「これっきり」だなんて決して言わせない――
アメストリス国東部、イシュヴァールの内乱。
長い時間だけが過ぎていく戦いの中、国力の低下をおそれた国は軍に
『国家錬金術師』を投入しての殲滅戦の命を下した。
「全く、国家錬金術師を投入して何とかなる戦いなら初めからそうしておけばよかったのだ。
そうすれば、私もこんな戦場に来ることなどなかったはずなのに……なぁ、リザ」
「……そうですね……」
イシュヴァール戦線の近く、軍の野営。
その中のテントの一つで、男は忌々しそうに毒吐いた。
男は西部の一貴族でありながら、軍の地位を金で買い西方司令部に属している。
東部の内乱など西部には関係ないと思っていた矢先、中央司令部より東方司令部への移動、内乱への援護要請が来たのだった。
そして、この戦場にいる。
その男の横にいる女を、男は『リザ』と呼んだ。男のように短く切りそろえられた金の髪。静かな目はただ、じっと男の方に注がれている。
「そう言えば、今日殲滅戦に参加する国家錬金術師とやらを見た。
……あれは人間じゃない。まさに『人間兵器』と呼ぶに相応しいよ。
その中に我々が配属される東方司令部の切れ者がいる。若くして国家錬金術師であり、現在少佐の地位にいるが、このイシュヴァールの内乱を鎮圧すれば中佐の地位を得るだろうとまで言われている男だ」
「……それで……?」
リザは身動き一つできないまま、そして、男が紡ぎ出すだろう言葉を待った。
「男の名前はロイ・マスタング少佐。国家錬金術師は少佐相当官の地位を持っているとはいえ、
この男はそれを別としてこの地位を自分の力で勝ち取っている。我々がこの男と同じ東方司令部に
配属されることになるのだ、この男の存在は、後々私を脅かす存在になる」
「……それでは……?」
「――リザ・ホークアイ少尉、ロイ・マスタング少佐……この男を殺せ」
男の言葉にどくん、と大きく心臓が鳴った。
しかし、この男の言葉に逆らえない――。
男はそっと椅子から立ち上がり、リザの方へと歩み寄る。そしてリザの軍服に手をかけると、上着のボタンをゆっくりとはずして行く。
上着が足下に脱ぎ落とされると同時に、堅いベッドへと押し倒された。
「リザ……ああ、リザ……私の可愛いリザ……」
男はそれ以上の事をするでもなく、ただリザの胸に顔を埋め子供が母に許しを請うように何度もリザの名を呼ぶ。そのまま眠りに落ちるまで。
――哀れな男……。
リザは人形の様にただ男のなすがまま、天井をじっと見つめていた。
翌日より国家錬金術師を投入しての殲滅作戦が実行に移された。
それが功を奏したのか、次々とイシュヴァールの地は軍の手に落ちて行く。
その頃、リザはロイが殲滅を担当する地区の岩場に隠れ、様子を伺っていた。
ちょうどその時、ロイがその場所へと現れる。一軍人から、『国家錬金術師』として。
あの男の話ではロイの手袋は発火布という特殊な布で作られており、指で擦ることによって摩擦で火花を起こし後は周りの酸素濃度を可燃物の周りで調節してやることによって自由に焔を操れることから、彼は『焔の錬金術師』と言うらしい。
だが、リザにとってロイがどんな錬金術師であろうと関係なかった。ただ、自分が仕える男の障害。それだけだ。
汚れた布を頭からかぶり、高い岩場からあの男――ロイ・マスタングの頭を狙う。
リザの所有する銃の絶対命中距離は250m、それ以上離れてしまえば仮に撃ち抜けても致命傷にはならない。
狙いを更に正確にするために、銃にスコープをつける。そして、再び銃を構えスコープを覗き込んだ。
