葉以上の気持ちが伝わってくる気がする。  
 普段から八重へ好意をストレートにぶつけてくるにわちゃん。  
 にわちゃんのことはもちろん好きだし、こういう積極的なスキンシップをされるとさすがに恥ずかしがりもするが、  
 自分が好かれていると実感させられることは少しくすぐったくもあり、でも素直に嬉しい。  
 ただ、時々考えることがある。 自分に向けられている「好き」は、どういう「好き」なんだろうか…と。  
 Like or Love ?  
 考えても答えなんて出ない。 当たり前だ。 元より答えを知っているのはにわちゃんだけなのだから。  
 でももし、にわちゃんの…。  
「…七瀬…」  
 ふと、耳元でにわちゃんのささやきが聞こえ、八重は思考を中断した。  
「…ふふっ、何ですか?」  
 
 今しがた八重の考えていたことなど露ほども知らず(当たり前だけど)、  
 寝言で自分の名前を呼ぶにわちゃんに思わず苦笑しながら応える八重だったが、  
 不意に自分を抱きしめる腕の力が強くなり、  
「んっ…はっ、んん…」  
 とちょっと艶のある声が耳元で聞こえはじめると、にわかに戸惑いの表情を浮かべた。  
「なな…せぇ、…だ、だめ…」  
 いやいやをするように八重の首筋に顔をこすり付けるにわちゃん。  
 夢を見ているんだろうか。 だとしたら夢の中で私何してるんだろう…。  
 ちょっとドキドキしながら耳を澄まして様子を見守っていると、にわちゃんはしばらく息を弾ませたのち、  
 「……もう…今度はこっちの…番…なん…だから…」と小さな呟きを漏らした。  
 こっちの番? ということは何かを私と交代するんだろうか。  
 そんなことを考えていた矢先、にわちゃんがとんでもない行動を始める。  
 何と、腰に回されていたにわちゃんの手が、もぞもぞと八重の服をめくり、中にもぐりこんでいくではないか。  
 えっ? えっ?  
 青天の霹靂に泡を食っているうちに、服の中に侵攻を始めた手はあっという間もなくブラをめくり上げ、  
 八重のあまり育ちのよろしくない小振りな胸をすっぽりと覆ってしまっていた。  
 え〜〜〜〜っ!  
 あまりの驚きに声も出ない八重を置き去りに、  
 八重の胸を支配下に置いた手が間もなくゆっくりと撫でるように動き始める。  
 
「んっ…」  
 敏感な部分を人に触られる感覚に、身体が勝手にぴくん、と震えてしまう。  
 通常服の中に手を入れる悪戯というものは手が冷たいのが定石だが、  
 この手は八重自身の体温で程よく温められていて、丁度よく心地良い。  
 となれば、これはそういう類のものではないだろう。  
 …などと現実逃避している場合じゃない。 これは、紛れもなく愛撫だ。  
 なぜこんなこと、とか、どうしてこんなこと、とか色々な疑問が頭をかすめるが、  
 そんなことを悠長に考えられる状況ではない。  
「や、だめ…」  
 優しく胸を撫で上げる手を服の上から押さえて何とかいさめようとするものの、  
 傍若無人な悪戯を続ける手は止まる気配を見せるどころか、むしろ抵抗を悦ぶように八重の胸を責め立てる。  
「ふぁ…や…ぁ…」  
 始めはゆっくりと、たださらさらと撫でるだけの行為。  
 にわちゃんの指が、すーっ、と八重の薄い胸を滑っていく。  
 ただ撫でているだけ…なはずなのに、そのくせこの優しい愛撫は、  
 八重の身体の奥底からじんわりとうずくような熱を生み出していく。  
 そうして柔らかな責めを続け、八重の身体がしっとりと汗ばみ、胸が吸い付くようになじんでくると、  
 その手の動きは序々に前戯と形容されるべき行為に変化していった。  
「んっ、んん…ふぁ」  
 こなれてきた胸を撫でさすり、僅かな膨らみをすくうように揉み上げ、  
 ふわふわと浮き上がるような柔らかく丁寧な責めに身体を震わせていると、  
「んっ、あっ、は…っ」  
 時折頭頂部を弾かれたり、指の股で挟まれたりと身体がくんっ、と跳ねるような変則的な刺激を混ぜてくる。  
 弱い刺激の次は、強い刺激。  
 次は弱い刺激がくると思って待ち構えていると、裏をかかれて鋭い刺激を受け、背筋を反らす羽目になる。  
 変化に富んだ責めは慣れを予防し、じわじわと八重の思考力と抵抗力を奪っていく。  
 
