「やれるもんならやれば?」  
 と、ふざけた甘え声でエドワード・エルリックは突き離した。  
 迷うふりをして、リザ・ホークアイは改めて仮眠室を見渡す。朝の9時、人がいない時間帯。  
今ここを使用しているのは自分だけ。白パイプのベッドの四隅が、奇妙にねじくれて伸び、  
ホークアイの手足を拘束している。錬金術だと見当がついた。  
 油断、した。眠気などすっかり醒めた。  
 まどろみの中で、ドアの錠が外れる音を、確かにホークアイは聞いていた。続けて、その錠  
がもう一度かけられる音も。それを寝たふりで待っていた自分に、今更ながら腹が立つ。  
 少し軽い足音がして、すぐそばまで気配が寄り、しばしの静寂。やがて彼の手が、自分の頬  
をそっと掠めた。寝顔を確かめられているのだろうか、とホークアイは心配になる。徹夜明け  
だから、隈くらいはできているかもしれない。お疲れのようだ、なんておどけて、気が変わって  
しまったら。  
 ぱんっ、という乾いた音が耳の横で響き、驚いて目を開けたホークアイは、あっけなく金属  
の蔦にからめとられる自分の体を見たのだった。  
 混乱しながらも、少年の名を呼ぶ。まだどこかで夢じゃないかと思う自分がいた。エドワード  
と呼ばれた少年は、可愛らしい犬歯をのぞかせて、笑った。――今晩は、中尉。もう朝だ、と  
生真面目に答えたら、エドワードは優しく頷いた。そう、優しく。それだというのに、何なのだろ  
う、この不可解なおののきは。  
 ――え? 何の冗談かって? やだなあ、分かってるくせに。  
 そしてホークアイの寝乱れた髪を梳く。ひとしきり無邪気に熱心に撫で付けると、うん、と気が  
済んだように呟いた。――きっれーな髪だよなー、本物の金の糸みたい。ああ、動かないでよ、  
せっかく揃えたんだからさ。本当に、綺麗。  
 裏表のなさそうな賞賛に、冷えた心がふいにくすぐられた。あなたの髪の方が綺麗だけれど、  
と素直な感想を口にする。うれしかねーよ、そうぶっきらぼうに吐き捨てる彼を、リザは可愛く  
思った。ただし、あくまでも交渉の余地がある犯罪者へのそれとして。  
 
 ――え、何、ほどけって?   
 尋ね返したあたりまでは、エドワードもまだ、笑っていた。  
 何の予備動作もなく、彼はホークアイの頬を横ざまに打った。扇に広がった髪が波打つ。  
 ――飲み込み悪いのな。同じ事二回言わせる気?  
 ホークアイは唇を噛んだ。肉体的にはさほど痛くもない。だが、苦い感情がしびれと共に  
広がった。利発な子だと、そう思っていたのに。こんな事をする子じゃないと信じていたのに。  
さほど話をした訳でもないが、これでも結構好いていたのだ。・・いや、今は感慨に浸っている  
場合ではない。  
 手足の首を軋ませてもがく彼女を、エドワードはじっと見守った。その余裕がやたらホーク  
アイの癇に触る。彼の自信を裏付けるような戒めの頑丈さは、単純に恐怖を呼びさました。  
 どうにも外しようがないと悟ってから、ホークアイは早々に奥の手を選んだ。枕の下に頭を  
突っ込み、冷たい小銃に噛みつく。不意を狙って枕越しに放った一撃は、金属音一つを残し、  
あっさりと彼の変形した腕にはじかれた。  
 ――すっげー。変わった銃だね。  
 羽毛の舞う枕を退けて現れた、器用に引き金を咥えるホークアイの姿を見、エドワードは  
口笛を吹く。銃を取り上げてしまえばそれで終わりなのに、わざと抵抗させて楽しんでいる  
ようだった。弾の無駄だと自分でも思いながら、二発、三発。この音で、願わくば誰かがかけ  
つけてくれますよう。四発、五発。  
 ――気が済んだ?  
 エドワードが小憎たらしく訊ねてくる。それなら、と捨て鉢にホークアイは考える。殺すなら  
とっくに殺しているはず。  
 最後に残った弾を、ホークアイは首を捻って、自分の心臓に狙いをつけた。  
 