今度ははっきりと、男の表情が見て取れる。漆黒の髪、切れ長の目、そして静かな物腰。リザには、ロイが『焔』などと言う二つ名を持つ錬金術師には到底見えなかった。
「ローイ!」
「……ヒューズ少佐」
ロイは自分が錬金術という手段を持って殲滅させなければならない場所を見て、呆然と立ちつくしていた。
その背中から呼ぶ声に振り返ると、親友のマース・ヒューズが走り寄って来た。
「あんまり一人でいるな。どこで誰に狙われてるかわかんねぇんだぞ。気をつけろ」
「……それは、どういう意味かな?」
ヒューズの意味深な言葉に、ロイは不敵な笑みを浮かべた。
世界のどこにでも『高み』を目指そうとする人間はいる。そんな人間達同士の足の引っ張り合いが、この世界を動かしていると言ってもいい。
そしてそれは世界規模に限らず、一国の『軍』と言う組織にも言えることだ。
「まぁ、天下の国家錬金術師様に対して、余計な心配かもしれんがな」
「……買い被りすぎだ」
ロイは、ヒューズの言葉に苦笑した。
「……戻ろう。今日は向こうも動く気配はなさそうだ」
ロイはそう言うと、軍の布陣へ戻ろうと踵を返した。その時、ふと感じた視線。ロイは足を止め、もう一度その場所を振り返った。
「ロイ? どうした?」
「……いや……何でもない……」
ヒューズの問いに、ロイは小さく首を振るとそのまま振り返らず歩き始めた。
その視線の元――リザはただ、スコープ越しにロイの姿を追うことしかできず、その日は終わった。
――しかし、2日、3日経ってもリザの銃からロイに向けて引き金が引かれることはなかった。
それどころか、スコープ越しとは言えロイの姿を追っているうちに、リザの中でロイと言う男に対して興味が沸いてきたのだ。
もう少しだけ、もう少し――。
しかし、そんな日々は長くは続かない。国家錬金術師による殲滅戦は、内乱鎮圧へと導いて行く。
とある日の深夜、パン! と乾いた音がテントの一つで響き渡る。
「一体、何をしている、リザ!」
「も、申し訳ございません……」
リザは赤く腫れた頬を押さえ、ただひたすらに男に謝罪の言葉を言う。
「内乱が完全に鎮圧される前にあの男を始末しろ! ……こんな戦いの中だ。仲間内の流れ弾に当たって死ぬなんて珍しいことでもあるまい? いいな、リザ!」
「……分かりました……」
そう、答えると男は満足したように張って赤くなったリザの頬を撫で、そのままベッドへと崩れ落ちていく。
男のなすがままにされながら、いっそロイよりもこの男を殺してしまいたいと思う自分がいた。
明朝早く、リザはテントを抜け出す。今日こそは、と自分に言い聞かせ、いつもの岩場に立ち銃を構えた。
そこには、ロイが立っている。夜通しで戦っていたのだろう、ロイの顔に疲労の色が伺えた。
それだけで、リザの引き金を引く手が躊躇いに固まってしまう。しかし、内乱は数日のうちに鎮圧されてしまうだろう。
そうなる前に、ロイを殺さなければ――。
深く息を吸い、気分を落ち着かせ銃身に取り付けたスコープを覗き込む。
「――!!」
次の瞬間、別の衝撃がリザに引き金を引くことを止まらせた。
それは、スコープ越しにロイと目があったからだ。
リザは息をのんで、一旦スコープから視線を逸らした。
相手は別の場所を見ているのに、目があったように勘違いすることはよくあること。それを確かめるために呼吸を整え、リザはもう一度スコープを覗き込んだ。
すると、ロイはスコープ越しに人差し指を向け、撃つ真似をした。ロイの指の銃口は、勘違いなんかじゃなく明らかにリザに向けられている。
(なんて、男……!?)
