「危ないところでしたね、お嬢さん」  
「…助けていただいて、ありがとうございました…」  
元々白い肌がさらに青白くなり、病人のような血の気のない顔色でホークアイという名の少女が礼を言う。  
何もかもが最悪、ホークアイの心情はそんなところだろうか。  
地面に横たわる身体を私に抱き起こされたまま、ホークアイは身動きひとつせず固まっていた。  
数人の兵士達に襲われかけていたことも、それを私に助けられたことも、戦場でボロボロになった心にはかなり堪えるに違いない。  
遠慮なく砂だらけの大地に押し倒されたせいか、ホークアイの短い髪には砂が入り込んでいた。  
それを払おうと手を伸ばしただけで、ホークアイの身体がびくりと震えた。  
怯えに満ちた鳶色の瞳が私を見る。  
「…怪我をしていますね」  
大笑いしたいのを抑えて、いかにも心配しているという声色で話し掛けた。  
ホークアイは、兵士達にたいしたことをされなかったとは言い難い姿だった。  
ナイフで下着ごとアンダーシャツを切り裂かれ、その隙間から素肌だけではなく白い乳房も覗き、血の滲む赤い線も見えた。  
下半身を乱された様子はないが、戦場にいる自分がどれほど弱いかを思い知った「女の子」はひどく憔悴していた。  
「ひどいですね」  
「…っ!」  
切り裂かれたシャツの間から見える傷口の周りにそっと触れると、またホークアイが恐怖でいっぱいになった瞳を向けた。  
見知らぬ男に荒らされたばかりの肌を、またすぐに他の男に触られるなど地獄のようなものだろう。  
それを十分に理解して、ホークアイの素肌を汚すように指で触り続けた。  
良いものが手に入ったとほくそ笑む。  
私を人間兵器だと恐れる兵士達は、私がただ手を翳しただけでみっともなく大声を上げながら逃げて行った。  
私は兵士達からホークアイを助けたわけではなく、この少女を奪ったのだ。  
強くありたいと願おうが、弱い者はどうあがこうが弱い。  
自分は何もできない弱者なのだと、この素直な少女に教え込むのは楽しそうだ。  
何より、ホークアイが怯えた時に見せる無力な子犬のような表情がたまらなく凶暴性を煽る。  
ホークアイの美しい顔立ちが恐怖や絶望に歪む時、背中に言葉にしがたい痺れが走る。  
この少女は虐めるのに打ってつけだ。  
「すぐに治療をしないと痕が残ります…手当てをしてあげましょう」  
「…え…?」  
少女の顔が一気に強張った。  
ホークアイの冷たい手を引き、無理矢理立たせる。  
「ああ、もちろん私は手当て以外にあなたに何もしませんよ。約束しましょう」  
「そんな…!少佐にそこまでしていただくわけには…!」  
ホークアイは上官を敬う娘だろうが、それよりも私から逃げ出したくてたまらないためにこう叫んだのだろう。  
「襲われかけていた女性を放っておくわけにはいきません。私のテントまで行きましょう。清潔なガーゼやテープが揃っています」  
ホークアイの手を引いて、というより、無理矢理引きずって歩き出す。  
 
少女は後ろを歩きながら必死に断っていたが、何も言わない私に諦めて結局従った。  
どこまでも甘いお嬢さんだと、ホークアイ細い手首を痛いほど強く握りながら口の端を上げた。  
愚かな者にはそれ相応の対処が必要だ。  
「そこに横になってください」  
テントに入り、簡素なベッドの上に横になるように促すと、ホークアイの警戒心が一気に強まった。  
普段はあまり感情を見せない少女だと思っていたのだが、襲われかけたことが心を占めているのか、ホークアイの動揺が手に取るように分かる。  
今のホークアイは感情を態度に出していることに気が付く余裕がないらしい。  
「お嬢さん?」  
「…は、はい…」  
のろのろとホークアイがベッドの上に仰向けになる。  
未だに表情は固く、青ざめているのも手伝ってかホークアイは人形のように見えた。  
白い指が軍服の上着を守るように掴んでいる。  
手当ての道具を手にした私を見上げると、ホークアイはやはり怖くなったのか、決心したように口を開いた。  
「…キ、キンブリー少佐」  
「どうしました?」  
「…やはり、私の身分で少佐に手当てをしていただくわけには…」  
「気になさらないでください」  
笑みを浮かべてみても余計怯えさせる材料になったらしく、ベッドの側に膝をつくとホークアイが大袈裟に肩を揺らした。  
ホークアイが上着を掴む指を取り去り、遠慮なく前を開く。  
「これはもう着れませんね」  
「…あ…っ!」  
上着の中に着ていたただの布となってしまったシャツと下着を引き裂いて開けた。  
わざと大きな音を立てて服をびりびりと破ると、ホークアイが目をつぶり顔を背けた。  
唇を噛み締めている横顔がひどく幼い。  
やはりホークアイは何も知らない「女の子」なのだ。  
のこのこと「危険」だと周りから恐れられる男のテントに入りこんで来て、いま私に襲われてもホークアイは文句を言えない。  
いや――  
もしホークアイが手当てされることを暴れて断ったとしても、私は少女を気絶させてまでここへ連れてきたかもしれない。  
「…あっ」  
「痛みますか」  
消毒液を染み込ませた綿で傷口をなぞると、ホークアイが小さな悲鳴を上げた。  
これほどの痛みで叫ぶのならばホークアイは今ここに存在しないだろうし、これ以上にひどい痛みと苦痛を少女は知っているはずだ。  
ホークアイは私に肌を晒し、そして触れられることが恐ろしいのだろう。  
口元に指を添えて何とか気を紛らわしているようだが、ここから逃げ出したくて堪らないに違いない。  
弱さを易々とさらけ出すホークアイの綺麗な横顔が、前線に立っているときのような興奮を湧き起こす。  
「…う…っ」  
白い身体の所々に赤い血が滲むホークアイの身体は美しかった。  
少し痩せているが、まるで彫刻のように括れとふくよかさがはっきりとしている。  
消毒液が皮膚に染み込む度に、私が身動きをする度にホークアイは身をよじり、同時に豊かな丸い胸が男を誘うかのようにふるりと揺れた。  
細い腹と腰にガーゼを押し当てながら、その下にある子宮をいじめたい衝動に駆られるが、今はまだその時期ではない。  
「…胸まで傷つけられて、可哀相に」  
胸の上にくっきりと残る切り傷の消毒を始めると、ホークアイが顔を歪めた。  
痛むのではなく「可哀相」という言葉が悔しいのだろう。  
 
