ゆっくりと瞼を開けると、ぼんやりとした視界に一番最初にぐっすりと気持ち良さそうに眠る大佐が飛び込んできて苛立った。
大佐と私がベッドに仲良く並んで寝ているというこの距離にすら嫌悪感を覚える。
頭の回転の悪さも、腰だるさも、全身の痛みも、苛立ちも、全部全部ぜーんぶこの大佐のせいなのだ。
腹が立って仕方がないので目障りな黒頭をひっぱたいてやろうと思ったが、情けないことに腕を動かすのも億劫なほど疲れていた。
それに、手を動かすとなると、この暑苦しい大佐の腕や足の拘束を解くことから始めなければいけない。
私にうざったくまとわり付くのは、重たい大佐と、それから脱ぎかけのドレスであった。
無駄に露出の高いこのドレスは、もちろん大佐が用意したものだ。
とんでもなく高級品と思われるドレスは、今は汗や涙や体液でべとべとに汚れている。
大佐が「いつどこでも役に入れるように」と勝手なことを言い出して、今日は行為中に「ロイさんとエリザベスごっこ」をやらされたのだ。
そのくだらない提案のためにドレスは汚れ、私はこんなに疲労困憊し、そして怒っているのだ。
今日はやけにサディスティックだった大佐は「ロイさん」を演じながら「エリザベス」をいじめ抜いた。
――やらしいな、君みたいなすました気品ある女性がこんなにみっともなく濡らして
――美しい女性が泣きながら腰を振るなんてとんでもなく淫らな光景だな。ほら、もっと動きたいんだろう?
大佐の冗談めいた言動が、私のプライドをどれほどずたずたに傷付けたのか、満ち足りた顔で眠る彼は分かっていないだろう。
絶対に復讐してやる。
暢気な大佐の寝顔をきつく睨む。
頬に残る乾いた涙の跡を拭いながら、私は復讐心に焔をともした。
「もう、遅いわ。ロイさん」
時間より少し前にやって来た大佐に向かって、そう文句を言って玄関で出迎えると、彼は目を丸くした。
私が「今すぐ大佐に会いたい」と電話した時から、大佐は受話器の向こうで平常を装っていたが相当驚いていたに違いない。
私から「会いたい」と電話をするのも、「ロイさんとエリザベスごっこ」を仕掛けるのも初めてである。
それに加えて私はあの時の露出の高いドレスを身に纏っているし、大佐にとっては驚くべきことばかりのはずだ。
私がドレスの下に下着を身につけていないことに、大佐はすぐに気付いただろう。
ちなみに、ドレスはわざわざクリーニング屋に出したために、元の気品の良さと光沢を取り戻している。
「…ああ、すまない。女性を待たせるなんて最低だな。…会いたかったよ、エリザベス」
大佐は少し動揺の色を覗かせたものの、躊躇うことなくすぐに「ロイさん」を演じ出した。
「ねえ、私に会う前にほかの女と、なんて…」
「あるわけないじゃないか。エリザベス、いつも君だけと言っているだろう?」
大佐のコートとジャケットを脱がせてハンガーに掛けながら、彼と私は自分ではない他人を演じる。
大佐は最初こそ驚いていたものの、今はすっかり「ロイさん」を楽しんでいるようだった。
「…本当に?」
「本当に」
シャツ姿になった大佐に、ドレス越しに体の線がはっきりとあらわになった上半身を不躾にもぐいぐいと押し付ける。
胸の谷間に釘付けになっている大佐の頬を両手で挟み、私から口付けた。
深い口付けはやがて大佐がリードするものになり、舌を絡めながら彼は当然のように私を寝室まで連れて行き、ベッドに押し倒した。
「…ロイ…さん…」
大佐の口付けは甘く、彼の舌が口の中を動く度に背中がじんと痺れる。
いつものように大佐に流されそうになる自分を叱咤しながら、彼の下からそっと抜け出した。
唇の端から溢れた唾液を指で拭う。
「エリザベス?」
「今日は…私が…」
大佐の腰の上に跨がると、彼に乳房を押し付けるように覆いかぶさり、再び口付ける。
大佐ほどではないが、私だって処女の頃より少しは口付けが上手くなった。
私が必死に舌を動かし深く交わろうとする姿を見て、大佐は楽しそうに身を任せていた。
