仕事を整え、あとは帰るばかりとなった室内で、ロイはようやくのこと大きく  
息をついて背筋を伸ばした。連日の残業疲れに、背骨が凝り固まったように重い。  
椅子に座ったまま身をよじって窓の外を見れば、軍の建築物らしく周囲は漆黒の  
闇が覆っていた。  
宿直室からも入り口からも遠いこの部屋からは、頼りないいくつかの外灯が  
遠くに見えるだけだ。時計は既に夜半をとうに過ぎた時刻を示している。  
中央に移動して二週間以上経つというのに、未だ片付かない執務室を見回し、  
彼は苦笑した。  
単に面倒だからと先延ばしにしてきた片付けは、手伝い要員を準備してもらっても  
なお整然とはほど遠い様相を呈している。  
「君もご苦労だった。今日はもう帰って――」  
休みなさい、と続けようとした瞬間、思いもよらぬ情景に遭遇して絶句した。  
部屋の中で執務机以外に唯一利用可能なソファに座って上司の書類のチェックを  
し終えたホークアイの、日頃あまり表情の浮かばない口元に、小さな笑みがこぼれて  
いた。  
どこか楽しげに、遠くを見ている。  
「中尉、どうした?」  
「いえ、バリーのことなのですが」  
「奴がどうした」  
不意に挙げられた名にロイは辟易とうめいた。数日前の出来事を思い出す。  
公私併せて嫌な手札を拾ってしまったという再自覚と共に。  
そして何より、奴を思い起こして彼女が微笑むことが気に入らなかった。  
そうしたロイの内心など気にも留めずに、彼女は目を細める。  
「もう一人、弟ができたみたいだな、と思いまして」  
「もう一人?」  
聞き捨てならない台詞に、ロイは片眉を引き上げた。  
 
「最初の一人目が私のことを言っているならあまり感心しないな」  
「あら、どうしてそう思われるんです?」  
「そんな気がしただけだ」  
言い張った自分を、彼女が呆れた眼差しで見上げてきた。それから何を思い  
ついたのか立ち上がって隣へとやって来て、ゆっくりと腕を伸ばしてくる。  
怪訝に思った矢先、不意に優しい手つきで頭をくしゃりと撫でられた。  
子供をあやすように。  
「そうですね。似たようなものですよ」  
「だから一緒にするなと言っているんだよ。私は君の犬でもなければ、弟でもない」  
もう一度ごねるようにして念を押し、ロイは半眼で反駁した。  
「そんなことは知っていますよ」  
繰り返す彼女の表情は相変わらず涼しく、それ以上の何かを感じさせない。  
「いいや、君は知らない」  
肩を竦めて、ロイは伸ばされていた彼女の手を掴んだ。そしてそのまま目を伏せ、  
彼女の手の甲に口づける。  
「な――」  
何をいきなり、と眉をひそめかけた彼女に答えず、許しも乞わずに彼はその指を  
甘噛みした。  
突然の出来事に目を見張った彼女の間隙をつくように、何度も手の上で場所を変えて  
口づける。指先まで到達したところで、今度は指を口に含んで吸い上げる。  
「……大、佐っ!」  
叱責と共に手を引き抜こうとした彼女を掴んだ腕で引き止め、更に止めようと暴力に  
訴えようと振り上げられた左腕を、やすやすと右腕で掴んで止める。  
その間にも指への濃厚な口接けをとどめず、ロイは執拗に白い手を攻めた。  
 
痕は一つもつけずに、指先や指の間、手のひらと、ゆっくりとだが冷たい彼女の  
身体に着実に熱を灯す。  
そうしている内に怒りとは別の感情側へ彼女の表情の針が振れて眉がひそめられたのを、  
彼は上目遣いで見た。握りしめた細い左手首が、悔しさと怒り以外を耐えるように  
震えている。  
「……大佐、冗談はこれまでで」  
しかし身動き取れなくなって舌打ちした彼女の眼差しは、今なお、悪戯を許す姉の  
ような優しさで呆れまじりにロイの不埒を流そうとしていた。  
その強情さと寛大さが逆に彼女らしくて、怒りよりも先に笑みをこぼしてしまう。  
「私は弟じゃないよ、中尉。男だ」  
掴んでいた腕に力を込めて引き寄せ、多少強引に唇を重ねた。  
文句を言おうと酸素を求めたがる彼女の唇を、追いかけては貪る。歯列をなぞって  
舌を絡めて蕩けそうになるほどの甘い唾液を味わいつくした頃、ようやくにして  
彼女の唇から、熱っぽさを孕んだ吐息がこぼれた。  
それに、ロイは満足げに微笑んだ。  
日頃が冷静なだけに、彼女の場合はたったそれだけの変化でもひどく男心を刺激する。  
「知っていますと、申し上げていますが」  
口調だけが変わらず静かに、彼女自身に起こっている感情の発露を否定する。  
それでもロイは知らないふりをしなかった。  
「君の目が潤んでいなければ、引き下がったんだがね」  
飄々とうそぶきながら彼は更に強く彼女を抱き寄せ、その首筋をインナーの上から  
甘く食んだ。後頭部に手を差しいれ、パチンと音をさせて髪留めをはずすと、柔らかな  
髪の感触が手を包んでくる。  
「髪が伸びた」  
何度撫でても飽きない心地よさをこの時も確かめながら、ロイは初めて彼女を  
見た時のことを脳裏に思い描いた。会った頃は少年と見まごう短さだったそれが、  
何度か切りながらも少しずつ伸ばされてきた。その時間全てを一番近くで見てきた。  
 