「…そういえば、前にお嬢さんを責めてしまったことがありましたね」  
傷口をえぐるかのように乱暴に綿を押し当てても、ホークアイは声を出さず、目をつぶって耐えていた。  
「あの時は申し訳なかった。お嬢さんが私を怖がるのは第一印象が悪かったからでしょうか?」  
「…キンブリー少佐を…怖がるだなんて…」  
ホークアイが感情のこもっていない言葉を機械的に紡ぐ。  
「しかし、あの時言ったことは事実です」  
「…っ!?」  
治療中の乳房を手で鷲掴みにすると、ホークアイが反射的に逃げようと身体を起こし、ベッドががたりと揺れた。  
しかし乳房を掴んだままホークアイの身体をベッドへ強く押し戻す。  
「いやあっ!」  
「…安心してください。約束したでしょう?私はあなたに何もしない、と」  
「やめて…離して…っ!」  
先ほど襲われた恐怖が蘇ってきたのか、小刻みに身体を震わせるホークアイがついに涙を浮かべた。  
顔を背けているものの、目から零れ落ちる液体は隠しようがない。  
予想以上の反応をしてくれると喜ぶ。  
「うあぁっ!」  
胸を掴む指に力を込めると、ホークアイが叫んだ。  
「ただ、お嬢さんに言いたいのです」  
「…いや…お願いだから…!」  
「あなたは弱い。現実から目を背けるあなたは精神的にも肉体的にも幼く弱い。ですから」  
「…ふっ…う…!」  
もう一度手に力を込めて胸を握り締めると、ホークアイがしゃくり上げて泣き始めた。  
「襲われるんです。あなたが弱いから」  
ようやく胸から手を離しても、ホークアイは身体を強張らせたまま泣いていた。  
手で口を押さえ、声を漏らすまいとしているが、時折高い声が聞こえる。  
弱いというその言葉が、ホークアイの全身を苛んでいるのだろう。  
「…ああ、申し訳ありません。またやってしまった。お嬢さんのような方を見ると制御できなくなる」  
言い返す気力もないのか、ホークアイの横顔には涙が伝うばかりだ。  
乳房には指の痕が赤くくっきりと残っている。  
「手当ての最中でしたね。続けましょう」  
「…うっ…やだ…!」  
傷のない片方の乳房に触れると、赤くなった瞳が非難するように私を見た。  
弱りきったこの表情が、しかし怖くてまともに抵抗できない姿が、堪らなく良い。  
「何度も言いますが、私は何もしません。しかし、あなたを楽にしたい」  
「触らないで…ください…っ」  
「こんなに涙を流して…手当てがひどく痛むようだ。お嬢さんは知らないかもしれませんが、女性はここを触られると気持ち良くなるんです」  
「…やめて…っ!」  
ホークアイの悲痛な叫びなどもちろん聞き入れず、桃色の尖りを擦りながら傷口に消毒液を垂らした。  
「…ふぅ…、う…っ」  
ホークアイは突起を弄られてもただただ辱めに泣くばかりで、快楽を得ている様子はなかった。  
ピンと立った乳首は純粋に刺激を受けただけで、甘い痺れは一切なかったらしい。  
消毒を終えた傷にガーゼを貼りながら、心を許す相手ではないと快感を得られない堅い身体なのだと感心した。  
それでいい。  
ここで喘がれたら興ざめしていたところだ。  
 
私に肌を晒すことより、弱者の証である傷を見られることに嫌悪感を覚えるホークアイの姿もますますそそる。  
この硬い身体に無理矢理にでも快楽を感じさせる楽しみがなくなるところだった。  
誰に抱かれても結局は感じてしまう浅ましい身体の持ち主だと知った時、ホークアイはどんな顔を見せてくれるのだろうか。  
この弱い少女を追い込み、泣かせ、喘がせるのはさぞかし楽しいだろう。  
泣き腫らした顔で軍服を整え、静かに礼を言うホークアイですら私を煽る。  
ホークアイは泣いて取り乱したことも律義に謝った。  
「泣かせるつもりはなかったのですが…なんと謝ればいいのか」  
「いいえ…キンブリー少佐は何も気になさることはありません。私が悪いんです」  
テントの入り口に立ったホークアイは死んだ魚のような目をしているのに、姿勢だけは正しいのが可笑しかった。  
「押し付けがましいのですが…お嬢さん、助けた代わりにあなたにお願いがあるのです」  
「…何でしょうか?」  
早くここを立ち去りたいのか、どうでも良さそうにホークアイが答える。  
「あなたを名前で呼んでも構いませんか?『リザさん』と」  
「…え…?」  
涙のあとが残るホークアイが久しぶりに瞳に私を映した。  
「どうして…」  
「あなたに興味があるのです。それに…マース・ヒューズという男もあなたを名前で呼んでいる」  
「…少佐がそうしたいのならば…私は構いません」  
厄介なことになったとホークアイは思っているだろう。  
ホークアイは私と親しくなりたいと思うはずがなく、むしろ遠ざけたい存在だろう。  
先ほど散々虐めたばかりなのだ。  
そして何より、ホークアイを名前で呼ぶことがあの人物に知られるのが嫌なはずだ。  
「…少佐、厚かましいのですが、私からもお願いがあるんです」  
「何でしょう」  
「…少佐はそんな人ではないと信じているのですが…。私が襲われかけていたことを…誰にも言わないでほしいのです」  
「分かりました。守りましょう」  
「では…」  
「リザさん」  
立ち去ろうとするホークアイを名前で引き留めると、少女の顔があからさまに嫌そうに歪んだ。  
「リザさんは他人に借りを作りたくない…私にはそう見えます」  
「…そうかもしれませんね」  
「また私があなたにお願いをして、貸し借りをなしにしませんか?」  
「…はい…」  
今度は何を要求されるのだろうかと暗い表情でホークアイが俯く。  
「リザさんの身体から傷が消え、本来の美しい肌に戻るまで私が手当てを続けたい。いいでしょうか?」  
ホークアイはこれから先も私と関係を持つという残酷な提案に目を見開いた。  
少女は目を泳がせ必死に逃げ道を探しているのだろうが、逃がすつもりはない。  
「そこまで少佐に迷惑を掛けるわけには…」  
「迷惑ではありません。私が望むことです」  
「…ですが…!」  
ホークアイは珍しく口ごもっていた。  
しかし、断れば私が襲われかけたことを口外するかもしれないことに気がついたのか、何かを我慢するようにきゅっと唇を引き結んだ。  
「…少佐に手当てをしていただくなんて恐縮ですが、少佐が望むのならば…」  
必死に、絞り出すかのようにホークアイが肯定の言葉を紡ぐ。  
やはり、それほど焔の錬金術師に知られたくないのだろう。  
ホークアイにとっては重い鎖のような約束をし、そして少女は律義に何度も礼を述べて去って行った。  
ふらふらと歩くホークアイの背中を見つめながら、あの少女をいじめ抜く準備はできたと笑う。  
どのようにして屈服させようか――  
頭に計画が浮かぶのと同時に、ホークアイの泣き顔がちらついて背中がまたぞくりと疼いた。  
 
