あの出産騒ぎから一夜。エドたち一行は、山間に住む自動鎧技師のレコルト一家の家を後にして、  
再びラッシュバレーに帰ってきていた。  
定期便の馬車に滑り込むようにして乗り込み麓まで着くと、もう陽はずいぶんと落ちていて、  
結局そこでもう一泊取ることになったのだった。  
エド、アル、そしてウィンリィの三人は、この都市に住み慣れたパニーニャの口利きで、  
駅に程近い宿に泊まることになった。どっかにいい宿ない? とエドに聞かれたパニーニャは、  
いくつか宿の候補をあげてくれた。が、白と金でできた見るからに高級そうな建物をいくつか紹介されて、  
度肝を抜かれたように驚き、慌てふためいたそのときのエドの顔を思い出すと、今でも少し笑える。  
結局首を縦に振らなかったエドが最後に選んだのが、街でも少し大きめのこの宿だった。  
ここのゴハンすごく美味しいんだよ、と別れ際にパニーニャは言って笑った。  
朝いちの列車で行くって? せっかちだねえ。それじゃあ見送りに来るから、また明日ね。  
部屋に戻ってひと風呂浴び、上がると、見渡した部屋の殺風景な様子にウィンリィは  
にわかに淋しさを覚えた。ここ二、三日慌ただしかったから余計にそう思えるのだろうか。  
濡れた髪をタオルで拭きながら、簡素な造りの部屋を横切ってベッドに腰をおろす。  
お前に出張料ふんだくられた分倹約しなきゃいけないんだよ。  
ふいに宿にチェックインしたときのエドの顔を浮かんだ。倹約したわりには上等すぎる宿だと思うけれど。  
首を巡らせて部屋のなかを見回した。簡素な部屋だが、手入れが行き届いているのは、  
宿慣れしていないウィンリィにもわかった。調度品には生活感がなく、  
なによりサイドテーブルにいけられた花がいきいきとしている。  
ふいにウィンリィは、リゼンブールに帰ってきたときにアルから聞いた(エドは話したがらないから)  
旅先での話を思い出した。  
 
――その宿でね、兄さんってば一階の酒場で酔っ払いにからまれてさ。  
――その宿にはお酒しかなかったんだけど、そこのおカミさんがすごくいい人でね、  
特別にジュースを作ってくれたんだよ。  
話にしか聞いたことがないけれど、どうやらふたりは酒場を兼ねた宿に泊まることが多いらしい。  
好んでそういった宿を選んでいるのか、それともたまたまそうした宿しか見つからないのか、  
そうした宿が定型になっているのか。なんにしても、お酒も飲めないのに、と少し不思議だったのだ。  
だが、この宿は違う。酒場などない。むしろ、どこか上品な印象すら受ける。  
値段も、なんとなく予想がつく。  
そういえば、とウィンリィはふと思い出した。  
パニーニャに豪奢な宿を指差されたエドは、半ば怒鳴るように言っていたっけ。  
そこまで上等じゃなくてもいいんだよ! と。――『そこまで』?  
「あ…」  
目を見開く。やだ。ウィンリィは勢いよく立ちあがった。あたしってば、お礼も言っていない。  
エドワードたちの部屋は同じ階の少し離れたところだったはずだ。  
半濡れの髪に構わず、タオルを放り投げて部屋を飛び出す。あたしのことを考えて宿を選んでくれた、  
その気遣いへのお礼を言わなければ。  
もう夜も遅い。なるべく足音を立てないようにしてウィンリィは小走りに  
エドワードたちの部屋へと向かう。  
 
「ウィンリィ? こんな時間にどうした?」  
兄弟ふたりに割り当てられた部屋をノックすると、エドワードの怪訝そうな顔がドアの隙間から覗いた。  
兄の身辺の世話上手の弟が顔を覗かせない事に少し違和感を覚えながらも、ウィンリィは  
ちょっといい? と話を切り出す。  
「別にいいけど。一体何だ?」  
エドワードは風呂からあがったばかりなのか解かれた金の髪がまだ濡れていて、髪から滴る水滴が、  
いつもの黒服に小さな染みを作っている。よく見ると片手にはタオルが握られていた。  
「あれ? もしかしてどこか出掛けるところだった?」  
エドワードが身にまとっているのが宿に備え付けの寝着でない事に気づき、ウィンリィは訊く。  
「いや、出掛けるってわけじゃないけど。なんでだ?」  
「だってそれ…」  
黒服を指差すと、エドワードはようやくウィンリィの言いたい事を察したらしく、ああ、と応える。  
「着慣れたもののほうが寝心地がいいからな。で、何の用だ?」  
横着――そんな言葉が頭を掠めた。いや、そうじゃない。これでエドワードたちが  
寝着を出されるような高い宿に泊まった経験が薄いのだと、はっきりとわかったのだ。  
ますますお礼を言わなくちゃ、とウィンリィは改まったようにエドに向き直る。  
「急にごめんね。ちょっと言いたい事があったの」  
言いたい事ぉ? 意外そうにエドワードは目を凝らし、それからドアを大きく開けると親指で部屋の中を指す。  
「なら入ったらどうだ?」  
「ここでいいよ。すぐすむから」  
よくねえよ。ほら、とエドの手にあったタオルがウィンリィの頭に放られる。  
そのまま促すようにこちらを見ながら部屋の中へと踵を返した。  
「そのままだと風邪ひくだろ。入れよ」  
そういえば、髪をまだ乾かし終わっていなかったっけ。慌てて飛び出してきたからすっかり忘れていた。  
「じゃ…おじゃまします」  
パタン。後ろ手でドアを閉める。渡されたタオルで髪の水気を取りながら部屋へと入る。  
そこは少し広くてベッドが2つあるだけでウィンリィの部屋と幾分も変わらなかった。  
そこにはアルフォンスの姿はない。  
「散歩だって。月がきれいだからって」  
 