狙撃がばれることよりも、あの切れ長の目に一瞬でも捕らわれた事がリザの胸を高鳴らせる。
そして、結局その日もリザはロイを撃つことはできなかった。
その夜、男の元へ今日の報告をしにいかねばならないと、リザは重い足取りでテントへと向かっていた。
その時、布を頭から被った人影と擦れ違いざま声を掛けられる。その声と布が取り払われた瞬間目の前に現れた男の姿に、リザの動きは止まってしまった。
「……やぁ、君かい? いつもスコープ越しに私に熱い視線をくれるのは」
「――!! な……何のことですか?」
その男はロイだった。ロイが被っていた布は、リザがロイを狙撃するときに被っていたものだ。自然に、リザの体がガクガクと震える。
それは恐怖からなのか、それとも――。
ゆっくりとリザへと近づいてくるロイから逃れるように、リザは後ずさる。
「戦っていながら、いつもどこかで視線を感じていた。初めは痛いほどの殺気が隠っていたが、いつからか変わっていった。……その視線の主に一目会いたいと思っていたよ」
「一体、誰の話をしているんですか?」
リザは震える声を押し殺し、あくまでも気丈に振る舞うことでこの場を乗り切ろうとした。しかし、リザを見つめるロイの目は今までの所行を責めるでもなく、どこまでも優しかった。
「……安心したまえ、君の事を責めようなどと言う気はない。ただ、本当に会いたかっただけなんだ。銃のスコープ越しなどではなく、こうしてちゃんと目の前で君の目を見てみたかった」
隙あらば逃げようとするリザの腕を掴み、腰ごと引き寄せる。もう、逃げられない。否、既にリザの中には逃げようと言う気は失せていた。
いつもスコープ越しに見ていたロイの目に、捕らわれたのはリザの方だ。
こうやって改めて近くで見ると、確かにロイには『焔』と言う二つ名を冠するに相応しいかもしれないと思う。
ロイのその目に宿すのは、地獄の業火のごとき紅蓮の炎でも、激情を滾らせる真紅の炎でもなく、ただ漆黒の闇の中静かに燃える『蒼い焔』なのだ。
お互いが、お互いの目に捕らわれて身動きができなくなっていた、その時。背後から、人の気配と話し声が近づいて来た。
咄嗟にロイはリザの手を引きその場を離れようとしたが、リザは一瞬の隙をつき手を振り払うと走り出した。
ロイは一瞬、離れていくリザの背中に手を伸ばす。しかし、それ以上追うことを止めてしまった。
リザはロイの手を逃れ男のテントの前まで辿り着くと、乱れた息を整えようと深呼吸を繰り返す。
まだ、ロイに捕まれた腕や腰を引き寄せられるときに回された手の温もりが残っている。単に走って来たからだけではない、胸の鼓動の早さ。胸にこみ上げる、疾うに忘れかけた温もり。
だが、いつまでもこのままではいられない。このテントの中に入れば、待っているのは地獄の責め苦に相当する出来事だ。リザは意を決し、テントに入っていった。
「……誰だ!? お……お前は……」
「中佐? 私です、リザ・ホークアイです」
「く、来るな!!」
テントに入ったリザを見るなり、男は怯えた表情をした。そして、椅子から立ち上がりリザから離れようと後ずさっていく。
この男の変わり様に、リザは狼狽した。一体、この男に何が起こったのだろう?
「中佐、落ち着いてください。私はあなたの部下です」
「部下……? ち、違う! 私は貴族だ! こんなところに私を閉じこめて……」
男は後ずさりをしながら側に置いてあった銃を手に取ると、リザに向けて構えた。リザに向け構えた銃口が大きく震えている。
恐らく、なれない戦場に長くいたせいで、精神をやられてしまったのかもしれない。実際、この内乱鎮圧前になって多数の軍人が『砲弾神経症』と言う病に罹っていた。
「中佐……!? 気を確かに! あなたは確かに貴族ですが、軍位を買いこの戦場へ来たのです!」
「黙れ! ……そうか、私を貶めようとする奴らの仕業なんだな?