次の日の夕方、存分に爆発を楽しんでテントが集合する地区に戻ると、面白い光景を見つけた。  
ホークアイと焔の錬金術師が一緒にいる。  
マスタングはホークアイのことをいつも異常に気にかけている。  
少女に問い詰めて今日の出来事を報告させる光景は、二人を追う私にとっては日常であった。  
マスタングとホークアイは、何か深い絆で結ばれているのだろう。  
「リザさん」  
笑みを浮かべて二人に近付くと、ホークアイよりもマスタングが先に反応した。  
「キンブリー少佐…!?」  
今「リザさん」と言い放ったのが私だと信じられないのか、私の顔をまじまじと見る。  
「キ、キンブリー少佐!」  
そこにホークアイが入り込んだ。  
マスタングを後ろに押しやる顔にひどく焦りが滲んでいて可笑しい。  
今、ホークアイは名前で呼ぶという撤回できないあの約束を心底後悔しているであろう。  
しかしホークアイにはそれしか道がなかった。  
「キンブリー少佐、私に何かご用ですか?」  
ホークアイの後ろで、キンブリーと何があったのだと喚いているマスタングを宥めつつ、少女は事を早く済ませようと問い掛けてきた。  
「いえ、傷の具合が気になりまして」  
「傷…?リザ、どういうことだ!?」  
「キンブリー少佐…!」  
マスタングとホークアイが同時に叫んだ。  
ホークアイは私の口を塞ぎたくてたまらなさそうであり、マスタングは少女の肩を揺さ振って説明を求めていた。  
「リザ!傷って何なんだ!?」  
「…マスタング少佐、あの、これは…!」  
「キンブリー少佐が知っていて何故私が知らない!」  
マスタングは私に噛み付かんばかりの勢いで怒鳴り、次にホークアイを睨んだ。  
「少佐、落ち着いて…!」  
過保護のマスタングはやはり予想通りの怒り方をすると、しばらく二人を眺めていた。  
マスタングはホークアイに掴み掛からんばかりで責め立て、ホークアイは何とか話を逸らそうとしている。  
「リザさん、ここでは話すらまともにできない。あちらに行きましょう」  
マスタングの手を払い、ホークアイの肩を抱くことで焔の錬金術師から引きはがす。  
たちまちマスタングの顔に青筋がたった。  
私がホークアイを名前で呼ぶのも、親しげなのも、触れるのも、何もかもが気に入らないのだろう。  
「リザ!今ここで全部説明しろ!」  
「マスタング少佐、申し訳ない。リザさんと先約があるんです」  
「あ…キンブリー少佐…!」  
ホークアイの手を取り、無理矢理指を絡めてぐいぐいと引っ張る。  
「リザ!」  
「マスタング少佐、あとでちゃんと説明しますから…!」  
ホークアイはそう言い残し、追い掛けてきそうなマスタングから逃げるように早く歩く私に大人しく手を引かれた。  
ホークアイは後ろを気にしながら、仕方がないといったように時折つっかえながら私の後ろを歩く。  
「キンブリー少佐、約束が…」  
人気のない岩影に着いた時、ホークアイが先に言葉を発した。  
「約束が…違います…!」  
「約束?」  
「わ、私が襲われていたことは誰にも言わないと…!」  
「おや、私はそんなことを口にしましたか?怪我の話しかしていないつもりですが」  
我ながら意地が悪いと思う。  
ホークアイは襲われかけたことに関することは一切マスタングに告げたくないのだろう。  
マスタングは後からホークアイに問い詰めるだろうから、これでは打ち明けてしまったも同然だ。  
 
少女は鳶色の瞳に絶望を滲ませ、今にも泣きそうな顔で唇を噛み締めていた。  
「さて、リザさん。怪我の具合を見せてください」  
「…ここで…ですか?」  
ホークアイが生気の感じられない声で呟いた。  
どんなに嫌な状況であっても、もう私に抗えないと分かっているのだろう。  
嫌々ながらも、ホークアイは大人しくしていた。  
いい傾向だ。  
「いつリザさんに会えるか分からないでしょう。だから手当ての道具をいつも持ち歩くことにしたのです」  
それだけリザさんが心配なんですよとホークアイの耳元で囁きながら、椅子の代わりになる石の上に少女の身体を座らせる。  
ホークアイはされるがまま、まるで崩れるように石の上に座った。  
自分がどれほど無力であるかを思い知らせるのか、私の前にいるとホークアイは何もできない赤子のようだ。  
どんなに怯えていても、己の弱さ故の罰なのだと耐えるようにじっとしている。  
軍服の上着に手を掛けると、震えた呼吸が耳に届いた。  
私に抗う術を持たず、抗えばまた傷付けられると昨日だけで植え込んだこの少女は本当に面白い。  
苦痛でしかないのに従順に従うしかないこの少女の心を、二度と立ち直れなくなるほどずたずたに切り裂いてしまいたい。  
その時、ホークアイはどんな可愛らしい泣き顔を見せてくれるのかと想像するだけで興奮する。  
しかし、ホークアイを虐めるのは今日はここまでらしい。  
「リザ!」  
荒々しく砂を蹴る音と共に、男の必死な声が何もない大地に響いた。  
「マスタング少佐…!?」  
走って近付いてくる男がマスタングだと気付いたホークアイが、俯いていた顔をぱっと上げる。  
その顔には嬉しさよりも焦りの色が見えた。  
「キンブリー少佐、何をしているんだ」  
声は静かだが、怒鳴っている時と同じくらい怒気を含んでいた。  
二つ名に相応しく焔のように怒りをあらわに近付いて来たマスタングは、ホークアイの服から私の手を乱暴に引きはがした。  
そして唖然としているホークアイを私から守るように、少女の前に立つ。  
「ここで何をしている」  
「何って、手当てです。ああ…服に手を掛けていたことですか?脱がないと手当てはできないでしょう?」  
マスタングに掴まれた手は痛く、その手を摩りながら大袈裟に痛がってみせ、飄々と答える。  
「もしかして、私がリザさんを襲っているように見えたのですか?それはとんだ勘違いだ」  
肩を竦めてみせる私をマスタングが睨む。  
「どうしてあなたがリザの手当てを?」  
マスタングは凄みながら私を見る。  
「また少佐は勘違いをしているようだ。私が一方的に迫った訳ではありませんよ。ちゃんとリザさんと約束したのです」  
「何…?」  
「リザさんの白く美しい肌から醜い傷が消えるまで見届けたい…と。ねえ、リザさん」  
「…は、はい…」  
私の物言いと、大人しく返事をしるホークアイが気に食わないのか、マスタングは眉を吊り上げた。  
「失礼だが、キンブリー少佐…リザは本当に約束に同意したのか?あなたが無理矢理取り付けたわけではないのか?」  
「おや、またマスタング少佐は変なことを言う。無理強いなんてしていませんよ」  
「マスタング少佐、あの…キンブリー少佐のおっしゃっていることは本当です。ですから…」  
 