「はぁっ!」  
 ぴぃんと立ち上がってしまった両の乳首を優しく摘ままれ、くりくりっ、とひねられると、  
 例えようもない感覚が背筋を通って頭のてっぺんまで駆け抜け、ぐぐうっ、と身体を後ろに反らしてしまう。  
 にわちゃんはのしかかる八重を難なく受け止めると、「くすっ」と僅かに鼻で笑い、  
 それを皮切りにして、責めが乳首中心のものに切り替わった。  
 ぷっくりと膨らんだ乳輪を揉みこまれ、弾力を増したそこをまとめて摘まみ、こね、しごき上げられるたびに、  
 頭の中がずきんと痺れ、八重の意思とは関係なくぴくぴくと身体が跳ね上がり、抑え切れない声が漏れる。  
「んっ…はぁ…っ、ふぁっ…!」  
 自分の声がひどく甘やかになっているのが分かる。  
 自分の今摘ままれている乳首が固くしこっているのが分かる。  
 いつしか目的を忘れ、ただ胸に添えられていただけになっていた八重の手は、すでにだらりと力なく下ろされてしまっていた。  
 もう認めるしかない。 今八重が感じているのは、紛れもなく快感だった。  
 
「はんっ…あっ…ん…」  
 八重の乳輪の上を爪を立てて優しく滑っていく。 つんつんと突っついたり、カリカリと引っかいたり。  
 くすぐったくてもどかしい快感が、八重の脳を焦がしていく。  
 どれくらい時間が経っただろうか。 時間感覚なんかとうに狂っている。 1時間かもしれないし、5分かもしれない。  
 にわちゃんの指は相も変わらず、ひたすらに八重を翻弄し続けていた。  
「も…ぉ…や…」  
 もうやめて、もう許して、もう限界だ。  
 懇願を何とか声を出そうと試みるが、喉によだれがからみ、うまく言葉がつむげない。  
 もうずっと一番苦しくてもどかしいところを、何度も何度も行ったり来たりさせられている。  
 あの手この手の巧みなからめ手で八重を追い詰めていくにわちゃんだったが、  
 それでいて、決して八重を頂きにまで押し上げようとしないのだ。  
 むしろ限界が近づくとわざと手の動きを弱めて、焦らせているように思う。  
 
「あっ、あっ、はっ、あ〜っ!」  
 乳首を上からぐりぐりと押しつぶされると、摘ままれてきゅーっ、と引っ張られると、  
 指の動きに合わせて身体がびくっびくっ、と痙攣し、あられもない声が口から勝手に漏れてしまう。  
 こんな状態でなければ、痛みを感じてもおかしくない刺激。  
 ううん、痛みは感じているのかもしれない。 でも脳が甘受しているのは、全て気持ちいいという感覚だった。  
「んぁっ…はぁっ!」  
 絶え間なく続く堪らない責めに、八重の意識が真っ白な奔流へと沈んでいきそうになる。  
 背筋を走る、待望の予感。  
 しかし、乳首を執拗に責めさいなみ続けていた指の動きが、  
 突如頭頂部をわざと避けるように周囲を撫でるだけの焦らすような愛撫へとトーンダウンした。  
 
