橙色の乾いた太陽が西の大地に吸い込まれるころ、雑多に並ぶ露店の隙間を歩く街の人々の帰る足は速い。
その人の波の中を、ゆらりと長い髪を揺らし、これといってあてもなくぶらりと練り歩く女がいる。風がすうと吹き抜け、黄土の埃が舞い上がり、艶のある黒い髪が風にさらわれる。
真珠のような白い肌も、たそがれ色の唇も、凍るように冷たい漆黒の瞳も、はちきれんばかりの胸を黒い布の隙間からのぞかせるしなやかな肢体も、とりまく雰囲気のすべてが、見る者の眼を奪う。
人が溢れる賑やかな雑踏の中で、その空間だけが異質だ。
「こりゃあいい女じゃねえか」「あんな女と一発やりてえもんだ」肩越しにすれ違う男衆が声をひそめる。女は、ラストは、瞳の中心を動かすと、唇の端でふっと笑った。
──人間など愚かな生き物だ、男など小手先で遊ぶにも値しない。それにしても退屈だこと・・・
男衆から浴びせられた、つま先から頭のてっぺんまで舐め回すような視線を、ラストは強い瞳で跳ね返した。その気迫に押され、息を飲み黙る男どもの様子に、女はにやりと笑った。
ふと、前方に強いオーラのような物を感じ取り、その方向を凝視した。背の大きな体躯のよい男が、人と人の間をぬうように歩いている。
サングラスをしているが褐色の肌までは隠せない、額に大きな傷がある。その男は存在を潜め隠すように、誰とも眼をあわさぬよう足早に歩いている。そう、ラストはこの男を知っている。
「少しは手ごたえがありそうじゃない。暇つぶしに遊んでみるのも、悪くないか・・・」
欺き笑うラストの唇になまめかしい舌が這う、それは獲物を目の前に据えた、色鮮やかな模様の大蛇のようであった。
額に傷のある男、スカーは、邪なものを感じとり、意識の赴くほうへと眼をやった。気のせいだろうか?と辺りをうかがうが、用心するに越したことはない、隠し潜めた力をその体に蓄えるように、ぴんと意識を張り巡らせた。
裏通りへと通じる細い路、このあたりは一歩裏に入ると、主に捨てられた廃屋やらあやしげな物売りが軒を連ねるスラム街だ。
スカーがその細い路の脇を通り過ぎた、そのとき、ぐいと強く腕をつかまれた。見ると艶やかに微笑む女が、しぃっと唇に人差し指をあて、「スカー、こっちへきて」と、細道の奥へ誘う。
切れ長の黒い瞳が印象的な妖艶な女だった。スカーは、いったいどういうことだ?と驚いたが、逆らえない重力のようなものに引かれ、誘われるがままに裏路地へと引きずり込まれた。
3階建ての廃ビルの朽ち落ちた玄関、その小さなホールに立つ女は、なまめかしく動く細い腰からは想像もつかないほどの、油断のならない、不気味な雰囲気をたたえていた。
「何者だ?なぜ己れを知っている」
返答次第ではただではすまさぬ、そうとでも言いたげに、目の前の女を睨みつけた。コツコツとハイヒールのブーツを鳴らす音が天井に響く。ラストはスカーに近寄ると、ゆったりと微笑んだ。
「どうでもいいことよ。それとも、この場で死にたい?」
唇をしっとりと潤ませ慕うように細めるラストの瞳の奥に、突き刺すような鋭さを感じたスカーは、差し出された女の手をぱんと払った。
ばかね、笑った女の胸元には、刺青がある。それがいっそう白い肌を浮き立たせ、妖しい光を放っていた。
への字に結ばれた口元に、ラストの指が触れた。躊躇するスカーをよそに、ラストは男のサングラスを外し、その瞳の真ん中をじいっと見据えた。女の意図するところが読めない男は、ごくりと喉を鳴らした。
「燃えるような紅い眼ねえ・・・美しいわ。おまえは命も紅いのかしら・・・?」
