月の光が雪に反射して部屋の中を銀色に染める。
二人分の体重を乗せたベッドが大きく軋んだ。
「く…あっ、マイルズっ」
褐色の背中に白い腕が絡まり爪を立てる。
胡座をかいたマイルズの上を跨ぐ形で重なってるオリヴィエは身体を貫く物をさらに身体の奥に誘い込もうとするように腰を揺すった。
「…くそっ…足りないっ」
強く眉根を寄せたオリヴィエの顎を捉え唇を重ねる。
「これはっ…いらんっ!」
顎を捉えていた手を邪険に払われた。マイルズが小さく笑う。荒れ模様だ。
「くっ…そ…」
目茶苦茶に荒れたいのに、なにかが足りない。オリヴィエはうっすらと目を開けた。
「手抜き…してるのか?」
苦笑いで赤い瞳が揺れる。
「明日、長旅になるのではと…」
オリヴィエに途中でひっぱたかれた。荒い息の中で肩を揺らしてオリヴィエがマイルズを睨み付ける。
「申し訳ない」
赤い瞳が伏せられ、オリヴィエの腰に回された腕が身体を引き寄せる。
いつも軍服に包まれている胸ははだけてみれば、結構存在感があった。その谷間に顔を寄せ軽く吸い付いた。オリヴィエがそれを見るともなしに見ている。
「…集中できんのか」
頭の上から聞かれて、マイルズは今度は右の乳房に口付けた。
「…バッカニアが、挨拶に」
それだけ口にして、白い陶器のような乳房に似合う薄いピンクの乳首を口に含む。オリヴィエがマイルズの頭を軽く自分に引き寄せた。
「…酒を飲もう、か」
オリヴィエの指がマイルズの髪をまとめていた紐を解く。自分の胸にマイルズを抱き寄せながら呟いた。
兵士は戦いに向かう前に、残る人間と約束を交わす。
酒を飲みに行こう。
遊びに行こう。
…なんでもいいのだ。内容など。ただ、一つの約束があるだけで、それを糧に生き残る事ができるかもしれない。
「…なにがあるかわからん」
エドワード・エルリックの話を信じるなら、そして、あの地底を掘り進む人外のモノがセントラルを目指すなら。
セントラルは魔の巣窟だ。それも、多分想像すら出来ないほどひどい地獄だ。
薄汚い人間の欲望。さらにその欲望を吸い上げながらなにかを企むモノ。
「わからんことが…多過ぎる」
完全に情報不足だ。知らぬ間に爪を噛んでいた。あの馬鹿な弟はなにをしているんだ…。役立たずめが…。
ふと、手を取られて自分が爪を噛んでいたことに気がついた。
「…すまん」
気が散っていたのは自分だったか…。オリヴィエは軽く頭を振り、白に近い金髪を掻き揚げた。
「時間がない…」
マイルズの肩に手をかけ、自分に引き寄せる。唇を重ねようとしてマイルズの口元が上がっている事に気がついた。
「…なんだ?」
「いや…落ち着かれたようで」
むすっとした表情をしたオリヴィエの後頭部を捉え、マイルズは唇を重ねた。
少し厚めの唇に、かさついた唇を重ねる。薄く開いた唇からオリヴィエの舌がかさついた唇を湿らすように舐めた。その舌を絡めて軽く唇で挟む。そして自分の口に誘い込む。
「ふ…」
オリヴィエが肩から力が抜けるような溜め息を零した。背中を張り詰めていた力が抜け、マイルズに凭れかかる。褐色の肌の腕があやすように白い背中を撫でた。
「ん…っ…」
鼻で息をしながらオリヴィエが無意識に腰をくねらす。未だ突き刺したままのマイルズの物が動き、オリヴィエは軽く眉を潜めた。
唇を放すと、唾液が糸を引く。マイルズが拭こうとして、先にオリヴィエが乱暴に手の甲で拭った。
「この体勢は飽きた。」
はっきりとした口調の女王にマイルズが笑う。
「横に?」
「お前がな」
ニヤリとオリヴィエが笑い、トンとマイルズの胸を押す。オリヴィエの言わんとしている事を理解し、マイルズは自分の身体をベッドに倒した。
足を伸ばし、自分を跨ぐオリヴィエを見上げる。鋭い目付きで見下ろされ苦笑いする。
「…どうぞ」
ふん…と鼻をならし、オリヴィエはゆっくりと身体を揺らし始めた。
自分の身体の上で白い身体が弾む。月明りで白く光る金髪が大きく揺れた。
オリヴィエの顎から汗が落ちる。軽く開けっ放しの口元からは荒い息とたまに堪え切れない喘ぎしか出て来ない。
腰に手をかけ、オリヴィエが身体を沈めたタイミングに合わせマイルズは腰を突き上げる。深く挿さったマイルズにオリヴィエがのけ反った。
「くあ…っ…」
「…っ」
オリヴィエの中がマイルズを締め上げる。気を抜いたら放出しそうになり、マイルズは軽く息を吐いて逃した。
「…よ…ゆうだな」
髪が顔を半分隠したままの状態で、オリヴィエが左目で笑う。息は荒く肩が揺れる。
マイルズも軽く息を弾ませながら笑った。
「…危ない所で」
中に出してしまうところだった。それを聞いてさらにオリヴィエが笑う。
「構わん…今度は来い」
オリヴィエが上半身を伏せた。金髪がマイルズの回りを覆う。
ふと、マイルズがその髪を指に巻き付けた。
「…髪を」
唇を重ねようとしていたオリヴィエが止まる。
「なんだ」
「…髪を一房…くれませんか」
この指に巻いただけの量で構わない。明日にはこの女王はセントラルに向かう。自分は東部で軍事演習だ。
そして…この女王は、命を散らす事に頓着しない。戦火が上がれば誰も止められない。この氷の女王は自らサーベルを上げ誰よりも早く火に飛び込んで行く。
そういう女王だ。
そして、だから、ブリッグズ兵はこの女王の元に集う。命をかけて守るだけの価値があると。
命の頂点に君臨する女王…
オリヴィエ・ミラ・アームストロング
しばらく、見つめ合い、オリヴィエが軽く唇を重ねた。
「…続けるぞ」
重ねられた上半身が再び離れて行く。思わず伸ばしたマイルズの手にオリヴィエの手が重なった。指が絡む。
「来い」
片手を重ね合わせたままオリヴィエが誘うように笑った。マイルズの片腕がオリヴィエの腰を支える。
「…閣下」
女王が笑う。月明りの中で氷の様な冷たさと、鋭さで。
マイルズが絡めた指に力が入る。己についてこいと言った女王だ。もしもの時は殺してやると、断言した女王だ。
「…閣下」
マイルズは、ゆっくりと腰を突き上げ始めた。
身なりを整え、オリヴィエの部屋から出ようとした時だった。ベッドの上で窓の方を向いていたオリヴィエが呟いた。
「…約束はしない」
部屋を出ようとしたマイルズの足が止まる。
「私は、約束はしない」
マイルズが軽く目を閉じる。サングラスで隠された赤い瞳が揺れる。
「…絶対に」
マイルズはオリヴィエの声を聞きながら扉を閉めた。
おわる