「…あ」  
深夜、すっかり静まり返った司令部内の廊下を歩いていると、後ろにいたリザがふと足を止めた。  
「中尉?」  
不思議に思い振り返ると、リザはすぐに横にある部屋の中を見つめていた。  
何を見ているのだろうかとリザの元まで戻ると、その一室の窓越しに見事な満月が浮かんでいる。  
「綺麗ですね…」  
「ああ」  
ここは客間のはずだ。  
誰かが部屋の扉を閉め忘れたために、客間の窓から覗く月を見ることができたのだろう。  
深夜の司令部の廊下は明かりは控え目であり、部屋に至っては真っ暗である。  
そのことがより満月の鮮やかさを引き立て、リザの目に止まったに違いない。  
暗い空間に満月だけがぽかりと浮かび、明るい光を放っていた。  
「もっと近くで見てみようか」  
ぼんやりと月を見つめるリザの手を引いて、客間へとぐいぐい引っ張っていく。  
そういえば最後にリザの手に触れたのはいつだろうか。  
銃を扱う軍人らしい硬さと、女性らしいしなやかさを合わせ持つこの手が好きで、感触を覚えるかのように思わず強く握る。  
リザは私にされるがままだった。  
リザの背中を押して、窓辺に立たせることも容易であった。  
「…本当に、綺麗ですね…」  
うっとりと表現するよりも、普段の覇気をなくした声でリザが呟く。  
連日残業が続いたためか、リザは眠気に襲われていて言動がどことなく鈍い。  
リザは自分の体調を表に出すまいと振る舞っているが、私には分かる。  
そう、リザがいつもと少し違うことを、私は知っている。  
私が部屋の扉を静かに閉め、鍵を掛けてもリザはまったく気が付くことなく窓の外を見ていた。  
色に輝く満月の明かりが部屋に満ちて、電気をつけずとも動くことに不自由はしない。  
先ほどふと思い付いたことが実行できるかもしれないと、私はゆっくりと口端を上げた。  
「君の方が綺麗だよ」  
月に見惚れていたリザのすぐ後ろに立ち、後ろから身体を胸に抱き寄せると彼女の口元がわずかに緩んだ。  
鏡ほど鮮明ではないが、窓ガラスには恥ずかしそうに微笑むリザと、彼女の肩に顔を埋める私が映っている。  
「この髪も満月に劣らず輝いていて美しい」  
映画の台詞のように芝居掛かった口調でそう言いながら、髪をきつく縛っているバレッタを外し、ポケットへと仕舞った。  
空に浮かぶ月と同じ金色の髪がふわりと肩に広がり、甘い香りも漂ってくる。  
「中尉、今すごく眠いだろう」  
「…分かりますか?」  
苦笑しながらリザが言う。  
バレッタを外された時、心底嫌そうに眉をしかめない時点でリザが普通の状態ではないことが分かる。  
リザの白い目元には可哀相なことにくっきりと隈ができており、そして時折欠伸を噛み殺している彼女の姿を目にすることがあった。  
「中尉のことならすぐ分かるよ」  
リザを抱きすくめる腕に力を込めると、彼女がそれに合わせて体重を掛けて寄り掛かってきた。  
久しぶりの抱擁がひどく心地良いと互いに思っていることは、言葉にしなくても分かる。  
司令部内で過剰にリザに触れると彼女はいつも頬を真っ赤に染めて怒るが、仕事に終われて抱き合う時間など考えられなかった日々をずっと送ってきたためか、今は何も言わなかった。  
「……君のことなら、本当になんでも分かるんだ」  
耳元に唇がつくほど近付けて先ほどの台詞を繰り返すと、リザの肩がぴくりと揺れた。  
目の前にある美しい金色の髪を撫で、その柔らかな毛先が首筋をくすぐるたびにリザが唇を噛む様子が先ほどからガラスに映っている。  
「あの…あっ!大佐…っ!」  
リザが逃げられぬように腰にきつく手を回し、反対の手で軍服の上着のボタンを外していく。  
 
リザは腕の中で身をよじって抵抗するものの、服に触れている手の動きがくすぐったいのか抗い方が弱々しい。  
おかげで背後からでも簡単に上着を脱がすことができた。  
ばさりと床に落とし、今度はアンダーシャツに手をかける。  
「ちょ…っ、大佐…!」  
青い軍服の下から現れた黒いアンダーシャツを強引にたくしあげると、肌を粟立たせながらリザがより強く暴れた。  
「…こ、こんなところで…駄目ですっ!場所を考えてください!」  
「でも、気持ち良くないか?」  
「え…?」  
「気持ち良くない?」  
「…そんな…んんッ!」  
ブラジャーのホックを外し、久しく触れていない乳房を手の平全体で味わうように撫でると、リザが甘い声を上げた。  
胸に五本の指を食い込ませて揉んでいると、いつもより早く手の平に乳首の硬さが伝わる。  
「…ん…あぁっ!」  
触ってほしいと言わんばかりに形を持ち始めた乳首を強く摘んでやると、リザは首を反らして喘いだ。  
「…大佐ぁ、あっ、駄目です…!」  
「仕事は一段落ついた。あとは家に帰るだけだ。自由に過ごして何が悪い」  
「そ、そうではなくて…!だから司令部でこんなこと…っ」  
柔らかな乳房と硬い乳首という正反対の感触を手の平で同時に味わっていると、リザが弱々しく首を振る。  
「家まで待てない」  