寝室に舌が絡み合う水音と甘い吐息が響く。
唾液が零れ落ちてしまうような深い口付けを続けながら、大佐のネクタイをシャツからさりげなく解いた。
「…ロイさん…」
普段は決して出さないような甘ったるい声で大佐を呼ぶ。
大佐の額にちゅっと音を立てて唇を落としながら、彼の手首に急いでネクタイを巻き付ける。
「…エリザベス?」
「…大人しくしてて…」
そして、ネクタイで軽く拘束した両手首をさらにベッドヘッドに巻き付けた。
「今日は、私が…ね?」
大佐の濡れた唇を舐めながら囁くと、彼はにやりといやらしい笑みを浮かべて楽しそうに笑った。
「…ほう。エリザベスにこんな趣味があるとはね」
私がこんな突飛な行動をしようと、いつでも余裕で構えている大佐が憎らしくもかっこいい。
ネクタイも手首の拘束も簡単に解けてしまうものだが、大佐は解かずに私の好きなようにさせるのだろう。
少々しゃくに障る点はあるが、これでささやかな復讐の準備は完了した。
心の中でにやりと笑う。
大佐が先程からちらちらと見ていたドレスのスリットから覗く太ももを惜しみなく大胆に晒し、彼の腰を強く挟む。
満足そうな笑みを浮かべた大佐のシャツに手を掛けた。
シャツのボタンを外し肌を晒しながら、大佐がいつも私にするように胸に口付けを落とす。
「…ロイさん、気持ちいい?」
「…ああ」
すぼめた舌で胸を執拗に舐め回しながら問う。
大佐の吐息は少し乱れているが、口調はまだまだ余裕だ。
シャツのボタンをすべて外し思いきり開いて、逞しい体にたくさんの赤い痕を残す。
顔を下へずらし、腹をぺろぺろと舐めていると、ふと太ももに熱い大佐自身を感じた。
同時に自分の秘所がどれほど濡れているのかも分かった。
ズボンをきつく押し上げている猛りの上に尻を乗せ、自身を挟むようにして前後にゆさゆさと動いてみる。
大佐が息を飲んだ。
顔には出さないが、秘所を熱い塊に刺激されて気持ちが良い。
下着を身につけていないため、ズボン越しでも大佐自身の形が分かるようだった。
「…ふふ、もうこんなにして…」
大佐の足の間に座り込みながら囁くと、彼が目を逸らした。
大佐が小さな抵抗を示す姿を見て、躯の中心がじんと熱くなる。
私をいじめる大佐はいつもこのような高揚した気分を味わっているのだろうか。
下着を付けていないため、直接太ももにとろりといやらしい蜜が伝った。
焦らすように時間を掛けてベルトを外し、ズボンを脱がせてベッドの上に置く。
張り詰めそうなほど下着を押し上げている熱を持った塊を、布越しに手の平で撫でた。
「…っ…」
やはり布越しは物足りないのか、大佐の腰がもどかしげに揺れる。
しかし私はそれを無視して、下着の上から大佐自身を掴み転がすように何度も撫でた。
「…エ、エリザベス…っ」
「何かしら?ロイさん…」
動揺して名前しか呼べない大佐が可愛らしい。
大佐自身の先端を扱いていると、下着にいやらしい染みが広がった。
「…ロイさん、もしかして…物足りないの?」
下着を押し上げどんどんと張り詰めていく大佐自身に頬擦りをしながら、焦れったく聞く。
「…分かってるんじゃないか」
大佐は平常を装っているが、額に汗が滲んでいた。
「そういう時は何て言うのかしら」
唇から赤い舌をちらつかせながら、大佐を追い込む。
大佐の頬に一瞬だけ朱が走ったような気がした。
「…下着を取って…直接…してくれないか…エリザベス」
「…ふふ、よく言えたわね…ロイさん」
勝ち誇ったように笑いながら、大佐の下着を脱がせていく。
大佐は私から思いきり顔を逸らしていた。
いつも私を組み敷いて好きなようにしている大佐にとってかなりの屈辱に違いない。
大佐がいつも私をいじめる理由が少し分かった気がした。
「いい子にはご褒美よ」
すっかり勃起した自身に顔を近付けると、濃い雄の匂いがした。
躊躇うことなく先端をくわえ、唇で挟んで扱く。
「…く…っ!」
大佐の弱いところは大体分かっている。
