一般庶民にしてみれば女主人と数人の使用人たちだけが住まうにはもったいないと思ってしまうほど広く豪華な、ノースシティ郊外のその屋敷の一室。  
「情けない」  
玄関から自室に戻り、ソファーにどっかりと座ったオリヴィエは立ち上がって自分を迎えた巨漢の部下を冷ややかなまなざしで一瞥して一言吐き出した。  
怒鳴りつけられるよりよっぽど恐ろしい反応をされたバッカニアは太い首をすくめる。  
アームストロング家の可愛い末妹キャスリンがロイ・マスタングの部下との見合いの席で「アレックスお兄様みたいな人が好きなんです」と主張し、見事相手を振ったことを聞きつけたオリヴィエが  
「なら私の部下はどうだ、体格は似ているしあの腑抜けより中身もマシだ」  
と信頼する部下、バッカニアを引き合わせたのだが……何故かバッカニアはらしくもなく妙にもじもじして口数少なく、結局キャスリンに「お兄様みたいにおしゃべりの上手な楽しいお方が好きなんです」とこれまた見事に振られたわけで。  
「はあ」  
目の前の部下のらしくなく視線を反らす態度と語尾がはっきりしない返事に、弟の短所に似た軟弱さが透けて見えてさらにむかつきながらオリヴィエは口調をきつくして問いただす。  
「だいたい貴様があんなうじうじした態度ではふられて当たり前だろうが。らしくないにも程がある」  
「…その、普段ブリッグズで男まみれな環境なせいか、女性と対面して話すというのにどうも慣れないもので」  
しかも、ぼそぼそと答えられた内容が見事に気に障った。  
「つまり」  
組んでいた脚を下ろし、ゆっくりと立ち上がり、  
「貴様にとって私は女じゃないという訳だな」  
そう唸る青い瞳が剣呑に光り、放射される殺気にバッカニアは己の失言を悟り顔色を失う。  
「い、いつも『ブリッグズにおいて男女の差はない』と凄んでるじゃないですか」  
「それとこれとは話が別だ」  
背筋を凍らせながらなんとか絞り出した反論を間髪入れずにはねつけ、オリヴィエが手袋を外す。  
続いて軍服の上着を、黒のアンダーシャツを、ズボンを脱いでソファーの背にに放り投げブーツは揃えて床に置いて、テーブルを回り唖然としたままのバッカニアの目の前に立ち腰に両手を当てて胸を張る。  
豊かに盛り上がった胸元と臀部を隠しつつ飾るのは白い肌に映える鮮やかなワインレッドの揃いの下着。同じ色のガーターベルトで吊られた絹のストッキングは黒。  
「見ろ。女の体だろうが」  
何故かやけに誇らしげかつ挑戦的な笑みで告げられ、命令どおりにしたあとはすぐに目をそらすべきだと分かっていつつ動かせないまま、バッカニアは答える。  
「そうですな」  
その視線を快く感じながらオリヴィエは彼の軍服の襟元に手を伸ばした。指先が巧みに素早く合わせの下の隠しボタンを上から下まで全部外す。  
つややかな白い肌と繊細なレースに包まれた乳房の深い谷間に思わず見とれていたバッカニアだったが、上着の前を大きく開かれ肩口から引き下ろされるに至って我に返る。  
 
「し、少将閣下」  
「何だ」  
平然と上着の袖を彼の手首から抜き取るオリヴィエが答え、両手で彼のほおを挟んで顔を引き下げじっと目をのぞき込む。  
その瞳の迫力に呑まれそうになりながらもバッカニアは声を振り絞った。  
「ご冗談は、そのくらいに」  
なけなしの自制心を総動員しての抗議だったが、そのくらいでたじろぐ相手ではない。  
「貴様冗談で済ませる気か」  
「いっ、いや済ませるってその」  
