今日中に処理しなければならない書類が溜まっているというのに、気付いたら執務室からロイの姿が消えていた。司令部内を探し回ったが見つからない。  
一体どこで油を売っているのかと、イライラしながらふと窓の外を見れば、最近生まれたハヤテ号の子供を餌付けしようとしているロイの姿がそこにあった。  
「閣下!また仕事をサボって、こんなところで何をなさっているのですか!」  
「見ての通り、子犬にジャーキーを与えているんだが、この子は君に似てツンデレだね。食べてくれないんだよ」  
悪びれた様子もなく、呑気な返事を返すロイ。  
「まだ小さいんだから、硬いものは食べられませんよ。それに私に似てツンデレって何ですか意味が分かりません。ていうか、仕事してください閣下」  
拳銃を突きつけて脅しながら、ロイを執務室に連れ戻す。彼の机の上には、今日が期限の書類が山積みだ。  
「本当にこれ全部、今日中に終わらせないといけないのか?」  
「何度もそう申し上げています」  
「無理だと思わないか?」  
「途中でサボったりしなければ、今日中に終わる量だったはずですが」  
「・・・・」  
「定時までに終わらなければ、残業してもらいます」  
もう残業は確定ですね、とリザは溜息をつく。全く、上司の無能に付き合わされる部下の身にもなってほしいものだ。  
しかしロイは悪戯を思いついた子どものような表情を浮かべて提案した。  
「一つ賭けをしないか?」  
「賭け?」  
「私がこれを定時までに終わらせることができるかどうか、賭けてみないか?」  
「それであなたの仕事がはかどるのなら、考えてもいいです」  
「よし、決まりだな。賭けの内容は、負けたほうが勝ったほうの言うことを何でも一つきく、というのでどうだ?」  
「分かりました。では私が勝ったら、一ヶ月間休みなしで働いてもらいます」  
終わるはずない、と思っていた。  
 
雨が降ると無能になるロイ・マスタング大将は、時として晴れの日でさえデスクワークをサボる。  
だがしかし、いつも無能だなどと侮ってはいけない。  
例えば夕方のデートまでに仕事を終わらせたいときなど、極めて迅速に仕事をこなすこともある。そのことを失念していたリザの負けだった。  
全ての書類を処理し終えたロイは不適な笑みを浮かべて自らの勝利を宣言し、そしてリザに命じた。  
「今夜私の家に来なさい。何をしてもらうかは、そのときに言うよ」  
 
