若が望むなら、と着てみたはいいが  
このような女の子の服は着慣れていなくて  
太ももの周りがスースーとして落ち着かない  
国でも男物の服ばかり着ていたから、スカートなど履いた憶えは数えるほどしかない。  
エドやアルやウィンリィ、そして店員に見られている恥ずかしさに加え  
リン様からの熱い視線を感じ頬が火照る。  
 
それに堪えきれなくなり店から逃げ出した。  
人通りの多い街の通りを全力で駆け、  
途中で何人か人にぶつかったがかまわずそのまま走りぬけた。  
走り疲れてようやく我にかえった頃には随分と店から離れたところまで来てしまっていた。  
「(今、若の護衛は私ひとり…決してお側を離れてはならなかったのに…)』  
肩で息をしながらすぐに引き返そうと踵をかえすが、  
今自分がしている服装がこの国でもとても特殊で目立つことを思い出し足を止めてしまった。  
この大通りを通れば店でのようにたくさんの視線を感じてしまう…。  
素顔を曝すことさえ恥ずかしい彼女にとってそれは拷問と言ってもいい出来事だ。  
もうこんな所まで来てしまったし少しくらい遠回りしても大差は無いだろう  
そう、わざわざ人通りの多い道を選ばなくても…  
「(リン様、ごめんなさい)」  
心の中でそうつぶやいて人通りの少ない迂回路を通るために、一番近くにあった路地をめざす。  
そこは道というよりも建物と建物の隙間というような人がすれ違うのもやっとな薄暗い通路だった。  
 
頭の中を一刻も早く若のもとへ帰ることでいっぱいにしながら、  
急ぎ足で路地を駆ける。  
路地のおわりに近づくにつれだんだんと周囲が明るくなり  
路地を抜け、まぶしい光に包まれた瞬間  
ドッ  
という音と共に後頭部に鈍痛が走り一瞬目の前が真っ白になってバランスを崩した直後、  
何者かに抱きつかれた。  
「くっ、離せッ!!」  
背中からものすごい圧迫感を感じながら抜け出そうともがくが相手は大きくびくともしない。  
「くそッ!」  
辺りを見回すと周囲を数人の男達が囲んでおり、その中の一人が麻袋をかぶせてきた。  
「っあ…ッ」  
目の前が一面茶色になり次の瞬間に再び殴られ、私の意識はそこで途切れた。  
 
 
 
 
「(…いくらなんでも遅い。あのランファンがお役目をほっぽり出してこんなに長い時間帰ってこないなんて、外で何かあったのか?)」  
 
ランファンが店の服を来たまま出て行ってしまったため、  
会計を済ませたエド達は戻ってくるまでしばらくこの店を物色しながら待機することにした。  
「なあリン、遅くねぇか?ランファン」  
先ほどから上のそらのリンにエドが話しかける  
「ン、そうだネ。…少し探してくるヨ!」  
いつものように明るく笑顔をつくりながらリンは店を出た。  
ランファンは相当恥ずかしかったようで、飛び出してすぐ気配で感知できる範囲の外まで行ってしまった。  
胸の奥で何だかイヤな感じがしたが、気のせいだと自分に言い聞かせた。  
最後に見たフリルのふんだんに使われたスカートを纏い  
髪を高いところでふたつに結い上げられ、いつもより恥じらっていたランファンの可憐な姿を思い描く。  
 
「(ランファン…)」  
 
 
 
 

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