いつも同輩たちと「あんなおっかないのメスじゃねえー」だの「心まで氷で出来てる女王様」などと軽口をたたいているが美しい金色の髪に白い美貌に官能的な紅い唇に憧れていないわけではなく、…実のところ、いわゆる「夜のおかず」にしたことも一度や二度ではないわけで。  
その相手が自ら下着姿にというのは非常に嬉しくも有り難いシチュエーションだがいやしかしもしかして何かの罠だったりしないか、と戸惑う彼の気も知らず、にっこりと、おそろしく美しい笑みを浮かべたオリヴィエが付け加える。  
「だいたい私だけ脱いだんじゃ不公平だろうが」  
「閣下が勝手に脱いだんじゃないですか」  
「やかましい」  
ばっさりと切り捨てると同時に強引に顔を寄せ、この期に及んで無粋な文句を言うのはこの口か、と己の唇でふさぐ。  
すぐ目の前、初めての距離に近づいた髪と素肌から何かは分からないがとにかくいい匂いがして押しつけられた唇は何度も想像したのよりずっともっと熱くやわらかく甘美な感触で。  
あまりの状況に思考が止まったまま、唇が離れると同時に背後の椅子に座り込んだバッカニアのアンダーシャツの裾をオリヴィエがズボンから引き抜いた。頭と両腕から強引に脱がせて、左肩、生身の肉体と鋼の義手の境に指を置く。  
「機械鎧とは想像以上に冷たいものだな」  
新型の武器を確認するときと同じ、真剣な好奇心に満ちた表情をして巧妙に創られた鋼の線を上腕部、ひじ、下腕へとたどり、手首を持って肘を曲げたり伸ばしたり手を結んでは開かせたりして部品の動きをまじまじと観察する。  
と、生身の右手を脚の横から持ち上げて自分のほおに押しつけた。  
「手が熱い人間は反対に心が冷たいと聞くぞ。私より貴様の方が『氷』の二つ名にはふさわしいんじゃないか」  
思いつくままに戯れ言を口にしながら空いている方の手で止める間もなく相手のズボンのボタンを外しジッパーを下げた。下着の中ですでに血液を集めて堅くそそり立っているものをつかみ出す。  
「少将閣下!?」  
呼んで、両脚の間にある白い肩を押し退けようとしたバッカニアだったが、床に両膝を着いたオリヴィエから眼光鋭くにらみ上げられると哀しいかな条件反射で動けなくなる。  
いつもは恐ろしいものなど何もないと言いたげな態度の強面の彼の、妙に純情な反応が楽しくてたまらない。見たこともないほどに真っ赤になって硬直している相手の様子に含み笑いを漏らしながらオリヴィエは問いかける。  
「どうなってるか言え」  
唇の両端が持ち上がり、上目遣いの青い瞳が嗜虐の愉しさにきらきらと光っている。  
急所をつかまれている上にこういう表情をしているときの彼女に逆らってもいいことはないという経験則のもとにバッカニアはためらいながら口を開く。  
 
「勃って…ます」  
「何故だ?」  
「閣下の下着姿を見て、キス、したからです」  
容赦のない追い打ちにもうこれ以上は勘弁して下さい、と最早悲鳴に近い声で訴える。  
もう少し追求してみたいところだが虐めすぎてその気を無くされるのも面倒かと考え直してオリヴィエは顔を伏せた。  
牡の根本に口づけて、ぬめる桃色の舌を出し見せつけるようにゆっくりと舐め上げる。  
その何度も妄想してきた光景をもっとよく見たくて、バッカニアはオリヴィエの端麗な横顔を隠す金色の髪をおそるおそる背中の方にかきやった。  
下腹に熱い吐息が触れ、ふっくらと厚く柔らかな唇が音を立てて張りつめた自分に何度も吸いつき、刺激する。白く長い五指が幹の根本から中程までをつかんでしごき上げながら、もう片方の指先が根本のさらに下の袋をあやすように転がす。  