そんなウィンリィの視線に気づいたのか、エドワードはそう言ってベッドに腰をかけると、  
その横を叩きいて座らないか? と促した。  
促されるままにウィンリィはエドワードが腰を掛けるベッドへと歩み寄る。腰をおろしざまに、  
先ほどのタオルをエドワードに手渡した。まだちゃんと乾いていないけれど、もう充分だ。  
エドワードは受け取ったタオルで濡れた髪をガシガシと拭う。  
「で、何? 言いたい事って」  
「あのね、あたし、お礼が言いたくて…」  
「お礼? って何の?」  
エドワードが目を瞬かせた。そしてちゃっちゃといつものように髪を頭の後ろでひとつに括る。  
「その、わざわざいい宿を選んでくれたでしょ。そのお礼」  
あー…、とエドワードはあやふやに目線を漂わせ、それから左手を少し上げて違ぇよ、と言いながら左右に振った。  
「んなの考えてもねえって。全くもって偶然なんだから気にすんな。な!」  
ウソばっかり。ただでさえエドワードの考えていることはわかりやすいというのに。  
ウィンリィは今の彼の反応で確信を得てクスリと笑う。  
「わかってるから。ありがとね、エド」  
エドワードはウィンリィから目を逸らして頭を掻く。その頬が少し赤く上気しているのは  
気のせいではなさそうだ。しばらくして落ち着いたのか、エドワードはようやく目を戻す。  
「…わざわざ?」  
「うん。だってエド、あたしが寝ているうちに出て行っちゃうでしょう?  
だからどうしても今夜言わないとって思ったの」  
「いくらなんでも、ここにお前ひとり残して出て行ったりしないって。オレってそんなに信用ない?」  
ちょっとだけね、と指だけで答えるとエドワードはカラカラと笑った。  
「だってお前、顔合わせる度に自動鎧自動鎧うるせえじゃん」  
「それはあんたが普段からちゃんと整備しないからでしょ!」  
笑いながら、こんなふうにエドワードと話すのは久しぶりだな、とウィンリィは思った。  
当たり前の事なのに、なんだかすごく不思議な気分だ。エドワードが軽口を叩いて笑う度に、  
こちらの頬が緩んでしまう。  
と、ふいにエドワードの肩越しの時計に目が止まり、ウィンリィはあっと声を上げた。  
2本の針は11時を差している。ウィンリィは慌てて立ち上がる。  
 
「やだ、もうこんな時間。ごめんね、遅くまで」  
「え、あ…いや、別にそうでもないよ。帰るのか?」  
「明日はダブリスに行くんでしょ。朝早いじゃないの。それに、エドももう眠いでしょ」  
「オレは平気…なあウィンリィ、もう少しいろよ」  
「え?」  
「だから、もう少しくらいいいだろって言ったんだ。それとも眠いか?」  
 本当は少しだけ眠かったが、がまんできないほどではなかった。馬車のなかで  
少し眠った事もあって、平気、とウィンリィはもういち度エドワードの横に腰をおろす。  
それにしても、エドワードがこんな事を口にするなんて。  
「…どうしたの? エドのほうからそんな事言うなんて珍しいじゃない」  
「そうか?」  
「そうだよ。でも本当にどうかしたの?」  
「…うん、オレどうかしたみたいだ。昨日から変なんだ」  
昨日といえば、思い出すのは例の出産騒動だ。そして、エドワードの懐中時計を無理やり開いた事。  
それ以外に彼がおかしくなるような事なんてあっただろうか。  
と、ふいに手に手が重ねられる。驚いたウィンリィは弾けたように顔を上げ、そして言葉を失った。  
エドワードが頬を真っ赤にしていたからだ。  
「エド…?」  
「…本当はオレがウィンリィの部屋に行こうかと思ってたんだ。でもそんなの、やっぱりまずいだろ?」  
まだ幼いとはいえ、男女が夜遅くに同じ部屋にいるものではない。その意味がわからないほど、  
ウィンリィも鈍くはない。だが、目の前の幼馴染を意識するほど敏感ではなかった。  
エドワードの言葉に、じんわりと頬に熱が集まる。自分の軽率な行動を恥じているのもそうだけど、  
それよりも、エドワードが自分を意識していた事のほうが、なんだかひどく照れ臭くて、嬉しかったから。  
「…こんなときに来るお前が悪いんだぞ」  
思わず目を瞠くウィンリィから目を逸らし、エドワードは口篭もるように呟くと、  
ウィンリィの手を握ったまま勢いよく立ち上がった。そのまま大股に歩き出す。  
「ちょっと…エド?」  
「部屋もう一室借りる」  
「な、なんで!?」  
「だってアルも帰ってくるだろうし」  
 
「そういう意味じゃなくて…!」  
目を瞬かせるしかできないウィンリィにエドワードは短くそう言い切る。  
そしてちらりとウィンリィを振り返り、鋼の右手をあげた。悪り、とそれは語っている。  
「もうなんか、無理っぽいんだ」  
その言葉、行動の意味をようやく飲み込み、ウィンリィはさらに目を瞠く。ちょっと待ってと  
声を上げるが、構わずエドワードはウィンリィを引っ張っていく。  
「でも傷…ほら、脇腹のだってまだ治ってないし」  
「開かないって」  
「それに! こんな時間だし、急に部屋なんて迷惑なんじゃないの!?」  
「いいさ。こっちは客なんだぜ。こっちにも事情があるんだから仕方ねえ」  
「そういう客がいち番迷惑なのよ! もう!!」  
エドワードとするのが嫌なわけではないが、ただ感情がついていかないのだ。心の準備だって  
もちろん出来ていない。時々思い描いていた、"顔も思いつかない誰かさん"と初めてするときは、  
こんな導入ではなかったから。それもその相手がエドワードだなんて、考えもしなかったからだ。  
この幼馴染のことが嫌いではないけれど、むしろ好きだけれど、女の子だと意識してもらえたのが  
嬉しいと思ったけれど、それまでひどく近くにいすぎて、そういうふうに見た事がなかったのだ。  
ガチャ。そうこうしているうちにウィンリィは、そのままエドワードに引きずられるような形で  
部屋を出てしまう。ひんやりとした冷たい空気が頬をなでて、冷えた髪がひたりと頬を撫でた。  
エドワードの足はまっすぐに一階のフロントへと向かって行く。このままでは…。  
「第一! もうひと部屋なんて、倹約するんじゃなかったの!? あたしの部屋も留守になるのに。  
もったいないじゃないの!」  
繋がれている手を力任せに振りほどこうとしたそのとき、急にエドワードは立ち止まり、  
そんなウィンリィの心を見透かしたように鋼の拳にギュっと力がこもった。  
つんのめるように立ち止まり、はっと顔を上げると、こちらを振り返るエドワードと目と目がもろに  
ぶつかった。鋭い金の目線に突き刺され、ウィンリィは縫いとめられたように身体を凍らせる。  
「…じゃあ、ウィンリィの部屋に行く。それでいいだろ」  
疑問系でない、有無を言わさないエドワードの口調にウィンリィは戸惑いを覚えた。  
 