女が耳元で囁き、生暖かな息がスカーの首筋にかかる。絡めてくる腕の生温かさが男の体を高揚させたが、おそらくこの女は敵であろう、少なくとも友好を示すような言動ではない。
理性ではあがなえない何かが、スカーをつき動かしていた。女の放つ空気は尋常ではない。だが、誘う瞳の奥の淫靡さに、男の本能がゆらぎスカーを困惑させた。
離れろ、と顔を背けるが、女の腕がそれを許さなかった。ラストはドレスのすそをひるがえし、男の膝と膝の間にすらりと形のよい足を割りいれた。唇を男の首筋に這わせ、スカーの唇を求めてくる。
「女とは、たおやかなものだと思っていたが」
スカーは諦めたように肩の力を落とし、ふっと笑った。抱擁し触れた女の唇は、冷たい微笑をたずさえる女とは思えぬほどに温かかった。柔らかな舌が滑り、お互いを貪り求めるように激しく絡み合った。
肩と背中が大きく開いたドレスの隙間から女の柔らかな胸に触れ、手のひらで包むように強く揉みしだき、頂点にある桜色の乳首に触れきゅっとつまむと、ラストは背中を反らせなまめかしい息を喉から漏らした。
ふいにラストがスカーの股の間に触れ、はさみこすりあげる仕草をするとそれはすでに硬く大きくなっていた。男のファスナーを下ろし、生身のペニスをぎゅっと握った。
うっ・・・とうめく低い声に、ラストの股間がじんわりと温かくなった。ラストを見つめる赤い瞳は、ざわめく焔であり、地の底からふつふつと湧き上る溶岩のように熱いものだった。
ラストは自分の下唇を舐めた。スカーのペニスの先に舌先をあてちろちろと弄ぶと、そのまま根元まで咥え込み、頬をすぼませて吸い上げるように頭をゆすり上下に動かした。
さする指先がカリにかかるとき力を加えると、ラストの髪を撫でるスカーの手がぴくんと小刻みに震える。男の唇からふうと漏らす声が、ラストの動きが加速させた。より激しくしごくと、亀頭の先からじんわりと滲み出る液体を、すすり舐め上げた。
何の前触れもなく、スカーはラストの腕をつかみその場に立たせ、そのまま向きを反転させるために女の腰を振り回し、壁際へと押しやり、両手を壁につかせて、形のよい尻を後ろから捕らえた。
黒いドレスのすそをたくし上げ、女の中心へと手を忍ばせると、ショーツの上からでも湿気を帯びているのがはっきりとわかるほどに潤っていた。そのショーツの隙間から、ぬるりとした液体を滴らせた膣口を分け入り、いきなり指をずずと奥へと差し入れた。
「んっ!まだ・・・早いわ・・・濡れてな・・・イ・・・はあぁっ・・・あぁっ・・・」
喘ぎ仰け反る女の背中の下のあたり、腰を支えるスカーの腕に力が入った。スカーとていまさら女を逃がすつもりもない。
「どこがまだ早いのだ。じゅうぶん濡れているが・・・」
愛液まみれになった熱い壁をくちゅくちゅと音を立てて掻きまわし、わずかな動きもすぐに感じとる敏感な場所を、その肉壁を指でこするように抜き差しすると、堰をきったように液体が溢れ出た。
耐えるラストの膝が震え始めた。欲しいか?と、たずねる男の語尾に、なぶりいたぶるようなものをラストは感じた。無言でうなずくが、男は不服そうに「聞こえない。声に出して言え」と命令するように、同じことをたずねてきた。
執拗に責める男の指の動きに、ラストの膣から噴出する液体は、尻から太ももを濡らしていた。スカーは指を体内にとどめたまま、もう片方の手でぬるぬるとすべる後ろの穴の周りを刺激した。
そして、欲しいと言え、と強いた。とたんにラストの膣壁がぎゅうとスカーの指を締め上げた。
「あぁっあぁん・・・もう、ほ、欲しいっ・・・欲しいのぉ!あぁあんっ・・・あぁあっ・・・」
