締め上げられるような頭の痛みとともに目を覚ました。  
「ん……、つっ、いってぇ……。……ここは?」  
 硬い床の上に寝そべったまま、きょろきょろと辺りを探る。  
 起き抜けで視界が定まらない上に明かりが乏しくて、ほとんどのものが灰色に映る。  
 少ない光源に目が慣れてくると、ここが旧校舎、新聞部の部室であることに気づいた。  
 そこでまた思考が止まる。頭痛と眠気で、脳みそは働くことを拒否していた。一度開い  
たまぶたもまた閉じる。  
(なんで俺、こんなところで寝てるんだっけ……)  
 のろまな脳みそを少しずつ動かして、眠りに落ちる前の記憶を引きずり出す。  
 そこに、つんと鼻に突き刺さるアルコールの匂い。  
「あぁ、そうだよ……」  
 それが刺激になって、一気に記憶が回復してきた。  
 ……俺こと風間慎太のまだ短い人生の中でもワースト3くらいに入るくらい嫌な記憶だ。  
 このまま二度寝して、しばらく忘れていたい。  
「そんなわけにもいかないか……、よいしょっと」  
 気合を入れて、上体を起こす。頭の中で、鉄球の振り子がずがんずがんと頭を打つ。  
 しかし、それ以上に頭を痛くしたのは、目の前に広がる凄惨な光景だった。  
「冴木に、とみかまで……」  
 思わず額に手を当ててしまう。  
 机を隅に片付けた部室の床には、ご丁寧にブルーシートが敷かれ、その上にはポテチや  
らコンビニ惣菜やらの空き容器、紙コップなどが散乱していた。  
 そのゴミに囲まれるようにして、新聞部部員の冴木たからと小田とみかが、死体のよう  
に寝転がっていた。二人とも顔を真っ赤にして寝息を立てている。  
 その傍らには、茶色い一升瓶がコロリと2本ほど。  
「見事に両方空だし……」  
 これが、今部室内に広がる惨状の原因であることは間違いなかった。  
 
 ええと、落ち着いて記憶を整理しよう。  
 どうしてこんな事になってしまっているのか。  
 とりあえず、今日(すでに昨日かもしれない)の夕方、俺たちは花見に行ったんだよな……。  
 
 
「でわ! 今日は毎年恒例、第一回花見大会を行ないましょう!」  
 土曜日。わざわざ俺たちを部室に集めたかと思ったら、部長、秋山みずほは一人ノリノ  
リで高らかに宣言した。  
「えっと、第一回なのに恒例なんですか?」  
「流しとけ」  
「…みずほ、あなた花粉症でしょう? 大丈夫なの?」  
「あーもう、そういう細かいことは気にしないの。桜の香りとアルコールが吹き飛ばして  
くれるわよ〜」  
「お、お酒入れるんですか?」  
 真面目なとみかがすぐにツッコミを入れる。  
「もっちろんよ。そんな花見で酒飲まないなんてネンネちゃんな年頃でもないでしょ?」  
「古い上に使い方が間違っているような気がするが……、冴木は飲むのか?」  
「…嗜む程度に」  
「嗜むな」  
 高校生が。  
「とみかは……、駄目そうだな」  
「というより、ほとんど飲んだことない……。けど、お花見はやりたいね」  
「でしょ? 他、異議のある人は?」  
「ないない」  
「…ないわ」  
「じゃあ決まりね。場所は学校の裏手の山の公園。で、先に場所を取っておいて欲しいか  
ら……、たからととみか、先にシート持って向かってて。私と慎太は、一緒に買い出しに  
行きましょ」  
「え!? 二人でか?」  
「そうよー。なにか問題ある?」  
「あ……、いや」  
「? 慎太ちゃん?」  
「えーと、さすがにさ、この人数分の食料持つのは2人じゃキツくないか? 酒って結構  
重いし……。それに、あの公園なら急いで取らなくてもそんなに人来ないって」  
「うーん、そう、かな?」  
「それに、4人でわいわい買い物したほうが楽しくないか? な?」  
「…なんだか風間らしくない発言だけど、わたしも買出しには混じりたいわね」  
「うーん、じゃ、そうしましょうか。じゃあ早速、買出しに向かいましょ」  
 
 スーパーでオードブルの盛り合わせや、スナック菓子、そして缶チューハイを数本購入  
した。  
「カルピスチューハイとかなら、甘いからとみかも飲めるでしょ」  
「レジでよく引っかからなかったな……」  
「細かいこと気にしないの。よし、じゃあ行きましょうか!」  
 意気揚々と缶チューハイの入ったビニール袋をがちゃりと持ち上げる秋山。  
「おい、そっち重いだろ。こっちの菓子袋と交換」  
「あらそう? じゃあお願いね〜、はい」  
 約3キロの重みが片手にのしかかる。  
「ふふ、慎太ちゃん優しいね」  
「……まあ、一応唯一の男部員だしな」  
 
「おー、咲いてる咲いてる花びら舞ってるー!」  
 ブルーシートを背中に担ぎながら、秋山は軽い足取りで公園へ続く坂道を登っていく。  
「あのテンションの上がり方、遠足を前にした小学生だな」  
「あはは……、あ、でも、こんないきなりじゃなかったら、おにぎりとか用意したのにね」  
「…まったく、計画性の無い」  
 とみかのおにぎりを食べ損ねたと思うと腹が立つのか、眉に皺を寄せる冴木。ここにも  
小学生が一人。  
「なにしてんのー? ちんたら歩いてたら桜全部散っちゃうわよー?」  
 勝手に桜の死期を縮めて、坂の上の秋山が叫ぶ。俺たち3人はやれやれと溜息をつきな  
がら、すこし歩調を早めた。  
 
「うわ……」  
「きれいだね……」  
 いつも学校から見える景色だからと侮っていたが、間近で見る公園の桜は想像以上に鮮  
やかに咲き乱れていた。  
「さーさー、見とれてないでさっさと場所確保してご飯食べましょー! 慎太、早くこっ  
ちこっち!」  
「…花より団子」  
「花より団子だな」  
「花より団子だね…」  
「こらそこ、ハモるな!」  
 
 並木のど真ん中にシートを広げて寝転ぶと、視界のほとんどが桃色に覆われた。  
 思わず、ため息が漏れる。気温も快適。今ここで昼寝をしたらどれだけ気持ちいいだろう……。  
「こーら」  
「うわっ!」  
 いきなり目の前いっぱいに広がる秋山の顔。  
「働かざるもの食うべからずよー? 準備手伝いなさい」  
「おい、こら、もみあげが目に入る!」」  
「さっさと起きないからでしょ。ほーれほれ」  
「ちょ、お前な、わかった、起きるって!」  
 にやにや顔の秋山を跳ね除けるように起き上がると、とみかの手によって配膳はほとん  
ど済まされていた。  
「俺起きる必要なかったじゃん……」  
「どのみち乾杯するんだから。ほら、座りましょ」  
 秋山に手を引かれて立ち上がる。  
 こいつは、まったく……。  
 