痛いくらいに必死だとわかるけれど――感情が追いつかない。  
だってこんな事、まだずっと先の事だと思っていたからだ。でも。  
「…うん…」  
嫌じゃない。キュッと、ウィンリィもその鋼の手を握り返す。  
再びエドワードは前を向き、ウィンリィもそれに従う。嫌じゃない。嫌じゃないけれど、少し怖い。  
ドキドキと激しく打つ胸の音がやけに大きく聞こえてきて、ウィンリィは思わず顔を伏せた。  
エドワードの足が再び動き出し、今度はウィンリィの部屋へと向かう。  
自分よりも小さいはずのその背中がやけに大きく、逞しく感じられた。  
半乾きの髪が頬やうなじに当たるが、その冷たさも気にならないほどに、頬がひどく熱かった。  
 
「へえ、結構いい部屋だな」  
ウィンリィの部屋に着き、あたりに頭を巡らせながら、どこか上ずったような声で  
エドワードは言った。どうやら緊張しているらしい。  
ウィンリィはそんなエドワードに悟られないように小さく笑うと、それに合わせて明るく言う。  
「おかげさまでね」  
「まあ、ベッドがひとつってだけで、オレたちの部屋とそう変わらないな」  
ベッド――今となってはタブーに近いその単語に、エドワードはしまったと言わんばかりに  
頬を引き攣らせる。ウィンリィもハッとして思わず俯いてしまった。  
流れる気まずい雰囲気に、ふたりはまた口をつぐむしかなかった。  
意識しないように努めても、どうしても意識がそっちのほうに飛んでしまうのだ。  
部屋の中央に置かれたシングルサイズのベッドに、どうしても目が行く。行ってしまう。  
これからあそこで、ふたりで…――そう想像してしまう。  
「そういやさあ!」  
と、急にエドワードがわざとらしく手を叩いて声を張り上げた。驚くウィンリィにわき目もくれず、  
エドワードは例のベッドへと颯爽と歩み寄ると、そこにどっかりと腰をおろした。  
「初めて宿取ったのがセントラルの大きめのホテルでさ、そのときオレ、ツインとダブル勘違いして  
取っちまったんだよなあ」  
頭をガシガシ掻きながら、エドワードは続ける。  
「そしたら部屋に入ってビビったビビったー。ベッドひとつしかないんだから。  
そういやオレらを案内したボーイが変な目で見ていたなーってふたりでもう大爆笑。  
結局アルが寝なくてもいいから大丈夫だったけど、一体ボーイたちはオレらをどう見てたんだって!」  
「やだあ!」  
ふたりは声をあげて笑った。緊張していたせいか、目尻に涙が溜まるほど大笑いしてしまう。  
滲んだ涙を拭きながら、ウィンリィはエドワードの不器用な気配りに感謝していた。  
宿のこともそうだったように、エドワードがわざと明るく笑い話をするのは緊張しているだけではなく、  
彼なりにウィンリィのことを考えてくれているのだ。  
エドワードは普段、そんなに口数の多いほうではないから、それがよくわかった。  
普段は大雑把なのに妙に細かいところで気がつく。  
そしてそれは大抵自分のことじゃない事ばかりなのだ。  
 
一回深く息を吐くとウィンリィはエドワードのもとに歩み寄り、隣りに腰をおろした。  
絹のすれる音がやけに大きく耳を打つ。  
「ありがと」  
急に礼を言われても意味がわからないのか、エドワードはビックリしたように目を瞠き、あ…ああ、と  
曖昧な返事をよこす。それからどこか照れたように、あやふやに笑った。  
が、ふと頬からその笑みが引かせ、神妙な顔を作る。  
「その、なんだ…とりあえずシャワーでも浴びるか?」  
「一緒に!? そんなっ…ま、まだ早いよ!!」  
「ばっ…ひとりでに決まってるだろ! …で、どうする?」  
「あたしはいいよ。さっき入ったばかりだったし」  
「そっか。ああ、そういやオレもだ」  
まだ半濡れだろう自分の髪に触れながら、エドワードは目を泳がせた。  
そしてふいにウィンリィの手に手を重ね、軽く握った。  
「その…無理やりこういう流れにしたオレが言うのも何なんだけど、本当に嫌じゃないか?」  
「…嫌ならとっくにスパナしているわよ…」  
まだ戸惑ってはいるけれど、とその言葉は濁す。するとまた胸が高鳴ってきて、  
きゅっとウィンリィは喉に力を入れる。  
「…でも、せめて明かりは消してね。やっぱり、恥かしいから…」  
「あ、ああ。だよな。そうだよな。うん、よし、消そう」  
「あれ、多分スウィッチじゃないかな」  
「ほんとだ」  
ウィンリィよりも枕もとに腰を落としていたエドワードがスウィッチに手を伸ばす。  
小さな摘まみを軽くひねると、カチンと音がして室内の明かりが一段だけ暗くなった。  
「ほら、やっぱり」  
子供のようなエドワードにウィンリィ気づかれないように小さく笑う。な? と、はしゃいだように  
振り返るエドワードと、ごく間近で目と目がもろにぶつかった。  
ふたりははっと息を詰め、それから瞼を閉じながらゆっくりと顔を近づけていった。  
 
薄暗い明かりのもとで口唇同士が軽く触れ、すぐに離れる。再び目線が交わり、ふたりの顔がまた近づいた。  
カチ、とつい先ほど耳にした小さな音を、ウィンリィは世界の端で聴いたような気がした。  
窓から差し込む月明かりだけがひどく明るい、そんな暗闇に覆われたなかで、  
今いち度ふたりの口唇が今度は深く重なった。  
「ふ…っん!」  
と、ふいに差し入れられてきた舌に、ウィンリィはびくりと身体を強張らせた。  
自分の舌に絡んでくる、生温かい、お世辞にも気持ちいいと思えないその感触に、身体から力が抜けていく。  
身体を支えきれずに、ウィンリィはエドワードの胸に寄りかかる。  
まるで吐く息までも吸い尽くしてしまうような激しいキスがある事を、  
ウィンリィはこの時初めて知った。これだけでもういけない事をしているようで、激しく脈打つ胸は  
罪悪感のようなものに駆られる。だけど、とても気持ちいい。  
「っ…はぁ…っ」  
口唇が離れされる。ふたりの口唇を銀の糸だけが繋ぎとめている。  
エドワードはウィンリィの身体を抱きしめ、ウィンリィは彼の首筋に腕を廻す。  
そのままふたりはベッドに身体を横たえた。  
ウィンリィを静かに押し倒すと、エドワードは身にまとっていた黒服を一気に脱ぎ捨てた。  
まるで熱いと訴えたげな、乱暴な仕草だった。自動鎧が闇のなかで鈍く光る。  
エドワードの自動鎧――今のウィンリィの最高傑作品。彼の肩にピタリとはまるものを作るために、  
エドワードの身体中の寸法を初めて測ったのは、いつの事だっただろうか?  
その時から整備のたびにまめに図り直しをしている。だからエドワードの身体はよく知っているのだ。  
おそらくエドワード自身よりも。  
それなのに、エドワードの背中に腕を廻し、そこの思いがけない硬さに思わずウィンリィは身体を強張らせる。  
驚いた。よく見慣れた、触り慣れた身体。今、自分の上に圧しかかっているそれは、  
ひどく別人のもののように思えた。ふと胸先を淋しさが掠める。  
「…じゃない」  
「ん? 何か言ったか?」  
「全然『豆』じゃないって思ったの」  
『豆』の単語に一瞬眉間に皺を刻むが、エドワードはすぐに、へへ、と少し得意そうに笑った。  
「だろ? みんな気づいてくれないんだからさ。ヤになるよ」  
こういう時の笑い顔は、昔と何ひとつ変わっていないというのに。  
 