「最近いいワインが手に入ったんだ」  
夜、指示された通りにロイの自宅を訪ねると、彼は機嫌よくリザを迎えた。  
そしてリビングのソファに向き合って座り、二人分のグラスにワインを注ぐ。  
「ワインを飲むことが、賭けの罰ゲームなんですか?」  
「そうとも言えるし、それだけじゃないとも言える。君にはワインと一緒に、これを飲んでもらおう」  
ロイは小さなビンを取り出して見せた。ラベルには外国語が書かれている。当然、リザには読めない。  
「何ですか、それは」  
「先日、リゼンブール産の羊毛の輸出の件で、シン国と協議を持っただろう。そのとき久しぶりにリン・ヤオ皇帝とお会いしてね、これをもらったんだ」  
ロイは小瓶のコルクを外すと、その中身を片方のグラスにだけ、数滴垂らした。  
赤いワインに、無色の液体が混ざる。  
「陛下もランファンに飲ませているそうだよ。シンの錬丹術は医療方面に特化しているという話だが、こういう薬の開発にも利用されているらしい」  
「何の薬ですか」  
「―――媚薬だよ」  
「なっ!!」  
「味わって飲みたまえ」  
ロイはリザに媚薬入りのワインを勧め、自分はもう一方のグラスを手に取る。  
そして優雅な仕草でグラスを傾け、匂いを楽しんでから口に含んだ。  
「うん、値が張るだけあっていい味をしているな。ほら、遠慮せずに君も飲みたまえ」  
「・・・飲めません」  
「賭けに負けたほうが、勝ったほうの言うことを聞く、という約束ではなかったかね」  
「身体をご所望なのでしたら、このような薬を使わなくても、お相手いたしますが」  
「無粋なことを言うね、君は」  
ロイは気分を害したような表情になる。  
「身体を貸せとは言っていない。そのワインを飲めと言っているんだ」  
「・・・承服できません」  
「命令に逆らうのか?ならばこちらもそれなりの対応をとらせてもらうが」  
「っ・・・。分かりました」  
ロイの発する剣呑な空気に圧されて、リザはグラスを手に取った。こういうときは逆らえば逆らうほど、後で酷い目に合わされる。  
長年の付き合いで、リザはそのことを嫌というほど思い知っていた。覚悟を決めて、グラスの中身を一気に飲み干す。  
「見事な飲みっぷりだ」  
茶化すようにロイが言う。リザは睨み返す。  
「もう一杯どうだ?ああ、今度は何も入れないよ。純粋にワインだけ味わってくれればいい」  
「結構です」  
「つれないな」  
「当たり前でしょう。こんなもの飲ませておいて」  
「分かった。では機嫌を直してやるから、こっちに来なさい」  
ロイは身振りで、自分の隣に来るようにと示す。  
リザは少し迷ったが、今更抗っても仕方がないと思い、言われるまま彼の隣に座った。すぐにロイはリザの肩を片手で抱き寄せる。  
同時にもう一方の手では、まだ一口しか口をつけていない自分のワイングラスを取った。その中身を口に含んで、唇を重ねる。  
「ん・・・」  
顎に手をかけられて上を向かされ、口移しでワインを流し込まれる。  
ロイの唾液と混ざり、少し生暖かくなったその液体を、こぼさないように、咽ないように気をつけながら、リザは飲み下した。  
ロイは何度もキスを繰り返し、口移しで彼女にワインを飲ませる。  
ワインの味を楽しむような余裕は、リザにはない。だがロイのキスは酔うほどに甘い。  
そしてグラスのワインを全て飲み干す頃には、リザのすでに身体は熱を持ち始めていた。  
だがロイはリザを抱く腕を緩めて言う。  
「罰ゲームはこれで終わりだ」  
「え?」  
「私が君に与えた罰ゲームは、ワインを飲むことだった。そして君はそれをクリアした。だからこれで終わりだ。もう時間も遅いことだし、帰りたければ帰ってもいいよ」  
「・・・」  
「だがこのまま私と夜を過ごしたければ、もちろん歓迎するよ?」  
ロイはいやらしい笑みを浮かべながら言葉を続ける。  
「どうする、リザ?ちなみにこの媚薬は即効性だからね。すぐに私が欲しくてたまらなくなると思うよ?」  
ロイに言われて、リザは自分の身体がすでに火照っていることに気づいた。  
帰りたければ帰ってもいいなんて嘘ばっかりだ。最初からリザに選択肢などないではないか。  
リザは疼く身体を持て余してロイに抱きつき、彼の胸に頬を押し付けた。そして言う。  
「お願いです閣下。抱いてください」  
 
「いいだろう。抱いてやる」  
耳元で低く囁かれ、それだけで背筋がぞくっとする。  
乱暴に抱き寄せられ、唇を重ねられる。ロイの舌が口内に侵入してくる。  
「ん、ふう・・・」  
激しいキスの合間に息をつけば、口の中に残っているワインの香りが鼻に抜け、頭がくらくらしてくる。  
ロイはリザの胸元をまさぐって、ブラウスのボタンを外していく。そしてすぐに、ロイの手はブラの中にまで侵入してくる。  
乳房を揉みしだかれ、つんと立ち始めた先端の部分に彼の手のひらが擦れるたびに、言いようのない心地良さが生まれる。  
しかしロイが片方の胸ばかりを弄るので、放置されているもう一方が切なくなってくる。  
もう片方も触って欲しい。でも、恥ずかしくてそんなこと口にできない。  
リザは自分の手を口元に持っていき、指を噛んで、恥ずかしい言葉を口走りそうになるのをこらえようとした。  
しかしすぐにその手をロイに掴まれる。  
「ダメだよ、リザ。自分の指を噛んじゃ。代わりにこれでもしゃぶっていなさい」  
ロイの骨ばった指が、リザの口内に差し込まれる。  
男の太い指を銜えさえられて少し苦しいが、リザは歯を当てないように気をつけながら、それを丁寧に舐め、しゃぶり始めた。  
一方、ロイは体勢を変えてリザと向き合う形になり、リザの胸に顔を埋めた。  
放置されていたほうの胸にも、ようやく愛撫が与えられる。  
今まで片方にしか触れなかったのは、意図的に焦らしていたわけではなく、並んで座った状態ではやりにくかったからのようだ。  
ロイは左手の指でリザの口内を犯しながら、右手と口では胸を丹念に愛撫していく。  
リザも積極的に、ロイの指に舌を這わせた。しかしロイの愛撫が激しくなっていくにつれて、ただ喘ぐことしかできなくなっていく。  
そしてすっかり硬くなった乳首を指で摘まれ、揉み潰すようにコリコリと刺激されると、頭が真っ白になるような快楽が身体を突き抜けた。  
が、「痛っ」という声と同時に、突然ロイの手が止まる。  
 
