「いっけない、早く帰らなきゃ! あの人もメイスンもお腹すかしてる!」
イズミは買い物の帰りだった。いつもより混んでいたため帰りが遅れてしまった。
内臓に負担が掛からない程度に、いつものW.C.のスリッパで早歩きをする。
「あの馬鹿弟子ども、新しい手がかり見つけたって言ってたからね・・・。
今度来るときはウィンリィちゃんとか言う彼女も連れて来てもらいたいものよね。
二人ともちゃんとした身体でさ。・・・シチューでも作ってあげようかな。」
機械鎧を治す為に、その「彼女」の元に行っている「馬鹿弟子」達のことを想い、思わず含み笑いをする。
馬鹿弟子とかいいながらもやっぱりエドワード達が息子同然に可愛いイズミであった。
「見つけたわ・・」
突然、背後から異様な殺気を感じた。
「だ、誰だ!?」
「遅い!」
イズミが振り返る間もなく、首筋に鈍い痛みが走った。
「うっ・・・」
隙をつかれたイズミは気絶させられてしまった。
「ふふっ、これからが本番よ・・・」
「(う・・・こ、ここは?)」
イズミが目を覚ますと、辺りは真っ暗で足下以外殆ど何も見えない。
「(!!!!)」
イズミはそれ以上にとんでもないことに気づいた。
なんと自分の体に衣服が纏われていない。
「(こ、これは・・・)」
おまけに両手足は鎖でつながれ、手を合わせての錬成もできない。
イズミは訳がわからなくなってしまった。
数日前、弟子の一人であるアルフォンスが謎の連中に誘拐された事があったが、
今度は自分が同じような事になってしまうとは。
「お目覚め? イズミ・カーティス・・」
目の前から、黒いドレスを身に纏った女が姿を現した。
その黒光りするドレスからは、イズミと同じぐらい豊かな胸が大きく露出され、女のイズミですら息を飲む程美しかった。
「誰だおまえは・・!!いったいこれは・・どういうこと!!」
イズミはかつて見せたことのない、恐ろしい形相で目の前の女を睨んだ。
「まぁ恐い。そんな顔しないで。綺麗な顔が台無しよ。
可愛い仔猫ちゃん・・・」
「(こ、仔猫ちやん!?)」
イズミは困惑したが、200年以上生きているラストにとって
30代半ばのイズミなど小娘同然である。
「なにが目的!? 金ならないわよ! ウチはごく普通の健全な肉屋なんでね!」
「別に。・・・ちょっと貴女に興味があっただけよ」
ラストがつかつかと近寄り、その細く長い指でイズミの頬を撫でる。
同時に、彼女の身体がビクンと過敏な反応をする。
「こんなに綺麗な身体をして・・・人体錬成で幾つかの内臓を持っていかれたなんて
思えないわね。」
「えっ・・・?
(この女・・・、私の秘密を知っている!?)」
「気付いていたでしょ? 禁忌を犯したものはその肉体の時間まで持っていかれるって」
その言葉に、イズミはビクリとした。
確かに、イズミの外見は30代の半ばにしては異様に若く見える。
それは人体錬成の後遺症。
肉体の成長と老いる時間すらも「持っていかれ」、異常に遅くなってしまっているのだ。
その為、内臓を「持っていかれた」際の傷も、ずっと完全に治癒しないままである。
事実、同じ人体錬成を犯した彼女の弟子、エドワード・エルリックも
成長期の少年にしては肉体の成長が異常に遅い。
イズミはこの事実に気付いた時、確信した。
これは禁忌を犯した者への神が与えた呪いなのだと。
「でも、女にとってはいい事なんじゃないかしら?
肌も・・・おっぱいもこんなに張りが良くて・・・嫉妬しちゃうわ」
ラストが、いきなりイズミの豊かな両の乳房を力を込めて揉みしだいた。
「!! っひ・・・・!!」
突然の痛みと快感に、イズミの目に一瞬涙が溢れた。
だがすぐに持ち直し、ラストの顔をその鋭い眼光で睨み付けた。
「っはっ・・・・な、なにをする!!」
「何をって、わからないの?
あれ以来旦那さんとも数える程しかしていないんでしょう?」
「・・・・・・・!!」
ラストに的を突かれ、たちまちその気丈な顔が真っ赤に染まる。
事実、夫のシグとはあの日以来結婚記念日と互いのバースディぐらいしかセックスをしていない。
身体の弱いせいもあるが、自分自身への戒めだと定めていた。
「鋼の坊やと一緒ね。何でも自分に溜め込むのはいけないわ・・。
安心しなさい。とびっきりの快感を与えてあげる・・・」
一瞬、ラストの紫色のルージュに彩られた唇が三日月のように歪む。
「私は、ラスト。『色欲』そのものの存在・・・」
それと同時に、薄いピンクのルージュ程度しか付けていないイズミの唇にいきなり口付けた。
「なっ・・・ふ、むぅっ・・・・」
口付けられると同時に、イズミの口内に入り込んで来る熱い舌。
追い出そうとするが、それは代えってラストの舌と絡み合う結果となる。
「(あっ、こんな・・・! わ、私、女同士で・・・・・!?)」
徐々に、イズミの口内のスミからスミまでラストの舌が愛撫していく。
口の中を、まるで別の生き物が蠢いているように感じる。
ラストのキスは、シグのそれよりも遥かに気持ちのいいものだった。
・・・だが、それと同時に異常に冷たい感じがした。
ゾクリとした恐怖と同時に、快感の波も押し寄せ、イズミも抵抗する力が次第に抜けていった。
「(こんな・・・何故、私は抵抗できない・・・? あ、あんた・・・助けて・・・・助け・・・)」
それは正しく、女郎蜘蛛に補食されんとしている哀れな蝶だった。
気が付くと、いつの間にかイズミ自身がラストの舌を自分のそれを絡めていた。
二人の口から行き場を失った唾液が水のように流れ落ちる。
ハッと我に返り、急いで顔を背ける。自由の効かない彼女の、精一杯の抵抗だった。
「ふふっ、我を忘れるぐらい気持ち良かったでしょ・・・? 相当我慢していたのね」
「そっ、そんな訳・・・!」