小窓から、砂と土の嗅ぎ慣れない匂いがする。
分厚い壁一枚向こうの外から、手榴弾の爆発音や銃撃音が聞こえる。
本来ならば私も、私に覆いかぶさるこの男も戦場で仕事をしているはずだ。
この男が来なければ私は戦場に目を向けて人を撃ち殺しているはずだ、誰かが鷹の目がいないと気づいてここに来られたらと考えると、ぞっとした。
「あまり声をあげませんね・・・」
リザのタンクトップ姿を見たキンブリーが不満そうに言う。
「もっと暴れると思っていました。声をあげて、助けてとかやめてとか叫んで、泣き叫ぶと。ただ手足で抵抗するだけとは味気がありませんね。」
睨みつけ、叫んだら余計に興奮させるということを悟り、声帯から込み上げる悲鳴を抑圧してから、ずり下げられたズボンを押さえた。
キンブリーがいとも簡単にリザの手を払いのけ、強い力で足を開かされた。股関節に内臓を圧迫されるような鈍痛が走る。
頭の先から背骨にかけて、冷水を流されたように感じ、リザは焦った。
犯されたら、という状況から予想される出来事と同時に、幸か不幸か戦場という場に体が慣れず、突然生理が来ていたのだ。
今犯されれば、下半身は血まみれ。近くに盛大に汚れてもいいタオルはない。
生臭い血をコートで拭く、なんて事態を想像して気持ち悪くなった。
キンブリーが足の間に顔をうずめた。太ももに生ぬるくて嫌な息がかかり、鳥肌が立った。
「ああ、やっぱり。」
そう言ったキンブリーがショーツを撫でて、にやりと笑う。笑い方に嫌悪を感じ、寒気がした。
ショーツを下ろされ、キンブリーが小さくああ、と声を漏らす。
「そうですね、いきなり来たんでしょう?よくあることです。二日目ですか?汚れ具合と臭いで分かります。
ずっとここに居たようですから、変えるに変えれずにいたでしょう、大丈夫ですか?」
リザの血で汚れた陰部を撫でて、指についた血をべろりと舐めた。
いよいよ確実なものになってきたリザの吐き気に気づくはずもなく、キンブリーが語り続けた。
「朝見たときに足の角度が違いました。顔色も悪かった。歩きにくそうにしていましたが、お腹ではなく腰が痛くなる方なんですか?
椅子に座ったときに空気の抜ける音がしました。
お尻の形がすこし違っていました。スカートのほうが変えやすいですよ、これからはそうしたほうが宜しいでしょう・・・私には分かりますよ。」
ショーツからべりっとナプキンを剥がして見つめながら、リザの観察結果を本人に報告するキンブリー。リザの真っ青な顔と軽蔑の目をよそに、何食わぬ顔で続けた。
「それに、今日は量が多いのですか?」
キンブリーがリザの股間に顔をうずめ、舌をうごめかした。
何かを探り当てるとそれを口に含んでしっかりと噛み、ずるりと引き抜いた。
口元を押さえるリザの目の前に、鼻と口を血で汚したキンブリーがタンポンを銜えていた。手に持ち替えて、ふうむと血で染まった真っ赤なタンポンを見つめた。
「併用ですか・・・まだ慣れていないのなら、こちらのほうがいいのでは?」
自分の鼻先まで漂う生臭い血の臭い。
タンポンが抜かれた膣から一滴の経血が尻を伝って垂れた。キンブリーはナプキンを持ち上げてから、タンポンを舐めた。
「ああいけない、垂れてしまっています。」
肌に伝った血を這うように舐めて、血が流れる場所へとあとを伝いたどって吸い付く。吸い出すように膣口を舐め、口の中に溜めた血をごくりと飲んだ。
陰部から、キンブリーの喉元が飲み込む音を出したのを感じ取り、リザは吐いた。
嘔吐したリザを、何食わぬ顔でキンブリーが見つめる。
咳き込み、横を向いて吐いたせいで口いっぱいに広がる吐瀉物の味に更に吐き気を催す。
