――セントラルの中心から少し外れた、おんぼろのアパート前。  
エリザベスとジャクリーン、そしてケイト……もとい、  
リザとハボックとフュリーはこの数日間、大佐からの任務を遂行中であった。  
仰せつかった内容は、"ファルマンの部屋を見張っていること"。  
そこでそれぞれ三人は、彼の隣の部屋や向かいの建物など、  
分散してファルマンと66の居る部屋を監視している。  
部屋からは、あるときは多人数の声が聞こえ、  
またあるときは同僚のものと思しき怒鳴り声が聞こえた。  
そんな、いつまで続くとも分からない任務に、神経が少しずつすり減っていく。  
幸い監視されている本人は気付いていないようだが、  
それがまたかえって辛い。  
しかし一応バレてはいけないので、細心の注意を払う。  
それでまた疲れる――その繰り返しだった。  
 
 
向かいの建物で、リザ=ホークアイは溜息をついた。  
まったくもう。任務のせいでこのところまったく眠れていなくて、肩が重い。  
「任務が終わったら、ロイに高級ディナーを奢らせてやるんだから……」  
ぼそりとつぶやいて、またライフルスコープから部屋を覗く。  
部屋の中、異常なし。  
ところが、さっきのつぶやきが無線にキャッチされてしまっていたようで、  
フュリーが「どうしたんですか、中尉」と不安げな声を返してきた。  
なんでもないわよ、と言おうとしたが、その前に声が遮られてしまった。  
「中尉、もう何日も休んでないじゃないですか。そこは僕がみておきますから、  
しばらくお休みになった方がいいんじゃないですか?」  
声はあくまでも心配するようで、リザは「それも悪くないわね」と言う。  
「じゃあ、これからそっち行きますんでー」  
無線を通して、フュリーの足音が小刻みに聞こえてきた。  
 
壁が薄くておんぼろな部屋の中で、ジャン=ハボックもまた溜息をついた。  
まったく。見張ってはいるものの何の動きもなしかよ、と考えると更に肩が重くなる。  
「任務が終わったら、いっぱいデートしてやる……」  
ぼそりとつぶやくと、涙が出てきそうだった。  
俺の心の中、異常あり。  
沈み込んだ気分がそのまま無限の旅へ出てしまいそうになっていると、  
部屋の扉が二回叩かれた。  
敵か?!と一瞬身構えたが、「私よ」という次の言葉でハボックは力を抜く。  
気怠そうに扉を開くと、彼の目の前には疲れを全身にたたえた同僚が立っていた。  
薄化粧の顔は、コンシーラーの下に少しくまが浮かんでいる。  
リザは「少し休むわね」とだけ言うと、軍服のジャケットも脱がずに、  
硬いベッドに身を投げ出した。  
目を閉じたら眠ってしまいそう。そう思ったが、疲れに抗いきれず、すぐに瞼を閉じてしまった。  
それをハボックはただ、横目で見ていた。  
監視も、ちょっと忘れちゃいそうなぐらい。  
 
 
約10分後に目覚めた彼女は、ますます気怠そうだった。  
「何分ぐらい寝てたかしら」なんて、仕事熱心にもほどがある。  
リザは立ち上がって部屋を出ていこうとしたが、立ち上がった瞬間にめまいを感じて、  
またベッドに臥してしまう。眠りに戻ろうとする彼女は、異様なほど艶めかしく感じられた。  
いや――ただ自分の彼女と重ねているだけか、とハボックは頭を振り、  
集中なんかできないはずの監視に戻った。  
薄い壁のむこうからは、途切れ途切れなファルマンたちの会話が聞こえる。  
それに時折女の声が混じって――って、あれ。  
ふっとベッドの方を見やると、ベッドの彼女は切なげに眉根を寄せて唸っていた。  
寝返りを苦しげに何度も打つ姿が可哀想にもみえる。  
ハボックは思わず彼女に駆け寄り、肩を揺さぶって何度も「中尉」と呼んだ。  
「ん……んぅ……ロイ……」  
自分たちの上官を"男"として呼ぶその口に、一瞬怯む。  
女たる彼女の姿に、少し涙が出てしまいそうだったが、それでも肩を揺さぶりつづけた。  
「中尉ッ……中尉!」  
「……ん」  
すると中尉はゆっくりと美しい目を開け、まるで生き物でないかのように身を起こしてきた。  
しかし「ああ、よかった起きたー……」と思う間もなく、起きてきた体がハボックの顔をとらえ、  
彼女の赤い唇が彼に押しあてられた。  
禁欲的なイメージの彼女からは考えられない、深く激しいキス。  
「!」  
びっくりしたハボックがリザの体を引き離すと、  
目の前の彼女はとろんとした目のまま、"ロイ"と唇を形作る。  
「中尉っ……あの、あのっ!!」  
自分が任務中だということも忘れて、ハボックは大声を出す。  
それを聞いたリザがやっと本当の目覚めをし――きゃっ、という小さな悲鳴をあげた。  
きゃ、はこっちの台詞なんスけど……。  
まあとにかく、と気を取り直して、  
「どうしたんスか、うなされてましたけど……」とハボックは言う。  
リザはただ「ごめんなさい」と言うだけで、少尉から目を逸らし床を見つめていた。  
 