小賢しい! 早く、ここから出せ! は……早……く……!!」
手の震えは大きくなり、やがて男はその場に座り込んでしまった。リザはゆっくりと男の方へ歩み寄り、手に持っている銃を離そうと手を伸ばした。
その瞬間――。
パン! と言う一発の銃声が辺りの静寂を切り裂いた。
一方、ロイはリザの向かっていった方へ知らず足が向いていた。手を振り払われた時、これ以上追うのは止めようと思っていたのに。
ふと、リザに自分を殺すよう命じた男の顔が見たいと言う興味も手伝って、結局追いかけて行くことにしたのだった。
その途中。一発の銃声が響くのを聞くなり、ロイはその方向へと走りだしていた。
「一体どうした……!?」
ロイが銃声のしたテントへ入ると、そこには頭を撃ち抜かれ血の海に倒れる男と、手には銃を持ち立ちつくすリザの姿。
それは正にリザが男を撃った、としか思えない光景だった。
「……まさか……何故なんだ――!?」
ロイはリザの両肩を掴み、自分の方へ向き直らせる。俯いて見えない表情を覗き込むと、さっきとは明らかに違う面持ちで、リザ自身一体何が起こったのか分かっていない様に見えた。
またリザは、ロイの問いにも俯いたまま口を閉ざし、この状況についての弁解を一切しなかったのである。
やがて、他の軍の人間も銃声を聞きつけてこのテントに集まって来る。リザはそのまま連行され、軍の司令部で事情聴取をされることになった。
調べが進むと男の頭蓋を撃ち抜いた銃弾は軍支給の銃から発せられたものではなく、男が自身で護身用として所持していた銃から発せられたものと断定。
そして、あの時リザが持っていた銃は軍から支給された銃であったこと、男が所持していた銃からリザの指紋が検出されなかったこと、また男が『砲弾神経症』に罹っていたことなどが判明したことからリザの正当防衛が成立し、そのまま不問となった。
――その翌日、軍上層部はイシュヴァールの内乱はほぼ鎮圧したとの判断をくだし、ロイとリザを含む複数の師団はイシュヴァールから引き上げることになったのだ。
「――何故、あの時すぐにでも撃ったのは自分ではないと言わなかった?」
直属の上司を失ったリザは、罪に問われることは無かったものの、このまま軍に在籍し続けるかを考える猶予と言う名目での『謹慎処分』が言い渡された。
謹慎処分が解ける前日。ロイは様子見と称して、リザの部屋にいた。リザの部屋は引っ越してきたばかりで、生活感のない部屋にほどいていない荷物が積まれているだけ。生活感があるものと言えば、ベッドと部屋の中心に置かれた電話だけだ。
「……結局行動はしなかったけれど、私にはそうするであろう十分な『動機』があったからです」
「それは……どういうことだね?」
ロイは、目を合わそうとしないリザの横に座ると、その目を覗き込む。
リザは息を深く吸い、言葉と共に吐き出した。
「私は……あの男にあなたを殺すよう命じられていました……。でも、私には出来なかった……! こんな事、初めてで……。いつもあの男の言葉は私にとって絶対で、逆らう事なんて考えもしないで……でも、あなただけは……。私は……私はあなたの事を……」
次の言葉は、ロイの唇によって塞がれ声になることはなかった。
強く、押しつけられた唇は一瞬で離れる。驚きに目を見開いたままのリザに、ロイは優しく笑うと再び口づけた。
「ん……っ」
触れた唇から、ロイの舌が侵入してくる。深く、息すら奪う口づけに目眩を覚えた。ロイはそんな口づけを何度も繰り返しながらリザの体中の力と思考能力をも奪い、そのままベッドに組み敷いた。
「……私も君と同じだ。君に興味を持った。もっと知りたいと思う」
「あ……な、何故……?」
