長織市内某高級マンション。耐震はバッチリだが変形はしない。  
その一室にその少女はいた。  
「………」  
少女の名前は潦景子という。親友(?)である七瀬八重と過ごしている時が  
彼女にとって最も至福の時間と思われているが、間違いでないにしろ唯一というわけではない。  
例えば彼女の本来の家族と過ごす時間や今のように……  
「あぁ……可愛いよ七瀬、七瀬可愛いよ」  
…秘蔵のアルバムを眺めている時だ。  
なおアルバムを構成する写真の被写体は一名、枚数の八割は盗撮であることは言うまでもない。  
 
 
「……ちょっと眠い…な」  
今日が休みだからとはいえ昨夜は少し夜更かしが過ぎたかな。  
昨夜は七瀬の部屋に泊めてもらって、一緒に宿題をして…  
「あの不意打ちは無いわよね〜」  
最初はただ七瀬の肩を揉んでいただけのはずなのに。それが…  
「う〜〜」  
強烈な一撃を喰らい思考がショートしたところを子供扱いされ…その…一方的に可愛がられてしまった。  
「……私よりよっぽど子供っぽいくせに。」  
主に…いや容姿だけが。  
「なんか……」  
昨夜の惨事を思い出したら…少し…  
「ん……」  
記憶よりも鮮明に肉体が昨夜のことを、七瀬のことを覚えてる。  
「…くぅん」  
指が無意識に伸びてゆく……写真の中の七瀬が笑顔で私を見つめてる…  
「あぁ…七瀬ぇ」  
 
「なんですか?にわちゃん」  
「うひゃぁ!?」  
眠気もアレも吹き飛んだ。  
 
「え?なんで?あれ?ちょっと?ここ?いつから?え?うえええええ…」  
見ていて思わず笑っちゃいそうになりますねぇ。  
「え〜と、なんでここに七瀬がいるの?しかもいつから?…ですか?」  
真っ赤になってコクコクと頷くことしかできないにわちゃん。  
「ちょっとにわちゃんに話がありまして。それで合鍵使って結構前から…」  
あっ今度は蒼白ですね…駄目ですよにわちゃん。そんな顔しちゃ…  
意地悪したくなっちゃうじゃないですか。  
「…子供っぽいですか?」  
「っひ!いやその違うの!あのね!」  
「にわちゃん?」  
「…はひ!?」  
自慢の滑舌も台無しですねぇ  
そして私は意識して笑顔を作り…  
「今度お仕置き…ですからね?」  
「……うん」  
 
「それで私に話って?」  
なんとか復活したにわちゃんが聞いてくる。そうそう忘れるところでした。  
「それなんですけど…あのアルバム見せてもらえませんか?」  
「んー?これ?七瀬しか写ってないわよ?」  
渡されたアルバムをパラパラと捲ってみる。むぅ。見事に私しか写っていませんね…  
「ねぇにわちゃん。このアルバムですけど……」  
「良く撮れてるでしょ?」  
撮られた覚えはほとんどないのですけど……知ってはいましたけどね。  
「没収しますね」  
「……え?」  
「没収」  
フフフ…にわちゃんの困った顔はいつ見ても可愛いですね。  
「な、七瀬、もう黙って着替えとか寝顔とかお風呂とか撮らないから!ね?」  
「……撮ってたんですか?」  
「誘導尋問!?」  
 
「ねぇせめて理由聞かせてくれない?」  
にわちゃんの泣きそうな顔はさらに可愛いですね。  
「そんなに嫌なんですか?」  
でもそんなにアルバムを手放すのが惜しいのでしょうか?  
「そりゃあ七瀬の写真だし…」  
嬉しいと言えば嬉しいのですけど…  
「写真のほうがいいんですか?にわちゃん」  
にわちゃんが私以外を見つめるのは…にわちゃんの側に私以外があるのは…  
「え?」  
「もうにわちゃんが望めばいくらでも実物が見れるのに…」  
例え『私の写真』でも…嫌なんです。  
「え?え?」  
だから…  
「本物よりも写真のほうがいいんだ…」  
「そ、そんなことあるわけないじゃない!」  
にわちゃんの側には…  
「本当ですか?」  
「当然…でしょ」  
私しかいらない…  
「なら…没収してもいいですね」  
あ…なんか諦めた顔  
 
 
 
 
「でも七瀬どうやって持って帰るの?」  
「どうって?」  
「他に二十冊はあるわよ?」  
「……」  
 
Fin  
 

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