何か胸騒ぎがして、寝床から抜け出し、城の外へ急いだ。
いつも身につけている黒い服は簡単に深夜の闇に紛れた。
城を壁伝いに渡り、全身の神経を尖らせる。
歩みを進めて行くと話声が聞こえ、仮面の奥の表情が強張る。
違和感の正体はこれだ。
影に隠れて話声に耳を済ませる。
数人の男達が城の壁を蹴り、我が主への文句を叫んでいた。
覚束ない足取り、うまく舌の回っていない様子を見るとおそらく男共は酔っている。
服の袖に刻まれたあの模様は――以前、この城の主が潰した一族のものだ。
男達は一族の仕返しをしようと一致団結して話していた。
この城の主、そして若を滅ぼそうと野太い声で叫んでいた。
しかしそれは酔った勢いで躍起になっているだけだろう。
数人で城に攻め込むなんて自殺行為だ。
それにその前に私が仕留める。
手に収めていたナイフを強く握り直した。
「何をしている」
突然現れた私に、男達は驚愕と警戒の視線を向けた。
いつでも仕留められるように、男達に向けてナイフを構える。
深夜の冷たい張り詰めた空気が、この場の緊迫した雰囲気に拍車をかける。
「……お前、女か」
男の一人が私の姿を上から下まで、遠慮なく眺めて呟く。
彼らは潰された一族とはいえ、強豪な戦闘種族だった。
私を女だと見破ることぐらいたやすいだろう。
ふと、男達の私を見る目が、警戒の対象から、面白いものを見るような嫌な視線に変わる。
口にいやらしい笑みを浮かべた男が、一歩前へ踏み出した。
「なあ、お嬢ちゃん。取引をしないか」
「俺達を満足させてくれたら、城を奇襲するなんて考えは捨てるさ」
「簡単なことだろう?なあ?」
男達が次々に口を開く。
始めから彼らは、我らに復讐をするつもりはなかったのだろう。
酒の勢いで憎いが敵うことのない城を訪れ、唾を吐きかけて帰れば満足だったのだろう。
そこへ私が現れた。
どうにか仕返しをしたい一族の一人に偶然出会い、凌辱できるなんて、男達にとって願ってもいないことだろう。
彼らを仕留めることは簡単だ。
でも仕留めたことによって今以上に彼らの怒りが大きくなったらどうする?
彼らが捕まったことにより、一族の残りが暴れ出すことも考えられる。
考えた末、私はナイフを捨てた。
私が凌辱されて男共が満足して帰るから安いものだ。