ふたりで元の身体に戻ること。ウィンリィが嬉し泣きすること。アルフォンスにアップルパイを食べてもらうこと。  
ホーエンハイムをきちんと弔うこと。エドワードとウィンリィがきちんと気持ちを伝えあうこと。  
その全部がひととおりすんだ夏の日。ウィンリィは夜中にエドワードの部屋をノックした。  
 
晴れて(アルフォンスやピナコはようやく、とからかったが)恋人同士になって以来、  
寝る前にウィンリィがエドワードの部屋を訪れるのは、ほぼ日課になっていた。  
アルフォンスやピナコの前では恋人同士っぽいことなんて恥ずかしくて無理だから、  
こうやってふたりきりで日中はできない色んな話をするのだ。  
旅をしていた頃の話とか、昼間の出来事とか、エドワードが呼び出されて中央に行った日はその話とか。  
あとは、手をつないだり、抱きしめあったり、キスをしたり―――  
そして頃合いを見計らってウィンリィは部屋に帰る。エドワードにおやすみのキスを残して。  
 
この1カ月のうちに、ふたりが交わすキスはだんだん深く、情熱的なものになっていた。  
最初は触れるだけのぎこちないものだったのに、舌を絡めてみたり、息もつけないくらい深い大人のキス。  
そのたびにウィンリィはどこで覚えてきたのだろう、と苦々しく思った。  
いや、どこかで覚えてきたはずなんてないことなどわかっている。  
実際ウィンリィ自身も、エドワードに応えるうちにびっくりするほど大胆なキスを試しているのだから。  
だからこそ、そろそろ「次」なんじゃないか、と彼女は思っている。  
自分からは恥ずかしくて言い出せないけれど、彼に求められたら、という心づもりはあった。  
だからこそ、こうやって毎夜、ドアをノックするのだ。  
 
ただ、その夜のノックの理由は、別の日とは少し違っていた。  
 
「おう」  
エドワードがそっけなくウィンリィを招き入れる。そのくせドアが閉まるなり、ぎゅっと抱きしめてきた。  
暑いから、とウィンリィが持参したプラムジュースとグラスががちゃりと音を立てる。  
「ちょっ…」  
「んー、充電」  
みんなの前では色気がないとか女らしくしろとか機械鎧オタクとか平気で言うくせに、意外と彼は情熱家だ。  
いつの間にかすっぽりウィンリィを覆うようになった身体に手を回し、軽くキス。  
がっつきかけた彼を制して、ウィンリィは「話があるの」と切り出した。  
 
ベッドに腰かけ、グラスに注いだプラムジュースを渡す。  
「乾杯」  
「え?」  
「いいから」  
おう、とエドワードがグラスを掲げた。グラス同士がかちゃんと音を立てる。  
「何の記念?」  
「あんたたちが帰ってきてから2カ月記念」  
うわ、と彼が呟く。「そんなんいちいち祝ってられっか」  
「あとね、もうひとつ」  
ウィンリィは覚悟を決めて切り出した。  
「あたし、またラッシュバレーに行くわ」  
声はひとつも震えずにすんだけど、なぜか怖くてエドワードの顔が見れない。  
「ほら、キンブリーさんに呼び出されて北に行って…そのまま色々、うやむやになっちゃったでしょう。  
あたしはまだ勉強しなきゃいけないこと、山ほどあるのに」  
部屋の中に沈黙が落ちる。怒らせたかな、とウィンリィは思った。  
 
しばらくたって、エドワードが静かに切り出した。  
「そうだよな。お前のこと、すっかり巻き込んで、そのままだったな。俺たち」  
「あたしは何もそんなつもりじゃ」  
「いや」エドワードの金色の眼が彼女を見る。「悪かった、ウィンリィ」  
ウィンリィは思わず泣きそうになった。ようやく一緒にいられるのに、今度は自分から出て行こうとするなんて。  
彼女の気持ちを察してか、エドワードが笑う。  
「そんな顔すんなって。お前の腕が上がると俺も嬉しいし。な?」  
彼が頭をくしゃくしゃと撫でた。  
「それに俺たちは…ってか俺は、お前を散々ほったらかしたんだ。多少ほったらかされたくらいじゃ凹まないっての」  
「何それ。偉そうに言うことなの?!」  
「おう!」  
無駄に元気な返事にウィンリィは噴き出し、エドワードに抱きついて「ありがと」と言った。  
 