この場を和やかにすることはもうできないが、早く切り上げたいのかホークアイが早口でマスタングを宥める。  
しかし、ホークアイが私を庇うような発言はマスタングを苛立たせるだけだった。  
マスタングの心の中の私に対する罵倒が聞こえてくるようで、堪え切れず笑ってしまう。  
「リザさん、あなたはマスタング少佐によほど大事にされているようだ」  
私をひと睨みしたマスタングは、石に座るホークアイの手を引き、無理矢理立たせた。  
「リザ、将軍が『鷹の目』に会いたいとお呼びだ。来なさい。…キンブリー少佐、構いませんね?」  
「おや、そういうことなら仕方がない」  
「…え…マスタング少佐…?」  
明らかに嘘だと分かる発言だが、今回だけは騙されてやろう。  
ホークアイはマスタングに引きずられるようにしてこの場を去った。  
どうしてあの二人は愚かなのだろう。  
大事な存在を簡単に明かしてしまうなど、弱点を見せているも同然だ。  
笑いが止まらない。  
マスタングは私との間に何があったかをホークアイに問い詰め、そして少女の弱さまで結局は受け入れてしまうのだろう。  
マスタングの甘さと温かさのホークアイの染み込んだ身体を汚せば――きっと普通に犯すよりもあの少女はいい顔を見せてくれるだろう。  
遠ざかっていく二人の後ろ姿を見ながら、いつか心身ともに瀕死のホークアイをマスタングに差し出してやろうと目を細めた。  
 
 
 
「どういうことだ!」  
テントに着くなり、リザの身体をベッドに投げ飛ばして、その上に覆いかぶさった。  
驚いて身を起こそうとしたリザに体重を掛け、無理矢理視線を合わせる。  
「何故あいつと親しい?何があった?何をされたんだ!?」  
リザに対して怒鳴ったことはあまりなく、テント中に響く私の大声に彼女は肩を揺らした。  
リザは言葉も発することができないほど驚いている。  
「『リザさん』、だと?それに怪我って何のことだ?どうしてあいつが手当てをするんだ!」  
キンブリーに対する怒り、そしてあいつに従うしかないようなリザに対しても割り切れない怒りが込み上げてくる。  
「あいつには近付くな!」  
「しょ、少佐…話を聞いて…」  
「近付くなと言っているんだ!」  
細い顎を掴み上げ、頭ごなしに怒鳴る。  
私は何も知らない。  
先ほどまで、私は何も知らなかったんだ。  
キンブリーが知っていることを、私はまったく知らない。  
リザとキンブリーが言葉を交わすまで二人が接近していたことを何も知らず、あいつは彼女を自分の物のように連れ去った。  
「…マスタング少佐…」  
「質問に答えろ」  
どうせまた言い訳をするに違いないリザを睨んだ。  
何に対しても苛立ってしまう。  
「…あいつは君の何なんだ?」  
顎を持ち上げたままリザを睨む。  
「…少佐…」  
何ひとつ答えるこのできないまま責めるように質問ばかりされているリザが、怯えた表情を浮かべていることにふと気が付いた。  
私の目は怒りと苛立ちしか映していなかった。  
触れているリザの顔が冷たい。  
このリザの怯えた表情にキンブリーは惹かれているのだろう。  
リザを責めるだけではキンブリーのしていることと何も変わらない。  
怒りは消えないが頭がすっと冷静になり、リザの上から身体を退かした。  
「…すまない」  
「…いいえ」  
リザも身を起こし、私から少し離れた場所に座った。  
 
