酔いも醒めるとは正にこの事。ロイは自分の副官の、
日頃からでは想像できない言動に、アルコールが一気に抜けたように感じるほど動揺していた。
彼女を抱きかかえて、屋外の花見場から大佐室まで全速力で駆けてきたから、
更に動悸が激しい。最近デスクワークが多くて体が鈍っているのだろうか。
リザをソファに下ろすと、その場にへたり込んで床に手をついた。
「たいさぁ? お姫様抱っこだけじゃ嫌ですよぉ?」
酒のせいで上機嫌の彼女は、またもや誘うような言葉をロイに聞かせた。
玉を転がすように笑ってこちらを見つめている。存外意識ははっきりしているようだ。
「君ね、発砲はイカンよ。発砲は。」
「あら……その原因については反省無しですか?」
リザの顔から笑顔が消えた。酔っているのはフリだったのだろうか。
「……う。――その点についてはだな、その……たまたま隣にいたのが女の子だっただけでな、
例えば彼女じゃなくてブレダ少尉だったとしても、私は歌のノリに合わせて肩を組んでいたとおも……、」
「言い訳は結構。行動で誠意を見せて下さい。」
最低二回はイかせると約束をさせられて、戦いの火蓋は切って落とされたのだった。
キスをしていて気づいたのだが、やはり彼女は相当酔っていると思う。
絶好調にがぶ飲みしていた自分よりも酒臭いのだ。記憶の糸を手繰り寄せてみると、彼女は一人隅っこで黙々と、数種の酒をちゃんぽんしていたのを思い出した。量で言えばロイの2.5倍くらいだ。
ただ単に酔っているのなら別に構わないのだが、触れて返ってくる声が嬌声じゃなくて笑い声なのは、少々切ないものがある。
「ふふっ……気持ちいー。」
「君な、温泉じゃないんだから……、」
「マスタング温泉へようこそっ。当店は年中無休24時間営業でございます。お客様のお好きな時間に温まりに来て下さい! ――もー、仕事さえなければ私毎日行っちゃいます。」
「毎日は私の体がもたんなあ。」
「そういう時は私が上で動きます。1ラウンド1,2時間で一日6回が理想だわぁ……。」
「リザっちゃん、それはヤり過ぎと言うのだよ。」
「だーかーらー、他の女とは絶対にヤらせませんからねっ!」
たまにどちらかの家で酒を飲むことがあって、酔いが回ったうかれ気分で冗談を言い合うことを稀にするのだが、リザがここまで喋るのは初めてだ。彼女は寧ろ冗談より説教しだす方が多い。
「約束、する。」
もう一度ロイはリザの口唇に自分のそれを寄せた。舌を差し入れると優しく応えてくれる。
始めはお互いソフトにしていたが、彼女の腕を首に絡められてからは、昂ってきたせいで些か乱暴になってしまった。
漏れ聞こえるリザの声は、もう笑いを含んでいない。
時折、感じる部分に触れたせいだろう、体全体が驚いた時のように跳ね上がった。
接吻を続けながら、手で胸や腹部を愛撫した。反応はいつもより大げさで、飲酒の効果なのかもしれない。
口を離して舌を首筋に這わせると、早速喘ぎ声を耳にした。
もはや職場であることを忘れているのだろう。
出だしからこれだけ声が出るなら、挿入後はもっと良い音色で鳴くのだろうと思うと、俄然気合が入るというものだ。
服を脱がしてうつ伏せにさせる。
指先で触れるか触れないかのところを撫でまわし、背骨にそってキスを落とした。
「あっ…、」
彼女は全身性感帯と言ってよく、どこを攻めても良い反応があるので、時間や気分に余裕がある時は、
ねっちりと全身隈なく愛撫することもある。今回も我慢が続く限りそうすることをロイは決めた。
かなり感じる状態である今、少々辛い思いをさせるかもしれない。
首、背中と続いてそのまま順に腰、臀部、脚、と体の裏側を時間をかけて丁寧に愛撫した。
シラフの時に舐めようとすると殴られる足の指さえも、ゆっくり攻めることが出来た。
「たい…さ……、もう…ほんと無理です、早く……、」
「駄目だ。まだ半分だよ。」
仰向けにさせ、踝から膝頭まで一気に舌を這わせると、すすり泣くような声が聞こえた。やはり焦らしが辛いのだろう。
「早く……入れてください、たいさ、早く……してぇ……、」
懇願を無視して太腿を攻めていると、視界にリザの手が飛び込んできた。
自分の指で慰めようと、指は花弁を弄っている。
ロイは口も手もリザから離して、黙って彼女の行為を眺めていたが、
指が二本に増えたところで、手首を掴んで邪魔をした。
「まだだよ。」
濡れた指を咥えて、愛液を舐め取る。リザの空いている方の腕は、目元を覆っていた。歯を喰いしばっている。
しかしロイはそんな様子のリザには構わず、腹部や胸部に跡が薄く残る程度のキスを無数にした。
着替えの時に困るらしく、付けようとすると怒られるのだが、今は全く気づいていないようだ。
先刻は彼女の嫉妬・所有欲が花見の席で発揮されたのだから、
着替えの短い瞬間に極少数の人間に見られる可能性がある、
ただそれだけのリスクならこちらが同じ所有欲を顕しても構わないだろう。服に隠れる所に限れば問題はない。
身勝手な男を体現しつつ、体に朱を落としてゆく。乳房を揉みしだく手に力を込めると、嬌声が一層大きくなった。
「そろそろ……。」
茂みに手を伸ばすとぬるりとした感触があって、秘唇は充分すぎる程潤っている。
先程もリザの指に絡みついたものの量は多かった。
ロイはその粘液で指先を濡らし、陰核をそっと擦った。
「ふ……あぁ……、」
ロイの指先が触っている部分が蕩ける様に熱くなってきて、リザはふわふわと浮くような感覚の中を漂っていた。
酔いや眠気とは別の意味で意識がとびそうだ。すでに半分途絶えている。
「――!」
突然まわりの景色が鮮明に感じられ、しかしそれは一瞬のことで、次には火花が散るように意識がホワイトアウトした。
ロイが突然、一気に挿入したからである。散々焦らされて限界を超えた状態で奥まで太いものが押し入ってきたものだから、迂闊にも絶頂を迎えてしまったのだ。
「……卑怯だわ。」
絶頂を迎えたばかりの、敏感すぎる体内で、ロイの剛直が暴れまわっている。
息も絶え絶えで、リザは抗議の声を上げた。
「二回はイかせると約束しただろう?」
「入れられて……あっ、っやぁ……すぐ……なんて、……口惜し…い。」
「危うくこっちもイきそうだったよ。酒が入ってなかったら、確実に中で出してたな。」
「きゃっ……あっ……、な……中で、出したら……ぁん…、ぶんなぐって……、」
最後まで言わせず、ロイはキスで口を塞いだ。そしてすぐにリザの体を反転させ、後背位に変えた。
「すまん、私もそろそろ限界だ。」
今までよりも勢いをつけて、最奥へ抽送を繰り返す。叫ぶような悲鳴が耳を叩いた。
ロイが射精した瞬間、リザも二度目の絶頂に達した。
何も考えられなくなっていて、何もかもがどうでもよくなっていた。
約束を守ってくれたことにだけ感謝して、後は何も言うまい。
そう思いながらリザは昏い意識の底に沈んでいった。