「不都合でも?」  
今さら咎めなかったのはそちらだ、と言いたげに見上げてきた瞳に笑いかけ、  
柔らかな髪の頭頂部に口づける。  
「いや。そんなものはひとつも」  
なぜだろうか、自分の傍を安全だと思ってくれる証拠のような気がして、髪を  
伸ばす姿に安堵したのを覚えている。  
抱きかかえる腕の中の肢体は、いつもながらしなやかな鋼のようだった。そのくせ、  
女性らしい柔らかさを内包した身体。  
インナーをたくし上げて脇腹を撫でると、手の冷たさに抗議するように彼女の柳眉が  
ひそめられる。  
それでも銃も持ち出されなければ、手酷い拒否もない。  
つまりそれこそが許諾の意味だと知るロイは、そ知らぬ顔して抗議を無視して  
もう一度深く唇を重ねた。今度はゆっくりと彼女が応じてくる。  
絡められた先からまた熱と欲が駆り立てる。  
潔いまでに嫌な時は嫌だといい、求めることなど滅多に口にしない彼女。  
言葉を作らぬ分、応じてくれる唇が、柔らかな肌全てが、彼女の意思そのものだと  
信じられる。  
ソファに押し倒し、反動であらわになった乳房に触れた。  
質量を確かめてその中心を指で巧みに擦ると、実に敏感に立ち上がった。口に  
含んで転がせば、上方から甘い声が出かけ――次の瞬間に彼女が自分自身の手で  
口を押さえたのが見える。  
「なんだ、声を出してくれるかと思ったのに」  
「そう簡単、に――」  
させません、と言おうとした彼女の顔が不意に羞恥に歪んだ。同時に日頃にない  
切なげな高い声がその口から漏れて響き渡る。  
 
ロイの左手がホークアイの脇腹の更に下方へと滑り込み、隙をついて彼女の秘裂を  
すくうように撫でたのだ。  
とろりとした液体が、予想以上に指先にまとわりつく。  
得意げに笑って、ロイはそれでもなお意固地に濡れた瞳で睨んでくるホークアイの  
まぶたに口接けた。  
「キスだけで君を濡れさせたよ。私の勝ちだな」  
「勝ち、とか負け、とか……! っん……!」  
固い軍服を慣れた手つきで外し、自由度の上がった左手で秘裂をまさぐり、熱を  
呼び起こす。  
引き起こされる非日常の歓びに、たまりかねた悔しげな淡い喘ぎが彼女の口からこぼれる。  
ロイは彼女の熱く潤う泉に、再度指を差し入れた。  
濡れた薄布を軍服ごと足先まで引き下ろす。  
彼女の膝を押さえ、少しだけ両脇に開かせた。天井からの灯りの中で、ロイの視界に、  
滴る蜜で濡れる秘所があらわになる。  
見ているだけでとろとろとあふれてくるそれを、彼は指ですくった。蜜を産む  
その場所は今もってなお鮮やかな桃色をたたえて、中心は満たされることを  
貪欲にねだっているようにさえ思えた。  
淫蕩、という言葉が呼び覚まされる。  
存分に眼で楽しみながら、感心をこめてロイは呟いた。  
「時折君がとんでもない悪女に見えるよ」  
「失、礼ですね」  
息を荒げながらも冷静に言い返す様に、苦笑する。わずかながら嗜虐心じみたものが  
頭をもたげた。  
「まだ余裕のご様子だ」  
舌なめずりをして、ぴちゃり、と音を立てて秘裂を舐める。ちゅっと音を立てて  
尖りを吸うと、甘やかな刺激に女の全身がびくんと震えた。  
 