先端を円を描くように舐め回しながら、繁みの奥の二つの柔らかな塊もきちんと愛撫する。
大佐が身をよじり、手首とベッドヘッドを繋ぐネクタイがぴんと真っ直ぐになった。
「…エリ、ザベス…ッ」
「…んぅ…っ」
温かい口内で先端を強く吸っただけで、大佐はすぐに達してしまった。
「…んん…」
口の中に注ぎ込まれる精液を頑張ってごくりと飲み干す。
大佐も私も、いつもと立場が逆転しているこの状況に興奮しているようだった。
「…あ…、苦い…」
唇から溢れた精液を舌で舐めとると、それを見ていた大佐と彼自身がぴくりと反応した。
「…あら、まだ治まらないの…?」
「…っ!」
達したばかりで勢いを失った大佐自身に触れ、指で包み込み再び扱き始める。
絶頂を迎えたばかりの性器を愛撫されると刺激が強すぎることは、大佐から嫌というほど何度も教えられた。
「…エリザベス、今は…っ!」
だからこそ大佐自身を強く扱いた。
大佐の切羽詰まった声に満足し、無意識のうちに太ももを擦り合わせる。
「ロイさんは、いつもおいたが過ぎるのよ」
再び勃ち上がり始めた大佐自身の上に跨がり、焼けるように熱いそれを内股に擦り付ける。
内股は私から溢れた蜜でびっしょりと濡れており、大佐の精液と混ざり合って淫らに汚れた。
大佐自身を握り内股に擦りつけるだけで肌の上でぐちゃりとよく滑る。
内股に猛りを擦り付けたまま、私は大佐の胸板に覆いかぶさった。
弄られてもいないのに、乳首がいやらしくもサテン生地のドレスの上から分かるほど硬く立ち上がっていた。
大佐の硬い胸に私の尖りを擦り付ける。
「…やあ…ぁ…っ!」
布越しにお互いの胸を擦り合わせるだけだというのに、あまりの刺激に全身から力が抜けそうになった。
乳首はますます硬くなり、ドレスの下で張り詰めている。
胸が痺れる気持ち良さに、つい大佐自身から手を離してしまい、慌てて掴み直して再び太ももに擦り付ける。
大佐自身の先端で繁みの奥の尖りを擦り、そしてお互いの胸同士を合わせて前後に動き出した。
「…あぁっ、ん、いい…っ!」
普段は言わないような素直な言葉がこぼれる。
大佐は声こそ出さないものの、呼吸がかなり乱れていた。
汗ばんだ黒髪や胸元が色っぽい。
「…あんなに出したばかりなのに、またこんなに硬くして…っ」
肩で息をしながら、大佐の耳に語り掛ける。
「太ももに擦りつけているだけなのに…こういうのがお好み…?」
大佐は悔しげに眉を寄せた。
その表情を見ただけで腰が痺れる。
大佐に復讐をするため、エリザベスだからリザ・ホークアイではない――
そう思いながら大佐を攻めているが、実は私は彼をいじめることが好きなのかもしれない。
「…ね、ロイさん…っ」
「…なんだ…っ?」
「いれたい…?」
そう問い掛けながら、根本をぎゅっと掴んで刺激する。
「…う…っ!」
「ねえ、どうなの…?」
「…いれ…たい…」
それは大佐のものとは思えないほど小さな声だった。
「聞こえないわ。…ロイさん、何て…?」
「…君の…エリザベスの中に今すぐ入りたいんだ…」
「…そう…」
「頼む…いれてくれ…」
「素直ないい子ね…」
大佐は顔はすましているが、なりふり構わず切なく懇願する彼の声が気持ち良い。
サイドテーブルから避妊具を取り、わざと時間を掛けて大佐自身につけた。
大佐の腰がじれったく揺れる。
「もう…大人しくして」
笑いながらゴムに包まれた先端を指で突くと、大佐が小さく呻いた。
ドレスの肩紐を両方とも外し、乳房を外へ解放する。
零れ落ちるように布から顔を出した胸に大佐は触れたいようだったが、手を伸ばしかけたところでネクタイに阻まれる。
「ん…っ、ロイさ…ん…っ」
ゴムに包まれた熱い塊を、ゆっくりと膣の中に沈めていく。
膣は愛撫の必要がないほどはしたなく濡れそぼっており、盛大な水音をたてながら美味しそうに大佐を飲み込んだ。
「…んんぅ…っ!」
最奥まで大佐自身が届き、その激しい刺激に思いきり背をしならせる。