「ハッタリもそこまでかませりゃ上等だね」  
 彼はどことなく楽しげだ。  
 冷たい金属を味わいながら、動かしにくい舌で、苦労して返事をする。  
「あまり挑発しないでくれる? 悔しくて歯噛みしそうだわ」  
 そう言い、金具をかつかつと歯で打ち鳴らした。  
「ははっ、無理だね、あんたに引き金は引けない」  
 
「さあ、どうかしら」  
 沈黙と、にらみ合い。  
「・・どうしたの? 別に止めないよ、俺は。どうせ死体でも大して変わんないし」  
「ああそう、それはよっぽど――お粗末なのね、あなた」  
「引きなよ」  
 挑発に乗ってか乗らずか、エドワードは端的に繰り返した。  
「引けって」  
「エドワード君――」  
「なんなら俺が手伝ってやろうか?」  
 そう言って彼は、金属のすき間に割り入るようにして、ゆっくりとホークアイに口づけた。  
 舌ぐらいは噛まれるだろうと思っていたエドワードだったが、実際に容赦なく歯を突き立て  
られて、逆に嬉しくなる。鉄の味がする舌と一緒に、引き金をつっかえ棒として噛ませてやっ  
てから、思うさま口腔をなぶった。中指と人指し指をも一緒に突っ込んで、彼女の舌をこねま  
わし、引きずり出して、からかうように軽く噛むと、仕返しを恐れてホークアイが身をすくま  
せた。  
 唇を舐め取れば、薬じみた味が溶ける。おうとつの少ない綺麗な歯列をこつこつと舌で丹念  
になぞってやったら、かすかに、清浄な吐息と同じ風味がした。さっきから窮屈に突き当たっ  
て邪魔をする金属の硬質さに比べれば、お互いの舌の感触はとろけそうなほどだ。  
 無理やり口内に吸い込んだホークアイの舌を、エドワードが優しく搾り取る。その度にホー  
クアイは律儀な反応を寄越した。噛まれるだろう、噛み千切られるだろうと思いながら、相手  
にいいように弄ばれているからだ。痛みへの不安と、それを裏切って毎度優しく舐め上げられ  
る快感と。その反復が、少しずつエドワードへの信頼のようなものを形作っていく。  
 ぐずぐずと、唾液の立てる音が増える。暴れる舌の動きが、ひどくしなやかで、柔らかい。  
 彼女は知らない間に息まで詰めていたようで、ようやく開放された時には、胸を上下させて  
喘いでしまった。  
「ん――」  
 すかさずエドワードが笑う。  
「今の、いい声」  
 はからずも、見とれてしまった。目鼻立ちの整った、綺麗な子だと。初めて見た時のことを  
 
思い出す。あのときはまだ小さな子供だった。今でもそうなのだけれど。たった四、五年――  
その間になんて成長したのだろう。  
「ほら、引けなかった」  
 ホークアイの口からずるりと金属枠を抜き出し、エドワードはそれを床に放った。  
「こんな事で死ねるほど、潔白ぶるつもりもないくせに」  
「・・こんな事、とは、安く見られたものね」  
「ああ、ごめんごめん。悪気はないんだけどさ」  
 未成年特有の、どこか憎めない印象を武器に、エドワードは諭し始めた。  
「中尉にとっては、大した事でもないんでしょ?」  
 機械の右手の指を、擦り合わせる。  
 その動作の意味に、ホークアイはうろたえまいとした。  
「初めてでも、ないんでしょ?」  
 無言の彼女を催眠術にでもかけるように、エドワードは言い募る。眠気を誘う声で。  
 たしかに彼の言うとおり、だった。いまさら嫌がるほどの事では。こんな状況、何度も。  
 ・・思い出したくもない記憶がふいに雪崩れ込んで、ホークアイは唇を噛んだ。  
「痛いの、嫌でしょ?」  
 いやだな、と胸のうちで同調する。  
「こんな風にされるの、本当は嫌でしょ・・?」  
 彼を刺激せぬよう気遣いながらも、ホークアイはとうとう頷いた。そうだ、嫌だ。だから、  
やめて。  
「そっか」  
 そこで彼は少し黙った。どこか作りものめいた優しさをこめて、ホークアイを見つめる。  
「そうだよね。じゃあ、聞きたくないでしょ? 俺の言い訳なんて」  
「え――」  
 よく意味が飲み込めず、ホークアイは呻いた。  
 エドワードが甘える瞳で先を促す。  
「聞きたいわ、分からないもの。どうしてこんな事するの」  
「教えない。言ったらきっと後悔させる。中尉は優しいから、俺を憎めなくなる。だって困る  
でしょ?」  
 