「そうだね」  
笑い返したその声音が思いのほか淋しげだったので、ウィンリィは少し自分に戸惑う。  
それに気づかないらしくエドワードもただ笑い返す。そして見かけよりもずっと逞しい身体が、  
再びウィンリィの身体を覆った。  
エドワードの体は傷だらけだった。肉体と自動鎧と接合している個所はもちろんだが、  
いたるところにある細かな傷痕があり、それらは歳ごとに数を増している。  
エルリック兄弟がどんな旅をして、どんな困難に遭っているかなんてまるで知らされてないけれど  
(ある程度の想像はつくが)、何か大きなものに巻き込まれている――そのくらいわかっていた。  
いや、初めからその旅の目的が途方もないものだと知っていたが。わかったからといって、  
どうする事も出来ないのだ。それがまた苦しい。  
ウィンリィの衣服の下にエドワードの手入り込んできた。まるでその感触を味わうように、指が、  
その腹が、そしてその平が、エドワードの手が丁寧にウィンリィの肌の上を丁寧に這い回る。  
くすぐったさとにわかに湧いた恐怖とに、ウィンリィは喉を反らせて背を震わせる。  
エドワードはウィンリィのタンクトップを巻き上げると、白の下着に包まれた、  
齢のわりに充分に発達したウィンリィの双丘が露になる。はあっと深く息を吐くと、  
エドワードはそれに手を掛け、器用に上のほうへとずらした。  
するとふるりと振るえて、豊かな白い胸が現れ、エドワードが息を呑む音が聞こえた。  
一時、眩しそうにそこを見詰めていたかと思うと、エドワードはウィンリィの肌へに口唇を寄せた。  
時に口唇で吸い、歯を立てて、ウィンリィの白い肌に赤い痣が作られていく。  
エドワードの頭がゆっくりと胸元に下りていき、その手がウィンリィ胸の膨らみに触れた。  
始めはなぞるように、それから手のひら全体で優しく包み込んだ。まるでその感触を  
楽しむかのように、弱く、強く、白い胸が強く掴まれて形を変える。錆青色の無骨な鋼の指が、  
溢れる乳房の隙間から覗いた。エドワードの愛撫にうっすらと桜色に染まってきたそこに、  
薄い紅色の突起が頭を見せる。それは芯を帯び、ぷっくりと膨らんでしまっていた。  
 
「んっ…!」  
エドワードが胸先の薄紅のしこりに触れて、ウィンリィは漏れた声を堪える。エドワードは指先で  
それを摘まみ、そして軽く弾く。何度もそれを繰り返すうちに堅さを増したそれを、  
エドワードは口に含んだ。その仕草は、つい昨日取りあげたあの赤ん坊を思い出させた。  
「っぁん…!」  
ちゅうっと丹念にそれを吸われて、ウィンリィは恥かしさに思わず目を瞑る。体中がわなわなと波立ち、  
ウィンリィは喉を反らした。エドワードの舌の上で、胸の芯はいっそう堅さを帯びていく。  
「ウィンリィ」  
ふいに名前を呼ばれて目を開けると、ごく間近にエドワードの顔があった。すっかり荒くなった  
息づかいに、大きく胸と肩を上下させている。  
そして追い詰められた、何かを確認するようなその目線に、ウィンリィは小さく首を縦に振る。  
するとエドワードは安心したような表情を緩めた。  
これからエドワードが何をしようとしているのか察し、ウィンリィは再び両目を閉じた。  
普段はあれだけ大雑把なのにいつもどこで慎重なのだ、この幼馴染は。  
それに、それだけ大事に想われているとわかったから、嬉しかった。  
暗闇の向こうでエドが身じろぎする。と、内腿に手が滑り込んできて、そのくすぐったさに  
下口唇をきつく噛む。見なくてもわかるくらい、そこはじわりと汗ばんでいる。  
そこだけじゃない、もう全身が、特にエドワードに触れられたところが、吐く息すらも、  
とにかく熱くて熱くて仕方なかった。  
内腿を這いまわっていた手が膝まで伸び、そして内側から外側へとぐいっと力がこもった。  
開け。無言の命令だった。逆らう事も出来ずにウィンリィはゆっくりと両脚を開く。  
ふとエドワードの手が肌から離れ、薄く目を開けてちらりと目をやると、丁度鋼の手が  
ウィンリィの下半身を覆うスカートを器用に剥ぎ取り、その下の白い下着に手を伸ばしていた。  
すっと、薄い下着の上から、エドワードの指先がウィンリィの秘裂をやんわりとなぞる。  
「っぁん!」  
自動鎧の指先――下着を通しても、普段から扱い慣れている商売道具の感触はよくわかるものだ。  
つい最近自分自身の手で整備修理したものだから。硬くて強固で、色形、構成成分など、  
知らないところなどない自信作の自動鎧。  
 