髪についた吐瀉物を見つめ、朝食べたこれはなんだったかと思い軽く意識が遠のいた。
腕を伸ばして、精一杯の力で股間に顔を埋めているキンブリーの頭を押し、足で肩を蹴り飛ばす。焦点が合わず、吐いたばかりの胃からまたも食べたものが出そうになり、力が入らない。
左腕を軽く掴まれねじられ床に叩きつけられた。指先が痺れる。
「随分と弱いんですね。女性のほうが男性より血液には強いのが一般的ですが、潔癖の方ですか?」
見るからに、10人のうち9人に潔癖そうな印象を与えそうな男が、顔についた血を手でぬぐいながら言った。
息を切らして、女の力ではどうにもならないことを悟り、痺れた左手に顔を歪めた。
キンブリーの手が、リザの腹を撫でた。
労わるかのような緩やかな撫で方だ。冷たい指先がリザの腹の上を這い、撫でる。
すこし手をあげて撫でる位置を変えた瞬間、キンブリーの手のひらにある刺青、錬成陣が見えた。
たしかこの男は爆発を専門とする錬金術師ではなかったか。女の私くらい、殺すのなんて容易いなと思い、状況を再認識しては内臓が冷える思いがした。
撫でていた手が何の前触れもなく、リザの下腹部をぐっと押した。
圧迫感と同時に来る、息苦しさと普段よく感じる感覚がびりっと背骨から頭にかけて巡った。
「う・・・・・・」
呻いたリザを見て、キンブリーが更に下腹部の同じところを押す。力はだんだんと強くなり、押される皮膚が痛いくらいになってきた。
ぷちゅり、とキンブリーの唇が陰部に吸い付いた。
吸い付かれた場所からなんとなく、キンブリーがやろうとしていることが分かり、リザが顔をあげて広げた股の奥からキンブリーを見た。
押されることによって体が反応していく。
リザは頭の中で、この男が来る前に銃声音が止んだとき、動くだけで生理痛があるというだけで何故トイレにいかなかったんだ、と後悔した。
「やめ・・・!やめてください、もう・・・」
下半身の力がふっと抜ける。それからすぐにキンブリーの唇とリザの陰部の間に生あたたかい、すこしぬるいような温度を感じた。
リザを襲う羞恥。
羞恥を感じてるような暇は本当はないのだが、顔が燃えるように熱くなった。
下半身から排出感が消え、冷めた頭の思考回路が止まった。
キンブリーが自分にしたことが理解できないリザは、気絶せんばかりだった。
「おやおや、ずいぶん我慢してたんですね。」
笑っているキンブリーを見ても、わけがわからない。想像の範囲を越えられたリザの頭はパンク寸前。
「・・・汚ない。」
やっと出た言葉は小さかった。
「汚ない?どこがですか。ここから血を垂れ流すほうが、よっぽど汚ないじゃあありませんか。」
ああ、この男の頭はおかしい。
「やはり生理の女性はいいですね、阿呆さが目立って可愛らしい。」
腰を高く持ち上げられ、キンブリーの勃起したペニスが膣口に押し付けられる。
吐き気と戦う前に、キンブリーがリザの膣にペニスを差し入れた。
リザが処女だったとしても、血まみれの膣では破瓜の血が流れても分からない。
相手のことなどお構い無しに、キンブリーが腰を進めた。
キンブリーが、先ほどまでリザが銃を構えていた小窓から外を見た。
火柱があがっている。きっと焔の錬金術師だろう。
ふとリザを見てみると、威勢よく自分にペニスを突き刺し犯す男を悲鳴ひとつ上げず涙ひとつ見せず、今にも叫びだしそうな青筋を立てた顔で、ただ睨み付けていた。
「いいですよ、その顔。実に良い。まだ気持ち悪いですか?」
覆い被さり、リザの顔を見てにんまりと紳士的に毒々しく笑う。
気持ち悪いとは嘔吐のことだろうか、尿を飲まれてだろうか、犯されて、だろうか。
「生理中のセックスは、また格別だと聞きます。どうですか?