 こうして、俺たちの花見はいつもどおりにぎやかに始まった。  
 ぞくぞくと他の花見客がやってくる中、どう見ても学生にしか見えない俺らが、声高に  
「かんぱーい!」と叫んだのはさすがにどうかと思うが、桜の前では無礼講なのか誰も何  
も言ってこなかった。  
 とみかは、やっぱりちょっと苦いねと言いながら、ちびちびチューハイを飲み進めてい  
たし、冴木はいつものマイペースながらも、アルコールの力かいつもより少し口数が多か  
った。  
 そして秋山は言わずもがな。こいつに桜と酒を与えて、テンションが爆発しないわけが  
ない。思うままに騒いで、歌って、くるくる回って、周りの花見客まで苦笑させていた。  
「ま、1年に一度くらいならいいよな。こういうことも」  
 楽しかった。酒が入ったとはいえ羽目を外しすぎることもなく、お喋りと冗談に花を咲  
かせた、平和でのんびりとしたお花見だったんだ。  
 
 秋山が、隣で全員顔を真っ赤にして騒いでいたサラリーマン連中と意気投合するところ  
までは。  
 
「とーなーりどうしあーなーたーとわーたしさとにしきー♪ イェイ!」  
「「「イェーイ!!!」」」  
 7、8人のネクタイ集団から拍手が巻き起こる。その中心で、秋山はカラオケマイクを  
片手に愛想を振りまいている。  
「盛り上がってんなー……」  
「そうだね……。でも、もうそろそろ連れ戻したほうがいいんじゃないかな……」  
「…そうね。風間、行きなさい」  
「は? 俺だけかよ!?」  
「…わたしたちがあのむさい集団の中に飛び込んでいけると思うの?」  
「それにむしろばっちり溶け込んでいるあいつは相当問題あるよな……」  
 
「まーまー、嬢ちゃんも一杯、ほら!」  
「あーこりゃどもども、おろ?」  
 さも当然とばかりにグラスを差し出す秋山の襟首を後ろからむんずと捕まえる。  
「なにがどもどもだ。もうあっちは片付けも終わったし、そろそろ帰るぞ」  
「来たわねー、旦那様」  
「はぁ?」  
 いきなり何を、と思った瞬間、周りのサラリーマンがぐわっと群がってきた。  
「おー、兄ちゃんがうわさのハーレム男か! 聞いたぞ、若えのに部活と称して女の子  
はべらせてんだって? まったくガキのくせに憎たらしい!」  
「お、あっちの嬢ちゃんが2人目3人目の嫁さんか! こりゃまた可愛いじゃねえのうら  
やましい!」  
「もう花が両手じゃ収まんねえな! こりゃ下の手も使って相手するしかなクフッ」  
 三人目は割り箸を額に突き立てながら地面に沈んでいった。ナイス冴木。  
「って、お前いったい何言ったんだよ秋山!」  
「あーら、別に事実を述べただけじゃないのー、あ・な・た」  
 嘘だ、絶対あることないこと面白おかしく語ってやがる……!  
「さて、うわさのヘタレ男くん」  
「さっきと呼び方変わってるぞ!」  
「3人の嫁に振り回されてばかりのヘタレな君に足りないものは何だと思う!」  
「だから振り回されてもねぇって……!」  
 
「それは……、酒だぁーっ!!」  
「うわっ、な、んぐ!? むむむむむむっ……!」  
 おっさんはいきなり俺の首根っこを掴んで無理矢理口を仰がせると、片手に持った一升  
瓶を口に突っ込んできた。  
 奥深くに突っ込まれた瓶口から流れ出した日本酒は、強制的に胃袋へと流れ込んでいく。  
「飲め、飲んで全てを忘れるのだ!」  
「ぐむ、んむむむむむっ……!!」  
「飲め飲め慎太ー! 何を忘れるのかさっぱりわかんないけど、飲み尽くせー!」  
「し、慎太ちゃん! 冴木さん、早く助けないと慎太ちゃんが……!」  
「…よいこのみんなは絶対マネしないように」  
「冴木さんっ!」  
 ……みんなの声が遠い。喉から直接脳にアルコールが染み込んでいるんじゃないかと思  
うくらいに、急激に頭の中が熱くなる。  
 つーか、このままじゃ窒息するっつーの……!  
 そう思った矢先、一升瓶は空になった。  
「ありゃ、大して入ってなかったなあ。わはは、でもまあよく飲んだ! 偉いぞ少年!」  
 やっとおっさんは俺を解放し、笑いながらばしっと背中を叩く。  
 次の瞬間、視界がぐにゃりと回転し、自分でも驚くくらいあっけなく膝が崩れた。  
「おろろ、ちょっ、慎太! なに倒れこんでんのよ、ほら立ちなさいってば」  
 秋山の声がうるさいけど、どこにいるかわからない……。あれ、俺、誰にもたれかかっ  
てる……? 少しいい匂いが……。  
「ちょっとー、大丈夫? おーい?」  
 誰のせいだと思ってるんだ、と言おうとしても、口がうまく動かない。頬をぺちぺち叩  
かれてるけどぜんぜん痛くない。  
「あー、だめねこりゃ。たからーちょっと手伝ってー」  
 
 ここからは、ほとんど意識が飛んでいて記憶が朦朧としている。  
 なんとなく覚えているのが、このまま俺を家に帰すのはさすがに怒られそうだから、部  
室で二次会をしようという流れになったことと、それを聞いたサラリーマンが、餞別とか  
なんとか言って日本酒を2瓶も秋山に持たせやがったことくらいだった……。  
 
 
「で、こうなったと……」  
 状況の発端は、かろうじて残っていた記憶でなんとか整理できた。  
 でも、酒をもらったとはいえ、冴木、ましてとみかがこんなに酔いつぶれるほど飲むな  
んて考えられない。いったい、俺が寝ている間に何があったんだ?  
 
「う……、ん」  
 そのとき、苦しそうな声を上げて、とみかが寝返りを打った。  
「大丈夫かよ……、あいててて」  
 重たい頭を引きずって、とみかのところまで歩み寄る。  
「うわ、酒くせぇ……」  
 とみかは、その風体に似合わない酒臭を漂わせていた。  
 体温も上がっているのか、少し額に汗を浮かべている。そのわりに薄着なので、このま  
までは風邪を引いてしまうかもしれない。  
 とりあえずハンカチで額の汗をぬぐって、上着を脱いでかけておいた。  
「…ケダモノだわケダモノだわ」  
 寝てるときくらい静かにしてろ後ろのやつ。  
 とみかのそばに座り込んで、ため息をひとつ。まったく、ほんとになんでこんなことに……。  
「……慎太ちゃん」  
 今度はとみかが寝言を言い始めた。  
「なんだよ、夢の中で俺、何してるんだよ」  
「……慎太ちゃんの……、バカ……」  
「な!?」  
 とみかが俺のことバカ呼ばわりするなんて……。夢の中とは言え、いささかショックだ。  
 しかも。  
「なんでちょっと泣いてるんだよ……」  
 とみかの目尻からは涙が浮かんで、すぅっと落ちる。泣きたいのはこっちだっつーの。  
「もうわけわかんねぇ……」  
 汗といっしょに、涙もそっとハンカチに染み込ませる。  
 バカな俺の夢は終わったのか、安らかな寝息に戻った。  
「…ケダモノケダモノ」  
 黙らんかと。  
 
 で、さっきからずっと気になっていたことなんだが。  
「秋山はどこに行ったんだ……?」  
 こいつらと一緒に机の裏かどこかでグースカ寝てると思ったが、部室の中には姿が見当  
たらなかった。  
 帰ったってことはないだろうから、近くにいると思うんだが……。起きているなら、い  
ったいどうしてこんなことになっているのか、状況を聞きださないと。  
 二人を起こさないように、足音を忍ばせてゆっくりと部室を出る。  
 