しばらく口と手の両方で丹念かつ熱心に愛撫していたオリヴィエがふと口を離し、呼吸を整えながら彼を見上げた。上気した目元と潤んだ青い瞳の妖艶さに思わず見とれる彼の表情に目を細め、思い切り口を開いて牡をくわえ込む。  
根本近くまで熱い口腔に包み込まれたまま先端に舌を使われた途端に、自分でも驚くほど早く、こらえるのも間に合わないほど急に限界がきた。  
根本を支えている指に跳ねるような律動を感じた次の瞬間、オリヴィエの喉の奥に熱い粘液が勢いよくぶつかる。  
「っ」  
出す方と受け止める方、両方の呻き声が重なった。  
最初は反射的に、結果的に全部飲み込んでオリヴィエは顔を上げて大きく息をつき、手を伸ばして命じた。  
「…水」  
白い喉が動いて、自分が放ったものを嚥下していくのを信じられない思いで呆然と眺めていたバッカニアは慌てて飲み干していた自分のカップに紅茶の足し湯用のポットの中身を注ぎ、手渡す。  
ほどよく覚めた湯を含んで後味を流し、手の甲で口元をぐいと拭ったオリヴィエが眉を寄せたまま言う。  
「出すなら出すと先に言え」  
「申し訳ありません、…その、少将閣下のお口があまりにも気持ち良くて、我慢仕切れず」  
考える余裕もなく口走ってしまってからいくら何でも何を言うか自分、と赤面するバッカニアの様子に声を立てて笑ってから立ち上がる。  
「申し訳ないと思うのなら、今度は貴様が私を我慢できないほど良くする番だ」  
言いながら、たくましい首筋に腕を絡めて抱きついた。  
「寝室は向こうだ」  
 
とりあえずズボンと下着を履き直したバッカニアから両腕で高く抱き上げられたオリヴィエが含み笑いを漏らす。  
「お姫様抱っこって言うんだろう? こういうの」  
手がふさがっている彼の代わりに寝室のドアを開け、すぐにもう一度しがみつき直して続ける。  
「してやったことならあるがされたのは貴様が初めてだ、いいものだな」  
長身かつ筋肉質な自分が一般的な女性よりはるかに重いという自覚はあるのだ、いくらなんでも他の男には頼めない。  
そっとベッドに下ろされた彼女は体を起こして両手を背中に回し、ブラジャーの金具を外した。  
腕に滑らせた肩紐に続いてはらりと落ちたレースの下から現れた乳房の見事さに目を奪われ、思わず喉を鳴らしてしまってから  
やけに大きく響いたその音をごまかすようにバッカニアは感想をそのまま口にする。  
「立派な胸で」  
いや確かにその大きさもしっかりと盛り上がった形の良さも乳首の紅さも彼が今まで目にしてきた中で最も素晴らしいのは間違いないのだが、我ながらもう少し他に褒めようはないものか。  
語彙の少なさを恥じつつ未だ次の行動をためらうバッカニアにオリヴィエは手を差し伸べ、上向けた掌で挑発的に招いた。  
「来い」  
正直今からでも逃げたい気持ちがないわけではないが、目の前にある見事な肢体とこれを逃せば二度とないだろう機会の魅力にはやはり抗いがたく。  
毒を喰らわば皿までよとか据え膳喰わぬはなんとやらという格言を脳裏に浮かべつつ覚悟を決める。  
しかしただ誘いに乗るだけだけでは済ませられない。的確に意を汲み、時には彼女の予想以上の行動が出来なければオリヴィエの副官は務まらない。  
ベッドに上がったバッカニアはまずオリヴィエの足元にかがみ込んで薄い絹地に包まれた足の甲に口づけた。女王様の誘惑に乗るならやっぱりこうだろう、と視線を上げて様子をうかがうと  
オリヴィエが見開いた目を満足げに細める瞬間を目撃できた。  
どうやら自分の行為がお気に召したらしいことに安堵しながら体を起こし、ずっと触ってみたかった豊かな胸に手を伸ばす。  