「何をするんだ。痛いじゃないか」  
「あっ、すみません、閣下」  
つい、口に含んでいたロイの指を噛んでしまったようだ。  
「飼い主に噛み付くなんて、君みたいないけない子犬には、躾が必要だな」  
「私は犬じゃありません!」  
リザは反論するが、ロイは聞く耳を持たない。それどころか、何やら良からぬ事を思案している様子だ。  
「さて、どうやって躾けてやろうか。そうだな、せっかくだからこれをもっと使ってみるか」  
そう言ってロイは、テーブルの上の媚薬の小瓶を手に取った。  
「加減が分からんのでさっきは数滴にしておいたが、見たところあまり効いてないようだね。どうせだから一瓶全部いってみようか」  
「い、嫌です」  
「君に拒否権などないよ」  
ロイはリザの目の前に、ビンを突きつける。  
「これを全部飲めば、きっと君は一晩中私を求めてよがり狂うことになるだろうね。でも大丈夫、薬の効果が切れるまで、いくらでも相手をしてあげるよ。君みたいなやんちゃな子犬も、二度と飼い主に噛み付こうなんて気を起こさくなるような、きつい方法でね」  
リザは表情を引きつらせる。  
「嫌です閣下!お願いですから許してください」  
「そんなに嫌か」  
「いや、です」  
「反省してる?」  
「しています」  
「では態度で示してくれたまえ。そうすれば媚薬は免除してやってもいい」  
「態度・・・?」  
「そう。君は子犬で、私はその飼い主だ」  
「・・・」  
「君は犬らしく、飼い主の言うことをきく」  
「・・・・。変態ですかあなたは」  
「反省してないね。やっぱりこれを使う必要がありそうだ」  
ロイがビンのコルクを外すのを見て、リザは慌てて言った。  
「いえ、反省してます。言うことをききます」  
「よし。では今から、私の言うことには絶対服従だ」  
ロイは満足げに笑い、コルクをはめ直して媚薬のビンをテーブルに戻した。  
 
「ではまず服を脱いでもらおうか。ああ、下だけでいいよ。その乱れたブラウスとブラジャーは、なかなかそそるものがあるからね」  
この変態、とリザは心の中で悪態をついた。  
しかし媚薬を飲まされるのは嫌なので、おとなしく従う。  
スカートとショーツを脱いで、下はストッキングだけ、上はボタンが全て外れたブラウスと、上にずらされてすでに役目を果たしていないブラジャーという、かなり恥ずかしい格好になる。  
「次はソファに座って、足を開くんだ。君が私を欲しがっているところが、よく見えるようにね」  
どこまで変態なのだ、この男は。リザは呆れてロイを睨む。  
しかし子犬の睨みなど、変態鬼畜のロイには通用しない。むしろ喜ばせるだけだ。  
「絶対服従のはずだろう?言うとおりにできないなら媚薬だよ?」  
「くっ・・・」  
リザは羞恥と屈辱に耐えながら、ソファに座って左右の膝を少し離した。  
「もっと足を開きたまえ。それじゃ全然見えないだろう」  
今度は肩幅ぐらいまで開く。  
「もっとだよ、リザ。足を開けと命じられたら、こうするんだ」  
ロイはリザの膝の裏に手を差し込むと、両足を持ち上げて広げ、M字開脚の姿勢をとらせた。  
ちょうどロイの目の前に、すでに濡れてひくついている恥ずかしい部分が晒される。  
「いやあっ!嫌です閣下っ」  
あまりの羞恥にリザは冷静さを失い、ロイから逃れようと暴れる。  
しかし男の力には敵わない。ロイは力ずくでリザを押さえつけ、そこを目で犯す。  
「ふむ、まだ触ってもいないのに、今日は一段と濡れているな」  
「閣下ぁ・・・。もう許してください・・・」  
リザはもう半泣き状態で、手で顔を覆って羞恥に耐えている。  
しかしそんなリザに、ロイはさらに卑猥な要求を突きつけた。  
「自分で足を持ちなさい」  
「え・・・?」  
「自分の手で膝を支えて、私が良いと言うまでこの姿勢を維持するんだ」  
「そんな、できませんっ」  
「飼い主に逆らうのかね」  
「でも、本当に無理なんです。もう恥ずかしくて・・・」  
リザの目から、涙がこぼれる。それを見て、さすがにロイも気が咎めたのか態度をやわらげる。  
「仕方ないな。十分反省したようだし、これぐらいで許してあげよう」  
ロイはリザの足を押さえていた手を離し、彼女の目元にキスをして涙を舐め取った。  
「私だって、子犬を苛めるのは趣味じゃない。本来なら、子犬は可愛がってやるべきものだ」  
ロイはリザの耳たぶを優しく甘噛みし、それから腰や太腿を撫で回し始めた。  
そしてやがてロイの手は内股に入り込み、足の付け根を指先でなぞる。  
肝心の部分には触れそうで触れない、そのゾクゾクした感覚に、リザは鼻にかかった甘い声を漏らしてしまう。  
「ん・・・」  
「リザ、そろそろコレが欲しいだろう?」  
ロイはズボン越しにもはっきり分かるほど膨らんでいる自分の股間を示して言う。  
「少量とはいえ媚薬が入ってるからね。いつもより我慢がきかないんじゃないか?」  
「そんなこと・・・」  
リザの秘所はすでに十分潤い、ロイを迎え入れる準備ができている。  
だが欲しいかと訊かれて、はい欲しいです、とは言えない。  
「まだ我慢できる?」  
悪戯っぽい口調でロイが訊く。リザは恥ずかしくて、答える代わりにふいっと顔を背ける。  
「返事がないってことは、まだお預けでもいいってことかな?」  
ロイはそう言うと、再びリザの足を思い切り開かせて、そこに顔を近づけた。  
 