 夜の学校独特の不気味な静寂が廊下を支配している。旧校舎はセキュリティなどなく、  
休日にはろくに見回りもされないことは美里先生情報で確認済みだった。  
 そんな人っ子一人いないはずの廊下の片隅に、目的の人影をあっさりと見つける。  
 部室からやけに距離を置いたところでぼんやりと、それこそ校舎に住み着いた幽霊のよ  
うな佇まいで、秋山は窓の外を眺めて立っていた。  
「お……」  
 呼びかける声が、その表情に吸い込まれるようにしぼむ。  
 
 秋山の横顔は、遠くからでもわかるくらいに神妙で、物憂げで。  
 窓から差し込む微かな月光に照らされて、普段の、ましてや昼間に馬鹿騒ぎしていた秋  
山からは想像できない「女の子」の一面を見せ付けられるようだった。  
 
 ――まずいな。  
 ためらったのは間違いだった。何も意識しないで、自然に話しかければよかったものを。  
 幸い、秋山はこっちにまったく気づいていない。深く息を吐いて、気持ちにシャッター  
をかける。……よし。  
「おい、秋山」  
「!?」  
 殺人鬼に声をかけられたかのように、ビクッと体を震わせて振り返られる。  
 ……なんかタイミングが悪かったかな。  
「どうなってんだよ、みんな完全に酔いつぶれてるなんて一体」  
「こ……、こっち来ないで」  
「は?」  
 秋山は、じりじりと後ろに下がりながら怯えた目でこちらを睨んでくる。  
「お前何言ってんだよ、酔ってんのか?」  
 
「……っ! 来ないでって言ってんでしょこのバカ! もー!」  
 次の一歩を踏み出したとたん、秋山はダダダと脇目も振らず駆け逃げた。ぽつんと一人、  
廊下に取り残される俺。  
 ……なんなんだ一体。  
 とみかに続いて秋山まで俺をバカ扱いか。しかも人の顔見て逃げ出すたあどういう了見だ。  
 結局状況は理解できるどころかますますわけわかんなくなる一方ああもうホントにどい  
つもこいつも  
「ちょっと待てえええぇぇっっ!」  
 怒り心頭、逃げる秋山を全速力で追いかけた。  
 
「キャー! ちょっと、なんで追いかけてくんのよ!」  
「逃げておいて何言ってやがる!」  
「来ないでよ! 痴漢! 変態! シキジョーキョー!」  
「謂れが無ぇぇ!」  
 特に最後の!  
 まあ現在のこの状況は十分痴漢的ではあるけれども、そこはうっちゃっておく。  
 秋山は、もー! とか、うー! とか唸りながらも、廊下を全速力で駆け抜ける。  
 つーか、こいつ速ぇ! こっちはまだ酒残ってるてのに……!  
「待てっつってんだろこのっ!」  
「いや! 絶っっっ対いや!」  
 追いかける5m先の背中が、くるりと方向転換した。その先は……、階段だ。  
 秋山は2段飛ばしで颯爽と駆け上がっていく。くそ、無駄な運動性能見せやがって。  
 俺も負けじと駆け登る。見上げた先には、ストライプのニーソックスに包まれたしなや  
かに収縮する両脚。  
 さらにその奥には、ふわりとひるがえるスカートと、その陰にぼんやりと浮かぶ三角の  
白い――  
「どわっ!」  
 けっつまずいた。  
 いかんな、酒のせいで知能指数下がってる。……酒のせいだよな?  
 俺がバカやっている間に、秋山は踊り場を抜けて姿が見えなくなっていた。  
 したたかにぶつけた膝を引きずりながら、2階へと上る。  
 
 左右に伸びる廊下をきょろきょろ見渡すと、左手側の突き当たりで、秋山はなにやらま  
ごついていた。  
「あれ、もう、なんで開かないのよ……! あ、そうか、鍵……」  
 ははあ、非常口から逃げようとしたんだな。  
「待て!」  
 叫ぶ俺の声にうひゃあ! とすくみあがり、鍵を外そうとする手はますます慌てている。  
 その間に俺は一気に走り寄る。追い詰められた秋山は、ついに開錠をあきらめ、すぐ近  
くの教室に逃げ込んだ。  
 ……ようやくチェックメイトか。  
 
 教室に入ると、秋山は隅っこでぜーぜー言いながら身構えていた。息が上がっているの  
は俺も同じだが。  
「はぁ……はぁ……、お前な……、人の話を聞けというか……、せめて訳を話して逃げろ  
よ……」  
「はぁ……はぁ……、だ、だって、あんたの顔、見たくなかったんだもん……!」  
 うわ、うわ、うわ! こいつ真顔でめちゃくちゃひでぇこと言いやがった!  
「はぁ……、まったく、なんで……」  
 わからない、どうして、よりにもよって――  
「お前にそこまで言われなくちゃいけないんだよ!」  
 イライラのあまり、近くにあった机をガン! と蹴る。  
「っ! な、なによ、そんなに怒らなくてもいいじゃない……」  
 秋山はビクッと震えて申し訳ない顔をしている。  
 ……失敗だったな。ケンカするために追いかけたんじゃなかった。  
 溜息をつきながら、机の間を縫って秋山のもとへと詰め寄る。  
 秋山はううっと後ずさったかと思うと、近くにあった椅子を頭の上まで振り上げた。  
「……おい」  
 これ以上近づいたら投げる、と光るメガネが警告を発している。俺はちょうど教壇のあ  
たりで立ち止まった。  
「ああもうこいつは……。あのな、俺はなんでお前がそんなに怒ってるのか全然わからな  
いんだよ。俺が何かしたか?」  
「……っ、覚えてないの? まったく?」  
 
「だから何をだよ。花見んときはお前普通だったじゃねえか。そのあとは俺、酔いつぶれ  
て寝てただけだろ。何も怒るようなこ」  
「死ぃぃねえぇぇぇっっ!!」  
「おわっ!!?」  
 とっさにしゃがんで、襲い掛かる椅子から身をかわす。椅子は教壇に当たって跳ね、ド  
ンガラガンと派手な音を立てながら落ちた。  
「っ……、お、お前な! 本当に投げるバカがいるか!」  
「あんた2階からコタツ喰らっても平気だったじゃない! 大丈夫よ!」  
「何が大丈夫だ! 明らかに『死ね』って叫んでただろうが!」  
 秋山にはちっとも悪びれた様子はなく、肩を怒らせこっちを睨んでくる。くそ、なんて  
女だ。  
 と思ったら――、いきなり眼鏡の奥の大きな瞳から、ぽろぽろぽろぽろと涙をこぼし始  
めた。  
「うっ、う……、うー……!」  
「ちょ、だから……。なんでお前まで泣くんだよ……」  
「そりゃ泣くわよ! もー!」  
 秋山も必死で堪えているみたいだが、それでも次々ととめどなく溢れてくる。  
「ひっく、もー、なんで……」  
「ああもう……、ほれ」  
 ポケットのハンカチを投げてよこす。秋山は、例も言わずにそれを受け取ると、眼鏡を  
上げて、両目を覆うようにくしゃりと当てた。  
 小さな嗚咽が漏れると、堰を切ったように止まらなくなった。マジ泣きだなこれは……。  
珍しい。というより、初めてかもしれない。  
 とりあえず、泣き止むまで待つしかない。  
 
「……もういいか? 頼むから、落ち着いて何があったか話してくれよ」  
「……わかったわよ」  
 目元を少し赤く腫らして、いかにも渋々といった感じで話し始めた。  
「あんた、あの後1回目ぇ覚ましてるのよ。ここに着いてすぐくらいに」  
「は?」  
 な、なんだそれ。まったく記憶に無いぞ?  
 