スカーの指がラストの中するりと抜けた。女は肩で息をしながら男を見ようと首をまわすが、大きな衝動に体を突きぬかれて、再び背中を鞭で打たれたように仰け反らせた。
スカーのペニスがラストの肉壁をこすり中へと押し入ってきたのだ。男はひときわ大きく声を上げた女の深いところまで侵入すると、体をぴたりと止めふうと息を吐いた。
じりじりと襲うしびれるような疼きに、ラストはきつく男を締め上げた。それが合図のように、スカーは激しくラストの尻に自分の腹を打ちつけた。
「あっあっ・・・うっ・・・ああぁ・・・スカー・・・!あぁっ」
もっと欲しい、と腰を誘うようにくねらす女の中へ、スカーは繰り返し強く、強く、自分自身を与え続けた。狂ったように喘ぐ女の襞から潮が噴出し、ぬらりと光るそれはラストのふとともへと伝え濡らした。
ラストが体を硬直させ絶頂に達した。スカーも同じように気の遠くなりそうな快楽の波に襲われていた。
しかし、そのとき、カタン・・・という小さな音が外から聞こえてきた。ざっざっと音をたて、複数人の男が声を潜めて話ながら歩いているようだ。
この場所は外からは見えない場所だが、声はそうもいくまいと、スカーは胸から息を吐くと、喘ぎ声を漏らし続けるラストの口に、自分の指をねじこんだ。
「声を出すな」と命じると、ラストは体を震わせながらうなずき、男の指を軽く噛んだ。スカーは再び腰を動かしラストの中へ沈むと、女の背中ににじむ汗を、すぅと吸い取った。
しなやかな白い体がびくんと反応し、くぐもった声が振動になりスカーの指に伝わってくる。この女をもっと狂わせてみたい、その嗜虐心が、スカーの動きに加速をつけた。激しく腰をグラインドさせると、ラストの体が再び硬直した。
「はぁっ・・・いいぃ!!あぁあああぁっ・・・また・・・い、イクぅっ・・・っ!」
口を封じられることでラストは呼吸をするのが苦しく感じ、遠のき朦朧とする意識の中で、スカーのペニスを強く締め上げ、どんっと突き上げられるような絶頂に達した。
ラストの足がカクカクと震え、崩れるように力を失った。スカーは女を腰を抱きとめ、幾度か腰を動かすと、耐えていた下半身が浮き立ち爆発するような感覚を、一気に開放した。
くっと小さな声を漏らし、ひくひくと痙攣する女の壁を分け入り押し込め、白濁した液体を女の中へとすべてを放出した。
肩で息をしていたラストの口元が、引きつるように歪んだ。ふいに立ち上がると、いぶかしがるスカーを見たのち、意味ありげな笑いを浮かべた。
その直後、強い衝撃がスカーの腹を打った。遠くかすんでゆく意識の中で、冷たい地面の感触をスカーは感じていた・・・
闇がすべてを支配する暗夜に、蒼い月の光を受け、氷のように澄み青白い光を受ける女が窓の外を見つめている。昼間はにぎやかな街も、とうに闇に飲み込まれた。
「傷の男に会ったんだって?なんで殺さないのさ?」
エンヴィーが半ば呆れたような声を出し、ラストをのぞきこんだ。さあ?気まぐれよ、と微笑するラストの口元から真っ赤な舌がのぞく。
あまり派手に動き回るようなら始末しなければね・・・と、腕を組み、窓の下を見つめるラストは、長い睫を揺らし静かに瞳を伏せた。しばらくして、ドレスの裾をふわりとひるがえし、くるりと体を返した。
「まったくよくわからないね。ラストおばさんは気まぐれで・・・」と肩をすくめるエンヴィーを、ラストは横目でちらりと見てゆったりとした動作で、一歩足を前に進めた。
ラストの豊かな黒髪がなびき、エンヴィーの鼻先をすっとかすめる。冷たい廊下に軽い足取りのラストの足音が響き、やがて消えた。
おしまい