綺麗な半球形に盛り上がった乳房は掌と指をいっぱいに使ってつかんでなお余るほどで、おずおずと指を動かすと柔軟に形を変えながらも加えた力をそのまま返してくる。  
その素晴らしい感触に酔いしれながら少しずつ揉む力を強めていく。  
 
オリヴィエは目を閉じてバッカニアの背中を両手で抱いた。胸を触られるのは好きだ。今は特に左の乳房を揉んでいる手の力の入り具合がやや強めで気持ちいい。  
自分より高い体温に煽られるように感覚が高まっていく。  
「っ」  
右の乳首を吸われ、痛くない程度に歯を立てられ弾けた快感に体が跳ねる。  
自分の胸に顔を埋めている男のよく鍛えられたたくましい背筋を掌で愛で、後頭頭を撫でながらこみ上げてくる不思議な愛しさに目を細めた。  
もっと性急で一方的なタイプかと思っていたが、こわれものを扱うように宝物を愛でるように丁寧に触れられる気分は意外に悪くない。  
つい含み笑ってしまい、その声を耳にしたバッカニアが一旦乳房から顔を離していぶかしげに彼女を見上げた。  
オリヴィエはバッカニアの後頭部から離した右手をそのまま彼の口元に滑らせる。  
「さっきからえらくくすぐったいのはこの髭か」  
そう言いながらすくいあげた指先に先端をくるくると巻く。  
唇を尖らせてはいるがその視線は柔らかく、だからバッカニアもあごを撫でて不敵に笑い返した。  
「なら剃りますか」  
「いいから続けろ」  
と胸に顔を押しつけられ、苦笑しながらもう一度乳首に吸いつく。口の中の塊を舌で、反対側の乳房の頂を指先で転がす。  
口を離して見ると体積を増して立ち上がった乳首が赤みを増し自分の唾液に濡れ光って、指でつまんでみずにはいられない。  
快感に大きく体を震わせたオリヴィエがお返しとばかりにバッカニアの耳に軽く歯を立てた。そのまま唇でくわえて甘噛みして、  
コリコリとした弾力を楽しみながら複雑な窪みの形に沿って舌先を這わせる。  
唇と舌の熱くぬめる軟らかさと痛みの一歩手前の感覚にぞくぞくしながら二つの乳房からは手を離さず、うっすらと腹筋の線が浮かぶ腹に顔を滑らせて臍のくぼみに舌を入れてみた。  
不快さと紙一重の刺激が下腹部のさらに奥に驚くほど響いてオリヴィエは思わず体をよじる。込み上げる感覚が堪えがたくてバッカニアの髪をつかみ顔を引き離した。  
「そこは、嫌だ」  
訴える声がすねたような甘えるような響きを帯び、いつもなら反射的に背筋を伸ばさずにはいられない眉間に皺を寄せた表情も今は見違えるほどに艶めかしい。  
せっかく弱い場所を発見したんだからもう少し続けてみたい気分を押さえて彼女の下腹部を覆い隠す下着に手をかける。  
一瞬身震いのように走った緊張を振り切るように引き下ろし、脚から抜き取って折り立てた膝頭に口づけて、押し開く。  
白い太腿の最奥、髪と同じ色の淡い茂みの下に、上の唇と同じ色の入り口がのぞいた。  
ひざの間に体を割り込ませて顔を近づけて、もっと奥まで開いて見たくて差し込んだ二本の指先を愛液がとろりと濡らす。魅惑的な割れ目の上方の突起に指先で触れると  
オリヴィエが甲高く声をあげた。  
 
「っあ、ん…はぁっ」  
軍服を脱いだ直後からひそかに疼いていた場所を他人の指で強くいじられ、快感が弾ける。  
それまでずっと押し殺しているのが明らかだっただけにその歓びの声はたまらなくバッカニアを興奮させる。  
一度出されたというのにさらに自分がいきり立つのを感じながら濡れ光ってひくつく襞に誘われるように顔を寄せ、  