それが今、自分でも触らないようなところを弄っているなんて、ウィンリィにはとても  
想像も出来なかった。  
鋼の指先はウィンリィの敏感な小丘の溝をぎこちなく、だが小強く擦りつけるようになぞる。  
次第にその動きは速くなっていく。それに合わせるかのように、ウィンリィは自分の口唇から  
漏れる吐息が深く、熱っぽくなっていくのを感じていた。体中のあちこちも、さらに熱い。  
「っは…あ、あっ…やぁッ…!」  
指で薄布が秘部に擦りつけられ、離れるそのたびに、火照ったそこからくちゅくちゅと  
奇妙な音が聞こえた。それが何を意味しているのか、知識でのみだがウィンリィは知っていた。  
込みあげてきた羞恥心に、思わずやだ、と嘆くように喘ぐ。  
愛液が溢れてきている――感じている証拠なのだ。  
「っん!」  
ウィンリィはひと際高く喘いだ。エドワードの指が、入り口の少し上のあたりを擦ったのだ。  
それまで弄られていた時と全く違う不思議な甘い感じに、ウィンリィは怖れを覚えて思わず腰を引く。  
「どうした?」  
「やだ、そこ…なんかへんなの」  
「へん? そこって…」  
エドワードはおうむ返しに呟いて、ふと考え込む。それから、ああ、と小さく呟いて  
顔をあげた。何故だかかすかに確信じみた、いたずらっ子のような笑みを張りつかせて。  
「気持ちよかった…とか?」  
「もうっ…やだぁ…っ」  
図星を突かれ、泣き出したいのと恥かしいのでウィンリィの頬がカアッと赤くなった。  
思わずエドワードから顔を逸らす。そんなウィンリィにエドワードはどこか楽しそうに  
小さく笑ったらしかった。  
「そっか。"あそこ"が気持ちよかったんだ」  
エドワードの言葉に煽られて、さらに頬が熱くなる。バカ、バカ、とささやかな反抗を口にしながら  
ウィンリィは顔をふるふると振った。  
そんなんじゃないもん、と口唇を尖らせかけたその時、ふと、それまで押し当てられていた  
指の感触が、ふっつりとなくなった。代わりに腰のあたりをがっしりと掴まれて、  
ウィンリィは思わず顔を上げる。すると薄闇のなか、鋼の手がウィンリィの下着を掴んでいた。  
 
腰に廻された腕がウィンリィの下半身を軽々と持ちあげ、あっと叫ぶ間もないまま  
下着が下ろされる。一気に膝下まで下ろされたそれには細い糸が伝っていて、それが闇のなかで  
隠微に、だが鋭く光った。  
陰唇とを繋ぐそれに気づいたエドワードは器用に指先で絡め取り、自分の口に運ぶ。  
口唇と舌とで丁寧にそれを舐めた。  
「やだっ、エド、そんなの…!」  
汚い!――恥かしさのあまり、その言葉は出なかった。だがまるで構わないとでも言うように、  
エドワードはそのままウィンリィの秘蜜で怪しく光る自動鎧の指をも舐め尽くす。  
鋼の指先とエドの舌の間を銀糸が煌いた。  
「いいや」  
腕で口もとを拭いながら、短く、はっきりとエドワードは言い放つ。  
「全然汚くなんかねえよ」  
ウィンリィから完全に下着を剥ぎ取り、はぁはぁと熱っぽく息を吐きながら、エドワードは改めて  
ウィンリィの秘部に手を伸ばす。まだじゅうぶんに生え揃っていない薄茶色の茂みの向こうに、  
鋼の指先が直に入り込むのが見えた。  
「あっ!」  
ちゅ、と、聞いた事もないような音がして、ウィンリィは思わず叫んだ。身体をすくませる。  
その間にもエドワードの指は執拗にウィンリィの裂け目をいじる。指の腹で入り口のあたりを  
念入りに擦り、そしてその指が少し上へと動いた。  
「ぁんっ! …ッあ!」  
エドワードの指は丁度あの"気持ちよかった"ところ――花芽――を、まるで円を描くようにいじった。  
強く押しつけ、軽く弾き、あらゆる動きをそこに加える。そのたびにウィンリィは背筋に甘い痺れの  
ようなものを感じ、身体ごと大きく仰け反った。弓なりに反れて骨が浮き出た喉がわなわなと震えて、  
押し殺していた声がついに溢れる。それはウィンリィでも驚くほどに熱を帯びていて艶かしかった。  
「はッ…や、あん! んっ…ん、ぁ、ああッ…!」  
まるで自分のものとは思えないこの甘い声は、エドワードにどう思われているのだろう。  
意思の及ばないその声はとてもいやらしくて、信じられなくて、顔が火を噴くらい恥かしい。  
 
エドワードはそんなウィンリィの反応を楽しんでいるのか、純粋に不思議がっているのか、  
それとも好奇心をそそられるのか、さらに激しく鋼の指先はウィンリィを攻めたてる。  
「ウィンリィ…気持ちいいか?」  
熱っぽく、低い声でエドワードが囁く。嬉しそうに、だがその目はひどく熱っぽくて挑戦的だ。  
そんな言葉に、ウィンリィは自分の秘部が、じんとさらに熱を帯びていくのを感じた。  
挑まれれば打って返すウィンリィだが、このときだけはさしたる抵抗も出来ずに、  
ただただエドワードに弄ばれるばかりだった。  
「ふ…ぅん! ん…っあッ…」  
始めはくちゅくちゅとひそやかに立てられていたあの音が、次第に粘着を帯びたそれへと  
変わっていく。ふたりの浅い息づかいとかすかな衣擦れの音しかしない空間で、その音は大きすぎだ。  
己の甘い喘ぎすら消し殺してウィンリィの耳に入り込んでくるそれは、卑猥でひどくいやらしい。  
「すげ…」  
吐息と共に、エドワードは呟く。  
「ここ、すっげえ熱くなってる」  
「やだ!」  
ウィンリィは堪らず叫ぶように喘いだ。  
「そんなの嘘っ。自動鎧でそんなの、わかるわけないじゃないの…!」  
鋼は熱を通しやすくない金属ではないが、その鋼の指がたかだか身体の、それも体液の熱さなんてものが  
装備者に伝わるわけがないからだ。自動鎧技師として、その事はよく知っている。  
そうなんだけど、とエドワードは呟く。  
「でも、わかるんだ。ウィンリィのここ、すげぇ熱い…溶けそうだ…」  
どこか独り言めいた熱っぽいその呟きに、ウィンリィは自分の頬が、身体が、  
さらに熱くなるのを感じた。エドワードの言葉は、映画や小説である囁くような  
甘い言葉なんかよりもずっとストレートで、下品で、  
だから余計にウィンリィの羞恥心と理性とを煽った。  
全身が火照り、頭の奥がぼおっとしてくる。何もかもが、もうどうしようもなくなる。  
「いたっ!」  
その時、エドワードの指がひと際深く奥に滑り込んできた。入り口に痛みを、そしてその奥からは  
甘い痺れのようなものが走る。思わずぎゅっと汗ばんだ手でシーツを硬く握り締めた。  
ぶるぶると震えるウィンリィに気づいたのだろう、エドワードは慌ててそこから指を引き抜いた。  
 