「ん…はっ、はーっ…」  
 そんな…また…?  
 息も絶え絶えながら、再びおあずけをくらい絶望に打ちひしがれる八重に、  
 「気持ちいい?七瀬…」とにわちゃんが虚ろな声でささやいた。  
 まだ夢うつつなのだろうか。 それとも、もしかして既に起きていて悪戯をしているのかもしれない。  
 でも、そんなのはもうどうだっていい。  
 ものすごく気持ちいい。 でも、ものすごく、苦しい。  
「もっと、して…ほしい…?」  
 にわちゃんが、耳元で甘く誘う。  
 うなずけば、続けてもらえるのかな…。 最後まで、してくれるのかな…。  
 最初だって、途中だって、強く抵抗すればすぐにこの状況から逃げられたと思う。  
 でもそうしなかったのは、こうされるのをどこか心地よく感じてしまっていたからかもしれない。  
 それに、丁寧に掘り起こされた疼きは、元の状態に戻れるボーダーラインをとっくに超えてしまっていた。  
 高められた身体は、一線を越えるボーダーラインまであと一歩というところまで迫っていた。  
 こんなところで止められてしまっては、蛇の生殺しというものだ。  
 やめないで、ううん。  
「して…くださ…」  
 ぼぅ、と霞む頭で決意し、うなずいた…そのときだった。  
 
 背後で、すーっ、という何かが擦れるような小さな音が聞こえ、驚いてそちらに顔を向けた。  
 一瞬で、頭の中が急冷する。 音の主は、襖を開けて部屋に入ってきたお母さんだった。  
「どうしたの?そんなに目を丸くして…」  
「ううん!な、何でもないよ!」  
 挙動不審な八重を見つめ不思議そうに顔をかしげるお母さんに、ふるふると首を横に振ってごまかす。  
 はっ、と慌てて胸を押さえるが、いつの間にか胸に触れていた手は元の八重の腰の位置に戻っていた。  
「顔も赤いし…大丈夫?」  
「う、うん、大丈夫!大丈夫」  
 ぶんぶんと首を振る。  
「八重ったら、よだれ」  
「えっ?あっ…」  
 お母さんが近くにあったティッシュ箱からティッシュを数枚抜き取ると、「はい」と八重の目の前に差し出した。  
 言われて気付いたが、確かにあごの辺りに冷たい空気を感じる。  
「う、うとうとしてたから…」  
 適当にごまかしながら、受け取ったティッシュでよだれをぬぐう。  
「変な子ねぇ…」  
 お母さんは怪訝そうに呟きながらこたつ布団をめくって足を入れると、  
 テレビのリモコンのボタンを押し、テレビをつけた。  
 変な子…ごもっとも。 自分の様子がおかしいのは自分でもよく分かる。  
 でも、本当のことを言うわけにもいかない。  
 にわちゃんに胸を触られてたから…なんてことが知れれば、お母さん倒れちゃうかもしれない。  
 
「でも、本当に仲良しね」  
 八重の後ろを見ながら言ったお母さんの言葉に、「えっと…うん。おかげさまで…」と苦笑する。  
 自分でも仲が良いとは思うけど、こんなコトされるのってどうなのかな…。  
 テレビの方にぼぉっと視線を向けながら、先ほどの痴態を思い返し、はぁ、と溜息をつく。  
 終わり…なのかな…。 せっかく恥ずかしいのを我慢してうなずいたのに…。  
 びっくりしたせいで、気分は一気に醒めてしまってはいたものの、それでもがっかりといえばがっかりで…。  
 でも逆にほっとしたといえば、確かにほっとしていて、複雑な心境。  
 …そういえば、喉かわいたな。  
 湯飲みに手を伸ばして中を覗いてみると、中身は空っぽだった。  
「お母さん、私にも頂戴」  
 湯飲みにお茶を注いでいるお母さんにおかわりをお願いするが、  
 お母さんの持っていた急須はお茶を吐き出す勢いを急速に失っていく。  
「あら、切れたみたいね。これ飲みなさい」  
「うん、ありがと」  
 今注いだばかりの湯飲みを八重に渡すと、お母さんは急須を持って台所へと向かった。  
 両手で湯飲みを掴み、ふ〜と息を吐き出すと、そのまま湯飲みを傾ける。  
 お湯を注したのはかなり前だったのでお茶はすっかり冷えていたが、火照った身体と渇いた喉には心地よかった。  
 