乱暴に押し倒したせいで、リザの少年のように短い金髪がぐしゃぐしゃに乱れていた。  
戦場にいていくら心が荒んでいてもリザだけは傷付けず守ろうと決めたはずなのに、この有様は何だろう。  
俯いているリザの顔が青白い。  
自分の情けなさにため息をつくと、リザの肩がぴくりと揺れた。  
「…マスタング少佐、ごめんなさい」  
「……どうして君が謝るんだ」  
「キンブリー少佐もマスタング少佐も悪くないのに…関係を険悪にしてしまいました。すべては私が悪いんです…。私が…自分の弱さを隠そうとするから…」  
「何があったんだ…?」  
リザの肩を掴んで問い詰めたかったが、これ以上思い詰めた顔をさせたくない。  
手の平を固く握り締めることで我慢した。  
「…すべて…話します」  
美しく整った顔は可哀相なほど白くなり、声は震えていた。  
それでもリザはきちんと顔を上げ、視線を合わせて話してくれた。  
見知らぬ数人の兵士達に襲われそうになり、ナイフで服を破られたこと。  
そこにキンブリーが現れ、リザを助けただけではなく傷の手当てをしてくれたこと。  
交換条件でキンブリーがリザを名前で呼ぶことになり、そして傷が消えるまで見届けると約束したこと。  
「…以上です」  
時折辛そうな表情を浮かべながら、それでもすべてを話し終えたリザは、泣くのを堪えようと唇を噛み締めていた。  
――キンブリーはリザの怯えた表情と、泣く姿が見たいがために彼女に近付いたのだろう。  
再び俯いてしまったリザを眺めながら、嫌な汗が背中を伝うのを感じた。  
これ以上リザをキンブリーに近付けては危険だ。  
今まで、リザを見守れているつもりでいたがそれが甘すぎたことを悔やむ。  
「…助けてやれなくてすまなかった」  
リザが襲われていた時、自分ではなくキンブリーがその場にいたことに腹が立つ。  
「マスタング少佐が気に病むことはありません。…私が弱いから、襲われただけの話です」  
「どうしてすぐに私に言わなかった」  
話を聞いている最中に問い詰めたくなるほど、これが一番引っ掛かることであった。  
「…マスタング少佐に…」  
リザの固く握り締められた手に、ぱたりと透明の液体が落ちた。  
「無力だと知られるのが嫌で…。弱いから帰りなさいと呆れられるのが怖かったんです」  
「そんなことは…」  
「少佐は優しいからそうやってすぐに私を庇うでしょう?心配を掛けてあなたの重荷になるのを避けたかったんです」  
顔を上げて強く言い放ったリザの頬に涙が伝っていた。  
リザはキンブリーと関わることを決心してまで、私の重荷になることが嫌だったのか。  
「…リザのことを重荷だなんて思わない」  
親指で涙を掬い上げながら呟く。  
「話してくれない方が、リザのことを知れない方が重荷になる」  
「…そんな…」  
「だから、何でも話してくれないか」  
リザを引き寄せて腕の中に閉じ込めた。  
何も知らずにリザを怒鳴り、怯えさせて、それでも私を気遣う彼女がいじらしい。  
この小さな身体が幾度も危険に晒されたと考えるとやりきれない。  
「キンブリーが知っていていて私が知らないのは嫌だ」  
子供じみた言い方だったが、事実だ。  
 
リザは未だに返事をしないで黙っている。  
一度決めたら絶対に曲げない、リザはそういう人間だ。  
酷い手を使ってでも、はいと答えさせたいと苛立つが、今はリザの精神状態を考慮して我慢した。  
しかし、これだけは譲れない。  
「リザ…傷を見せてくれないか?」  
「…え…?」  
腕の中で縮こまっていたリザが、急にうろたえた。  
やはり嫌なのだろう。  
「今日の手当てはまだなんだろう?」  
「…そう、ですけど…」  
「キンブリーが見たのに私には見せられないのか?」  
苛立ちを表に出さず、リザをなるべく優しくベッドに横たえる。  
「…しょ、少佐…!」  
「嫌なのか?」  
「…だって…傷を見たら、マスタング少佐は悲しむでしょう…?」  
リザが悲しむのならばそれを分かち合いたい。  
リザも私のことをそう思っているはずなのに、彼女は独りよがりだ。  
嫌がるリザに構わず、軍服の上着のボタンを外していく。  
「いや…少佐…!」  
ブラジャーを外し、シャツをたくし上げると、白い肌に痛々しくガーゼが貼ってあるのが目に入り、顔を歪める。  
「…ひどいな…」  
「やだ…見ないで…っ!」  
リザはまた瞳から涙をぼろぼろと零した。  
顔を手で覆い、すぐさま背中を向けてしまう。  
「リザ」  
「いやっ!」  
しかし肩を押さえ付け、無理矢理仰向けにさせた。  
リザが嫌だともがくが、聞き入れなかった。  
痛いほどに肩を押さえつけたまま、ガーゼを押さえているテープをゆっくりと慎重に剥がしていく。  
思っていた以上にすべての傷が浅く、綺麗に消えるだろうということが唯一の救いだ。  
心が痛むのをごまかすようにそう思い、手を伸ばした先にある消毒液の入った瓶を手にした。  
「…少佐が…っそんな顔をするから嫌だったの…!」  
傷を見られたリザは絶望にも似た表情を浮かべ、抵抗を止めて脱力した。  
手当てをしている間、リザは子供のようにずっとしゃくり上げて泣いていた。  
消毒液が染み込み痛むことすら気にならないのか、ただただ涙を零している。  
「…リザ、終わったよ」  
最後の傷口にガーゼを貼り、下着とシャツを元に戻した。  
シーツを見るとリザの涙がたくさん落ち、染み込んでいた。  
「…そんなに嫌だったのか」  
濡れたシーツに触れると、顔を背けていたリザが私を見た。  
赤い目元は私を睨もうとしたらしいが、その前にまた涙が落ちた。  
リザを膝の上に乗せて抱き締める。  
「好きだから傷付いてもすべてを知りたいんだ」  
「好きだから知られたくないの…!」  
数々の苦痛を一気に味わって疲れているのか、いつも感情を抑え冷静に構えているリザが珍しく声を上げる。  
しかし、私はリザを守りきれなかった証である傷を、どんなに苦しくても目に焼き付けなければならなかった。  
――リザをこのように泣かせるのはこれが最後だ。  
「…ふ…う…っ」  
「…リザ…」  
呼吸を乱して泣くリザを宥めるように背中を撫で続けた。  
そうしてどれくらい経っただろう。  
「……ごめんなさい…」  
鼻をすすりながら、リザが静かに口を開いた。  
「…子供みたいに泣いて…恥ずかしい…」  
「…いいや、私のやり方が悪かった」  
「…いいえ…」  
乱暴に扱ってしまった私が謝るべきなのに、リザはどこまでも健気だ。  
 