指先で秘部をまさぐる。まとわりつく蜜のおかげで、頻繁に収縮を繰り返す入り口から  
先は既に準備が整えられているように見受けられた。  
暖かなその内部に、ロイはゆっくりと指を進めた。差し入れながら、未だ処女さながらの  
姿を見せる入り口を舐め、力をほぐさせる。  
二本目を入れる。  
「あっ……ふっ・……」  
それぞれの指に違った動きを持たせると、それぞれに敏感に反応するのがロイに愉悦を  
もたらした。  
慎ましやかなその媚態とじっとりと汗ばんだなめらかな肌。  
冷静さを保とうと苦慮する、熱にうかされたような涙まじりの眼差し。  
ロイの欲情をあおるにこれ以上のものはなかった。  
「っん………」  
脳天を直接刺激する声が、甘ったるく官能を宣言してくる。ホークアイの白い肌が  
上気して色づき、浅い呼吸を繰り返しながら更なる快楽を欲して身じろぎし、  
ロイの指をくわえこもうとした。  
思わず喉を鳴らしかけるのを押し留め、その瞬間を見計らって、するりとロイは  
指を引き抜く。  
「………っ」  
大佐、とかすれた声で咎められた。  
腕が伸び、彼の襟を掴んだかと思うと引き寄られる。息を荒げた彼女から、  
倒れこんだロイの耳に熱い吐息と脅迫が降りかかる。  
「勝ち逃げは、駄目です」  
ここまで目じりに涙をためながら、なお選ぶ言葉がそれという強情さ。ロイは  
一瞬目を瞠り、口元に笑みを滲ませた。  
「分かっているさ」  
 
自分が楽しむために始めた行為が逆に楽しまれているのでは、と思いながらも――そうして  
彼女の思惑に乗ることはロイにとっても本意だ。  
言葉を繰り返さずに、彼女の瞳からこぼれかけた涙をすすり、軽く吸い上げる。  
既に屹立して快楽を貪ろうかと待ち構える自身を大気に晒し、彼女の両足を  
腕ですくいあげるようにして、浅く腰が浮いて露わになった花芯に、既に充分  
熱くたぎる自身を宛てがった。  
彼女の狭い胎内は、ロイを否定するかのように侵入を拒む。  
ロイはあふれてくる熱い透明な蜜をかきわけるようにして、自分の指とちょうど  
差し替えるようにして自らを埋め込んだ。  
粘着質な音が暗い室内に響いて、浅ましい彼の欲が彼女の中へと入り込む。  
「あっ、あ…!」  
容赦ない質量にぞくりと仰け反った中尉の背中に手を差し入れ、逃がさないように  
腰を捕らえてロイは奥深くへと侵入した。あふれる蜜が潤滑油となり導く。  
ざらついた熱い内部が収縮してくるたびに、ロイを痛いほど締め付けて暴発させかける。  
「中尉……」  
最後まで到達して、彼は律動を開始した。突き上げる度に繋がり合った場所が淫らな  
音をあげては理性を痺れさせた。  
彼女の弱い部分を攻めると、ついに強情の仮面を失って、甘い声が何度も彼女から  
紡がれる。  
「大、佐……! んぅ……、あっ、……!」  
ソファを掴んでいる彼女の表情がきつく歪み、鮮やかな官能が彩る。  
彼女の胎内は熱く潤み、ロイの明け渡す欲情をそのまま互いの快楽へと転換した。  
眩暈がしそうな悦びに、彼は持ち前の理性などあっさりと剥ぎ捨てて激しい律動へと  
移行する。  
 
どこまで昇りつめられるのだろうというほど、生み出される快楽に果てはなかった。  
前後不覚になるほどに繋がりあい、苛み、口接けし、言葉を忘れて彼は耽った。  
「ふっぁ……ああっ……!」  
甘く激しい声が、ひときわ大きくなる。ロイの腕に、短いながらも形のよい爪が  
食い込む。淫靡な絶頂の予感に彼女の胎内がきつく収縮した。  
飛びかける意識にロイもまた歯を噛み締めて耐えた。  
何もかも全てが、彼を煽った。  
ロイの額に浮かんだ汗が、動きとともに彼女の肌へ落ちる。  
「っ……!」  
快楽を余すところなく貪り、もはや抑えの効かなくなった猛りを、熱情のままに  
彼は放した。  
「あっ……あ――!」  
甘美な絶頂を享受したと同時に送り込まれた奔流に、彼女の理性が耐え切れずに  
全身を仰け反らせた。  
直度、ぐったりと意識を失いかけた彼女の身体を、胸に抱きしめる。爪でつけられた  
腕の傷が熱を持つ。それすらひどく愛しい。  
灼けつくように熱い息をつき、彼女の目尻に滲んだ涙と汗に、ロイは眠るように  
唇を寄せた。  
 

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