ざわり…  
 
なま暖かい風が八重の頬をなでる。  
居間に足を踏み入れた八重が目にしたものは、  
大皿に山のように積み上げられた炭の山だった…  
 
「な、何これ…」  
炭である、それ以外の何者でもない。  
「た、多汰美さん?真紀子さん…?」  
こんな見事な炭を作れるのは世界広しと言いえども二人しか居ない、  
同居人の由崎多汰美と青野真紀子だ。  
「ど、どこですか…?」  
二人の姿が見あたらない。  
二人のことだから何か料理を作ったら無理矢理にでも自分に食べさせるはず…  
(これ食べる事になるんだよね…)  
炭を美味しいと思える人間なんている筈がない、  
この場から逃げるようにゆっくりと後ずさりをする八重。  
「…あれ?」  
座机の隅から誰かの足がはみ出している、  
本当は今すぐにこの場を離れたいがそれだと後味が悪い。  
恐る恐る近づいてみるとそこには…  
 
「お、お母さん!?」  
そこには真っ青な顔をした幸江がごろりと横たわっていた。  
慌てて駆け寄り母の安否を確かめる八重、  
…幸い息はあるようだ、  
だが体が小さく痙攣している、このまま放っておいたら…  
「おお、八重ちゃん。そこにおったんかいな。」  
誰かが後ろから自分に話しかけてきた。  
振り向きたくはない、しかし体は勝手に声のする方を向く。  
炭を箸でつまんだ真紀子がそこにいて…  
「ほらよくできとるやろ?」  
「え…いや…」  
「ほら、これ食べてみ?」  
「いやああぁぁぁぁ!!」  
 
続  
かない  
 

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