顔や首を濡らす涙を袖で拭ってやると、リザは大人しくされるがままになっていた。  
「……リザ、怖くないか?」  
「…何がですか?」  
「『男』が…怖くないか?」  
今更な質問だと顔を歪めた。  
リザは犯されそうになったばかりだというのに、私は自分のことしか考えておらず、荒々しく行動してしまった。  
「マスタングさんなら…怖くないです」  
懐かしい呼び名が耳に届き、思わず目を細めた。  
「マスタングさんは絶対にひどいことしないのを知ってるから」  
「…そうか?」  
「はい」  
師匠が亡くなり、リザに背中に刻まれた秘伝を託された夜、私は彼女を抱いた。  
その晩から私は秘伝を解読するためにリザの屋敷に住み、その時期、特に夜には処女を失ったばかりの彼女を散々な目に合わせてきたような気がする。  
そして、今だって紳士的な対応だったとはとても言えない。  
――すべてを許すリザの優しさ、綺麗さに私はいつも頭が上がらない。  
そして、キンブリーはそんな真っ白で美しいリザを汚したいのだろう。  
「…リザは、キンブリーをどう思う?」  
怯えさせぬよう、頭を撫でながら自然に話を切り出す。  
「自分の甘さを暴かれるから…苦手です。できるならば近付きたくない方です」  
「でも…あいつはリザを気に入っているようだ」  
まさかキンブリーが泣きじゃくるリザを犯そうとしているかもしれない、とは言えなかった。  
「…まさか…」  
リザは、キンブリーの好みそうな泣き腫らした赤い顔を歪めて呟いた。  
「あいつは笑いながら人を殺すような人間だ。リザが思うよりずっと危険なんだ」  
リザを抱き締める力が自然と強まる。  
「何かがあってからでは遅い。…あいつに近付かないでくれ。約束も私が撤回するから」  
「いえ…キンブリー少佐との約束は自分で片付けます。私のことですから」  
またキンブリーと話す機会を持つという、その考えが甘いのだ。  
キンブリーは汚れた世の中を知らないリザのこの甘さを利用するつもりなのだろう。  
リザをキンブリーに引き合わせずに、私が勝手に事を済ませようと心の中で決心する。  
「…マスタングさん…」  
「ん?」  
「ずっとこうしていたいです…」  
悶々と悩み苛立つ私に対し、リザは場違いに甘い声を出した。  
「…ここに来て、初めて安らげた気がします…」  
この戦場で、そして今日と昨日は特に心が落ち着く暇がなかったのだろう。  
リザが柔らかい身体を私に押し付ける。  
「マスタングさん…私、昨日のことは怖いけど、マスタングさんは怖くないの…」  
「リザ…?」  
「…忘れたい…」  
リザは私の首に腕を回すと、耳に唇を押し当てて囁いた。  
リザの屋敷に居た頃、これが行為の合図であった。  
「…いいのか…?」  
「マスタングさんがいいのなら…お願い…」  
泣き止んだあとの潤んだ鳶色の瞳が私を捕らえる。  
赤くなった目元を細めたひどく切ない表情で迫られ、断ろうとしていたはずが、身体はリザに深く口付けていた。  
「…んあ…っ」  
舌を絡めたまま、再びリザの身体をベッドへ横たえる。  
「…んん…っ」  
飲み切れずにリザの唇から零れた唾液を吸い取り、舐めとる。  
リザとのキスは何年ぶりだろう。  
 
熱く甘いリザの舌を自分の舌で撫で、食べるかのように口にくわえる。  
境界線が分からなくなるほど、リザと私の舌が絡み、熱くてひとつになりそうだった。  
「…んんー…ッ!」  
息苦しいのか喉から声を出し、顔を背けようとしたリザの頬を手で掴み、逃げないように固定する。  
「んうぅ…っ!」  
唇同士を合わせているだけでも気持ち良いのに、口の中を隅々まで舐め尽くすと知らずと呼吸が乱れる。  
「…はあ、あ…っ」  
ようやく口付けから解放されたリザは、苦しげだったが目尻がとろりと下がっていた。  
リザが怖がらぬようにしたいのだが、優しく振る舞う余裕がなく、荒々しく軍服をむしり取ってしまう。  
上着を投げ捨て、ブラジャーのホックを外すと一気に黒いシャツをたくし上げた。  
先ほど私が手当てをして貼り付けたガーゼと、最後に抱いた時よりもずいぶんと豊かになった乳房が晒される。  
リザは昔から発育が良かったが、あの頃よりも女性らしく成長していた。  
鍛えた身体はほどよく引き締まり、腰が細く括れている。  
細い腰に不釣り合いなほど胸がまた大きくなり、形のよい丸い果実が二つ身体の上に乗っているようだった。  
じろじろと遠慮なく視線を浴びせていることに気が付いたのが、リザが胸を庇うように腕で覆いながら頬を染めた。  
「…あんまり見ないでください…」  
「あ、ああ…すまない」  
リザの腕の下で圧力の通りに従順に形を変える白い乳房は、昔と変わらず柔らかそうだ。  
「リザ…怖くないか?」  
「…平気です…」  
リザに体重を掛けぬように覆いかぶさりながら問うと、彼女は恥ずかしそうに大丈夫だと答えた。  
「…ん…っ」  
リザの腕を退かし、そっと乳房に手を乗せると彼女が声をもらした。  
想像通り、指が簡単に食い込む胸はすべらかで柔らかい。  
傷に気を付けながら、肩や鎖骨にも口付けを落とす。  
「…あぁ…ッ、は…あ…っ」  
何度か揉んだだけで、胸の中心にある桃色の突起がぷくりと顔を出した。  
「ひゃあんッ!」  
乳首を摩ってみると、リザが身体を浮かせながら喘いだ。  
「…あ…声…」  
テント中に響いた自分の甘い声に気付き、リザは恥ずかしそうに手で顔を覆った。  
「…あまり大きな声を出すと…聞こえるだろうな」  
「んんうっ!」  
意地悪く笑いながら、可愛らしい乳首に舌を絡め始めた。  
相変わらず乳首が弱いリザの身体は、喉をのけ反らせて喜んだ。  
「もう夜だからな…攻撃の時間は終わりだ。テントに戻る奴もいれば、外で暖をとる奴らもいるだろう」  
「あ…っ、そんなにしたら声…!」  
「今すぐ近くにもいるかもしれない」  
「はぁ…あっ、駄目…!」  
「私は構わない」  
「…んぅ…っ!」  
リザは甘い声の漏れる唇を手で塞ぎ、愛撫に堪えていた。  
傷を覆うガーゼの周りを労るように優しく撫でながら、一方で乳首を指先で攻め続けると、ツンと硬く立った。  
「あぁんッ!」  
指で弾くと、声を我慢できないのかリザが可愛らしく鳴いた。  
胸に吸い付き、赤い痕を残しながら器用に軍靴を脱がせ、そしてズボンのベルトにも手を掛けて外す。  
ずるずると引っ張り、上着同様ベッドの下に投げ捨てた。  
 