「まあ、覚えてなくても無理ないのかもしれないわね……。すごかったもん、全然酔い覚  
めてなくて。歌うわ踊るわさらに酒を飲むわ、挙句の果てにたからに絡むわ」  
「……冗談だろ?」  
「たからが携帯に動画収めてあるから」  
「ぐあ……」  
 その場に崩れこむ。  
 確かに、思い返してみればあの時おっさんに飲まされた量は尋常な量じゃない。記憶が  
飛んでいてもおかしな話ではないのだけれど……。  
 ああ、どんな醜態をさらしたのかよりも、それをネタに冴木に何をされたかわかったも  
んじゃないのがまた頭痛を……。  
 
「でも、そんなことはどうでもいいのよ。その後あんたがしでかしたことに比べれば」  
「……え?」  
 見上げると、窓を背にした秋山の肩がわなわなと震えていた。  
「なんだかんだで、私たちもお酒飲んで盛り上がって、話題が、その、恋愛話に入り始め  
て……。いい機会だと思って、あんたからとみかのこと聞き出そうとしたら……、その……」  
「? なんだよ?」  
「……もおおおーーーーっっ!!」  
「どわあっ!!??」  
 2投目の椅子は、俺の頭上をギリギリを超えてけたたましく床を転がっていった。  
「あっぶね、ノータイムで投げんな! マジで当たりかけただろうが!」  
 
「――なんで私にキスしたのよ!!」  
「…………は?」  
 秋山の言葉の意味が、理解できない。  
 キスした? ……俺が? 秋山に?  
「好きな子いるでしょ、って聞いたら、いきなり『お前だ』だなんて言って、冗談でしょ  
って笑ってたら、急に顔近づけてきて思いっきり……! 酔ってるからって、ふざけるに  
も限度があるわよ、バカ!」  
 堪えていた涙が、またぽろぽろと溢れ出す。  
「本当に俺、そんなこと……」  
「嘘だったら、こんなに泣かないわよ、もう……。ぐすっ」  
 
 ……事実か。そうか。  
 ああもう、さっきの椅子2つとも喰らっておけばよかったな。  
 そしたら、頭の奥から湧き出しまくる自己嫌悪も少しは晴れたかもしれない。  
「最悪じゃねーか、俺」  
「まったくよ。あんたその後すぐに寝ちゃうし、とみかなんかやさぐれて、たから巻き込  
んで飲みまくるし……。ちゃんと謝るのよ、昨日はふざけすぎたって」  
 違う。お前と俺とじゃ「最悪」の意味が少し違うんだ。  
「……謝らねーよ」  
「? 何言ってんのよ」  
「とみかには謝らないし、秋山、お前にも謝らない。謝って欲しいのは……、俺だな。俺  
が俺に謝って欲しい」  
「な、何よ」  
 一人ごちりながら、ゆっくり秋山に歩み寄る。  
「俺、べろべろに酔ってたから本当に何も覚えてないんだけどさ。……けして、ふざけて  
やったわけじゃないんだよ」  
「何のことよ……」  
 一つ、深呼吸。  
 
「――だから、俺がお前のこと好きなのは、おふざけでも、ましてや酒の勢いでもない本  
当の気持ちなんだよ」  
 
 時が凍る、っていうのはこういう瞬間のことを言うんだろうと思った。  
 言ってしまった。ああもう、こんな日に、こんなタイミングで告白するつもりなんてな  
かったのに。  
「……え、ええええ、だ、な、何言って」  
「好きだって言ったんだよ。秋山が好きだ」  
 赤面が遅れてやってきて、秋山はオロオロと慌て始める。  
「え、う、あ、うそ、だって、あんたはとみかの事が」  
「言ってねーだろそんなこと。……まあそう思われても仕方ないかもしれないけど。でも、  
俺が好きなのはお前だよ」  
「そ、そんな何回も言わないでよ!」  
「何回も言わないと、お前信じないだろうが!」  
 
「う、う〜」  
 まずい給食が片付かない子供のようにうろたえる秋山。……まあ、こいつに色気のある  
リアクションも期待してないけど。  
「ど、どうして? どうして私なの?」  
「それは俺も考えたけどさ……、自分でもよくわかんねえ。ほら、こないだ2人だけで買  
い物に行ったことあっただろ。とみかと冴木が来れなくて、2人でカメラ見に行ったとき」  
「うん……、って、けっこう前でしょそれ。あの時から、なの?」  
「2人で色々回って、遊んでさ。その時に、確信した。いつ好きになったかなんて、明確  
な時間はわかんねえよ」  
 秋山は俺の目を直視できずに、うーとかむーとか唸りながら俺の告白を聞いている。  
 まあ、察するにこういう経験は皆無なんだろう。俺もない。  
 だから、表向きは毅然とした態度で向かい合ってるが、内心心臓バクバクだ。  
 なんせ、号砲を打った本人がスタートに気づいてなかったんだからな。まったく、やっ  
てくれたな酔った俺。  
 
「ど、どうしよう。これからの部活とか……」  
「……お前なあ。それともなんだ、それは遠まわしにオーケーという意味なのか」  
「ご、ごめ、って、違うわよ! そうじゃなくて、だって、とみかのこととか、二人だけ  
特別みたいになるのは部としてどうかと思うし、あの、その……」  
 うーん。イライラしてるのが顔に出てないといいなあまったく。  
 大体、そんなことはもう何週間かカウントするのも放棄したくらい悩んだことだっつー  
の。結局、いつか冷めると信じて、告白なんてしないつもりでいたんだ。  
「そんなことはさ、どうでもいいとは言わないが、今は別問題なんだよ」  
「ふえ……」  
 気づいてるかな秋山。俺が少しずつ、お前との距離を詰めてること。  
「俺は覚えてないけど、俺とキスしたんだよな」  
「そ、そうだけど」  
「どうだった?」  
「ど、どうって……」  
「俺とキスして、嫌だった? それとも……」  
「そ、そんなの決まってるでしょ、全然……」  
 
 次の瞬間。だんごを喉に詰まらせたような顔をしたかと思うと、ただでさえ赤かった顔  
がポンと火を放った。  
「あ……、うそ、やだ」  
 ほっぺたをさすって必死にごまかそうとしてるけれど、止まらない。  
 ちょっと……、ここまでわかりやすい反応をしてくれると、こちらも照れるというか嬉  
しいというか……。  
「秋山……」  
「あ……っ? ちょっと、だめだってば慎太、きゃっ」  
 不意をついて近づき、両肩をぐっと抱いて、引き寄せる。  
 かすかな抵抗はあった。けれど、秋山の体はあっさりと俺の胸に収まる。  
 思った以上に秋山の体は軽くて、細くて、そして温かい。……というより熱い。  
「お前、まだ酒残ってるのか?」  
「ばっ、馬鹿! 違うわよ……! それはそっちでしょ……!」  
 耳まで真っ赤にして、秋山がシャツを震わせて反論する。  
「秋山。お前は、どうなんだ?」  
「こ、こんなの卑怯よ。いきなりこんなことされたら、ドキドキしちゃうに決まってるじ  
ゃない……!」  
「俺も必死なんだよ。賽投げられた以上、負けるものヤだからさ」  
「なんか、いつもとキャラ違うわよ……」  
「そうかもしれないな……」  
 
