私はラスト。色欲を冠する存在。  
事象のすべてに淫靡なつながりを見出す者。  
 
ああ、あれをご覧なさい。あの小さな子供、初心で奥手でとてもそんな事できないくせに、  
頭の中ではあらゆる暴力を尽くして目の前の女を犯しているじゃない。  
 
向こうの女・・いいえ、少女かしら? あくどいわねえ。  
天真爛漫な風を装っているくせに、本当はペニスのことしか考えていないのね。  
 
あら。あの優男、また違う女を犯しているけれど、女性を大事にするというのは建前、  
本当は物と女の区別がつかないから腫れ物のようにしか接せないのよ。  
 
生真面目そうな美女がいるでしょう。でもそれは見た目だけ。  
いきずりのセックスをしては、本気にした男をあざ笑うのが好きなのよ。  
 
あそこに見える、魂だけの存在なんて可哀想なものだわ。  
どんなに幸せでも、どうしても満たされなくて苦しんでいるけれど、  
それが色欲だということさえも自覚していない。  
 
 
「・・あのさ、おばさん」  
話を最後まで聞き終えたエンヴィーは、どうしたもんかと頭を抱えた。  
「ありえないと思うんだけど」  
「ありえないなんてことはありえない・・と言ったのは、誰だったかしらね」  
「いやさ、言葉遊びがしたいわけじゃなくてさ」  
エンヴィーはがりがりと頭をかいた。  
 
「ほんっとに、おばさんには世の中のすべてがエロく見えるんだね」  
「いけなくて?」  
ラストはくすくすと笑い出した。  
「これくらいの遊び心がなければ、つまらないじゃないの」  
「・・そうかなあ」  
「そうよ」  
 
それからエンヴィーはふっと真面目な顔を作った。  
「分かる気がする」  
「ふふ、良いのよ、お子様は無理しなくても」  
「・・いや、エロとかはどうでもいいんだけどさ」  
疲れたようにつぶやいて、一人の女性を指さした。  
「たとえば、あいつ。本当はうらやましいんじゃないのかなあ? 自分の弟子二人が。  
兄のほうは、ひょっとしたら自分を超えて本当に人体錬成を成し遂げるんじゃないか?  
そう思ったら、うらやましくて悔しくて、足のひとつも引っ張りたくなるんじゃないのかな」  
目を丸くしたラストに気づいて、エンヴィーはにやりと笑んだ。  
「なあんて、ね」  
「面白いわね」  
「そかな」  
「そうよ」  
 
ラストは心とろかすような微笑を浮かべて、少年を見た。  
「ねえ? あなた今、私としたいと思った?」  
「え、いや、別に・・」  
「思ったわよね?」  
さりげなく髪を一房さらい、口付けて上目遣いに見つめてくる蟲惑的な美女に、  
エンヴィーは飢餓感にも似た強烈な嫉妬心を抱いた。  
うらやましい、ねたましい。  
壊してやりたい。  
 
傷つけて屈服させて心の中を自分という悪夢で一杯にしてやりたい。  
「やだよ。おばはんじゃ勃つもんも勃たないし」  
ラストは、はらりと逃げるエンヴィーの髪を驚いたように見つめていたが、  
やがて取ってつけたような微笑を取り戻した。  
「あら、そう? 残念ね」  
「そうだよ」  
エンヴィーはさっと踵を返す。  
ラストは氷のような瞳でその背を、刺した。  
 

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