「んっはあ!」  
指が抜ける感触に感じてしまい、ウィンリィは思わず声をあげてしまう。しまったと手を口に  
当てたかけたウィンリィの手首を、エドワードの手ががっしりと掴んだ。  
「っ! …エド…?」  
「こらえるなよ」  
驚き、怯えるようなウィンリィに、エドワードは眩しそうに見ていた。そして、  
「…もったいないだろ…」  
と口のなかだけで素早く言うと、掴んでいるウィンリィの手を引き寄せて、指に、甲に、丁寧に口づけた。  
はあはあと喘ぎながらウィンリィはそんなエドワードを見る。  
軽く目を伏せてウィンリィの手に口づけを繰り返しているエドワードは、男のくせして  
ひどく色っぽかった。目の前がくらりとして、ウィンリィはまるで糸の切れた人形のように  
彼の成すがままになる。  
それからエドワードは身体を下へと移動させて、ウィンリィの両膝をぐいっとさらに大きく開かせた。  
いくらあたりが暗いとはいえ、ウィンリィはエドに羞部を思い切り晒す形となったのだ。  
視界の遠くに見えるぬらぬらと光っている己の秘唇に、逃げ出したくなるような羞恥に襲われて、  
ウィンリィの胸がさらに大きく脈打った。  
「やだ…っあんまり、見ないで…」  
羞部に注がれる視線の重さに、ウィンリィは涙声で訴える。しかしそんな言葉なんてまるで耳に  
届いていないのか、エドワードはじいっとウィンリィの秘部に見入っている。  
荒々しい呼吸に、肩が大きく上下している。見詰められているのだとそう強く実感すると、  
ウィンリィの羞部はさらに熱を帯びてきているようだった。  
とろりとした透明な甘蜜がそこからこぼれ落ちて、太腿をつうっと伝い落ちる。  
がちゃがちゃと、エドワードがせわしなく己のベルトに手を掛けて外すと、  
彼の下着を押しあげて頭を見せるほどにそそり立ったものが姿を現した。  
初めて見る男性のそれの猛々しさに、ウィンリィの身体が無意識に凍る。  
どくどくと脈打つ血管は、巨木に絡む蔓を思わせた。目を瞑るもの忘れて見入るウィンリィに、  
エドワードは恥かしそうに堅く尖ったそれに片手を添えて、再びウィンリィの身体に覆い被さった。  
 
薄闇に浮かぶ二本の白い脚の間に、エドワードがゆっくりと腰を沈めていく。  
すっかり熱くなった両脚の付け根に、ちゅ、と水気を帯びた音がして、ひどく熱くて堅い何かが触れた。  
先ほど目に入ったあれだ、と閃くように思うと、ウィンリィの身体は思わず強張った。  
「ウィンリィ…」  
押し殺したような苦しげな声に名を呼ばれる。濡れた花弁に押し当てられたエドワードのそれは、  
ひどく堅く熱く、今にも弾けそうだった。  
「い、いいか?」  
荒々しい吐息の下からエドは言う。そうしている間にも反り立っているだろう熱い先端は、  
ウィンリィの秘裂をぴったりと捕らえている。熱いと息の漏れる唇をきゅうっと噛みしめ、  
ウィンリィは顎を縦に振った。  
意を決したようにエドワードはひとつ息吐くと、グッとウィンリィの腰に自分の腰を引きつけた。  
ウィンリィは喉の奥であがる悲鳴じみた声を口唇をきつく噛みしめて殺し、来るであろう衝撃に耐える。  
しかし、薄暗くてよく見えないのか、それとも初めてゆえに上手く挿れられないのか、  
エドワードは手間取っているらしかった。  
だが、そんなふうにエドが手間取ってしまうその度に、硬く張り詰めた彼のそれは、  
絶えずウィンリィの秘裂を擦る。  
しかもそこがよく濡れているため、ヌルヌルと淫猥な音を立てて何度となくそこを往復するのだ。  
甘い蜜で濡れそぼった秘渓を、堅く尖った突起を、張りつめたエドワード自身が無遠慮に蹂躙する。  
ただでさえそこには熱いわだかまりがあるというのに、そんなふうにされたらどうだ。  
甘い悪寒に全身がざわざわと粟立ち、生まれて初めてのその感覚に、ウィンリィは声を抑えることも出来ず  
に背筋を震わせた。  
「んッ…ぁん、はっ…!」  
掻痒感じみた中途半端な快感が押し寄せてきて、喉まで押しあがってきていた甘い声は、  
とうとう抑えきれずにこぼれた。仰け反った白い喉がわなわなと振るえる。  
エドワードのものが擦れる度に、秘唇が物欲しげにひくついているのが自分でもよくわかった。  
堪らない。まるで焦らされているようだった。  
そんなふうに感じている自分に、ウィンリィにわかに恥かしさを覚えた。顔がさらに熱くなる。  
 
思わず両腕で赤くなっているであろう顔を隠してしまった。  
「もう…やだ…っ」  
抵抗じみたその悲鳴は、まるで蚊の鳴くようなそれでしかなかったが、エドワードの耳にも届いたのだろう。  
両瞼を覆う腕の向こうで、エドワードがなにやらせわしなく身じろぎする気配がした。  
と、顔を覆う両腕に、柔らかくて湿ったものがそっと触れる。口唇だ。  
軽い口づけが、何度も何度もそこに降る。  
「ごめん」  
口づけを繰り返しながら、エドワードが囁くように言った。  
上手くいかなくて、怖い思いさせて――濁された言葉がいくつものキスへと変わる。  
「ごめんな」  
違うの、とウィンリィは首を振る。慌てて腕を取り除くと、闇のなかのエドワードの金色の目と  
向かい合う形になり、ウィンリィの身体に降った口唇が、そのままウィンリィの口唇に重なった。  
舌を差し入れられることもなく触れるだけの口づけだった。次の瞬間――  
「痛…っ!」  
ズッと、身体を下から突き上げられるような痛みが走り、ウィンリィは目を瞑って思わず叫んだ。  
繋がったそこから腹の奥へ、腹の奥から全身へと、鈍い痛みがじわじわと駆け抜ける。  
ウィンリィは喉を反らして深く喘いだ。熱くて、苦しくて、そしてとても痛い。  
「っ…ウィンリィ…」  
はあはあと熱く苦しげな喘ぎの下からエドワードが呼ぶ。誘われるように薄く目を開けると、  
エドワードの双眸に映る自分の姿があった。エドワードは胸と肩とで荒々しく呼吸しながら、  
苦しげに喘ぐウィンリィを黙ってじっと見つめていた。  
紅潮した頬に、中途半端な体勢で止められたままの身体。ウィンリィを見つめるその目は、  
それ以上の侵入への許しを待っているようにも、無言で急かしているようにも思えた。  
「だ、大丈夫、平気…。でも、ちょっと待って。まだ動かさないで…っ」  
必死に痛みを堪えるその声は、自分でも驚くくらい掠れていた。痛い。  
ぎゅうっとシーツを握り締めてはあはあと大きく息をすると、目の前で胸が大きく上下した。  
じりじりとせり上がってくるような痛みに、腰のあたりは熱く痺れ、身体が焼けつくされるようだ。  
痛い、痛い、痛くてとても動かせそうもない。  
エドワードは、そんなふうにぶるぶると全身を波立たせて喘ぐウィンリィを抱きしめた。  
「ごめん」  
 