「閣下!何をっ」  
「挿れて欲しくなったら言いたまえ。それまでは舌で遊んであげるよ」  
ロイがペロリと膣口を舐める。  
「ひあっ!?」  
「君は私の子犬だからね。たっぷり可愛がってあげるよ。だから君も、可愛い声で鳴いてくれたまえ」  
そう言うとロイは、太ももや膣の周りに舌を這わせて、溢れている愛液を舐め取り始めた。  
だがまだ中には触れない。リザが欲しいと言うまでお預けだ。  
そして一通り愛液を舐め取ってしまうと、次にロイの舌はクリトリスに狙いを定める。  
膣の中はお預けのままで彼女を鳴かせるには、ここが一番だ。  
まずは包皮の上から、舌先でつんつんと刺激してやる。  
「んっ、あぁ・・・」  
触れるか触れないか程度の刺激でも、リザは敏感に反応する。  
ロイは気を良くして、次は尿道の辺りからクリにかけての部分を舐め始めた。  
下から上に舐め上げていって最後に舌がクリに当たると、ビクンと腰が跳ね、同時に気持ち良さそうな声が漏れる。  
クリに触れずに手前で舌を止めると、物欲しそうな声になる。  
触れたり触れなかったりをランダムに繰り返し、触れるときの強さも毎回変えてやることで、リザが刺激に慣れたり飽きたりすることを防ぎ翻弄する。  
それを繰り返しているとやがて、触れなかったときの反応がはっきりと不満そうなものになってくる。  
そろそろもっと強い刺激が欲しくなってきたようだ。  
そう判断したロイは、次の段階に移ることにした。  
舌全体を使って、その小さな器官をねっとりと包み込む。  
そして舌を器用に蠕動させてやれば、熱く柔らかな舌にクリトリスを揉み潰されて、たまらない快楽がリザを襲う。  
「ああっ!ダメです閣下!」  
耐えられず、リザはロイの頭に手を掛ける。するとロイは彼女の秘所から顔を上げて言った。  
「髪を引っ張らないでくれないか。私ももう若くないんだから、髪が減ると困るんだよ」  
「あ、ごめんなさい・・・」  
「それから、勝手に足を閉じないこと」  
ロイはリザの膝を掴んで押し開き、M字開脚の姿勢を取り直させてから、愛撫を再開した。  
再び、ロイの舌がリザのクリトリスを包み込む。  
リザはロイの髪を掴む代わりに、クッションを握り締めて快楽を受け流そうとする。  
しかし最も敏感な部分をロイの器用な舌に嬲られて、リザになす術はない。  
もうダメ、イキそう、リザがそう思った瞬間、しかしまたしても愛撫が中断された。  
「足を閉じるなと言っただろう」  
ロイはリザの足を掴んで、大きく広げさせた。  
「この体勢を崩すな」  
そう命じておいて、ロイはまたリザの足の間に顔を埋めた。  
しかし彼の絶妙な舌技に翻弄されながら身動きせずに耐えるというのは、リザにとってかなり難しい要求だった。  
クリトリスばかりを集中的に責められてイキそうなのに、無意識に足を閉じたり腰を引いたりすれば、そのたびに愛撫を中断される。  
自ら足を開き秘所をロイの前に差し出すのは耐え難い恥辱だが、ここまで責められながらイカせてもらえないというのもかなり辛い。  
恥ずかしい。でもイカせて欲しい。  
そんなどうしようないジレンマのなかで、とうとう理性が欲求に負け、リザはついにおねだりの言葉を口にした。  
 