 もぞもぞ。  
 不意に後ろでにわちゃんが身じろぎ、八重はびくっと驚いて落としかけた湯飲みを慌てて握りなおした。  
 過剰反応かもしれないが、さっきのことを鑑みれば致し方ないと思う。  
 しかしにわちゃんは少し動いただけで、すぐに動きを止めた。  
 寝返りみたいなものだったのかな…。  
 はぁ、と溜息をつきながら、台の上に湯飲みを戻す。  
 八重はそんながっかりしている自分に気付くと、慌ててかぶりを振った。  
 と、油断した直後、腰に回されていた腕が緩み、ごそごそと衣擦れの音がこたつ布団の下から聞こえた。  
「……!」  
 緊張の糸がぴんと張り詰める。 さっきの続きだろうか。  
 期待と抵抗の入り混じる頭で、胸をガードするか否か逡巡する八重だったが、  
 にわちゃんの行動は迅速で、再びあっという間もなく目的地に到達されてしまった。  
「ふぁっ!?」  
 股間に濡れた何かが押し付けられる感触。 …いや、濡れていたのは八重の方だったのか。   
 八重の秘部に何か触れている。 …というか、間違いなくにわちゃんの指なのだが。  
 そんな、そこ…!?  
 にわちゃんの指の目的地、それは何と八重の…その…あそこだったのだ。  
 八重は今、あぐらような形で座っている。  
 うら若き乙女としてはどうかと.思うが、身体が硬いので足を伸ばして座るというのは苦手なのだ。  
 つまり膝を開いて座っているわけで、にわちゃんにとっては手を少し下に下ろせば到達できる場所である。  
 別にこっちの方はダメで胸の方がいいとかそういうわけではないが、とにかくこっちは完全に無警戒だった。  
 
「は…っ」  
 あそこに触れている指にくくっと力がこもり、ショーツ越しの八重の割れ目にくにゅり、と僅かばかり埋まった。  
「あっ、あっ!」  
 その指が何かを探るようにぐにぐにと蠢きながら、更に八重の大事なところに埋没していく。  
 ある程度指が割れ目を掘り込んだところで、にわちゃんの指がくいくいと動いた。  
 そこはまだ、にわちゃんには一度も触れられてはいないというのに、  
 八重のそこは触られるのを待っていたかのように準備万端になっていて…。  
 音は聞こえないが、ぐちゃぐちゃと濡れた感触がショーツ越しに伝わってくる。  
 それは言わずもがな、自分がにわちゃんの愛撫によってそれだけ濡らしていたということを思い知らされるわけで…、  
 それがすごく恥ずかしく、それでいてそれを実感させられることが、堪らなく気持ちよく感じてしまう。  
 何で、こんなに感じるんだろう…!  
 にわちゃんの指が動くたびに、八重の身体はその一挙手一投足を敏感に感じ取り、  
 甘い衝撃が背筋を駆け、脳に叩き込まれる。  
「ふぅ、く…ぅ…んっ!」  
 指が動くたびにそこを擦られたとか、どこを揉まれたということが鮮明に脳へと伝えられ、  
 腰が砕けるような快感がじわりじわりと全身を覆いつくしていく。  
 醒めた気分と共に段々と熱を失い始めていた身体は、にわちゃんに本の少しいじられただけで、  
 あっという間に先ほどまでの高まりを取り戻してしまっていた。  
 だ、だめ、お母さんすぐ戻ってくるのに…。  
 そう考えてはいるのに、にわちゃんの行動を咎めることができない。 できるはずもない。  
 だって、八重の心のどこかではこうなることを期待していたはずなのだから。  
 