 しばらく抱きしめた後、肩を掴んだまま秋山の体をそっと胸から離す。  
 すこし潤んだ瞳を上目気味に、照れと怒りが半分ずつ混ざった顔で見つめてくる。  
「あ……ん」  
 その口に、そっと口付けをした。  
 俺にとっては初めてのキス。秋山にとっては2回目のキス。なんだか、そう考えると変  
な感じだ。  
 秋山の唇は厚くて、沈み込んでいくように柔らかい。触れ合っているだけで、頭の中が  
キューッと熱くなった。酒なんかの比じゃない。  
「ふぅ……。ま、またしちゃった……」  
 唇を離すと、秋山はてれてれとまた顔を伏せてしまう。  
「秋山、もう一回聞くぞ。俺と付き合わないか?」  
 
「……こ、ここまでされて、断ったら変じゃない……」  
「だから、そうじゃなくてだな……」  
 ほんとに、なんでこう妙なところでひねくれてるんだこいつは。  
 非難めいた眼差しで睨むと、秋山はうっ、となって、うー、と唸って、  
「……好き、かもしれない」  
 目を逸らして口を尖らせて、そんな言葉をひねり出した。  
「よし、十分」  
「わっ! ちょ、慎、んむ……ぅ!」  
 しかし、酔ってた俺よ。よくもキス1回だけで済ませたよな……。俺はもう限界だ。  
 
「ん、ちゅ、ぅぅん、や、だ、んむ……んんっ」  
 丹念に、厚い唇の柔らかさを味わう。少し混じる唾液で、次第に感触が滑らかになって  
いく。ときおりコツコツと当たるメガネが邪魔っ気だ。  
 頭がクラクラしそうなくらい気持ちいいけど、足りない。  
「!? ちょっ、あふっ、む、ん、タ、タンマ!」  
「……なんだよ」  
「な、こ、これ! 何してんのよ……!」  
「胸を触ってる」  
「わかってるわよ、んなことは!」  
「いや、何か我慢できなくって……」  
「サルか!」  
 いや、サルかはねーだろ。  
「き、キスより先、するつもりなの? いくらなんでも早すぎよ!」  
「いや、俺にとってはそうでもないんだが」  
「……まさか、普段から私をそんな目で」  
「……否定はしない」  
「はあ……、原人ね……」  
 それはサルより上なのか下なのか。  
「しょうがねえだろ、好きになるってことは、それ含みなんだよ男にとっては!」  
「そんな真理を乙女の前で口に出すな!」  
 秋山は、威嚇する犬のような目でこっちを睨んでくる。  
 でもまあ、いかんせんすっかり俺の腕の中なので威圧感もへったくれもない。  
 
「ほ、本当にするの?」  
「……お前が嫌じゃなければ」  
「い、嫌とかそういうことじゃなくて、心の準備とか、その……」  
 また、あーとかうーとか唸りだす。  
「はい、時間切れ」  
「わぷ!? ちょ、いつ計ったのよ、や、む……!」  
 いい加減、焦らされるのもこりごりだった。  
   
 両手首を掴んで窓際に押し付け、攻撃的にキスをする。  
 ささやかな抵抗がゆるんだのを察知すると、手を放してシャツの上から双丘を鷲づかみ  
にする。  
 もにゅんと手のひらに溢れるたわわな感触。こいつ、実は十分スタイルいいんだよな。  
 それなのに男子の評価が低いのは、……うん、まあ、キャラだな。  
「ぃぅ……! ん、あ、やん……!」  
「そんな声出さなくても……。……敏感なのか?」  
「ばっ、バカ! いきなりそんなぎゅってされたら仕方ないでしょ!」  
「あぁ、悪い」  
 ちょっと反省。ゆっくりと、ほぐすような手つきに切り替える。  
「あ……ん、それも、っ、なんだか、くすぐったくて……んっ」  
「どうしろって言うんだ……」  
 でも、こっちの方が胸の柔らかさがしっかり伝わってきていいかもしれない。  
「シャツ、捲くるな」  
「えっ、あ、やだっ、〜〜!」  
 カジュアルグリーンのTシャツの裾を引っ張り上げ、胴体を露出させる。  
 いつも体重がどうとか騒いでるわりに、たるみなんてどこにもないすらりとしたウエス  
トだった。  
 そして、淡いオレンジ色のブラに覆われた、ぷりんと突き出た乳房。その上にシャツの  
裾を引っ掛ける。  
「や、ちょっと、あんまり見ないで……」  
「暗がりだからそんなちゃんと見えねえよ。代わりに、触るな」  
 
「や、ふぅ、んっ、あ、何するの、やん……!」  
 ぴんと張った生地のさらさらとした感触を指で撫でながら、谷間に顔を近づけて、ちろ  
ちろと皮膚を舐める。  
 胸骨の硬い部分から徐々に横に滑らせると、舌先がどんどん肌に沈み込んでいく。ブラ  
の端に当たったところで、深さを確かめるように舌を立ててつんつんと乳房をつつく。  
「やあっ、も、もう、慎太、変態ぽい、んんっ!」  
「変態じゃねえよ。これくらいやってるって。……たぶん、どっかでは」  
「どっかって、どこ……ん! な、舐めるのダメ! 禁止!」  
「なんでだ!」  
「だって、なんかぬるぬるして、あったかいし……。とにかくダメ!」  
「……じゃあ、脱がしていいか」  
「う……。……ちょっと待って、自分で外す」  
 脱がされたくはないらしい。秋山は後ろに手を回して、パチッとブラのホックを外した。  
 たらんと垂れるブラのベルト。しかし、カップを手で覆ったままなかなか全部外そうと  
しない。  
「……おい」  
「あんまり見ないこと、約束」  
「……わぁったよ。なら」  
「んむっ、んん、んぅ……、……んっ!」  
 ご希望通り、ヌードを見ないようにキスをしながら胸に触れる。  
 水風船のような柔肉。それを包む白い素肌は少し汗ばんでいて、沈み込む指にじっとり  
と張り付くよう。  
 指にくっと力を込めるたびに、唇に切なげな唸りが伝わってくる。  
 零の距離で感じる、秋山の息遣い。手のひらからの感触と共に、興奮を加速させる。  
「む、ん、……やぅ! さ、先っちょ、だめ、あん!」  
 ほぐれて柔らかくなった乳房と裏腹に、きゅっと硬くなった先端を指の腹で軽くつまむ  
と、肩を揺らして身悶える。  
「秋山、可愛い、お前……」  
「な、何言ってんのよバカっ、んや、だ、だめだってば、んんんっ!」  
 乳首をぐにっと押し込んだ拍子に、秋山は半音高い声で喘ぐ。  
 