「お願いです閣下、もうあなたのをください」  
「うん?でも君、今挿れたら保たないんじゃないか?」  
「でもっ、もう我慢できません」  
「そこまで言うなら仕方ないな。挿れてあげるから、向こうを向きなさい」  
「え・・・?後ろからするんですか?」  
「当たり前じゃないか。君は犬なんだから」  
リザはバックの体位が好きではない。というか、はっきり言って嫌いだ。  
四つん這いの姿勢で後ろからいいようにされるなんて屈辱的だと思う。  
それに背中の火傷の痕も、できれば見られたくない。  
そしてリザがバックが嫌いだということは、ロイも知っているはずなのに。  
「どうした?欲しくないのか?」  
「うぅ・・・」  
リザは躊躇った。だが結局、欲求には勝てない。ロイに背中を向けて、ソファの背もたれに手を付く。  
背もたれで身体を支えれば四つん這いにならなくて済むし、ロイの変態的な趣味のおかげで服を着たままなので、背中を見られずに済むのも幸いだった。  
「いい子だね、リザ。ご褒美をあげよう」  
優しい言葉をかけながら、ロイは勢いよく、一気に奥まで侵入した。  
「ああっ、閣下、奥がっ」  
その衝撃に、リザは髪を振り乱しながら、ソファの背もたれにすがった。  
奥まで届くので感じすぎてしまう。それも彼女がこの体勢を嫌がる理由の一つだった。  
ロイは後ろから手を回してリザの乳房を弄びながら、彼女が慣れるまで動かずに待った。  
 
「君はいつになったらこの体勢に慣れるのかな?」  
「んっ、いつになっても、嫌なものは嫌なんです」  
ロイが動かなくても、リザの内部はひくひくと蠢き彼を締め付け、快楽を生み出す。  
リザはその甘い刺激に耐えながら、首を捻ってロイを睨んだ。  
「だいたい、あなたは悪趣味なんです。いつも、人が嫌がることばっかりして」  
「そうかな。君も喜んでると思ったけど。特にこことか」  
そう言うと、ロイは胸を揉んでいた手を下に持っていった。  
「あっ、ダメです、そこは・・・」  
ロイが何をしようとしているか気付いたリザは、慌ててロイの手を押さえようとする。  
しかし制止する間もなく、ロイの手はリザの下腹部に下りていき、さっきまで散々舌で弄んでいた小さな突起を指で捕らえた。  
「そういえば、まだここが途中だったね。まずはこっちでイッとこうか」  
敏感すぎる突起を容赦なく捏ね回され、リザは背を仰け反らせて悲鳴をあげる。  
「あああ!いやぁっ!あっ、もうダメ、イクッ」  
一溜まりもなかった。銜え込んだロイの陰茎をビクビクときつく締め付けながら、数秒と持たずにリザは達した。  
しかしロイは休む暇を与えず、絶頂の余韻にひくついている彼女の中で、すぐに抽送を開始した。  
「無理です、閣下!待って、休ませて・・・」  
リザは目に涙を溜めて訴える。だがロイはどこまでも鬼畜だ。  
「大丈夫だよ、リザ。心配しなくても、可愛がってやると言っただろう?」  
酷く甘い声で囁きながら、しかしロイは容赦なく腰を打ちつけた。  
 