ロイの唇がリザの耳元に寄せられ、熱い息と共に言葉を紡ぐ。そしてリザの問いかけには、小さく「さぁ」と答えた。そのまま耳に口づけ軽く甘噛みをすると、ピクリ、とリザの体が反応する。
「……明日、東方司令部の上役に君を私の部下として迎え入れたいと願い出るつもりだ」
「えっ?」
突拍子もないロイの言葉に、リザは驚きの声を上げた。ロイはただ薄く笑みを返し、首筋に口づけ手をリザのシャツの中へ滑り込ませた。
「しょ……少佐、戯れなら止めてください!」
リザは慌ててロイの手を掴んでそれ以上の進入を拒んだ。
「戯れなんかじゃない。君の事をもっとよく知りたい、そう言っただろう? 体を繋げば少しでも君の事が分かるなんて実に短絡的思考ではあるが。……イヤならそう言いたまえ」
ロイは、そうきっぱりと言い放つ。リザを見つめるその『蒼い焔』を宿した目に魅入られて、動きが止まってしまった。
拒む手を擦り抜けて、ロイの手はリザの胸に至る。優しく片方の手で背を撫でながら、器用にシャツの上からブラのホックをハズした。その間も、唇や首、頬などにキスを降らせる。それはまるでキスの雨。優しく、時折強く。
「あ……んっ、少佐……」
鎖骨に口づけながら、シャツのボタンを口で外していく。先に胸に至った手は優しくその形を確かめるよう動き、頂を指の腹で撫でた。
「はぁっ、あん……っ」
頂に触れられると、電気が走ったような感覚が体中を突き抜ける。ロイは思った以上に抵抗もしないリザに拍子抜けをしたのか、動きを止めた。もちろん、抵抗しないに越したことはないのだが。
「……抵抗しないのかね? これは強制ではない。イヤならそう言ってもいいんだ」
「ん、はっ……だって、イヤじゃ……ないから……。私も少佐の事をもっとよく……知りたいと思っていますから……」
とぎれとぎれ、リザはそう言うと恥ずかしいのか顔を背けた。いざ、そう言われるとやはり嬉しい気持ちがあるのだろうか。ロイは心からの笑みを浮かべると、リザのシャツのボタンをすべて外し、素肌を曝した。そして、胸の頂を口に含み丁寧に愛撫をする。
「んっ、ふ……はぁん、あ……っ」
「感度がいいんだな。――初めてか?」
「――……」
ロイの言葉に、一瞬でリザの表情が変わる。その表情で、ロイは察しがついた。
「――底意地の悪い質問だった、すまない」
「いいえ……私の事を知りたいと思って聞いてくださった事でしょう? お察しの通りです。私はあの男の命令には絶対でしたから……」
当然だ、リザは自分の虚栄心のために殺人をさせるような男の下にいたのだ。きっと、そのために自分の身体を贄とすることだってあったに違いない。そう思うと、ロイの中でもういない男に対して怒りが沸き上がる。
「……軽蔑しますか?」
「いいや」
その話題をかき消すかの様に、ロイは止めていた愛撫の手を再び動かし始めた。胸を揉みしだき、頂を口や指で十分に弄ぶ。
「ん、ああっ、あ……ぅん」
胸への愛撫だけで白い肌は上気し、薄いピンク色に染まっていく。柔らかな流線でできた身体は、ロイの愛撫に反応してしなる。下着も全て取り去り、リザを一糸纏わぬ姿にしそっと太股を撫で上げた。
「ああんっ、あ……ふ、ぅ……んあ」
「凄く濡れてる。綺麗だ」
「い、や……っ、ああっ!」
軽々と足を広げさせ、内股に強く口づけ赤い跡をつけると、リザの濡れた秘所へと触れた。充血し膨らんだ花芯を舐め、唇で軽く噛み、また強く吸った。
「ひっ、ああっ……! やぁ……あっん」
また自ずと開いた花びらをも丁寧に舐め、蜜を生み出す泉の中へも舌を進入させた。ぴちゃぴちゃと淫猥な水音を立て、また口の周りがその蜜で汚れることも厭わず、ロイは夢中でその場所へ愛撫を繰り返す。
「んあっあっ……! も、もう……だめ……ぇっ、あっ」
