毎年ロックベル夫妻の墓には、同じ日に白い花束が供えられている。  
 
「私の両親を殺したのは、あなたですか?」  
私邸の接客用ソファーにふんぞり返り両手を組んでいるのは、ロイ・マスタング大佐。  
向かい合わせにちょこんと座り、姿勢を正して真っ直ぐ彼を射抜くように見つめるのは、ウィンリィ・ロックベル。  
二人きりのこの空間に沈黙が続く。  
疑問符を付けていようとも、彼女の言葉には確証を持った強さがある。  
きっと誰かの口から真実を告げられたのであろう。  
そしてロイも隠すつもりなどない。  
 
「上官の命令に従い、ロックベル夫妻を銃殺したのは、この私だ。それがどうした」  
軍人であれば当たり前の行為だと言わんばかりの態度。  
少女に仇と恨まれても仕方がないのだから、言い訳などしない。  
復讐を誓うのならば、彼女を殺す覚悟もある。それが己の定めた道。  
…例え、ずっと影から見守ってきた結果として彼女を愛していても…  
 
「あなたは、殺した人達全てに白い花を…?」  
白い花とは、毎年ロイが夫妻を殺害した日に墓標へ届ける贖いの品。  
何十人・何百人と殺してきた彼が全ての人に花を捧げるなど不可能だ。  
その行為はウィンリィの両親にのみ行われている。  
でもそれは懺悔の気持ちからなどではない。  
自分を変化させるきっかけとなった二人を参ることで改に覚悟を決めている。  
「君の御両親の所だけだが、あれは私の自己満足だ。深い意味などない」  
「墓前で、泣いていたのに?」  
ズズッと鈍い音を立てソファから立ち上がったロイは、顔を真っ赤にして  
それを隠すように右手で顔を覆った。  
だが、今までのポーカーフェイスが嘘のように動揺を隠しきれてなどいない。  
ウィンリィが近づくと一歩また一歩と後退して、ついには壁に背中があたる。  
下から見上げてくる彼女は、ロイと目を合わせて微かに微笑む。  
「何故知っているか疑問ですか?あなたが私を見ていたように私もあなたを見ていたの。  
青い軍服・白い花束・静かに頬を伝う涙…毎年この光景を目にしていても、きっとあなたが  
両親を殺害しただろうと感じても、それでも私はあなたが好きなんです」  
 
彼女の告白に彼の頭の中は、真っ白になる。  
膝の力が抜け、壁に背中を預けたまま座り込んだ。  
「君は、な…にを…言って…いるのだ?」  
「信じられないでしょ。私も自分でおかしいと思ったもの。でも、本当だからしょうがないんですよ。  
あなたを想う気持ちは止められない。でもあなたと一緒に過ごすこともできない。だって私とあなたは  
違いすぎるから。それに本意ではなかったといえ、父と母の命を奪った人と微笑み合いながら  
生活していくなんてきっと出来ない。  
だからお願い…一度だけ私を抱いて下さい」  
 
手を引いて寝室へと導かれたウィンリィは、驚くほどシンプルな部屋の内装を見回した。  
先ほどいた高価な壷や絵画の飾られた立派なソファや机があった応接室とは違い、  
簡素なベット一つと壁側面を埋め尽くす錬金術の専門書があるだけ。  
これが彼のプライベートルームなのだ。  
 
ベットの横に立ったまま、ロイは顔中にキスの雨を降らせるが、きっと意図してだろう  
唇にだけは決して触れなかった。  
スルスルと素早く彼女の衣服を脱がせ、自分の服も脱ぎ捨てベットに横たわる。  
床に散らばった服や下着が目に入り、ウィンリィはそっと溜め息をつく。  
この大胆な行動を起こすには、かなりの勇気と下準備が必要であった。  
ロイ・マスタング大佐のスケジュールを押さえるのも大変だったけれど、実は自分の下着にも  
気を配っていた。普段はスポーツタイプの飾り気がないものを愛用していたが  
今回は繊細なレースのついた大人っぽいデザインの物を選んでみた。  
しかしそれは彼の目に留まることなく、床に丸まっている。  
 
一言も発せられず、ただ淡々と行われる行為、ウィンリィは気付いていた。  
彼の目は虚ろで、抱きたくて抱いているわけではない。  
負い目のある人間に脅されて、仕方なく済ませるのだ。  
それでも構わない。最初から歓迎されないことなどわかっていた…胸は痛むけど。  
 
同世代の中では発育が良い方だと言われていたが、まだ大人になりきれていない胸は  
ロイの大きな掌にすっぽりと収まり、変化を見せる。  
実のところ、ウィンリィは自分でも触ったことがない。  
そんなところを愛しい人に愛撫され、変になってしまいそうだった。  
彼はきっと経験豊富なのだろう。触れる指先は彼女を徐々に追いつめる。  
「………っ…ん!…」  
だがウィンリィは声を出さないように奥歯をぐっと噛み締め、快楽に流されないように  
シーツを握り締めた。  
決心して抱いて貰っているのに、彼女の中に迷いが生じ始めていた。  
機械仕掛けの人形のように行為を進める彼、一瞬でいいから彼に愛されたい自分。  
しかしこれでは虚しいだけではないだろうか。  
この行為は正しいこと?それとも間違っていること?  
今ならまだ間に合う  
続けるべきか、止めるべきか  
 
 
 
つづく  

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