ソファに深く身を預けたまま、リザはぼんやりと、今何時だろうと考えていた。  
だが時計を見るために顔を上げるのも億劫なほど、リザは疲れきっている。  
最初はバックで、それから体勢を変えてもう一回、彼が満足するまで貫かれ内部をかき回された。  
そしてリザは今、行為後特有の気だるさの只中にいる。  
「リザ、まだ辛い?」  
辛くさせた張本人が、避妊具の処理を終えて戻ってきて言った。  
リザは視線だけを動かし、無言のままロイを見上げる。  
「すまない。ちょっとやりすぎたかな」  
リザの機嫌が悪いのを察して、ロイが謝る。  
そしてリザの足元にしゃがみ、まだ愛液でべたついている彼女の内股をティッシュで拭き始めた。リザは大人しく彼に身を任せる。  
汗と愛液に汚れた身体を彼に拭いてもらうのは恥ずかしいが、大事にしてくれているのだと実感できるこの時間が、リザは少し嬉しかった。  
ロイはセックスの最中はリザが嫌がることや恥ずかしがることを喜んでする変態だが、行為が終わると途端に優しくなるのだ。  
「動けるか?ベッドまで運んであげようか?」  
「ベッドよりもシャワーがいいです。だいぶ汗をかきましたから」  
リザがそう言うと、今度はタオルと着替えを取ってきてくれる。  
そんな彼の様子に、リザはふっと笑みを浮かべる。  
「何を笑っているんだ」  
「閣下って、ハヤテ号に似てますね。ハヤテ号も、私が頼んだものを持ってきてくれますから」  
ロイはむっとしたような表情になる。  
「上官を犬と一緒にするのかね、君は」  
「あなたの方こそ、人を犬扱いしてずいぶん酷いことをして下さいましたね」  
「うっ、まあ、それはだな・・・」  
「こんなものまで使って」  
リザは手を伸ばして、テーブルの上の小瓶を手に取って眺めた。  
外国語のラベルが貼られた瓶の中に、無色透明の液体が入っている。  
瓶を揺すればたぷたぷと波打つその液体は粘り気もなく、見た目はほとんど水のように見える。  
言われなければ誰もこれが媚薬だなんて分からないだろう、などと思いながら、リザは掌の上で小瓶を転がした。  
「あー、それなんだが」  
ロイが決まり悪げに口を開く。  
 
「君、もしかしてまだ気付いてなかった?」  
「何がです?」  
「それ、ただの水なんだけど」  
「・・・・。は?」  
「だから、その瓶の中身は、ただの水なんだよ。媚薬っていうのは嘘だ」  
「うそ・・・?でも、これを飲んだ直後に本当に身体が熱くなりましたよ?」  
「アルコールのせいと、あと偽薬効果だろうね」  
「じゃあこのシン語のラベルは?」  
「それはもともとシンの漢方薬が入っていた瓶なんだよ。シンを訪れたときに気候が合わなくて体調を崩していたら、リン・ヤオ皇帝が向こうの薬を手配してくれてね」  
「・・・・」  
リザは呆れて言葉も出ない。するとそんなリザの反応が面白かったのか、ロイはくっくっと笑いを噛み殺すような声を漏らした。  
「勘のいい君ならすぐに気付くと思ったんだがね。だっていくらなんでも、皇帝陛下が媚薬なんかくれるわけがないだろう?」  
ロイは悪戯が成功した子どものように、嬉しそうに言う。  
「それに本物の媚薬だったら、身体が熱くなる程度じゃすまないぞ。何なら今度は、本物を試してみるかい?わざわざシンから輸入しなくたって、媚薬ぐらい国内でもすぐ手に入るよ。それとも、私が練成してやろうか?」  
「ふざけないでください!」  
本当なら撃ち殺してやりたいところだが、拳銃が手元にないので代わりにクッションを投げつける。しかし腰が痛くて力が入らない。  
「まだ身体が辛そうだね」  
ロイはクッションをやすやすと受け止めて言う。  
「その様子じゃ、シャワーを浴びるのも一人では大変だろう。手伝ってあげようか」  
そして動けないリザの身体を、勝手に持ち上げてバスルームに運び始める。  
「ちょっ、下ろしてください閣下!」  
「大丈夫、優しくする。だから機嫌直してよ、リザ」  
 
彼の手でシャワーを浴びせられ、服を着せられ、そしてお姫様抱っこでベッドに運ばれる。  
私を扱う彼の手つきはすごく優しくて、その優しさに絆される。  
騙されて、振り回されて、意地悪なセックスに泣かされて、今度こそ本当に許さないと思っていたはずなのに。  
彼の腕を枕にして眠りに付く頃には、やっぱり許してもいいかなという気分になっているんだから、単純なものだと自分でも思う。  
「おやすみ、リザ」  
「おやすみなさい、ロイ」  
彼の息遣いと体温を間近に感じながら、幸せな眠りに落ちる。  
 
終わり  

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