「イッてもかまわんよ。 どの道こんな状態では私のになんて耐えられないだろう」
ロイは中に入れた指に襞が絡みつき、また締め付けが強くなってくることでリザの絶頂が近い事を悟る。そして、更に深く突き入れ動かし、絶頂へと促した。
「ああっ、あ……っん、ああああぁぁあっ!」
大きく体を震わせて、リザは達した。ロイはぐったりと横たわるリザの頬を撫で、軽く唇を合わせる。
すると、まだ絶頂の余韻から醒めきらないリザが、何かを掴むように手を宙に漂わせた。その手がようやくロイの頬に辿り着くと、愛おしそうに撫で、首へと下り背中へと回される。
言葉にはしないが、それが『合図』なのだろう。ロイは猛る自身をリザの秘所へと宛い、一気に貫いた。
「んあぁあっ、あ……」
「大丈夫か?」
リザはもう声にならないようで、問いかけに首を縦に振ることで応えた。優しく頬に口づけて、ロイは律動を始める。
「あっああっ、は……んぅ、ふあっあっ!」
「……さっきの話だが……」
「え……っ、あああ、んっ! 何……っあ」
リザの中を突き上げながら、ロイは思い出したように言う。リザは、もうまともな思考ができない状態で、ロイの声はどこか遠い場所で聞こえているようだった。
「君を私の部下にしたい、と言う話だ」
「あ……何故……私なんかを……?」
一度ロイは動きを止めて、リザの目を真っ直ぐに見つめた。自分とは違う、けれど同じ『焔』を宿した目。
「興味とは別にしても、君という逸材を手放すのは惜しい。君は優秀だよ」
「少佐……っあ」
また、ロイは腰をゆっくりと動かし始める。
「だが強制はしない。これは君自身が決めることだ。もう、『絶対』などと言う命令を君に与えるものはいない」
「ん、あっあっあっああっ! はぁ、んっ!」
次第に強く深くなる動きに、またリザは翻弄されてしまう。リザの中で、ロイ自身が一際熱く大きくなる。ロイは歯を食いしばり、自分自身が快楽に溺れてしまわないよう耐えた。
「君は……これからは自分の意志で生きていける」
「は……あぁんっ、ああっあっ……!」
「君は――自由だ」
突き上げながら、ロイが口にしたその言葉にリザは目を見開いた。
『自由』――その言葉にどれほど憧れ、欲しただろう。それは叶わぬと何度も諦めていたのに。
「あ……じ……ゆう……?」
「そうだ。自由だ。君を縛るモノは何一つない。自分の意志で決めて、自分の意志で歩くんだ」
「ああっん、あ……! 自由……、うれ……し……っああああぁぁあっ!」
その時、二人は同時に達した。
ロイの背中にしっかりと抱きつき、真っ白に意識が塗り潰されていく。その中で一筋、リザの頬に涙がこぼれた。
翌日。
東方司令部に出勤してきたロイに、一人の男が声を掛けた。
「ロイ・マスタング少佐。将軍がお呼びだ」
「はい」
ちょうどリザの件で話があったし、タイミングがいいと将軍のいる部屋のドアをノックした。
「おお、マスタング少佐、入りたまえ」
「失礼しま……」
ドアを開けてまず目に飛び込んできた人物に、ロイは目を奪われた。そこにいたのは、軍服を着たリザの姿。
リザはロイが入ってくるなり、敬礼をして迎えた。
「ロイ・マスタング少佐。本日付けをもって、リザ・ホークアイ少尉を君の部下とする。それから、君は中佐に昇格だ。正式な辞令は後ででるだろうが、よろしくしてやってくれ」
眼鏡を掛け、口ひげを蓄えた穏和そうな将軍は、笑みを崩さないままにそう言った。
「リザ・ホークアイです。よろしくお願いいたします。ロイ・マスタング少佐……いえ、中佐」
「……こちらこそ、よろしく頼むよ。リザ・ホークアイ少尉」
そして、二人は握手を交わす。
『誰に強制されるわけではなく、これは自分自身の意志で決めたこと。
例え、それが泥の河であったとしても、私は進む――』