弾力のある入り口を舌先でなぞってから力を込めて差し込んだ。  
濃厚なオリヴィエ自身の匂いに本能が刺激されるのを感じながら複雑な中の襞を舐めしゃぶる。  
舌の上に広がる彼女の味はぬぐってもぬぐっても溢れて止まらない。  
存分に味わってから舌と唇を上げ、隠核に吸いついた。硬くなっている突起を力を入れた舌先でつついて転がしながら  
中には指を根本まで差し込んでざらりとした複雑な内部を探り、オリヴィエが声を出さずにはいられない場所を探り出す。  
急所を同時に攻められたオリヴィエの背筋にびりびりと痺れるような快感が突き抜けた。腰が、脚が繰り返し戦いて二本の指をきつく食い締める。  
「っ、んっ、っあ…ぁっ」  
長く続いた嬌声が途切れ、バッカニアの顔を挟むような動きで突っ張った太腿から力が抜ける。  
一気に限界に達した鮮烈な快感に意識を灼かれたオリヴィエは金属の冷たい掌が左ほおに触れるのを感じて我に返った。  
初めて肌を合わせる相手だというのにも関わらず気をやるとは、どうやら私は自覚しているよりずっと、深く、こいつに心を許していたらしいと  
苦笑に似た気分で認めながら重なってきた唇を吸い入ってくる舌の動きに応える。  
目を閉じたまま呼吸を整えようとしながら衣擦れの音を耳にして、戻ってきた強い手にベッドから背中を起こされ、抱え上げられ脚の上に座らされたオリヴィエは  
その先の展開を予想してバッカニアを軽くにらみつけた。  
「私が上か」  
相手を見下ろし、支配した気分になれるその体位は嫌いじゃないが。  
不服げな彼女に息を飲んだバッカニアはしかし、と気を取り直して言い返す。  
「俺はこの図体ですから、普通にやると相手をつぶしそうでこわいんです」  
「私はそんなにヤワじゃない」  
「俺に比べりゃ十分細いですって」  
腕も肩も胴体も、確かに華奢ではないがやはり生身の女性のものにほかならない。  
ましてや相手が憧れ、敬愛しているオリヴィエならなお少しでも苦しい思いをさせたくはないと思うのだ。  
「分かった」  
珍しく困り切った彼の表情が妙に可愛くて、自分でももっと大きいのを中に欲しくて、オリヴィエは動いた。  
バッカニアの肩を押して寝かせて、屹立の根本を指で支え、彼の視線を感じながらもう片方の手で自分を開いてあてがい腰を下ろす。  
熱い粘膜が触れあい分け入ってくる感触に押し出されるように息を吐きながら、想像以上の存在感を全部収めて。  
くたりと自分の上に倒れ込み重なってきたオリヴィエの体を全身で受け止め、バッカニアはふと疑問に思った。  
密着した胸と腹、先端から根本まできつく締め付けてくるオリヴィエの中の感触はとても気持ちいいが、じっと動こうとしない様子は少しおかしくはないか。  
 
「どうかしましたか」  
聞かれたオリヴィエは言いつくろう言葉を探しかけてすぐにやめた。隠し事をする気分じゃない。  
「ひさしぶりだからな、…少し、キツい」  
正直に打ち明けると顔を見なくても彼がたじろぐのが分かる。  
「だ、大丈夫ですか」  
「貴様がデカすぎるのが悪いんだろうが」  
さっき言われたことを表現を変えて言い返し、ゆっくりと呼吸して無駄な緊張を解こうと試みる。  
「冗談だ、…すぐに慣れる」  
そう言いながらもまだ明らかに力が入っているオリヴィエの背中をバッカニアの右手がそっと繰り返し撫でる。その指に金色の髪が絡んではとらえどころなくするりと逃げていく。  
やわらかく熱い内壁がうごめきながらきゅうきゅうと牡を締め付けてくる甘美さに、一度イっておいて良かったと思う。おかげでまだじっくりと彼女の中を味わう余裕がある。  