と、低い声と共ともに、ごく耳もとでエドワードが深く息を吸う音がした。  
身体に廻された腕に力がこもったかと思うと、彼は腰を一気にウィンリィの身体へと押しやった。  
声にならない悲鳴とともに、ウィンリィの身体がまるで矢を射るときの弓のように大きく反れる。  
身体が深く繋がれたのだ。ぬるりとしたものが、繋がったそこから伝い落ちてシーツを汚し、  
ウィンリィの薄金の髪がさらに乱れてシーツの上に散らばる。  
「エドっ…! や、い、いたぁっ…!」  
「ごめん」  
と、低い声と共ともに、ごく耳もとでエドワードが深く息を吸う音がした。  
身体に廻された腕に力がこもったかと思うと、彼は腰を一気にウィンリィの身体へと押しやった。  
どこかで何かが破けるような音を聴いた気がした。  
声にならない悲鳴とともに、ウィンリィの身体がまるで矢を射るときの弓のように大きく反れる。  
身体が深く繋がれたのだ。ぬるりとしたものが、繋がったそこから伝い落ちてシーツを汚し、  
ウィンリィの薄金の髪がさらに乱れてシーツの上に散らばる。  
「エドっ…! や、い、いたぁっ…!」  
「ごめんっ…もう、ガマン、できない、んだ…っ」  
ウィンリィは抵抗するように手を突っぱねた。が、逃れようとしたウィンリィ手首をエドワードは  
しっかりと捉え、そのまま腕を引き寄せるようにして口唇を寄せる。奪われるに近い形の口づけだった。  
そうしていくうちにも侵入者はきつい処壁を侵していく。亀頭が膣壁を押し広げてひたすら奥へと突き進む。  
伴う痛みにウィンリィは声ずちゅ、ずちゅと互いの繋がったところが淫猥な音を立て、その度に痛みが伴う。  
腰に打ち込まれる衝撃に一瞬気が遠くなり、だが再びやってくる衝撃と火を押し当てられるような熱い痛みに  
また意識が返り、それが何度と繰り返される。  
ウィンリィは視界の端で、自分のなかを激しく出入りするエドワードのそれを捕らえた。  
それはお互いの体液でぬらぬらと光り、そしてかすかに赤く染まっていた。  
初めて男を受け入れたのだと改めて思うと、ふと目尻に涙が滲んだ。  
喪失を後悔していたわけでも、その痛みをにわかに感じたからでもない。  
ただ、無償に泣きたくなったのだ。  
 
「はん…っん、あ、エド、…ぁんっ…!」  
汗ばむ裸身が何度も何度も打ちつけられる。エドワードに身体を貫かれるたびに  
ウィンリィの白い胸が上下に揺れて、先端に薄紅の残像がちらつく。  
秘裂の奥も痛みはまだおさまらないが、それでも込みあげてきた甘い疼きに、頭の奥がぼおっとしてきた。  
何度も抜き差しを繰り返すその衝撃に促されるように、彼の名が何度となくウィンリィの口唇を突いた。  
エド、エド、エド…――まるで熱にでも浮かされているような曖昧な喘ぎ声が、  
熱い息づかいと、水の跳ねるそれにも似たひどく粘着質を帯びた音とともに、  
薄暗い部屋を満たしていく。  
「…っ! ウィンリィ…っ!」  
耳もとでエドワードがひと際鋭く喘ぎ、肩に、背に廻された両腕に力がこもり、  
さらに強く抱きしめられる。薄く目を開けると、エドワードの深く刻まれた眉間の皺が  
にわかに緩むのが見えた。  
恍惚とも苦しんでいるとも思えるそれは、やっぱり見たことのない表情だった。  
くっ、と喉の奥で押し殺したような声がして、エドワードの身体がビクンと跳ねた。  
ふたりの繋がった秘所に熱が走る。エドワードの身体がウィンリィを抱きしめたまま、  
ブルブルと波打った。  
そのままエドワードはウィンリィの胸の上に頭を落とし、はあはあと浅い呼吸を繰り返す。  
それでもなお、エドワードはウィンリィの乳房に頬をすり寄せる。大きな赤ちゃんみたい。  
まるで甘えるようなその仕草にそんなことを思い、ウィンリィはその頭を抱えるようにして、  
彼を抱きしめた。  
ごく鼻先には高潮したエドワードの顔があった。下半身に意識を集中しているのであろう、  
眉間に深く皺を刻み、目は硬く閉じられている。  
吐息は早く、浅く、そしてときより熱に浮かされるように、ウィンリィの名前を一心不乱に  
呟いている。無我夢中で、そしてどこまでも必死だった。  
すぐに熱くなるのにいつもどこか冷めているこの幼馴染の、初めて目にする表情だった。  
ふいに得も言えぬ愛おしさに駆られ、ウィンリィはエドワードの首に腕を廻し、  
その体に改めてしがみついた。  
それに応えるように、エドワードもさらにきつくウィンリィの体を抱き返し、口唇を深くついばんだ。  
差し入れられて絡まる舌の感触に応えるように、ウィンリィもそれを返す。  
「はん…っん、あ、エド、…ぁんっ…!」  
汗ばむ裸身が何度も何度も打ちつけられる。  
エドワードに身体を貫かれるたびにウィンリィの白い胸が上下に揺れて、先端に薄紅の残像がちらつく。  
秘裂の奥も痛みはまだおさまらないが、それでも込みあげてきた甘い疼きに、頭の奥がぼおっとしてきた。  
 何度も抜き差しを繰り返すその衝撃に促されるように、彼の名が何度となくウィンリィの口唇を突いた。  
エド、エド、エド…――まるで熱にでも浮かされているような曖昧な喘ぎ声が、熱い息づかいと、  
水の跳ねるそれにも似たひどく粘着質を帯びた音とともに、薄暗い部屋を満たしていく。  
「…っ! ウィンリィ…っ!」  
耳もとでエドワードがひと際鋭く喘ぎ、肩に、背に廻された両腕に力がこもり、さらに強く抱きしめられる。  
薄く目を開けると、エドワードの深く刻まれた眉間の皺がにわかに緩むのが見えた。  
恍惚とも苦しんでいるとも思えるそれは、やっぱり見たことのない表情だった。  
くっ、と喉の奥で押し殺したような声がして、エドワードの身体がビクンと跳ねた。  
ふたりの繋がった秘所に熱が走る。  
エドワードの身体がウィンリィを抱きしめたまま、ブルブルと波打った。  
そのままエドワードはウィンリィの胸の上に頭を落とし、はあはあと浅い呼吸を繰り返す。  
それでもなお、エドワードはウィンリィの乳房に頬をすり寄せる。  
大きな赤ちゃんみたい。まるで甘えるようなその仕草にそんなことを思い、ウィンリィはその頭を  
抱えるようにして、彼を抱きしめた。  
 