「はぁ、はぁ……。もう、私ばっか脱いだり触られたり……」  
「触りたいのか?」  
「ないわよ!」  
 そんなムキになって否定しなくても。あと、胸は隠さなくていいのかもろに見えてるぞ。  
「そうだな……。じゃあ俺も」  
「ぬ、脱ぐの?」  
「脱がないとこの先できないだろうが」  
「先……」  
 また顔が赤くなる。  
「う……。って、なんで下から脱ぐのよ!」  
「いや、だってちょっと寒いし」  
 上は着たままじゃないと、やや暖かくなってきたとは言えきつい。  
「人のことはひん剥いといてぇ……!」  
「だから全部脱がさなかったんだろうが! あとひん剥く言うな!」  
「ひん剥いたじゃない!」  
 わかったわかったと適当になだめながら、しゅるとベルトを解く。  
 窮屈になっているジッパーを下ろして、トランクスに手をかけ……。  
「……秋山、ガン見しすぎ」  
「はっ!? い、いいから脱ぐなら早く脱ぎなさいよ」  
 言いつつ、視線は外さない。……まあいいけどさ。  
 上を向いたペニスを引っかけながら、トランクスをずり下ろす。  
 もうずっとガチガチな竿の先端は、先走った液体ですっかりぬめっていた。  
「……なんだよ」  
「いや、思ってたよりも、普通……」  
「……そうか」  
 としか答えようがない。そんなこと言われたら。  
「いや、なんかもっと武器的なフォルムを想像してたんだけど」  
「どこで得た知識に基づく想像だそれは」  
 他の奴と見比べたことなんてないからわからんが、そんな奇抜な形してることはないだ  
ろう。  
 
「触ったりしたほうがいいの……?」  
「い、いや、そこまで考えては……」  
 と言っているのに、秋山はおそるおそるペニスに手を伸ばしてきた。……触りたいんだな。  
「うわ、硬ぁ……」  
 竿の部分をつんつんとつついて、硬度を確かめる秋山。  
 なんだろう、このいたたまれない気持ちは……。  
「あのな、秋山、ぅっ」  
「わっ」  
 握手するような手つきで、きゅっと竿を握ってきた。  
 不覚にも反応して、ペニスがぴくっと跳ねる。  
「き、気持ちいいの?」  
「……いや、擦らないと気持ちよくならない」  
「擦る……」  
「あ、でもそこじゃなくて、カ……先の方をこう、優しくというか……、や、やっぱいい!」  
「え、な、なんで? 難しいの?」  
「難しいというか……、力加減によっては痛かったりするんだよ」  
「そうなんだ……」  
 とくにこいつは、そういう細かいことは苦手そうというか実際苦手なやつだ。  
「じゃあ、どうしよ……」  
「いや、どうもしなくていいけど……」  
 いや、そうか。こいつなりに、俺に何かしてあげたいって考えているのか。ちょっと、  
いや、かなり嬉しいかも。  
「な、舐めるとか、どうかな」  
「いいのか? いいんだな?」  
「え、あ、そっちこそ、いいの?」  
 いや、こちらには何も問題はないというか、考えていたけれどさすがにマズイと思って  
言わなかっただけなんだが。どうも認識に違いがあるらしい。  
「じゃあ、頼む」  
「う、うん……」  
 なんか、改まってしまうと逆に気恥ずかしいな……。  
 
「なんか、舐める前から濡れてるんだけど……」  
「それは何ていうか、汗みたいなものだから大丈夫」  
「えー……」  
 机に尻をもたれて立つ俺の前でしゃがみこんだ秋山は、目の前でいきり立っているそれ  
におそるおそる口をつけようとした。  
「きゃっ! ちょ、ちょっと!」  
「いや、悪い……、こればっかりはどうにもならんから手で支えてくれ……」  
 唇がちょんと触れただけで反応してしまう愚息を心の中で戒める。  
「もう……。うう、やっぱり硬い」  
 右手で竿をはさんで、食わず嫌いの食べ物を口に運ぶかのような顔つきでくわえ込む。  
 亀頭の先を唇で包むようにちょろっと。それだけで、痺れるような快感が走りぬける。  
「……ちょっとしょっぱい」  
「そうか」  
 自分のだけれども、味は知らない。  
「どう、気持ちいいの? 慎太」  
「うん、いいんだけど、できればもっと奥まで……」  
「うえぇ? い、いいけどさ……」  
 豪気秋山。よくわかってないだけかも知れんが。  
 こくっと唾を飲み込むと、秋山は口を大きく開いて亀頭全体を口に含んだ。  
「う、あ……」  
 熱い口内はだ液で潤っていて、ペニスの底をぶよっとした質感の舌が支える。  
 今まで体験したことのない生々しい感触がペニスを包んでいた。イキそうにはならない  
が、下腹部がきゅっと熱くなる。  
 俺のものを咥えこんだまま、「どうすればいいの」と目で聞いてくる秋山。メガネと並  
んで上目遣い。……ちょっと目に毒だ。顔赤くなってないかな。  
「じゃ、じゃあ、ちょっと前後に動かしてみて」  
 むっと眉間に皺を寄せる秋山。けれど、すぐに承諾してくれた。  
「んっ、む、ん……、ん、んぅ……」  
 ゆっくりと、小刻みに。顔を前後に動かして、ペニスをしゃぶる秋山。  
 単調な運動だけど、だ液で包み込まれて潤滑な刺激が反復する。熱い舌が不規則に動い  
て、言い知れぬ快感がずんずんとこみ上げてくる。  
「……っ、んっ、秋山……!」  
 
「んむ、ちゅ、う……ん。ど、どうなの慎太? 痛かったりしない?」  
「お前こそ、どうなんだ。苦しかったり嫌だったりしたら別に」  
「おっきいから疲れるけどね。気持ちいいなら、もうちょっとくらい」  
「じゃあ、続けて……」  
 こくっと頷くと、またペニスをぱくりと口に含む。  
「あむ、ぅん、ん、んん」  
「ちょっと、吸うようにしてみて」  
「んぅ。ん……、ぅぅ、ん」  
 口の中がきゅっと窄まり、ペニスが内側にぴたりと張り付く。  
 これ、まずい。首の横にぞわりとしたものが走り抜ける。  
 内圧を強めたまま、秋山は顔を動かす。さっきよりも攻撃的に、亀頭の表面を刺激して  
くる。  
 ダメだこれ、一気にクる……!  
「む、ん、ん、んむ……」  
「秋山、だめだ、出……!」  
「む? ……っ、ぷあ、うそ、やだ、きゃっ」  
 咄嗟に異変を察知するも、もう遅い。秋山の口から引き抜かれたペニスからはびゅっび  
ゅっ……と精子が飛び散り、秋山の頬を汚す。  
「わぷ、や、もう、ちょっと!」  
「わ、悪い!」  
 自分でも驚くくらいあっけなく達してしまった。しかも普段よりやけに出る。  
「も、もう! 出すなら出すって言いなさいよ! つーか出すな!」  
「いや、出るのは仕方ないだろ! 俺も、まだ大丈夫だと思ってたんだけど、なんか、す  
げえ気持ちよくって……」  
「ま、またそんな事言って……。もう、ほっぺたベトベト……。それにすごい匂い……」  
 容赦なく降りかかった精液は、秋山の頬を伝って顎の先から滴っているほどだった。う  
わ、この絵面もまずいな色々と。  
「……ほんと、悪い。ちょっと待て、拭いてやるから」  
 上着からポケットティッシュを取り出して、汚れた秋山の顔を拭う。  
「わぷ、やん、もう」  
「しょうがないだろうが。動くなって」  
 自分で出したものだけに、きれいにしておかないと後味が悪い。  
 しかし、なんかこうしてると……。  
 
