「そう、私達は飲みすぎたのです。一夜限りの夢を楽しまなきゃ損じゃありませんか、少将?」  
ゆっくりとこちらへ近づいてくる男の手にはネクタイが握られていた。仕立ての良さそうな濃紺のそれは抜群  
の肌触りをもって視界を奪う。男の体温、匂い、息遣いがより濃く感じられる暗黒の世界に不安などは  
なかった。むしろ、とうに衣服を奪われ生まれたままの状態となった身体のそこかしこが、  
熱く疼いてしまう。豪奢なベッドに敷かれたシーツに盛大なシワをつくるほど、揺れてしまった腰を  
大きな掌に押さえつけられ、足を開かされる。露になる隠れていた女部。そこは男の巧みな愛撫により、  
たっぷりの蜜を湛えた紅色の女花が咲いていた。男の熱い溜息とひそやかな笑い声に羞恥という正常な  
意識すら働かないほど酔っ払っていることに、ひとしれず感謝する。  
「もっと飲んでください、今宵は一晩限りの宴なのですから」  
耳元を掠めた囁きと同時にぴったりと密着してきた男に口付けられる。  
強いアルコール臭のする唇からぬるんと侵入してきた肉厚な舌に口腔をまさぐられ、酔いのせいかまともに  
呼吸ができないゆえに、強制的に流れ込んでくる唾液の海に溺れそうになる。上顎をくすぐり歯列を  
なぞるたび、頭の奥に響く粘着質な水音に酔いがあおられる。口付けが激しくなってゆくにつれ逞しい胸板に  
擦られつぶれる乳房が、気持ちいい。  
「たまには淫靡な夢に浸るのもいいものです、アームストロング少将……オリヴィエ。冷徹なブリッグズの  
女王である前に、あなたは美しい一人の女だ」  
「っあ……マスタング……」  
口付けの合間に漏れ出た名を呼ぶ声は、己でも驚くほどに甘く淫らだった。  
欲していることがありありと判る声を聞いて、男はどう思ったのだろう。どんなに目をこらしたって、  
奪われた視界では伺い知ることなど出来ないが、さっきから腹に当たっている硬い熱源が更に質量を  
増したことだけは判った。  
これがひとときの夢というのなら、私はどうすればいい。  
その答えは、この場では至極最もなもの。  
 
「ロイ……早く……」  
太い首に腕を回して引き寄せながら、逞しい腰へ足を絡める。  
「そう、それでいい……今晩の貴女は私のものだ」  
熱い手に導かれる先が淫らな天国であることを、胎内に押し入ってきた圧倒的な塊で思い知る。  
慣らされたとはいえ指とは比べ物にならない大きなペニスのゆっくりと、しかし容赦ない猛攻は痛みと  
快楽の紙一重だった。呻き、無意識に噛み締めていた唇を宥めるようにキスを送る男に強くしがみ付きながら、  
奥を目指して膣壁を擦りあげてゆく絶大な刺激に絶える。見た事のない男のそれはどんなグロテスクさを  
もって己を犯しているのか――視界が奪われた分、過分に働く想像によりうち震える身体がどんな意味を  
持っているのか、酒にやられた頭では判別が付かなかった。  
「大丈夫か、オリヴィエ」  
全てを埋め込んでから、乱れた吐息混じりに男の囁きは優しかった。甘いテノールに思わず頷きながら、  
もっと話せと強請っていた。「それくらいの憎まれ口を叩けるのなら、大丈夫なようだ」耳朶に  
口付けてくる男に、違うと首を振る。そんな味気ない言葉を、私は求めてなどいない。  
「もっと私の名を呼べ……!」  
だって、これはひとときの夢なのだろう? そう続けようとした唇を、またもや奪われる。  
舌と共に流れ込んでくる熱い唾液を音を立てて飲み干しながら、こちらからも分厚い肉を食む。  
「可愛らしいことをおっしゃらないで下さい。あなたを本気で口説きたくなる……オリヴィエ、  
男を煽るものではないよ」  
「そう、もっと……もっと呼べ、ロイ……ッ!」  
「だから、煽るなと……手加減しませんからね」  
もうどちらが夢なのか、どちらが現実なのか判らない。  
どちらにしても朝の到来をこれ程までに疎ましいと思った事はなかった。  
汗交じりの体臭をたっぷりと嗅ぎながら、男の巧みな絶頂への導きに身を任せていた。  
 

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