「あの…大丈夫か?」  
エドワードの問いかけに、ウィンリィは首を横に振った。本当はまだひどく痛んだけれど、  
そうしてしまいたくなるほどに、エドワードは萎縮していたからだ。  
こみ上げてくる笑いを何とか噛み殺して、少し痛いけど平気、と短く告げる。  
だがウィンリィの気持ちを察しているのか、エドワードは心配を拭えないようなようだった。  
じゃあ腕枕して、夢だったんだから、とそうねだると、エドワードはあやふやに表情を曇らす。  
困ったように、自動鎧だから首が痛くなるぞ、と拒んだが、ウィンリィは強引にその腕を引っ張った。  
構わないわよ、あたし、機械オタクなのよ。知っているでしょ?  
エドワードは驚いたように目を瞠いたあと、そうだったな、と笑ってウィンリィを  
鋼の腕のもとに引き寄せた。  
彼の言うように自動鎧の腕枕はあまり楽ではなかったが、まだ火照りを残す体にはその冷たさが  
気持ちよかった。それに必着した肌の温かさが、先ほどの名残りで気だるい身体になんとも心地よい。  
身体を重ねた疲れと遅れてやってきた睡魔に、ウィンリィは思わず眠ってしまいそうだった。  
「…なあ」  
だが、そうやってふたりで無言のまま肌を寄せ合ってどのくらい経ったか、ふいにエドが口を開いた。  
やけに神妙な口ぶりだった。  
「なに?」  
何のとか瞼を押しあげてエドのほうを見る。薄闇にぼんやりと浮かんでいる天井を眺める  
エドの横顔が目に入ってくる。  
「あのときさ」  
「うん?」  
「出産に立ち会ったあと」  
「…うん」  
エドは半ば目玉だけでウィンリィの方を見た。宙でふたりの視線が軽くぶつかる。  
しばらくの間見詰めあったのち、エドワードは再び天井を見上げた。  
「オレ達のかわりに泣くんだって、お前そう言っただろ」  
 
――あんた達が泣かないから、代わりに泣くの。  
「うん」  
「…あれ、嬉しかった」  
それから、エドワードは言葉を探しているようだった。ウィンリィは黙って待つ。  
エドワードがこんなときでないと言えないことだと、なんとなく察したからだ。  
この幼馴染がそういう性格なのだと知っているから。  
エドワードはしばらく宙に目を泳がせていたが、やがてひとつ強く瞬くと、言った。  
「自分のことなのに、誰かに泣いてもらえるなんて思ってなかった。だからすごく嬉しかった」  
「うん」  
「だから、また旅を続けられるって、そう思ったんだ」  
「…うん…」  
言葉の不明瞭さやぎこちなさはいかにもエドワードらしかった。でも、いい。  
それでも気持ちはじゅうぶん伝わったから。  
そして知った。エドワードたち兄弟が、今まで誰に頼ろうともしないで歩いてきたその道を、  
ウィンリィはこのとき初めて垣間見た気がした。  
それまでとても近くにいたのに、まったくわかってやれなかったんだ、あたしは。  
いつの間にかウィンリィは、彼の鋼の腕に指を這わせていた。錆青色のそれはがっしりとしていて、  
あちこちに細かい傷がついている。その浅い溝をなぞるように、ウィンリィは指を這わす。  
にわか景気の谷に訪れて、初めて知った優れた技術。そして感じた己の力不足。  
もっといい自動鎧を着けてあげたいと決めたのは、つい昨日のことだ。  
その決意が揺らいだわけではないが、その思いが、なぜだか今はひどく遠い。  
暗闇にとうに目は慣れていたけれど、エドワードがどんな表情をしているかはわからなかった。  
目に、胸に、込みあげてきたものに、目の前が歪んでしまっていたから。  
ウィンリィは顔を歪ませる。そんなウィンリィに、涙の向こうのエドワードは小さく笑ったらしかった。  
しょうがねぇなあ、と言いたげに。  
あたかも四年前のあの日のように、泣き虫なのは変わんねーな、とでも言うように、  
エドワードは小さく笑っている。  
 
鋼の腕が、さらにウィンリィを引き寄せる。  
ウィンリィはなされるがまま、エドワードの胸に額を押し当てた。  
そんなウィンリィの頭をエドワードはまるで子供をあやすよう撫ぜ、その優しい仕草は  
さらにウィンリィを泣かせた。  
こんなもので彼が癒されるのなら、いくらでも泣くのに。  
そんなことを思いながらも、こんなことしかしてあげられない自分がとても歯痒かった。  
ふと目の前が陰った。意識が緩む。  
肌と肌の触れ合う心地よさと初めての褥の気だるさで、本当に眠りに入ろうとしているのだ。  
なんとか踏ん張ろうと顔をあげかけたウィンリィの目の前を何かが遮る。  
撫でるようにウィンリィの瞼を下ろしたそれは、エドワードの手だった。  
ありがとうな、と囁くような声がごく耳もとでした。おやすみ。  
遠のく意識の果てで、ウィンリィはエドワードに話し掛ける。その声はひどくか細い。  
思っているだけで、口にしていないように思えるほど曖昧だった。  
彼の耳にきちんと届いているのだろうか。  
それでも何かを伝えなければいけないと思って、ウィンリィは続ける。  
勝手に行かないでね。行ったら怒るから。それから、それから――  
途切れる意識に、今いち度強く抱きしめられる。  
そしてもういち度、エドワードはウィンリィの耳もとで囁いた。行かねえよ。朝までこうしてるから――  
閉じた瞼に何か湿った軟らかいもの触れてきて、それはそのままウィンリィの涙を拭う。  
目を開けなくてもそれが口唇だとわかった。何度も何度も受けたその優しい感触は、もうとっくに  
身体が覚えてしまっている。とても気持ちいい。  
こんな涙で彼の心が癒されるのならいくらでも泣くのに。  
そんなことを思い、ウィンリィはそのまま深い眠りにつく。  
 

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