「くっ、あははははっ」  
「な、何よ、何がおかしいのよ」  
「いや、なんか、滑稽でさ、はは」  
「あんたがやったんでしょうが!」  
「だから、お互いにさ、ぶっ、はははは」  
 むくれる頬を押さえると、さらに表情がむすっとなって余計に笑えてくる。  
「もう、ムードのかけらもない……」  
「そうだな、悪い悪い」  
「でも……、ふふっ、あはは、私たちだったらこんなもんかもね」  
 秋山もこの妙な雰囲気に堪えきれなくなって笑い始めた。  
「秋山……」  
「わっ」  
 目の前ではにかむ秋山をぎゅっと抱きしめる。  
「こういうのが、好きなんだよ。こういうのがさ……」  
「……うん、私も、慎太とこうやって笑ってるの、好き」  
 そう言って、背中に回した手に力を込めてくる。  
 むりやり抱きしめた時よりも遥かに温かくて、不思議な安息感に包まれる。  
「……秋山、起こすな」  
「うん……」  
 むくもりを胸に収めたまま、秋山の体を支えるように立ち上がる。  
「ひぁっ、もう、くすぐった、んんっ……!」  
 スカートから伸びる太腿を撫でて、そのまま付け根へと滑らせる。  
 きゅっと内股に閉じた太腿の間に、少し強引に指を差し入れて、陰部をつつく。  
「や、ぁ、だめ……!」  
「……痛いか?」  
「じゃ、なくて、するんなら、パンツ下ろして……。その……」  
 胸の中の秋山の顔が赤くなる。そうか、染みちゃうかもしれないもんな。  
「じゃあ、力緩めて」  
「う、うん」  
 太腿の緊張が解ける。手探りでパンツの上端を探して、不器用にずり下ろす。  
 露出した秋山の股にそっと手を触れる。生い茂った陰毛の感触。そして、その奥へと指  
を進ませると、湿り気のある生々しい凹凸に引っかかる。  
 
「ひぅ……! ん、う……」  
 秋山はきゅっと目を閉じて、見て取れるくらいに全身を強張らせている。  
 ……これじゃこっちも緊張するどころじゃない。  
「触るぞ」  
「すぅ……ひっ! あっ、あっ、や、だめ、うぅ……ん!」  
 柔らかな縦のラインに沿わせて、中指を前後になぞらせる。  
 入り口がピクピクと、時折指先を挟むようにうごめく。  
「秋山、わからないから聞くんだが、これで気持ちいいか……?」  
「ふぅ、ぅぅん、気持ち、いいようなくすぐったいような……」  
 どうなんだ。もうちょっと強くしてもいいんだろうか。  
 動きはそのままに、指先に少し力を込めて腹から秋山の中へと徐々に潜り込ませてみる。  
「うわ、熱……」  
「んんぅ……! はっ、あ、あん、もうちょっと、優しく、んっ」  
 メガネの奥の瞳に、ちょっと涙が浮かんでいる。苦痛ではないようだから、このくらい  
だろうか。  
「やぁ、んっ、ひあ、あん! は、恥ずかしい、よ、んやっ!」  
 上半身の重みを完全に預けた秋山は、あられもない表情で喘いでいる。いつもの俺たち  
のままでいたら、見ることは出来なかった顔。頭の中で何かが外れそうになる。  
「秋山、ちょっとそっちもたれて」  
「ふぇ、な、何?」  
 やや反応の遅れる秋山を、机にもたれさせる。俺はその場でかがみ込んで――  
「っ!? い、いいよ慎太! それはいい!」  
「よくないだろ。お前もやってくれたじゃねえか」  
「そ、そうだけど、ひゃっ!」  
 スカートの端をめくり上げ、秋山の秘部に顔を近づける。  
 汗にも似た女性の匂いが鼻をつく。初めて見る女性器は、当然武器的ではなく、特別醜  
くも美しくもない、けれど艶かしくて瑞々しくて、俺の痴情を狂わせるに十分だった。  
「っ、やぁぁ……、舐めないで、んんっ!」  
 舌先でチロチロと、少し滴る愛液を拭き取るように舐める。膣の収縮を、敏感な舌先が  
受け止める。熱い膣内は、本当に舌を溶かしてしまうんじゃないかと思う。  
 
「いやあ、あ、あ、慎太、うう、ん、ああっ……!」  
 秋山は俺の頭を押さえつけるようにして、上りつめる快楽と恥辱に耐えている。頭上か  
ら聞こえる嬌声が、なんだかアブノーマルな感じがしてやみつきになりそうだ。  
 ……実際アブノーマルなんだろうかこれ。  
「秋山」  
「う、うん」  
「その、もう、したいんだけど、いいか?」  
「……」  
 股から顔を離して見上げた秋山は、声もなくコクリとうなずいた。  
 
「うぅ、なんかこの体勢……」  
「仕方ないだろ、ベッドなんて気の利いたもの無えんだから」  
 秋山は、上半身を机に預けて、つるりとしたお尻をこちらに向けている。  
「恥ずかしいんだから……早くしてよ……」  
 腰をそっと掴み、ペニスの先端をぴたりとヴァギナに当てる。窓の外の月明かりの影に  
なって、すこし見づらい。  
「あっ……、……お願い慎太、ゆっくり……」  
「わかってる……いくぞ」  
 濡れた肉襞の隙間に、ぐぐっと肉棒を突き入れていく。  
「んぅ……っ、あ、ああっ!」  
 秋山の膣内はきゅうきゅうとペニスを締め付けてくる。……少し痛い。  
 ポニーテールがだらりとかかった背中に語りかける。  
「秋山、力抜いて……。それとも、やっぱ痛いか?」  
「い、痛いけどぉ、それ含めてそれどころじゃないっていうか、あっ」  
 自分の中に異物が入ってくるんだ。そりゃ動転もするよな。  
「秋山、ごめん、でも俺止められそうにない……」  
「い、いいよ、もっと入れても……うぅっ」  
 さっきよりもさらにペースを落として、秋山の形になじませるように少しずつペニスを  
埋没させていく。  
 亀頭の表面をずるずると柔らかな内壁が撫でる。緩慢な刺激が腰の奥までじわりと響い  
て、力が抜けてしまいそうだ。  
 