今、強引に突き上げたら気持ちいいだろうと想像しつつ彼は我慢強く待った。  
耳元で呼吸を聞き、体の下の厚い筋肉に全身を委ね背中を愛撫する温かな手を心地よく感じているうちに火傷しそうに熱かった粘膜同士が次第に馴染み、同じ温度になる。  
胎内をぎっちりと埋め尽くす存在にも慣れたと感じたオリヴィエは両腕に力を込めて上半身を持ち上げた。角度が変わり、それまでとは違う感触に思わず声が漏れる。  
「く、ふー…っ」  
無駄な力を逃がすために息を吐き、まだどこか心配そうに見上げているバッカニアに笑って見せ、ゆっくりと腰を上下させた。  
最初に手と口で触ったときの形状を思い浮かべ、先端の段差が引っかかりながら中を擦る感触にぞくりと背中を震わせ動きを早めて奥へと出し入れする。  
バッカニアは腰を揺らすオリヴィエの姿の淫らさに見とれた。揺れ弾む乳房と、金髪。半面を隠す長い前髪の向こうに上気してとろけた表情がのぞき見える。  
もっとよく見たくてかき上げようと伸ばした右手をオリヴィエが捕らえて掌を重ね合わせた。鋼の左手は指を絡めたまま引き寄せて、手首から下腕にかけてを乳房の間に挟み込むようにして抱きしめる。  
鋭い爪が肌を傷つけないように指を丸めながら、左腕が生身ではないことを彼は心底悔やんだ。  
先端が一番気持ちよく当たる場所を見つけてオリヴィエは少し動く速度を落とす。動く支えにしていた手を離すと湿って熱い掌がまず軽く胸を揉み、腰の線をなぞるように下りて下腹部を撫でた。  
その指先が先で金色の茂みをかきわけて奥に入り込み、隠核を捕らえてつぶすように押さえて円を描くように転がす。  
声を弾ませ、オリヴィエが強くバッカニアを締め付けた。  
「…って、くれたな」  
背中を大きくのけぞらせたまま快感に震えて、いつもよりは迫力のない目つきでそう言うオリヴィエに彼がニヤリと笑い返す。  
「先に抜いてもらったお返しを」  
生意気な返事に言い返そうとしたオリヴィエの思考は下から続けざまに突き上げられてもう役に立たなくなる。完全に火がついた、もうこれ以上は我慢できない。する気もない。  
動きを合わせ、もっと気持ちいい場所へ。一緒に。  
「っ」  
低く呻いて先に絶頂したバッカニアの脈動と熱い吐精に押し上げられるようにオリヴィエも再度達した。  
脱力して体と唇を重ね合い、二人はしばらく情事の余韻に浸った。  
 
 
オリヴィエが頭をもたげると、背中から肩を滑って流れた金色の髪が顔の両側に落ちて視界を覆う。  
与えられた濃厚なキスと唇と舌はやっぱり甘美な感触で、いつもいつまでもこうだったらいいのにと思うが。  
…が、やがて顔を離したオリヴィエは続けて体を起こし、密着したままの腰を引き離した。  
抜けていく感触にん、と声が出そうになるのを何とか殺して完全に外すと出されたものが下ってきて内腿を伝う。  
少しもったいないと思いつつ後始末のためナイトテーブルに手を伸ばす彼女の横でバッカニアも起きあがる。  
何ともいい思いをさせてもらったし、運命の悪戯だが僥倖だったことはまちがいないが、だからといってさすがにこのまま朝まで一緒にいていいとは思えない。  
そそくさとベッドを降りかけたバッカニアにオリヴィエが後ろから抱きつく。  
「気持ちよかったぞ、またやろう」  
裸の背中にやわらかく弾む胸を押しつけられて耳元で言われ、彼は真っ赤になって撃沈した。  
 
 

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