「はぁぁぁぁ…!」  
 割れ目に指を埋めたまま下から上へと、ずずぅー、と割れ目なぞるように撫でられる。  
 窪みを割り開くように進んでいく指の動きに、堪らずとろけた吐息を吐き出してしまう。  
「んっ…は…ぅん……!」  
 そのまま指が一番上に突き当たり、つんっ、というその小さな衝撃に身体を振るわせる八重だったが、  
 にわちゃんの指は動きを止めることなく、来た道を引き返す。  
 輪立ちを拡げていくように、上から下へ。 下から上へ。  
 「ふん…ぅ…く…」  
 中を擦られる感触に身体をぴくぴくと震わせながら、  
 胸を責められたときとはまた違う極めて濃厚な快感に、漏れそうになる声を両足に力を込めて必死にかみ殺す。  
「はっ、はぁ〜…あっんんっ!」  
 上から下へ。 下から上へ。 単調に繰り返される動きに、  
 時折内壁をこしょこしょとくすぐるような動きが混じり、思わずイヤらしい声を漏らしてしまう八重。  
 ただ撫ぜられているだけでも十分に気持ちいいというのに、  
 そこへこんなアクセントを付けられてしまっては、我慢できるはずもない。  
 不定期に来る悪戯によって期待や緊張を余儀なくされ、触覚が更に鋭敏になっていく。  
 お母さんが戻ってくるかもしれないという期待が、それに拍車をかける。  
「はぁぁ…んん、あぁっ!」  
 身体の底から次々と掘り起こされる堪らない快感に、八重は白旗を揚げるように首を横に振った。  
 こんなの…我慢できない…よ…っ!  
 下半身全体がぴくぴくと痙攣し、形容できない音を立てて絶頂感が目の前に迫ってくる。  
 それは、さっきおあずけを喰らったときよりも、ずっとずっと深い絶頂の予感。  
 
 しかし不意に割れ目に埋まっていた指の感触が消え、  
 代わりに入り口の土手の脹らみをくりくりと優しく引っかくような動きに変わった。  
「は…ぁ…」  
 そんな…どうして、やめるの…?  
 確かにこれも気持ちいいけど…でもこのくすぐったくて優しい快感は、  
 八重の望んでいるところへ連れて行ってはくれそうにない。  
 ものすごくじれったくて、少しずつ遠ざかる限界に、欲求不満が溜まっていく。  
 もしかして、またおあずけなのかな…そんな、そんなの…!  
「もう、やぁ…っ!お願い、にわちゃ…!」  
 どうしようもないところまで追い詰められた八重はいやいやをするように首を振り、  
 目に涙が浮かべながら、ついに自らにわちゃんに懇願した。  
「イきたい?」  
 八重の耳元で、にわちゃんが囁く。  
「ふぅっ…んぁ…っ」  
 焦れた頭に響いた、ずっと待ち焦がれていた言葉に、八重はこくこくと大きく頷いた。  
 「うん。意地悪して、ごめんね」と呟いて、にわちゃんが頷く。  
 次の瞬間、再びショーツ越しに指をぐっ、と差し込まれる。  
 先ほどよりももうちょっとだけ深く、敏感になっているところをきめ細やかなショーツの生地がざらっと撫ぜた。  
 中に溢れているものをこそぎ取るように内壁を擦り、  
 ぐりぐりと抉り込むような少し乱暴な刺激が叩き込まれる。  
 それがあまりにも気持ちがよくて…待ち焦がれた強引な刺激に、八重の全身がびくびくと打ち震える。  
「んっ!ぅんっ!」  
 何て気持ちがいいんだろう!  
 身体中を埋め尽していく充足感に思わず漏れそうになる喘ぎ声を、  
 頭の片隅に僅かに残った理性がとっさに口をふさいで抑えた。  
 しかしにわちゃんがそこをいじるたびに、快感は後から後から波を繰り返すごとに大きくなっていく。  
 刻一刻と臨界点に限りなく近づいていく八重だったが、  
 ふとあそこからこぽりと何かが漏れるような感覚を覚えた慌てて腰に力を入れた。  
 