それからまた10分、隣の部屋を監視しようにも、ハボックはまったく集中できなくなっていた。  
「だって」と敢えて言い訳をさせてもらうなら、  
ベッド上のリザが呆けたまま動かないでいるのが気になってしまうのだ。  
――やっぱ、キスしたこと後悔してるのかな。  
きっと彼女は、自分が恋人以外を求めてしまった事を責めているのだろう。  
肝心の"コイビト"は、いろんなところでほっつき歩いているっていうのに。  
ハボックはたまらなくなって、「中尉」と短く呼ぶ。  
そして少し恐れながらも、口を開く。  
「大佐に……ロイ=マスタングに会いたいんですか」  
貴女は悪い女だ、こんなに心を揺さぶる。  
中尉は黙ったまま頷き、「貴方は」と小さく聞き返してきた。  
「もちろん、俺もカノジョに会いたいッスよ。あー、ソラリスを抱きしめてぇ」  
空で彼女を抱きしめるフリをすると、ハボックとリザの目があった。  
部屋に微妙な空気が流れ――ああ、ちょっと息苦しくなってきた。  
二人ともぎくしゃくした動きで、しゃべり出したのはハボックだった。  
「俺じゃ、代わりになれませんか」  
「何を……」  
「抱かれてください、俺に。」  
答えを聞かぬままリザを抱きしめる。  
それに対して彼女は抵抗するでもなく、ただハボックの温かさを享受していた。  
リザは頭の中で、相手に気付かれぬよう考える。  
――いいの?このまま抱かれてしまって。  
相手も自分も、それぞれに愛しい恋人がいるのだ。  
それを裏切るような事をして……  
しかし、唇はふるえながら「いいわよ、――抱いて」と言葉をつくる。  
本当に、私は悪い女ね。  
恋人に会えなくて寂しい思いをしているときに、  
私たちはひとり自分を慰めるのではなく、共犯者になってしまう。  
共犯者の男は背徳感をたたえた笑みを浮かべ、リザにキスを落としていった。  
 
「……」  
これまたおんぼろのベッドに二人寝ころんで、  
ハボックは捲り上げたアンダーから覗く白い乳房に見とれていた。  
ストラップのない彼女の下着は、服を全てぬがさずとも簡単にはずれてしまう。  
はちきれそうな乳肉は世の牡という牡を誘うようで、  
見つめてばかりいるとリザが「もう」と言った。  
それでハボックは悪戯そうに舌を出し、乳房の先をちろりと舐める。  
「ゃぁっ……いきなり、そんなっ」  
リザは顔を真っ赤に染めて、しかし抵抗などしない。  
その様子にハボックの脳裏からは、自分の彼女の影が薄くなる。  
と言うよりも、もう目にはリザの痴態しか写っていない。  
夢中になって乳肉を舐めあげ、空いた手はもう片方を弄んだ。  
手のひらから零れんばかりの乳房に、ごつごつした指が埋もれていく。  
柔らかな乳房の形が崩されるたびに、乳首がふるえるように硬くなっていく。  
「あっ……っゃあ、ふっ……」  
張った乳首を軽くつねり上げれば、リザの顔が赤らんでゆく。  
「や、ロ……あ、ごめんなさい」  
「いいんスよ、大佐の名前呼んだって」  
恋人の名を呼ぼうとしたリザに、ハボックはまるで無心であるかのように愛撫をつづけた。  
嘘。良いはずないと分かっているのに虚勢を張る自分が嫌だ。  
ハボックは複雑な笑みをつくってから、リザの下着に優しく手を掛ける。  
彼女は伏し目がちなまま、それでもハボックが脱がしやすいようにと腰を少し浮かせた。  
その様子にハボックは少々驚きつつも――彼女の秘部に手を伸ばしていく。  
 