汗がぽたぽたとシーツに落ちて染み込んだ。
「は…、あ…ッ」
大佐の胸に両手を置き、ドレスが擦れる音と共に腰を前後に動かす。
「ロイさん…っ、気持ちいい…っかしら…?」
「…ああ、いいよ…っ」
気持ち良いかと聞くのはいつも大佐の方であった。
いつもと立場が逆転し、私が大佐を攻める側に回ったことは、思いの外私を興奮させた。
何度も膣がきゅうきゅうと締まり、熱く濡れた肉に食べられている大佐はその度に顔を歪ませた。
大佐が眉を寄せて感じている顔が愛おしくて、ますます腰の動きを激しいものにしていく。
重たい乳房がゆさゆさと揺れる。
はしたないその姿を大佐に見られていると思うと、勝手に躯の中心が反応してまたきゅうと締まる。
「…っ…エリザベス…ッ!」
「…な、に…っ?」
「…もう…!」
大佐は短い言葉を発してもう限界だと訴えていた。
私より大佐が先に達することなど珍しいが、他人を演じ攻められるという普段とあまりにも違う状況が倒錯的で、興奮しているためだろう。
それから、膣で大佐をきつく締め付ける割りに、絶対に達しないよう私が何とか頑張ったからだ。
私はこの時を待っていたのだ。
「…まだ…っ、駄目よ…!」
「…ッ!?」
達する寸前だった大佐自身の根本を、指でしっかりときつく掴んだ。
大佐がその強い衝撃に目を見開く。
手がこちらに伸ばされようとするが、がたんとベッドヘッドがうるさく音を立てるだけで終わった。
「エリザベス…ッ!」
「…やぁ…硬い…っ!」
射精を妨害した大佐自身を飲み込むと、その痛そうなほど張り詰めたその硬さと熱さに頭がおかしくなりそうだった。
大佐自身の根本を指で必死に握り締めていることがやっとだ。
「…エリ、ザベス…っ!やめてくれ…!」
「やぁんッ!」
大佐が腰を思いきり突き上げるが、もちろん射精はできない。
「…そんな…っ無理だ…!」
「まだ駄目…よ…ッ!私がイってから…!」
「…イかせてくれ…!」
大佐の顔は汗まみれだった。
大佐の吐息交じりの呻き声や、彼のものとは思えない懇願の言葉が、躯の芯にじんと響きそれだけで達してしまいそうだ。
そして、爆発寸前の大佐自身は焼けた石のようで、熱く潤んだ膣と繋がってこのまま溶けてしまいそうだ。
軽くパニック状態にある大佐がめちゃくちゃに腰を動かすのに合わせて、私も腰を振り乱す。
脚や躯がよろめきそうになるのを一生懸命耐え、大佐自身の上に腰を大きく落とした。
「――あ、ふあぁぁッ!」
「…あ…くぅ…ッ!」
硬い先端に膣の中の敏感な部分をえぐられ、大佐自身を膣ですっぽりと包んだまま達してしまった。
秘所がいやらしい蜜を大量に吹く。
そして、ようやく根本から指を離すと、大佐も遅れて精を放って達した。
「…いやあっ!あぁ…ッ!」
ゴム越しだというのに直接射精されているかのように熱い。
精が膣の奥を刺激するようにどくどくと力強く放たれ、強い刺激となり躯が震えた。
「…ロイさん…!」
大佐自身を飲み込んだまま、堪らず彼の上に倒れ込んだ。
すっかり汗まみれになった躯同士を合わせ、しがみつく。
大佐は私同様、まだ息が荒かった。
「…ずいぶんと…やってくれたな、エリザベス…」
息を弾ませながら、それでも何とかいつもの調子で大佐が軽く私を責める。
「…いつもの…お返しよ…」
「…エリザベス、手を解いてくれないか?君を抱き締められない」
「…ん…ごめんなさい…もう少し待って…。手、痺れてない?」
「ああ、大丈夫だ」
「…そう…良かったわ…」
躯がまだ絶頂の余韻から抜け出せず、心地良いだるさを味わっていた。
まだ手足を動かせる状態ではなく、大佐の逞しい躯に身を寄せて休んでいた。
もしすぐに動ける状態だったとしても、私はまだ大佐を縛っていただろう。
形だけでも大佐を支配下に置いているようなこの状況に背中がぞくぞくとし、また秘所がじわりと濡れた。
大佐に復讐をするつもりが、何かいけないことに目覚めてしまったかもしれない。
終わり