「なあ、ラッシュバレーに向かうの、いつだ?」  
「今週中には」  
「そうか」エドワードがウィンリィを抱きしめたまま言う。「そんじゃ、これから忙しくなるな」  
手が頭にぽんと置かれ、今度は髪を優しく撫でられた。  
「なあ、ウィンリィ。そのー、なんだ。つまり…」  
「何よ、はっきり言いなさいよ」  
「や、つまり…さ。お前がラッシュバレーに行っちまったら、こうやってふたりで話したりもできなくなるなって」  
「うん」  
自分の顔が耳まで赤くなったのがウィンリィにはわかった。  
「ウィンリィ」  
エドワードが真剣な声で彼女を呼ぶ。  
「お前を、俺のにしちゃってもいい?」  
ぎゅうっと抱きしめられた。  
「ウィンリィを抱きたい」  
ウィンリィはようやく顔をあげる。エドワードの顔は真っ赤で、それでも金色の瞳は真剣に彼女を見ていた。だから。  
「いいよ」  
あんたのにして、と言い終らないうちに、噛みつくようなキスが降ってきた。  
 
何度も何度も角度を変えつつくちづけを交わす。エドワードは容赦なく舌を差し込んだ。  
ウィンリィがそれに応えて絡めると、彼はことさらきつく吸いつく。  
「んんっ…!!」  
息ができない、と彼女は思った。酸素を求めてもがくたび、すべてをエドワードに奪われていくようだ。  
「ちょっと、待…」  
絡まった舌から何かが流れ込んでくる。その正体が知りたくて、積極的にキスを深めた。  
重ねているのは唇だけなのに、なぜか胸や下腹部が無性にちりちりする。  
頭がぼうっとなったのは酸素が足りないせいだけだろうか。  
唇を離すと、混ざり合った唾液がつうっと糸を引いてふたりの間を結んだ。  
 
エドワードがウィンリィのパジャマのボタンをひとつずつ外していく。白くなめらかな肌があらわになった。  
柔らかそうなふくらみをまじまじと見つめ、エドワードは思わずため息を漏らす。  
「そんなに見ないでよ、バカ…」  
ウィンリィがか細い声で言った。  
「やばい。俺、泣きそう」  
「え」  
聞き返す間もなくベッドに押し倒された。金色の眼がきゅっと細まる。  
「お前、すげー綺麗」  
エドワードは笑って、ウィンリィの首筋や鎖骨にくちづけた。  
舌先がちろちろと肌をくすぐる。エドワードの長い髪も愛撫のようにウィンリィをかすめる。  
ほどなく大きな手が胸を覆った。  
 
初めて触れた乳房は、ぷるんとしてはりがあるのに、どこまでも柔らかい。  
想像以上の感触にエドワードののどがごくりと鳴った。  
握りつぶしてしまいそうで怖い。でも触れたい。エドワードはゆっくりと胸を揉みしだいた。  
白くて柔かなものが武骨な手の中でふわふわと形を変える。  
指先が桃色の頂きを擦り、悪いと言いかけたそのとき、ウィンリィが悩ましげな声をあげた。  
「ふあっ…」  
「…気持ちよかった?」  
「わかんない」  
染めた頬は言葉以上のことを示していて。  
「ウィンリィ。俺さ、こういうのしたことないから、お前がどうとか、よくわかんねえんだ」  
「うん」  
「だから、どうしたら気持ちいいかとか、ちゃんと言って欲しいんだ」  
「でも」恥ずかしい、と言いかけたウィンリィだが、エドワードの言うことも至極まっとうだと思いなおす。  
「あ、あのね…今、そこ触ったの…」  
「ここ?」  
乳首を転がすとウィンリィは小さく啼いた。  
「あの、それ、ちょっと気持ちいい…かも」  
「わかった」  
エドワードは唇で右胸を捉える。舌先で乳首を転がすと、ウィンリィの啼き声は大きくなり腰が跳ねた。  
「あっ…はあっ…」  
「ウィンリィ…可愛い」  
くすり、と笑ってエドワードが言う。ウィンリィは頭がどうにかなりそうだった。  
左の胸は大きな手に弄ばれ、右胸は赤ん坊のようにちゅぱちゅぱと音を立てて吸われている。  
じんじんとしびれるような快感に翻弄され、甘い声が抑えられない。  
 
