まるで曲芸師だ。軽く緊張しながらアルは息を整えた。  
「いきまス」  
息を吐いた瞬間を見計らってメイが身体を捻る。喉目掛けて蹴り出された足を腕で払う。さすがに蹴り自体は軽いが…払われた力で宙を舞うメイにさすがに見惚れた。  
「隙あリ」  
ぴたと喉元に押しつけられたクナイにアルは降参というように両手を上げた。  
「兄さんと組み手ははしてたんだけどなぁ」  
汗を腕で拭いながら腰を下ろす。アルの目の前でクナイを袖に直しながらメイが首を傾げた。  
メイはシン国に戻り急に背が伸びた。昔の小さいメイしか記憶がなかったアルは見た瞬間、えーっ?!と声を上げたのだ。約三年会って無いだけで女の子の成長は著しい。  
「型が違うとかありますカ?」  
「関係ないよ…僕の身体がついていってないだけだと思うし」  
兄さんと組み手をした自分は、鎧だった。兄さんの目の高さ、自分の腕の幅、力。人間の身体に戻り、全て変わった。  
「人間に戻れてもなかなか、兄さんと組み手する暇も無かったからな…」  
自分の腕を見る。三年でようやく納得できる筋肉がついた。だが、瞬発力や力などの加減は未だ怪しい。  
「…アルフォンス様、なんか力を抜いてるように、見えまス」  
メイに言われ苦笑いした。だって女の子だし…そう言ったら真っ赤になって照れた後、怒るのだ。この負けん気の強い少女は。  
一人で賢者の石を探しに旅に出るだけの勇気そして実力。  
アルには目に眩しく見えて仕方が無かった。  
「おいで、メイ」  
呼ばれてトコトコと近寄って来る。腰を下ろした自分の前に立たし、右手を取った。  
「リンは、なんて?」  
新しい帝位に就くリン・ヤオに国を離れてもいいかと聞く事は未だ難しかった。リンは全部まとめて面倒を見てくれると言ってくれた。そして実行しようとしている。  
その中のチャン家の娘が他国に行ってもいいかと聞くことは…誰がお前に面倒みてもらうか!という反発に取られかねない。  
まあ…リンなら分かってくれると思うが…分かってくれない人間の数の方が多い。  
「…すいませン」  
右手と左手を繋いで俯いたメイにアルは笑った。  
「急がなくていいよ。僕が帰る時に連れて行くことができればいいだけだから」  
帰る時に、連れて行く。メイの頬が赤くなった。俯いたままのメイをアルが覗き込む。  
 
「顔、赤い」  
「いじわル…」  
アルがメイの身体を引き寄せ軽くキスをした。  
 
黒い髪が軽くウェーブを残して解かれて行く。アルが楽しそうに三つ編みを解いていく。  
「柔らかいね」  
猫のような髪質にアルが嬉しそうに呟いた。だがメイはちょっと不満そうに唇を尖らす。  
「ねこっ毛は嫌いでス…」  
もっと濡れたような黒髪が良かった。リンの横に必ずいるランファンみたいな髪に憧れた。光が当たると光を反射して美しい輪ができる。そんな髪が良かった。  
自分の膝の間で白い背中を向けて呟くメイにアルは笑った。メイはなにやら髪にうるさいらしい。自覚はないだろうが。  
三つ編みを解いて背中に揃える。白い背中が柔らかい髪に覆われた。  
「可愛いよ」  
肩に顎を乗せてアルが笑う。メイが真っ赤になって俯く。この表情が見たくて返事ができない事を言っているということがバレたら…怒るかな?  
「メイ、こっち向いて」  
顎を取られて、メイが恐る恐る顔を上げる。桜色をした唇にアルが唇を重ねた。  
「…アル…フォンスさ…ま」  
「噛まないでね?」  
こくんとメイが頷き、目を閉じた。うっすらと唇が開いている。キスを待つ顔が可愛い。アルは一度その顔をしっかりと楽しんで唇を重ねた。  
 
「いいか、絶対に女の子を泣かしたらいけない」  
珍しく真面目な口調の兄さんに一瞬よく言うよと突っ込みそうになって止めた。ウェンリーはよく兄さんに泣かされてた。  
「言いたい事は、聞かないでおいてやるけど…いいか、女の子に恥をかかすな」  
今度は、意味が分からず首を傾げた。エドは少し顔を赤くしながらそれだけ言って部屋を出て行った。  
その意味は砂漠を超えながら付いて来た二人の話でなんとなく分かった。夜、小さな炎を囲みながら男三人だとどうしても、その手の話からは逃げられない。  
女って奴は…  
愚痴なのか、笑い話なのか…懐かしんでいるのか…。二人の話に加わる事は出来なかったが、良く笑って学んだ。  
女の子に恥をかかしたらいけない。  
エドは、アルにそのつもりがあるならば、メイをどうにかしてこいと言いたかったのだ。  
一度、ひどいことを頼んだ。殺してくれと。メイにしか頼めないと逃げるのを許さなかった。許す余裕もなかった。そして、泣きながらメイは道を作ってくれた。アルが消える道を泣きながら作ってくれた。  
 