「やあ…あぁ…っ」  
柔らかい胸にしゃぶりつきながら、邪魔なブラジャーとアンダーシャツも取り払う。  
「ま、待って…マスタングさん…」  
「何だ?…やっぱり怖いか?」  
「違うの…あの、全部脱ぐの…?」  
首まで赤く染めたリザは、身体を覆う布がショーツだけなのが心細いのか長い脚を丸めた。  
「服が汗まみれになるのは嫌だろう?」  
そう言いながら自分もシャツを脱ぎ捨てる。  
「だって…外に人が…」  
「服を着ていてもいなくても、することは同じだ」  
「…うぅ…っ、や…は…!」  
再びリザの胸を揉みしだき始めると、口を手で覆っているはずなのだが完全に声が漏れていた。  
テントという頼りない建物のすぐ向こうに人がおり、そんな状況で全裸に近い恰好をしていることに、リザは無意識に興奮しているのかもしれない。  
白い胸に軽く噛みつきながら、そっとショーツに手を伸ばす。  
指先に湿った布が触れた。  
「あ…マスタングさん…」  
「ん?」  
「久しぶりだから…その、あんまり…」  
「ああ、分かっているよ」  
以前私がリザを好きに抱いていたように、激しくしないでほしいのだろう。  
「優しくする」  
安心させるために額に唇を落とすと、リザが照れたようにはにかんだ。  
リザの額には汗が滲んでおり、ふと気が付けば自分も身体が汗に濡れており苦笑する。  
「…ふあ…あっ、ああ…!」  
ショーツの上から、秘所に指を食い込ませてゆっくりと上下に何度もなぞる。  
「…やぅ…あぁ…っ!」  
リザは声を我慢しながらも、だんだんと快楽に浸っているようであった。  
濡れ始めたショーツがくちゅりと音を立て始める。  
「…んん…っ…ひあ…っ」  
指全体で秘所を揉むようになぞると、リザが無意識に腰を揺らし、手に押し当ててきた。  
「あぁー…っ!…あ、いや…っ!」  
もう布越しでは足りないのだろう。  
物足りなさそうな瞳が縋るように私を見つめる。  
リザの要望通りにショーツを取り去ると、金の繁みはぐっしょりと濡れ、その奥はもっと蜜が滴っていた。  
「やあ…っ!あ…!」  
手を押し当てた秘所は堪らなく熱い。  
秘所を覗き込むように身体をずらした。  
白い脚を広げて持ち上げるとリザは羞恥に顔を歪めたが、批難の声が上がる前に敏感な突起に触れる。  
「ああぁっ…いや…!」  
リザが喘ぐのと共に膣が物欲しげにひくつき、慎重に指一本を滑り込ませると、驚くほど簡単に受け入れられた。  
「だめぇ…!同時になんて…っ…うあぁ!」  
厚い皮に覆われた粒を摘み、そして指をゆっくりと抜き差しすると、太ももが小刻みに震え始めた。  
リザはもう声を我慢することを忘れかけている。  
「…ふうっ…んん…!…あ、気持ちいい…っ」  
「…そういえば、リザ」  
「ん…っ、何ですか…っ?」  
「キンブリーに手当てをされた時、胸を見せたんだよな?」  
「…え…?…はい…でも…っ、ああ…っ!」  
「『でも』…何だ?」  
「キンブリー少佐は…っ私のことを女性として見ていないというか…上手く言えませんが、私を性的な目で見ていないと思いま…やあんっ!」  
何も分かっていないリザの中に、二本の指を突き刺した。  
膣はますます潤み、熱い肉が歓迎するように指を飲み込む。  
 
「…リザ、そんな甘い考えは捨てろ。何度も言うがあいつは危険だ。リザが予想もしないことで傷付けてくるかもしれない」  
「んう…っ!はい…っ、分かりました…!」  
喘ぎながら、それでもリザはしっかりと返事をした。  
リザのなまめかしい肉体が他の男、よりによってキンブリーが見たと思うとまたふつふつと怒りが込み上げる。  
苛立ちをリザにぶつけると、彼女は身体をくねらせて受け入れた。  
「あう…っ!や、ん…っ!激しい…っ」  
「二度と私以外の男に肌を見せるな」  
「ああ…!もう…っ…マスタングさん…っ!」  
膣が指をきゅうきゅうと締め付け始め、執拗に指先でこね続けてきた突起も姿を現してきた。  
もう限界が近いのだろう。  
リザがイけるよう、指の動きを激しくする。  
「ふああっ!あっ、駄目っ…きちゃう…!」  
「いいよリザ…可愛い…」  
「ひゃあっ、あっ…!やああぁッ!」  
膣の壁に強く指を擦りつけると、リザが蜜をどっと漏らしながら達した。  
背をしならせて硬直した身体の緊張が解けると、ベッドにどさりと落ち、リザはぴくぴくと痙攣していた。  
「あ…っ…マスタングさん…」  
雪のように真っ白な脚や肩が卑猥にひくりと揺れており、リザは全身で絶頂の余韻に浸っていた。  
「気持ち良かったか?」  
「…ん…」  
私の肩に擦り寄りながら、リザが頷く。  
リザはしばらく休んでいたいのだろうし、そうさせたいが、私の我慢が続かなさそうであった。  
私も久しぶりなのだ。  
戦場に来てから女性を抱いたことはもちろんなく、一人で処理する余裕もなかった。  
「…リザ…いいか?」  
「…はい…」  
リザが私の首に腕を回し、しっかりとしがみついてくる。  
リザの甘い息が肩をくすぐり、柔らかい金髪が押し当てられる。  
昔と変わらない仕草に頬が緩んだ。  
「…あん…」  
熱い入口に先端を押し付けただけで気持ちが良く、長く持たないことを予期させた。  
「…くふ…っ…うっ…!んんぅー…ッ!」  
ゆっくりと奥まで自身を埋め込み、動かぬままリザを抱き締める。  
リザの膣は昔と変わらず、熱と柔らかさでもてなし、私を受け入れてくれた。  
「…痛くないか?」  
「…ん…大丈夫です…っ」  
痛みを我慢しているわけではなく、リザの声は本当に気持ち良さそうだった。  
「…久しぶりだな…」  
「…はい…」  
リザは私の首筋に頬を愛おしそうに擦りつけ、久しぶりの交わりを味わっているようだった。  
胸板に感じる押し潰された乳房も、自身を包み込む熱い膣も堪らなく気持ちが良い。  
静かに腰を動かす始めるが、それだけで果ててしまいそうだった。  
「…ああっ、あっ…ふあぁっ!」  
揺さ振られる度にリザは甘く鳴き、私の腰にしっとりと汗ばんだ脚を絡ませて貪欲に快楽を求めてきた。  
「ひゃあんっ!」  
たぷたぷと形を変えて揺れる乳房が可愛く、吸い付くとリザがきゅうっと膣の締め付けを強めた。  
「あぁ…ふ、あ…っ!」  
「リザ…っ」  
「マスタングさん…っ!んん…っ、すき…!」  
リザに名を囁かれ、彼女の中に入ってあまり時間が経っていないというのに射精欲がぐんと高まる。  
「あぁ…っ!?…やあっ…そこは嫌ぁ…っ!」  
赤黒い肉棒の上に顔を出している敏感な突起を弄りながら突き上げると、リザが刺激が強すぎるのか、逃れるように激しく首を振った。  
 