「ね、エドも脱いで」  
エドワードのパジャマのボタンをウィンリィみずから外していく。  
彼の(というか男の)半裸など、彼女にとっては珍しいものではなかったが、  
こうして見ると、痛ましく刻まれた傷跡たちに改めて気付かされた。  
なかでも大きな右肩と左わき腹のそれに、ウィンリィは指を這わせる。  
「おい、ちょっと」  
エドワードがあわてた声を出す。ウィンリィはおかまいなしに傷跡にキスをした。  
「ちょっとだけ、おかえし」  
ふわりと笑うとエドワードが顔を真っ赤にした。  
「お前なあ、そういうの…」  
「何よ」  
「何でもない」  
「言いなさいよ」  
「…他の男の前ですんなよ、絶対」  
「するわけないじゃない!だいたいね、あたしはあんただから…」  
とんでもないことを口走りかけた気がして、ウィンリィは口元を手で抑えた。  
不慣れなことをするのは苦手だ。どうにも調子が狂ってしまう。  
「あんたのに、なりたかったから」  
「すげえ台詞」  
「本音よ」  
「本当にさあ…お前って女は…」  
エドワードは言いかけてやめると、パジャマのズボンに手をかけた。  
 
「いいか?」  
「うん」  
ズボンとショーツを脱がせる。すべらかな太股と、付け根のあわい茂み。  
身体を足の間に割りいれると、エドワードはそうっとそこに触れた。  
しっとりと湿った感触が指を覆う。くちゅりと動かすとウィンリィが嬌声をあげる。  
とがった部分をこね、嬲り、溢れた蜜を割れ目にすりこみ、潤いを利用して指を中に差し入れた。  
…狭い。  
こんなところに本当に入るのだろうかと思いつつ、少しでも負担が減るようにと丁寧に蜜を救っては指を進めた。  
「あっ…あ…やあっ…」  
幼馴染同士、ずっと一緒にいたのに、こんな声を聞くのは初めてだった。それが途方もなく愛しい。  
「もうダメ…」  
涙ながらに訴える彼女を抱きしめる。  
「つかまっていいから」  
ぎゅうと抱きしめ、それでも指を休まずに動かす。ウィンリィはエドワードの背中に爪を立てて思いきりのけぞった。  
はあはあと荒い息をつく。  
「…イった?」  
「言うな、バカ」  
涙目できっとこちらを睨む彼女は殺人的に可愛くて。  
さっきよりだいぶ柔らかくなったそこに指を這わせる。  
「挿れるぞ」  
「うん」  
「痛かったら言え」  
かっこつけたことを言いつつ、本当は我慢できそうにないエドワードはゆっくりと彼女の中に分け入った。  
 
熱く湿った彼女の中はきつい。きつさと快感、そして初めての緊張と興奮。  
「ウィンリィ、力抜け」  
「無理ぃ…っ」  
ウィンリィも辛いんだろう。ガチガチに緊張して涙をこぼしている。  
イったばかりとはいえ「女の初めて」が辛いことにはなんの変わりもないらしい。  
(俺だって辛いけど、でも)  
あまり痛い思いをさせたくなくて、やめるか?と尋ねる。  
ウィンリィは身体を少しだけ起こし、エドワードの首筋を引き寄せた。そのまま唇を奪う。  
積極的なキスにエドワードは驚いた。眼を閉じる隙もない。唇を離すとウィンリィはエドワードを見据える。  
「ここまでして、やめるとか言わないでよ」  
か細いけれど強い口調だった。  
ああ、叶わないとエドワードは思う。こんな時ですら彼女は強い。  
好きな女を組み敷いて、痛い思いをさせることに対する微かな罪悪感。  
それすら結局は男の身勝手な傲慢なのだとエドワードは痛感した。  
「優しくできないぞ、多分」  
「いいの。あんた、優しいもん」  
理性の限界、突破。  
エドワードは思い切って最奥まで自身を押し込んだ。  
 