 万感を込めて、エドワードは言った。  
「好きだなんて言われても」  
 頭の隅では分かっていた。これはおかしい、と。しかしそれでも、ホークアイは素直に胸を  
打たれてしまう自分を意識した。甘いけれども酔いが回りやすい酒のように、どこか抵抗でき  
ない痺れが体を走る。  
 困り果てている彼女を満足げに眺め、エドワードは靴を脱いでベッドに這い上がった。  
 
 無茶な錬成で安定が悪くなったベッドが、しわがれた悲鳴をあげた。  
 エドワードは彼女の胴をまたいで、馬乗りになった。当たる感触に、思わずホークアイは眉  
をしかめる。  
 黒いタートルネックのニット、その胸部が網目を大きく横に広げて二つにたわんでいる。  
「でっけーなあ」  
 色気もなにもない感想を漏らしてみた。  
 わくわくとした子供じみた興奮を以って、エドワードは服のうえからそっと撫でた。ニット  
の布地ごしに、レースらしき細かいでこぼこが感じ取れる。フェティッシュな感覚に、目眩が  
する。  
 てのひらを使い、持ち上げたら、豊満さがいっぺんに実感できた。重たく柔らかく、今にも  
たゆんと手からこぼれ落ちそう。オートメイルの右手も使って、感触を比べわける。どっちも  
同じくらいたっぷりとしていた。  
「脱がすよ」  
 わざと宣言し、中尉の顔を覗く。もちろんホークアイは答えない。それで構わなかった。単  
にもう一度、抵抗できない自分の状況を思い知らせたかっただけだから。  
 腹部から順にめくりあげていくと、窮屈そうに服の皺が折り重なっていって、乳房の中ほど  
までさらけ出させるのが精一杯だった。  
 彼女の目の色にも似た赤茶の下着が現れる。縁取りは指で診たとおりの形だった。強情にも  
脱がせる手助けをしないホークアイの背中に、苦労して左手を滑らせ、止め具を外す。  
「きっつそ・・」  
 やわい肉を鬱血させんばかりに食んで、服が圧迫している。苦しそうだとエドワードは思っ  
た。手を差し込んで、ぐいっとくつろげさせる。取れたブラジャーが、丸みを滑り落ちて、斜  
めに肌が露出した。  
「ちょっと、そんなにしたら伸びちゃう」  
「じゃあ、脱がしてもいい?」  
 いいとも否とも答えられないホークアイだと知っていたから、エドワードは返事も待たず服  
を引っ張った。渋々肩を浮かせたり、首を丸めたりする彼女が可愛い。頭と髪を通過し、服は  
両腕まで。  
 新雪を固めたような肌が、あますところなく晒される。  
 はじめて触れる弾力のみずみずしさに、エドワードは気が高揚した。柔らかいのに、ぽやん  
ぽやんと指先をしっかり打ち返す。心地良い。  
 申し訳程度に引っかかっていたブラを退けたら、硬直した乳首が、誘うように現れた。優し  
く指ではじきかけて、やめる。わざとそこにだけ触らないように、胸を捏ね回した。それにし  
てもとエドワードは思う。大きくて、自分の手では扱いきれない。  
 しっとりと指先が滑る。このまま揉みしだいていたら、こっちの手指も磨かれて綺麗になり  
そうだ。壊れもののようなふわふわの肌に、自分の骨ばった手、という取り合わせがいやらし  
い。しかも彼女は、手なづけた犬猫がよくするような格好で、手足を投げている。強制してい  
るのは、他でもない自分だ。征服欲がいびつに満たされていく。  
 エドワードは、くろぐろと影さえ落ちる胸の谷間に鼻先を突っ込み、水っぽい肉塊にかぶり  
ついた。がじがじと子供っぽく甘噛みしながら、少しずつふくらみを登り、少しずつ舌を出し  
て、真っ赤な頂きへ。  
 音を立てて、尖りに吸い付く。  
 すると、ホークアイの背がたまりかねたように反った。  
 冷徹な中尉が。生真面目な彼女が。抑えきれずに体を痙攣させるなんて。  
「弱いんだ?」  
 彼女は、絶望的なまでに赤面した。  
 