「もう――いいわよ、来て」  
体をゆるく開いたままベッドサイドに視線をうつして、リザは小さく呟いた。  
ハボックの位置からは、彼女の表情は見て取れないが、泣いているように見えなくもない。  
体は俺のために濡れているけれど、それでもやっぱ迷ってるのかな、なんて考えたりする。  
しかしもう一度「いいの?」と聞く気にもなれなくて、少し躊躇ってからリザにキスをした。  
でもその前に、と思い出して、ハボックはベッドサイドに放ってあった自分の財布をがさごそとあさる。  
あった、あった。  
しかし小銭入れに入っていたコンドームの袋を拾うと、リザの視線が刺さってきた。  
「段取りが悪いわよ――そんなんじゃ、いつ彼女にフラれたっておかしくないわね」  
そう言ってリザは笑い、貸して、と言う。  
手渡すと、彼女はハボックの立ち上がったモノに丁寧にゴムをはめていった。  
――大きい。  
頭の中でロイのものと比較して、リザは少し身震いをした。  
いや、決して恋人のものが小さいと言うわけではないのだけれど。  
想像しないようにしても、どうしてもロイを思い出してしまう。  
これではダメよ、と自分に言い聞かせて、リザは目の前の男だけを見ることにした。  
ハボックに添えた指を軽く動かしながら、少しずつ仰向けになる。  
「中尉――もう、戻れませんよ」  
「ジャン」  
「今、なんて」  
彼女は何も言わなかった。かわりに心持ち体を開く。  
ハボックはリザの上に覆い被さると、体重をかけ一気に彼女の中へ自分を沈めた。  
 
「あぁぁぁっ!」  
彼女の中は十分すぎるほど濡れていて、ハボックを難なく飲み込むことができた。  
リザからは吐く息とともにあえぎ声を漏らす。  
中は苦しいほどきつく、ハボックはすぐにでも動き出したい衝動に駆られる。  
「ん、あっ……あぁ!」  
ハボックは一旦自身を先端近くまで引き抜き、もう一度中にうずめて、腰を使いはじめる。  
最初はリザを気遣うようにゆるゆると使っていたが、  
途中で抑えが効かなくなって、自分のしたいように擦り始める。  
「中、尉っ……」  
「ゃ、リザ……って、あ、ん……呼んで、……ジャン、んぅ」  
リザもリザで、ハボックの激しい突きに、正気を保っていられそうにない。  
ハボックの動きにあわせて、自分も少しずつ腰を動かしていく。  
彼女の耳許で何度か名をささやいては、動きを彼女と同調させていった。  
「自分から腰動かしちゃって……いやらしいよ、リザ」  
「そんな、だめぇ……言わないで」  
艶のある声、いやらしく揺れる乳房、肉棒の感覚。  
今やハボックは五感すべてを使って、リザを感じていた。  
それはリザとて同じ事、二人は高みに昇るためにリザの脚を胸につくまで倒し、結合を更に深めた。  
「や、ああっ……はああっ」  
リザの眉根がきゅっと寄せられ、嬌声はうわずっていく。  
絶頂が近づいたリザの中はひくひくとふるえ、しきりにハボックを締め付ける。  
「あっ、だめ、もう、いやぁっ、イクぅっ!!」  
「くっ、俺も……ッ」  
瞬間、リザの膣の中が限界まで収縮し、ハボックを締め付ける。  
ハボックは雪崩るように白濁を勢いよく放出していった。  
 
 
その後先に目覚めたのは、リザだった。  
ベッドで眠る彼を後目にいそいそと着替え――無線を手にとる。  
「こちらホークアイよ。申し訳ないのだけれど、もう少しそこにいてくれないかしら。  
今私がハボックと交代して、彼が眠っているの」  
「は、はい。了解です」  
上擦った声をあげてからしばらく、ケイン=フュリーは溜息をついた。  
嗚呼、大佐やブレダたちには言えない。  
二人がしていたことや、  
「それをずっと聞いてたなんて……」  
無線の声が入る。  
「何か言った?」  
「い、いいえ、何も……」  
僕には高級ディナーもデートの相手もいないと、もう一度溜息をついて。  
 
フュリーが無線から聞こえる嬌声に興奮していたのは、また別の話――。  
 

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