「はっ……あ、入ってくる、ぅ……」  
 やがて、秋山のお尻と俺の腰骨がぴたりと合わさる。  
「……とりあえず、ここまで」  
「へっ、あ、そ、そうか」  
 ちらちらと後ろを振り返って、俺の位置を確認する秋山。  
「す、すごいね、本当に、繋がってるって感じ……」  
「そうだな……。秋山の中、熱い」  
「もう、変な事言わないでよ……」  
 本当のことなんだから仕方が無い。ゆっくりと蕩かされるんじゃないかと思うくらいに。  
「秋山、動くぞ」  
「え、う、うん。でも、ちょっと、ん、ちょっとずつ」  
「わかった」  
「おねがい……、あ、う……っ、ん」  
 ずず……とペニスを引き抜いて、カリのあたりで止めて、また入れる。  
 単調でのろまなその運動を、丁寧に反復させる。  
「あ、あっ、は……、んっ」  
「秋山、どうだ、まだ……痛いか? それとも」  
「は、あ、ど、どうしよう、慎太……」  
「ん?」  
「き、気持ちいいよぅ……。初めてなのに、やだもう……」  
 恥じらいたっぷりのその一言で、妙に嬉しいものがこみ上げてくる。  
「気持ちいいって、こう、とかは?」  
「っあ! だ、ダメ、早いの、んんっ……んぁ……っ!」  
 スピードを上げて、お尻を突き上げるように挿入する。じゅぷじゅぷ、と繋がったとこ  
ろから水気のある音がたつ。  
 ペニスが中を走るたびに、膣が反応してきゅっと締まり、速さと摩擦で快感が相乗する。  
「あきや、ま、すげえ、いい……!」  
「は……っ、ふ、ぅん、わ、私も、あああっ……!」  
 体をくの字に曲げて、秋山の背中と重なりあう。  
 胸板から伝わる優しいぬくもり。自然と手はたわわな胸を鷲掴みにしていた。  
「はぁ……っ、慎、んくっ、胸、だめぇ……」  
「秋山の胸、柔らかい……。ここ、弱いか?」  
 
「や……! だ、だめ、つままないで、ピンって、きちゃう……!」  
 指の腹で、とんがった乳首をきゅっと挟む。寄りかかった机がガタリと音を立てるほど、  
秋山の体が震える。  
「秋山、なんか、すごい……」  
「も、もう、あっ、変な事、言わないでってばあ……」  
「大丈夫、こういう秋山も、好きだから」  
「慎太……、ふあ、あ、んん、あ……っあ!」  
 上体を起こして、腰の動きに専念する。  
 結合部はすごい有様だった。溢れた愛液が太腿を伝い、俺の膝にも付着する。  
「慎、太、……あ、待って、だめ、来ちゃう、ああっ、は……ぁ!」  
「イきそう?」  
「う、ん、だから、もっと、優し、ふ、う、う……!」  
 秋山が達しようとしている。そうとわかると、なんだか余計に激しく責めてみたいと、  
妙な欲望が首をもたげてくる。  
「秋山……っ」  
「ふぁっ……ああ! だ、そこ、やっ、響い、ちゃう、んっ!」  
 両手を股に滑らせて、太腿の付け根をぐいぐいと指圧する。  
「は……ぁ、つよい、よぅ、いや、あっ、イっちゃ……」  
「いいよ、ちゃんと支えてるから、イって……」  
「ふぅ、うんっ、はっ、だめ、きちゃ、は、はぁ、あああ……っ!!」  
 ぶるっ、と下半身が震えたかと思うと、きつく締まっていた膣内がふっと弛緩する。  
「はっ、はぁ、はぁ、ぁ……」  
「イったか……?」  
「う、うん、あっ、待って、ゆっくり抜いて……んっ」  
 硬直したペニスを引き抜くと、愛液が雫になってぴちゃぴちゃと床に落ちる。  
「はぁ、もう、恥ずかしすぎて死にそう……」  
「別に恥ずかしがることじゃないって。俺は……嬉しかったし」  
「もう、だからそういうのが、恥ずかしいんだってば……」  
 ぶつくさ言いながら、秋山は上体を起こして佇まいを直している。  
「……あのさ秋山、一息ついているところまことに申し上げにくいんだが」  
「なに?」  
 
「俺、まだちょっと満足してない……」  
「……ふぇ」  
 
「んむ、ん、んぅ……」  
 窓際に寄りかからせた秋山の唇をむさぼる。青白い月光が、髪の毛をぼんやりと輝かせ  
ているのがすこし幻想的だった。  
「秋山……」  
「慎太、いいよ、入れて……」  
 無言で頷き、スカートをたくし上げて、腰を寄せる。  
「あ、でも、さっきみたいに早いのはダメ!」  
「……悪かった」  
 一言諌められて、直立したペニスを再び秋山の中へと差し込んでいく。  
 お互いに立ち上がった体勢のせいか、さっきの体勢より奥まで届く気がする。  
「んん……っ、あっ、なんか、さっきより、ふあっ」  
「うん、なんか、馴染んでる感じ」  
「そうね……、んっ、動いて、いいよ……」  
 そう言って、秋山は俺の背中に腕を回し、きゅっと抱いてくる。  
 こちらも腰をぐっと抱いて、暖かな体を揺さぶるようにペニスを抽迭させる。  
「ふぁ、あ! ん、ん、っあ、んっ!」  
 高い声を出して悶える秋山の顔がすぐそこにある。こんな表情をしてたんだな。さっき  
のじゃ、全然わからなかった。  
「は、あ、んっ、……やだ、そんな、ジロジロ見ないで……んっ」  
 顔を背けたので、がら空きになった首筋にキスをする。すこしざらっとした肌にピンと  
張った筋肉の感触。  
「ひあ、やだ、変なとこ、舐めないで、ひゃぅ!」  
「秋山、いろんなところ敏感だな……」  
「また、そんな事言って、あっ、やっ……!」  
 キスも、腰の動きも止めない。唇から伝わる秋山の質感も、性器から伝わる秋山の温度  
も、そして目の前で瞳を潤ませて喘ぐ秋山の表情も、全てが刺激になって性感を高めていく。  
「慎、太、あっ、ちゃんと、キスして……」  
「ああ……、んっ」  
 
「ん、む……、ぷあ、んむっ、ぅぅ、ぇむ、んん」  
 くっつけようとしても唇はぶれて、舌が暴れる。まるで、お互いの唇を舐めあっている  
ようなでたらめなキス。  
「むあ、あっ、強いよ、慎太、はあっ、あ、あん!」  
「ごめん、でも」  
 堪らなくなって、自分の欲望のままにペニスを突き入れる。秋山の中が、どんどん気持  
ちよくなっていく。  
「はっ、あっ、ん! いい、いいよ、慎太、好きな風にし、て、ん!」  
「ああ、いいよ、気持ちいい、秋山……!」  
「わたしも、あっ、なんだか、また……んぁ!」  
 ペニスの付け根がきゅっとなる。もう、限界が近い。  
「秋山、イく、から、くっ……!」  
「うん、いいよ、いっ、あっ、ああっ、……っっ!」  
「うあ……!」  
 秋山の肩をぎゅっと抱きしめながら、びゅくびゅくと中に精液を放つ。首筋にぞわりと  
伝わるほどの快感。  
「ふっ……あ、出てる、すごい……」  
「悪い、止まらない、う……」  
「あ、はぁ……」  
 離れるのが惜しかったのか、そのまましばらくの間お互い動かずに抱き合っていた。  
 
「……秋山?」  
「……すぅ」  
「…………緊張感ねえなあ」  
 色々と後始末(投げた椅子とか)を済ませた後、なんとなく無言で寄り添っていたら、  
いつの間にか秋山は寝息を立てていた。  
「これからが大変だってのによ……」  
 そう、これからが大変だ。まずとみかに釈明して、次に冴木になじられ、……そして、  
俺たちの今後のこと、色々考えなきゃいけない。前途はどうあがいても多難。避けようも  
ない。  
「でも、ま。なんとかするしかないよな、部長」  
 色々あるかもしれないけど、最後にはちゃんとこいつと笑い合えているんじゃないかっ  
て、朗らかな寝顔を抱きかかえながら、そんなことを思った。  
 
-END-  
 

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