もう果てそうなため、情けないが一緒にイくにはこうするしかない。  
「…っ…!」  
「あっ、また…っ!いや…っ…あ…!ふあぁんッ!」  
リザの中から自身を取り出し、腹の上に精液を放つ。  
敏感な芽を弄られて達したリザが身体を震わせながら身をよじると、精液がとろりと素肌を伝う。  
「…リザ…っ」  
「…あ、マスタングさ…っ!いや…もう駄目…っ」  
精を放ったもののまだ物足りず、自身をリザの秘所に擦りつける。  
限界を迎えたばかりの身体にまた刺激を与えられることは、リザの苦手なことのひとつであった。  
「あー…っ!やめて…っ…おかしくなりそう…!」  
優しくすると約束したはずなのに、我を忘れてリザを貪ってしまう。  
性器同士を擦り合わせるという行為に興奮し、ひたすらリザのぬかるみに自身を押し付けて腰を揺らした。  
熱く濡れた秘所に自身を擦りつけて得られる快感も相当なものだが、リザが眉を寄せて悩ましげに喘ぐ姿を見る方が背に痺れが走る。  
「…リザ…」  
「…く…っ、うああ…っ!」  
すぐに勢いを取り戻した自身を、再びリザの中に埋めた。  
溢れんばかりに濡れているおかげでするりと入ったが、しかし潤んだ肉は容赦なく締め付けてくる。  
「…あっ…や…!だめ、動かないで…!」  
「無理だよ…リザ」  
「はあ…っ…本当に…変になりそう…!」  
お互いの汗や体液がごちゃまぜに溶け合った結合部は火傷しそうなほど熱を持っており、腰を動かすたびに水音を奏でた。  
激しく貫けば、パンパンと肉と肉が激しくぶつかり合う音も、熱気のこもった小さなテント内に響く。  
「…ああっ…は…あっ、あ…!」  
リザは涙を目尻に溜めて喘いでいた。  
頬が上気し、力の入らないとろけた表情で揺さ振られる姿を久しぶりに見て、また背筋にぞくりと快楽が駆け抜ける。  
「ふ…っ…マ、スタングさ…っ」  
「ロイ、でいい」  
身体を倒し、白い肌と自分の肌を擦り合わせるようにして腰を動かした。  
胸板を押し付けられたリザの乳房がもつれて転がり、肩や腹も彼女に触れ、柔らかさを伝える。  
下半身だけではなく上半身も絡み合い、リザのすべてを抱いているようで堪らない。  
「ロ…イ、もう本当に駄目…っ!」  
「…ん」  
リザの口の端から溢れた唾液を舐める。  
唇と唇を擦り合わせながら、抜き差しするスピードを上げた。  
リザは縋るものが欲しいのか、背に腕を回してきた。  
「…んん…ーっ、あっ…ロイ…っ!」  
リザのすべらかな太ももが私の腰を強く挟み、同時に膣の肉が自身にぎゅうっと絡み付いた。  
「ロイ…っ、ロイ…!あっ…ああ…っ!…ん、あ…!」  
静かにリザは絶頂を迎え、私にしがみついていた腕から力が抜ける。  
「…リザ…!」  
「ふぁあ…ッ」  
最奥まで突くと、リザの脱力した身体が堪らないといったように跳ねた。  
首をのけ反らせるのと同時に涙が飛び散る。  
リザの熱い中に包まれ、彼女に遅れて果てた私は、外に欲望の塊を吐き出した。  
 
「…ん…」  
汗や精液で汚れた身体を清めている間、リザは現実と眠りの世界を行き来していた。  
最後に達した時から、すでにうとうとしていたのだから仕方がないだろう。  
それにリザには二日間でたくさんのことがありすぎた。  
私の隣で穏やかに眠ってくれるのならば嬉しい。  
素肌に軍服の上着を羽織らせて一緒に毛布に包まると、リザが胸に擦り寄ってきた。  
背に腕を回して抱き寄せるとリザがにこりと頬を緩めた。  
「…リザ、怖くなかったか…?」  
「…はい…」  
眠そうに目を細めながらリザが答える。  
「怪我は?痛むか?」  
「…ちっとも…」  
その答えにほっとした。  
リザの背を撫でながら、金髪から覗く小さな耳に触れると、彼女は目を閉じたままくすぐったそうに笑った。  
無邪気に口元を緩めるその表情は、幸せそうにも見えた。  
「…マスタングさん…気持ち良かったです…」  
本当に眠いのだろう、いつものリザならば決して言葉にしないことを言う。  
「マスタングさん…大好き…」  
その言葉を最後に、リザは糸が切れたようにぱたりと眠ってしまった。  
安らかな寝顔を見て微笑みながら、リザを二度と酷い目に合わせぬよう決心する。  
今日から毎晩リザを私のテントに来させ、キンブリーには絶対に彼女を会わせない。  
セックス中のリザの優しさや甘さを思い出し、そんな彼女を傷付けようと目論むキンブリーへの憎しみで身体がかっと熱くなる。  
あいつにリザを壊させるものか――  
どんな手を使ってでも、リザを守る。  
幸せそうに眠るリザをきつく抱き締め、自分も目を閉じる。  
柔らかな彼女は心地良く、セックスの後だということもありなおさら眠気を誘うが、しかし心にはリザを守りきるという消えぬ焔が宿っていた。  
 
 
 
終わり  
 

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