「んんぁんっっ!」  
 その直後、満を持すべく新たに生まれた途方もない快感に、身を震わせる八重。  
 八重の身体の中で一番敏感な突起部分を、にわちゃんの指が的確に捉えていた。  
 それは中を攻められたときとは違う、直線的で鋭く、弾けるような気持ちよさ。  
 優しく指を滑らせただけで、身体がひっくり返るような快感が全身を覆いつくす。  
 強張らせた身体が、びくっ、びくっ、びくっ、と痙攣を繰り返す。  
 朦朧とする意識の中、優しく深い快楽が意識をどんどんと溶かしていく。  
「………」  
 にわちゃんが何か呟いた気がしたけど、何も聞き取れない。  
 だめっ、だめぇ…っっ!  
 あともう一歩、ほんの少しでいい、今何かされれば達してしまう…、そう感じた瞬間、  
 まるで八重の考えを見透かしたかのように左の乳首がぎゅ〜〜〜っと引っ張られ、  
 そしてクリトリスをぐにぐにと揉みほぐされた。   
 来る…来…る…っ!!  
「んぁ…あああぁぁ〜〜っ!」  
 バンバンバン!と全身のドアが勢いよく開放されるような、堪らない開放感。  
 天にも昇るような快感が全身を縦横無尽に駆け巡る。  
 しかし絶頂を長引かせるように、にわちゃんの愛撫が止まらない。  
 おかげで身体中に溜まりに溜まった快感は引く気配を見せず、  
 それどころか胸を優しく揉まれただけで、お腹を擦られただけで、ただただ増殖を繰り返していく。  
 気持ちがよすぎて、段々と意識が途切れ途切れになり、目の前が白いもやに飲み込まれていく。  
 まだ、感じていたいのに…。  
 未だ収まらない絶頂の余韻に酔いながら、くったりとちゃぶ台の上に突っ伏すと、  
 最後にそんなことを思いながら、八重の意識はすぅ、真っ白なもやの中へと溶けていった。  
 
 
「ただ…こんにちは〜」  
 玄関の扉を開けると、何やら制服姿の男の人が入り口のところに立っていた。  
 男の人がこちらを振り向き、目が合ったのでとりあえず軽く会釈する。  
「お邪魔してます」  
 と会釈を返してくれた男の人の手には箱、制服や帽子には会社名と思しきロゴが描かれていた。  
 宅配便かな。  
 脱いだ靴を靴箱に置いていると、パタパタパタとスリッパを鳴らしながら小母さんが玄関にやってきた。  
「すみませんお待たせしちゃって…。 多汰美ちゃんお帰りなさい」  
「ただいまです。誰かの宅配便ですか?」  
「私のなんだけど…ほほほほ…」  
 何かごまかし笑いされた。 箱を見返してみると、見知った通販雑誌の名前が書いてある。  
「あまり派手な服だと、また八重ちゃん泣いちゃいますよ」  
「な…何のことかしら」  
 小母さんの目が泳ぐ。  
 箱に書いてあったのがこの家によく届いているファッション系の通販雑誌の名前だったので、  
 もしやとは思ったが、図星みたいだ。  
 苦笑しながら小母さんの横を通り過ぎ、居間の襖の前まで移動する。  
 襖の向こうからテレビの声が漏れていた。 誰かテレビでも見てるのかな。  
 今の時間ってどんな番組やってたかな…などと思いながら、  
 襖を開けるべく取っ手に手を伸ばしたところで、なぜか目の前の襖が勝手にすーっと横に開いた。  
 七瀬家はいつの間に襖を自動ドアに改造したのだろうか。  
 当然そんなわけはなく、襖の開いた向こうには変な顔をしたまきちーが立っていた。  
 向こうから襖を開けただけだったようだ。  
 