 胸を左右少しずつ口に含んだだけで、エドワードは早々にズボンを下げにかかった。それが  
ホークアイには不満だったが、まさかねだるわけにもいかない。  
 そんな事を考えた自分に寒気がし、どこかに消えていた恐怖心が戻ってきた。後戻りしたく  
なったのだ。  
 
 今の彼なら、願えば聞いてくれるような気さえしていた。それくらい、心のこもった優しい  
愛撫だった。  
 のらりくらりとズボンを脱がす邪魔をしながら、ホークアイは哀願した。  
「ま、待って、お願い」  
 しかし彼は取り合わなかった。  
 ただ、あんまり彼女が抵抗するので、無言で手を打ち鳴らし、切っ先を服に掲げたのみ。大  
人しくしていれば切らずに済むよと微笑まれ、さしものホークアイも息を呑んだ。するっとズ  
ボンが脱げていく。  
 エドワードは手早く自分のコートと上着を取った。タンクトップから鎧の接合部と傷痕が覗  
く。痛そう――ホークアイはかすかに自分の右腕がうずいたような気がした。  
 それが済むと、エドワードは彼女の細い腰を掴み、ずるずると下に引いた。ひざが曲がり、  
下着の最下部がすっかりあらわになる。そこを手遊びになぞったら、楕円状に染みが出来た。  
意地悪く笑んで、最後の布地をもぎ取る。  
 そして上体を屈めて、そこに吸い付いていった。絡んだ毛足を痛まないようゆっくり解きほ  
ぐして、左右非対称の合わせ目を噛む。そこはすでにじっとりとぬめり、かすかに潮味を帯び  
ていた。  
 舌をねじ込むと、それだけで全体が凶悪に縮み上がり、彼女の腰がびくっと浮いた。  
「やああ!」  
 太ももできつく頭を挟み、締め付けてくる。  
 両の耳を完全に塞がれて、ぴちゃぴちゃと、粘液の音がエドワードの頭にこもる。そのまま  
我を忘れて舐め続けた。すぐに唾液が彼女の蜜となじんで、味も分からなくなる。  
 最初は微妙に押し戻しが効いて出し入れしにくかったそこが、突然ぐにゅりと溶けた。  
「んぃ、あっ!」  
 腿の内圧がまたぎりりとあがる。頭蓋骨がきしみそうだ。  
 もはや極上の脂身のように柔らかい内壁を、ひときわ大きな音を立てて啜ってやる。自分の  
口内の液体音が、交響曲めいてさえ聞こえた。これだけ盛大な音になっているのだから、ホー  
クアイにも聞こえているのだろうと思うと、ひどく気分が良かった。  
 半熟の黄身をつついてしまったように、蜜はあとからあとから零れて尻の方まで伝わった。  
エドワードは自分の鼻や顎が濡れるのも構わず、舌で撫で、突き、なぞった。  
 
 と、かすかに女の声のようなものが聞こえた気がして、動きを休める。いつのまにか、ホー  
クアイがなにかうわごとを漏らしていたようだった。耳と脚とにすき間を作り、ざりざりと上  
のほうをねぶったら、今度ははっきりと聞き取れた。――大佐、と。  
 確かに彼女はそう呼んだ。意味のない母音と、やめてという懇願の合間に。  
 髪をふり乱してもお構いなしの前後不覚で頭を振って、彼女は涙も流さずに泣いていた。   
「やっ、あぁあっ! も、いやっ、助けて、大佐、大佐ぁ!」  
 エドワードは身震いした。かつてないくらい、嗜虐心が奮い立たされるのを感じて。  
「そんなに――」  
 片手で自分の服を解き、片手の指を慰みに突っ込んで、彼は囁く。  
「ん、たい、あくっ、大佐っあぁ!」  
「そんなに、あの男がいいんだ?」  
 外に飛び出た分身は、脈打つ血管も膨れた先端もいつになく大きい。そのはずなのに、それ  
はいやにあっさりとホークアイの中に埋まっていった。   
   