だから、今、こうしてここにいる。  
 
メイを自分の腕に抱き締め柔らかいと感じる事ができる。  
「アル…フォンス様…」  
「もうちょっと…待って」  
ぴちゃという音にメイが身体を捩った。小さな喘ぎが寝室に響く。  
「もう…いヤ」  
「でも、きついよ」  
それは嘘だ。何度か夜を過ごしメイのあそこはアルに慣れた。本当は濡れただけでアルは身体を沈められる。でも、それじゃあ勿体ない。  
アルが唇で小さな芽に触れる。メイが悲鳴を上げた。  
「メイ…起きちゃうよザンパノさん達」  
「…あっ…だっテ」  
メイの声は既に涙混じりだ。ザンパノ達も同じ建物に居る。それは分かっているけど…いるけど。  
「あんっ!あっ…あんっ」  
「メイってば…」  
アルの呆れたような口調が少し笑っている。だがメイは気がつかなかった。シーツに指を立て、握り締める事で声をあげないようにするだけで必死だった。  
「もうちょっとだから、頑張って」  
「アルフォンス…様ぁ」  
指先が触れる感覚に一瞬、身体が強張り解ける。アルが確かめるように人差し指を入れて回した。  
「狭いね」  
首を横に振る。なにも抵抗は無かったはずだ。アルの指はスムーズに動いている。  
「狭いよ」  
首を横に振ったメイにアルが抗議するように今度は縦に指を動かす。メイの身体が宙に舞った。  
「…っ…んっ」  
「おっと…」  
急に締め付けた内壁に驚いたようにアルがメイを見る。  
「イケた?」  
肩で荒い息を繰り返すだけのメイを見て笑う。メイの白い身体が薄いピンクに染まっていた。  
「メイ、イケた?」  
見たら分かるだろうし、現にアルの指を締め付けた強さは未だ収縮を繰り返している。メイは身体を捩ってアルから顔を隠す素振りをした。  
「いじわル…」  
「ひどいな…聞いてるだけなのに」  
アルの遊んでいた手が伸びた。メイのようやく膨らみ出した乳房を飾る蕾に触れる。メイがいや、と言うようにその手を掴んだ。構わずアルがその蕾の先を爪で引っ掻く。  
「んっ…」  
弾かれてメイが呻いた。甘い電流が走る。アルが面白そうに爪だけで引っ掻く。幾度も繰り返され、メイは身体にまた電流が溜まって行くのに泣き声を上げた。  
「起きちゃうってば…」  
止めてくれたらいいのに…。そう言いたいのに言えない。この電流を放出しなければ…自分が辛い。  
「仕方ないなぁ…メイは」  
 
アルが爪で弾くのを止めてまた、唇を芽に戻した。  
「ああ…あぁ…っ」  
指が二本に増やされる。軽く曲げた指がメイから声を堪える力を奪う。甘い泣き声が続き様に上がりアルは微笑んだ。  
そーゆー時の、女の泣くっーのはいいんだ。  
ザンパノの偉そうな口調が頭に浮かぶ。  
気持ち良いって事だからな。まあ…女を泣かすなんて、子供にはちと難しいが。  
話自体がはえーよっ!  
ジュルソがザンパノをど突く。笑い声が砂漠に響く。  
「メイ、止める?」  
アルが身体を起こしてメイを覗き込んだ。指は軽く動かしたままだ。メイが泣きながら小さく首を横に振る。  
「なんか、辛そうだよ」  
「…ひ、どイ」  
泣かしているのも、メイの身体を目茶苦茶に高ぶらせているのも、アルだというのに。  
「…止めよっか」  
指が止まった。メイがしゃくり上げる。口元に拳を当て、首をもう一度横に振る。アルの指が誘い込まれるようにやんわりと締付けられた。アルが笑って軽く指を動かして答えてやる。  
「…欲しいのかな」  
アルの言葉に今度は頷いた。アルのが…欲しい。  
「メイ、ひとつになっていい?」  
初めての夜…アルは同じ言葉を口にした。それから必ず、メイと身体を重ねる時、その言葉を口にした。メイが震える手でアルの腕を掴んだ。  
「…ひ、とつに…なりたイ」  
「うん、僕も」  
アルが唇を重ねる。メイはようやく身体を貫いた物に身体を任せた。  
 
「おはようございます」  
ザンパノが、洗面所で呻き声のような声を上げる。朝が苦手なザンパノには珍しくもないのでアルは顔を洗った。メイはまだ寝ている。  
「おい…」  
「なんですか?」  
ザンパノが、何かを言い掛けて止める素振りをした。  
「あーのよ」  
「なんですか」  
ふと、気がつく。昨夜…うるさかったか?  
「すいません…」  
先に謝ったアルにザンパノが頭をかきむしる。いや、言いたい事はそうじゃないんだが。なんて言っていいのか分からない。  
砂漠でいらん話をしたのは自分だという自覚もある。だが…メイの泣き方は…ちと、ひどいんじゃないかなんて、どの口が言うっ?!  
見悶えるザンパノを不気味そうに見ながらアルが首を傾げた。  
「メイに言っておきます」  
「いいっ!言わなくていいっ!絶対に言うなっ!」  
怒鳴られてアルは首を竦めた。  
 
終  
 
 

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