私は今でも悔いている・・・あの日のことを。
ロザリーお嬢様の人体錬成を行った、あの日のことを。
ハンベルガング家の方々は、皆私にお優しい。
奥様は常に優雅で清楚で、おそらく昔と変わらないお美しさをたたえていらっしゃることだろう。
しかし、私と接してくださるときの彼女の口調は、どこか憂いに満ちている。
「いつも、ロザリーの遊び相手をしてくれて嬉しいわ。ジュドウ」
「いいえ。こちらこそ、お世話になってばかりで・・・奥様、有り難うございます」
ロザリーお嬢様は常に無邪気でお元気で、「遊ぼう!」とおっしゃっては少し強引に私の手を引っ張って行かれる。
しかし彼女もまた、時折何かを考え込むかのようにぼうっとしていらっしゃる。
「少し、お疲れのようですね。お嬢様。お部屋へお送りします」
「平気よ!まだジュドウと遊ぶもんっ」
「ははは・・・また明日、遊んで差し上げますよ」
使用人の方々は、私が部屋から出歩こうとすると必ず手を取って導いてくださる。
皆、どこか、ばつが悪そうに・・・。
「有り難う。ですが、一人でも平気ですよ」
「そういうわけには・・・ささ、ジュドウ様」
・・・このお屋敷には混沌とした「歪み」が、生じている。
それも全ては私のせい。
あの日、ロザリーお嬢様が亡くなられた。
奥様も旦那様も、あたかもこの世界が崩壊してしまったかのように落胆なさった。
私はお二人のそのお姿に耐えきれず、禁忌を犯した。
視界が闇に閉ざされ、奥様のすすり泣きが聞こえ、旦那様はおっしゃった。
「安心しなさい。君の錬成は完璧だよ。娘は我々の元へ帰ってきた・・・元の姿のまま・・・!!」
その声色は・・・激しい苦悩と落胆に満ちていらっしゃった。
(ロザリーお嬢様・・・私は、あなたを取り戻すことが、できなかった・・・奥様、旦那様・・・申し訳、ありません・・・)
私がもしもそのことに、皆様のお優しい嘘に気付いていると知られたら、おそらく全てが壊れてしまうだろう。
そのことがあまりに恐ろしく、何度もこのお屋敷を出ようと思ったが、盲目の私にはそれも叶わない。
そして、まやかしの家族、まやかしのしあわせに酔いしれている自分にこの上もない罪悪感を覚えるのだ。
おそらく、この命が尽きるまで。
「ジュドウ、今日は天気が良いわ。中庭でロザリーと三人でピクニックしましょう」
「ねっ。行こう!ジュドウ」
「はい。奥様、お嬢様」
ほんの少しだけ涙を堪えながら、私は微笑むのだ。
瞼の裏に感じる暖かい陽射しがやけに眩しく感じられた。