「お、おぅ、おかえり多汰美」  
 赤い顔をしながらちょっと不自然に挨拶するまきちー。 何かちょっと様子がおかしい。  
「うん、ただいま…顔赤いけんどしたん?」  
「な、何でもないねん」  
 どもりながら「何でもない」って言われても、説得力がない。  
 でもまぁ、隠すくらいだから何か理由でもあるんだろうけど。  
「そう?」  
「そうそう」  
 まくし立てながら、まきちーが多汰美とすれ違いに歩いていく。  
「あ、まきちー」  
「んぁ!な、何や」  
 異様に驚きながら振り返るまきちー。  
「何そんなに驚きよるん?」  
「な、何でもないねんて」  
 さっきと同じ台詞を繰り返すまきちーをジト目で見つめる。  
 深くは詮索しないけど…。 何なんだろう。  
「…ふぅん。あ、そうそう、肉まん買てきたけど食べる?」  
 そういえば肉まん食べるか尋ねるために呼び止めたんだった。  
「あ?…あ〜…」  
 逡巡するまきちーだったが、「おごりやけど」と付け加えると、  
「…そやな。ほんならもうろとくわ」  
 と頷いた。  
「ほい。まだ熱々やよ」  
 まだほくほくと湯気を立ち上らせる肉まんと、添え付けられていた酢醤油とからしを  
 紙袋から出してまきちーに手渡す。  
「さんきゅな」  
「ええのんて」  
「ん。じゃ、うち部屋に戻るさかい」  
「はいはーい」  
 
 まきちーと手を振って別れ、「ただいま〜」と小声で呟きながら居間の襖をくぐると、  
 ちゃぶ台の上に突っ伏すふわふわとした毛の塊…否、八重ちゃんの姿が目に入った。  
 あっちの方を向いているので表情は分からないが、多分眠っているんだろう。  
 後ろ手で襖を閉め、肉まんを台の上に置く。  
「八重ちゃんまで寝とるんじゃね…」  
 微笑ましい光景に頬を緩ませながら八重ちゃんの後ろに目を移すと、  
 その八重ちゃんを後ろから抱きしめながら眠っていたにわちゃんが丁度目を覚ますところだった。  
 ふあぁぁぁ…と気の抜けたあくびを漏らすにわちゃん。  
「おはよ」  
「ん〜?あぁ…おはよ」  
 寝ぼけ眼で、言葉もどこか虚ろ。 まだ半分眠ってる感じだ。  
 んん〜、と身体を上に伸ばしながら、その流れで目を擦ろうとしたところで、にわちゃんが不意に手を止める。  
「あれ、指、濡れてる?」  
 にわちゃんの上げた手の指を見れば、確かに何かの液体で濡れて光っていた。  
 首を傾げて指の間に糸を引く液体をこねながら、多汰美の顔を不思議そうに見上げるにわちゃん。  
「いや、知らんけど…」  
 そんな目で見上げられても困る。  
 
 とりあえず近くにあったティッシュを二枚ほど掴み上げると、「はい」とにわちゃんに手渡す。  
「ありがと」  
「で、起き抜けみたいじゃけど、肉まん食べる?」  
「食べる食べる」  
 指をティッシュで拭きながらも、二つ返事で応えるにわちゃん。 やっぱりお腹空いてたのかな。  
「ほい…ほいっと」  
 肉まんを二つを紙袋から出して台の上に置き、酢醤油とからしを取り出すと、  
 早速にわちゃんの手が八重ちゃんの背中越しに伸びてきた。  
「さんきゅ」  
「…その体勢じゃと食いにくくない?」  
 こたつ布団をめくって足を入れながら、「ん〜」と肉まんに手を伸ばすにわちゃんを横目で見つつ聞いてみるが、  
 その取り辛そうな体勢を改められることはなく、「いいの〜」と予想通りの台詞が返ってくる。  
「ほうですか」  
 相変わらずべったりみたいだ。  
「んん…」  
 ようやくにわちゃんが目的の肉まんを掴んだところで、ふと八重ちゃんからくぐもった声が聞こえ、  
 八重ちゃんの顔がゆっくりと起き上がった。  
「あ、起きた?」  
 にわちゃんの顔がにわかに満面の笑みへと変わり、苦労して手にした肉まんをあっさりと手放すと八重ちゃんの肩を抱きしめる。   
 そこで八重ちゃんがぼう、と遠くを見るように目を薄め、ふと呟いた。  
「あれ…私、どうして…」  
 
 
 fin  
 

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