※ゲーム「飛べない天使」未PLAYは中尉。  
 
 
 
「これは・・・軍事用キメラね」  
 
隠されたアトリエにそれはあった。  
不自然な色をした大きな硝子製の水槽や試験管の中には、  
こぽこぽと音を立てて見るもおぞましいモノたちがうごめいていた。  
 
 
「これで、ネムダ准将もお終いね」  
 
したり顔でほくそ笑む男の顔が容易に想像できる。また一つ、東方での自分の権限が増すことになる。  
手柄を立てたことで、上層部からの評価が上がる。  
そして何よりも、ここまで寸分狂わず男が描いたシナリオ通りに進んでいるに違いないのだから。  
 
内心ため息をついて、眼鏡の縁を指で押し上げ、マーゴット・オレンジ・ペコーはその場をすぐに去ろうとした。  
ここは余りにも生理的に不愉快なものが多すぎる。  
事実、鼻を刺すような薬品の臭いと何か饐えた臭い。  
ゆがめられた生物ともおもえないソレは、感情を通り越して本能的に拒絶反応を起こさずにはいられないもの  
ばかりだった。  
 
見るべきものは見た。  
あとはこの場を白昼の元に曝せばいいのだ。  
足早にドアへ向かおうとした彼女の足が、何かにつまづいた。  
 
チューブ?排水管?いや、これは・・・  
 
背筋に一気に悪寒が走った。  
意識するよりも先に手が動く。  
忍ばせてあった愛銃を取り出し、彼女は神業的な速さで引鉄を引いた。  
銃声と共に、ぽすぽすとくぐもった音がした。  
途端に、ヘドロのような異臭が辺りに充満する。  
「こ、これは・・・?!」  
心臓が早鐘を打ち始めた。何かか訴える。  
 
これは危険だ。すぐに逃げなければ。  
 
銃を取り出すときに投げ捨てた明かりを後ろ足で蹴り上げ、彼女はドアへまっしぐらに駆けた。  
明かりに向かって何かがしゅるるとぬめった音を立てて追っていく。  
爬虫類めいたその音が耳に届くと、彼女は更に足を速めた。  
部屋の大きさはたいしたものではない。  
だが、書架や大机などでとにかく導線が悪く、直線距離は短くともドアまでそれなりに距離があった。  
まるで障害物走をしているようだ。  
行き先をさえぎっていた机を飛び越え、ようやくドアへ着く。  
息を整えるまもなく、彼女はドアのノブを握ったそのときだった。  
 
反射的に彼女は右に飛んだ。  
ドアめがけて、まるでイカの足を思わせるそれが空ぶるのを、彼女は横目でみとめた。  
獲物を捕らえられなかったのがわかったらしい、辺りを探るかのようにイカ足はうねうねと  
動き回り始めた。  
右に左にと動くたびに、ぼたぼたと粘膜が落ち、部屋の中のヘドロ臭が充満していく。  
薄明かりの中、とっさに身を隠した書架の横で、彼女は気配を殺して蹲るしかなかった。  
 
出口は一箇所。  
イカ足がうごめく奥のドアしかない。  
だが、あのイカ足をどうするか。  
先程の銃声からして、残りの弾は5発。装填はない。他に武器となりそうなものも、  
今は身に着けていなかった。  
――だからこんな格好は嫌だったのだ。  
スーツにパンプスという動きにくいことこの上ない格好をすることを彼女は抗議したのだが、  
「潜伏調査をするにあたり、その場に溶け込み、相応しい格好をせねばなるまい」といわれ  
てはどうしようも無かったのだ。  
ネムダ准将と「十賢」ヴィルヘルム教授の癒着さえ掴めればよく、特に戦闘能力が問われる  
任務ではない、と銃のみにした自分の判断ミスもある。  
 
苛立ちを抑えようと、軽く目を閉じる。  
そうして開けて周囲を見渡した。  
イカ足はまだ、辺りをくねくねと徘徊している。まだ、こちらに気づいた様子は見受けられない。  
薄明かりにも目が慣れてきたのか、周囲の状況が少しずつわかってきた。  
 
隠れている書架を手前とするならば、まず目の前には平たい机がある。  
あやしげな器具と本が詰まれた机の右手に、ドア。  
机とドアのわずかな間に、イカ足がいる。  
その向こうにはこちらと同じような書架だ。  
 
イカ足は、おそらく先端に過ぎないだろう。  
本体が来る前に逃げなければ。  
 
もう一度、薄闇に慣れた目で机を見てみる。  
本のほかにも、無造作に薬品の瓶が置かれているのが解かった。  
――あれに、賭けてみるしかない。  
そのまま上を見上げると、僅かな明かりをもたらしていた灯りがあった。  
ちろちろと細い灯りへと管が伸びている――僅かな高配で油を供給するオイルランプだ。  
 
もう一度目を閉じた。  
気配を殺したまま、ゆっくりと銃を向ける。  
躊躇うことなく、彼女は引鉄を引いた。  
 
 
硝子が砕け散り、次の銃声で油が流れていた管を支える金具が飛んだ。  
こぼれた油が灯りに注ぎ込み、火が一瞬燃え盛る。  
イカ足が火に反応して首をもたげた瞬間、彼女は書架の影から立ち上がり、机をイカ  
足の方へ一気にひっくり返した。  
机の上にあった薬瓶が割れ、煙があがる。  
その隙に彼女はドアに体当たりするように駆け寄り、ドアを開けた。  
すぐにドアを閉め、鍵をかける。  
その場に崩れるように、彼女は座り込んだ。  
 
緊張と危機感から開放され、上がった息をまずは整えるだけ整え、  
彼女はよろめきながらも立ち上がった。  
慣れないパンプスが痛い。ストッキングには伝線どころか穴が開いていた。  
早く報告に行ったほうがいい。  
彼女とて戦場を潜り抜けた兵士だ。  
次第に足取りもしっかりとしたものになっていく。  
だが、足早に廊下を歩くその後を追っていくソレに、彼女はまだ気づいてなかった。  
 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!