今まで生理の時に交わった女性は、良いと言っていた。」
ペニスを膣口付近まで引いたせいで、子宮の奥に溜まっていた血が膣から溢れた。
ぽたぽたと床を血で汚しただろう。
それすらもリザは見えない。見えるのは、覆い被さり視界を塞ぐキンブリーだけ。
「貴女はどうですか?」
「・・・」
「ああ、比べられるセックスがないんですか?」
否定も、肯定もしなかった。
キンブリーが腰を打ち付け、クリトリスを指で押さえつけた。
不意に与えられた刺激に涙が零れそうになる。
「それはそれは・・・」
ぱちん、ぱちん、と肌がぶつかる柔い音と荒い息使いに耳を塞ぎたくなる。
荒い息使いは自分なのか相手なのか、もはや分からない。
「ここは感じますか?」
指でこねくり回されるクリトリスが反応して硬くなったのが分かった。
触られて走るむず痒い感覚に体が動く。
服の上から、乳首を探られ摘まれた。まだ成熟しきってない胸に、なんともいえないくすぐったさが広がった。
「感じるようですね。自慰はしますか?ペニスを舐めたことは?」
耳から火が出そうな単語を言われ、思わず目を逸らした。
「先ほど私が貴女のいやらしい所を舐めましたが、弄るのはともかく舐められたことは初めてで?」
「・・・・・・」
悲鳴と嗚咽を噛み締める歯が折れそうだ。
まばたきしたら、涙が流れてもおかしくない熱い目頭に心が折れそうになる。
「貴女もいきますか?」
貴女も、ということはもう射精しそうなのか、と思い無理な体勢の下敷きになっている腕を動かし、リザはキンブリーの頬を殴打した。
避けられたものの、爪が擦りキンブリーの頬に赤い傷ができた。
「そう、それくらい強いほうがやりがいがあります。」
キンブリーがクリトリスを摘んで、潰すようにこすり、痛い刺激に、目の前がちかちかするリザの胸を掴んだ。
中に、ぶわっと何かが広がった気がした。
指に力が入れられ、いきなり意識が遠退き、一瞬耳が聞こえなくなる。
ひきつる体がおかしく痙攣した。
キンブリーが血塗れのペニスを引き抜き、リザの腰を下ろした。
無理な体勢から解放され、肺に冷たい空気が染み込んでくる感覚に下っ腹が締め付けられた。
薄暗い天井が見えた。
小窓から日が差していることがわかり、ぼうっとただ天井を見つめた。
キンブリーに無理矢理起こされ、ズボンを履かされた。
血が、と思ったが、剥がされたナプキンがもう一度つけられたようで、起き上がり膣からどばっと血が出るのを吸い取った。
「また今度、生理がきたら来ますから。私は仕事に戻ります。」
ぱさりと、脱がされたコートがかけられた。
かけられたコートからは床にあったせいか、埃の臭いがした。
呆然としているうちにキンブリーが去ったのを感じた。
顔をあげる気にも、立ち上がる気にもならない。
ふいに喉が苦しくなり、ぼろりと涙が落ちた。
まず、すべきは下着ごと変えなければ。そう思い、よろよろと立ち上がった。
一歩あるいた感覚に違和感を感じた。太ももを触り、次に尻を触った。
パンツがない。ズボンに直接ナプキンがついてるようだ。
辺りを見ても、落ちてる衣服はない。
盗られた。
嫌になり泣きたくなる気持ちを抑え、衛生班にいけば下着くらいはあるだろうかと思い、衛生班には嘔吐したと言って着替えを貰おうと、リザは足を進めた。
おわり