ウィンリィが小さく悲鳴をあげる。  
少しでも痛みが和らぐようにと胸を愛撫すると、ウィンリィの声に甘いものが混じり始めた。  
「んあっ…エド」  
「どうした?」  
「エドは、気持ちいい?あたしの中…っ!あ…」  
「すげえいいよ。お前」  
「嬉しっ…」  
痛いだろうに、頭がうまく働かないだろうに、ウィンリィは笑おうとする。  
どんだけ煽れば気がすむんだとエドワードは思った。  
優しくしたいとか、あんまり痛いなら辞めてやろうとか、そういう考えが全部吹っ飛ぶ。  
「動くぞ」  
もう我慢はできない。エドワードはウィンリィを抱きすくめると激しく腰を動かした。  
 
「あ、あ、あ」  
奥を突かれてウィンリィは悲鳴のような声をあげる。身体を引き裂かれるような痛みだった。  
その痛みの奥に、何やらものすごい快感が控えているような気がして、それが欲しくて腰を動かしてしまう。  
眉根を寄せてウィンリィを見つめるエドワードは、今まで見たことがないほど色っぽい顔をしていた。  
汗をかいた素肌同士が触れ合い、ぱちんと軽い音を立てては離れる。  
ひとつになりたい。ひとつに、溶けたい。  
そう思って背中に必死でしがみついた。痛みは全くひかないけれど、それよりも愛しさが勝っている。  
「ウィンリィ、俺もう…」  
限界を訴えるエドワードに、ウィンリィはひとつうなずく。  
彼はひとつ身震いすると、彼女の中から自身を引き抜き白い腹部に精を放った。  
 
エドワードが頭を垂れ、耳元で息をつく。  
しばらく後、彼はごそごそとベッドサイドのタオルを手に取り、自分たちの身体を清めた。  
それからぎゅっと抱きしめてくる。  
「大丈夫か?」  
心配そうな顔をするエドワードが愛しくて、ウィンリィは頬に手を伸ばした。どちらからともなくキスをする。  
「ね、エド」  
「ん?」  
「あたし、すごーく幸せ」  
うふふと笑って胸板に頬を寄せると、エドワードは赤くなった。  
「お前なあ、あんまり可愛いこと言うと、さあ」  
「何?」  
「その、なんだ…」  
エドワードが目線を下げる。そこには元気を取り戻しかけている彼自身の姿。  
「うわぁ…あんた、どんだけ元気…」  
「しょーがねーだろ!男ってのはこういう風にできてるんだよ!」  
「どうすればいいの?」  
上目づかいで聞いてくるウィンリィに、それはいくらなんでも反則だろう、  
そりゃあんなことやこんなことだってしてほしいけど…とヨコシマな感情が湧きあがりつつも、  
初めての余韻に浸りたいエドワードは「まあ、気にすんな」とごまかした。  
「おいおい、色々とな…」  
「何それ」  
とりあえずは、彼女が辛くなくなってから。そう割り切って、タオルケットを手繰り寄せる。  
「あ…あたし、部屋に帰らなきゃ」  
「いいじゃん、ここで寝ていけば」  
「でも、ばっちゃんが…」  
「朝早く起きて戻れば気付かれないって」  
公認の恋人とはいえ、嫁入り前の女に手を出した後ろめたさはエドワードとてある。  
でもウィンリィは来週には修業先なのだ。ようやく結ばれた幸せを味わうくらい、罰は当たらないだろう。  
若い恋人同士は寄り添って眠りにつくのだった。  
 
翌朝早く、ウィンリィが部屋に戻るのを目撃したアルフォンスが、お祝いと言う名の嫌がらせ目的で、  
東洋での慶事に欠かせない食べ物=赤くて小さい豆を炊き込んだライスを夕食に出したのは、また別のお話。  
 
【完】  
 

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