 どろどろの胎内に、体も心も強烈に痺れて、ものを考えるのも億劫だった。  
「どこがいいのさ、あんな男」  
 浮つく彼女の腰をかき寄せ、閉じる膝を無理に割り開き、にゅぐにゅぐと安定しない結合部  
に、よりしっかり挿入しようとエドワードが突く。  
「やめときなよ、焔の大佐なんて。俺だって、あんたの事好きなのにさ」  
「ああっ、あなた、誰、あっああぁ!」  
「誰?」  
 彼はきょとんとした。  
「やだなあ、エドワードだよ――エドワード・エルリック」  
「ひぅ、うっ、嘘っ!」  
 ホークアイはほとんど消えかけた理性にすがって、精一杯凄む。  
「嘘なもんか」  
「あの子、はっ、そんな呼び方――ほの、お、の――焔のっ! 大佐なんてぇ、ええぇぅ・・」  
 緊迫感もぶち壊すほどくたくたと甘い声を出す彼女に、エドワードは思わず失笑した。  
「中尉、可愛い」  
 
 ご褒美だといわんばかりに胸を掴む。  
 生き物のように跳ねて、たわんで、ひどく艶かしい。  
「エド、わ、エドワード君は! 私の事っ、好き、な訳、そんなわけ、無あ、あっ」  
「そうかなあ」  
 エドワードは困ったように呟いた。  
「そんな事ないって。チビとか言わない優しいお姉さん。これ以上、理由なんていらないでしょ?」  
「ん、チビなんて! そんな、事ぉ、絶対、エド――くん、自分で、ぃっ、言わな・・あ、はぁああ!」  
「エド君、だって。嬉しいな、もっと呼んでよ」  
「ひ、違い、違うっ、あぁ・・ん、なた、あなたじゃ、あぁ!」  
「ちぇ、ひどいなあ、そんなに俺じゃ嫌?」  
「だ――ぅ、誰なの、ねえ、あっ、答えてッ、あ、ああ!」  
「ねえ、中尉?」  
 はふはふと息をつきながら、エドワードは微笑んだ。  
「こう見えても俺、嫉妬深い性質だからさ、時々堪らなくなるんだよ。  
あんたを組み伏せてやったら、『あいつ』、どんな顔するんだろう――って」  
 あいつとは誰なのか、ホークアイが尋ねるより早く。  
「喋りすぎたかな。そろそろ真面目にイくよ」  
 エドワードは全体重をかけてホークアイにのしかかった。  
 浅いリズムで落ち着かなく突いていただけだったのを、味わうように激しくねじり込み、抜く。  
 すると中尉は観念したように瞳を閉じた。その意味するところを即座に理解して、エドワー  
ドは物足りなく思う。体だけ開いて、心は閉ざすつもりだ。そんな宣言をされたら、いやでも  
熱くなってくるというものだ。  
 遠慮なくがつがつと貪る。ずちゅずちゅなどという可愛らしい音を通り越し、排水溝が立て  
るような、露骨に汚らしい音が始終漏れる。  
「いいよ中尉、凄い」  
 よがり続けるホークアイを何度も何度も褒めて、深く入れて、強く引いて。  
「ああ、あっ、あ、あ、ん、――ッ」  
 限界が近いのか、彼女が激しく腰をうねらせるものだから、すぐに調和がとれなくなりそう  
になる。持ち直そうと最深部に押しつけて静止したら、先をぐりっとやられて、声があがりか  
ける。  
 駄目だ。今、数度でもこすられたら終わってしまう。  
 必死になだめて休んでいたら、ホークアイが抗議するようにぎゅうっと内部をひくつかせて  
きて――  
 保たない。  
 仕方なくエドワードは、脱力までの数十秒間を味わい尽くすために、狂ったように動き出し  
た。  
「ああぁ! ああああっ!」  
 ホークアイが鳴く。いつもの彼女とはまるで別人になって。  
「も、あうっ、来る、行くよ、中尉!」  
「あ、あああっ、ひきぃっ、来てぇ――!」  
 
 余韻に浸る間もなく、服を頭から被せられ、真っ暗になったところに、続けて乾いた音がし、  
手足が自由になる。  
 痺れたそこをさすりながら服を剥いだら、そこにはもう誰も、いなかった。  
 かすかに開いたドアが、きいと音を立てて、鳴いた。  
 
 
終わり   

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