「…ここじゃ…嫌です…」  
「しかしな…君だって待てないんじゃないか?」  
「やっ、やめて…!」  
両方の豊かな胸を下から掴み上げ、リザに見せ付けるようにアンダーシャツから覗かせる。  
黒い布から白い乳房を零れ落としている様は満月なんかよりも絶景であった。  
目の前のガラスに、二つの豊かな乳房を強引に掴み上げられ、唇を噛み締めている女の姿があった。  
手の中にある胸の中心で、乳首がつんと上を向いているのまで映らないのが残念だ。  
「…やめてください…っ」  
胸を持ち上げられているリザの呼吸がやけに荒い。  
少しの愛撫でいやらしく乳首を尖らせ、息を上げてすでに快楽の虜になるなどいやらしい身体だ。  
しかしこれには理由がある。  
「君だって待てないだろう?」  
「…ふぁっ、あ…っ!」  
シャツの上から首筋に噛み付くだけで、リザは弾かれたように甘い声で鳴いた。  
窓ガラスに縋るようにリザの両手が張り付く。  
腕に抱いたリザの身体がいつもより熱っぽいことは当たり前のように知っていた。  
乳房が張り、いつも以上にきつくブラジャーの中に収まっていたことも予想していた。  
手を握った時、髪を降ろした時もリザは敏感に反応し、その愛らしい姿に戸惑いを覚えることなく、楽しませてもらった。  
「…だ、誰か来たら…っ、…どうするんですか…!?」  
「鍵は閉めた。それにこんな夜中まで働く真面目な軍人は私達くらいしかいない」  
「でも…っ!あっ、もう、駄目です…っ」  
リザは抵抗するわりに動きがいつもより頼りなく、まったく妨げにならなかった。  
私が服に触るだけでも刺激になり、そして布が素肌に擦れるという些細なことも耐え難いのだろう。  
ズボンのベルトに手を掛け外していっても、リザは腕の中で首を振るだけだった。  
リザは月のものが近い。  
この時期になるとリザの肌は非常に敏感になり、そして無意識に性欲が高まった身体は抱かれたいと望んでいる。  
「…あっ…」  
ズボンを剥ぎ取り床に落としてしまうと、リザは窓ガラスに押し当てている手に力を込めた。  
ショーツ越しに秘所に手を当てると、そこは驚くほど濡れていた。  
「…だ、だめ…っ!」  
リザが行為を頑なに拒む理由は司令部で行うことに反対しているのだろうが、淫らな自分を見せたくないという気持ちも多少はあるのかもしれない。  
 
「私がほしいだろう?」  
「ふぁあっ…んっ!…あ、そんなこと…!」  
愛撫する必要のないぬかるみを可愛がろうと、ショーツの横から手を差し込んで触れる。  
指先がたちまち淫らな蜜に濡れ、軽くくすぐるだけでもぐちゃりという音を立てた。  
「いやっ、離してくださ…っ、いやあぁッ!」  
窓ガラスがリザの息で白くくもった。  
すっかり熱を持った突起を少々乱暴に摘みあげると、リザはそれだけで軽く達してしまった。  
突然の絶頂に身体からみるみるうちに力が抜けるリザを腕で強く支え、窓に張り付けさせる。  
「リザ、窓を眺めてごらん」  
「…ま…っど…?」  
窓に両の手の平を張り付かせていることで何とか身体を支えているリザが、ガラスにぼんやりと映った目の前の自分を見る。  
「物欲しそうな顔をしている」  
ガラスには、鋭いはずの目をとろりと下げ、熱っぽく表情を緩ませたリザの顔が映っているはずだ。  
濡れた唇からは乱れた吐息が次々とこぼれている。  
乱れた金髪から覗く耳が、かっと赤く染まるのが暗闇でも分かった。  
「あ…、やぁっ…うあッ!」  
リザが否定の言葉を紡ぐ前に、たっぷりと染みのついたショーツを膝まで下ろし、手を秘所に食い込ませた。  
リザの潔癖な精神は快楽を否定するが、肉欲が高まるこの時期、彼女の身体は確実に私を欲しがっている。  
軽くイっただけで今のリザが満足するはずないだろうと薄く笑いながら、指を彼女の中へ捩込んだ。  
「…はぁッ、たいさ…!…ここじゃ…っ嫌、いやです…っ」  
膣の周りはすっかり蜜塗れになっており、中はもっといやらしい液に溢れていた。  
ずっと手を入れているとふやけてしまうのではないかと思うほど熱く潤んだリザの中を広げるように指を押し込んでいく。  
「…うやっ、だめぇ…っ!ひぁあ…ッ!」  
膣の柔らかい肉は指をきちきちと締め付け、美味しそうに飲み込んでいる。  
すでにズボンを押し上げている自身がこの中にもぐり込むことを想像すると、身体の中心がまた熱を持った。  
「…ほ、んとに…っ!…だめなのッ!…やっ、あ…んあぁッ!」  
久しぶりに聞く甘ったるい鳴き声を楽しんでいると、リザの太ももが切羽詰まったようにがくがくと震えた。  
膣の中に差し込んだ数本の指を、肉の壁を引っ掻くかのように折り曲げただけで、またリザが達してしまった。  
「…あっ、…はぁ…」  
白い太ももにまで蜜が滴り、いくつもの線を描いている。  
快楽から逃げようと何度も首を振ったせいで乱れた金髪を窓に押し付け、リザが苦しそうに息をはく。  
紅潮した頬に汗ばんだ髪の束を張り付け、大きな目から涙を零すリザが月明かりに照らし出される。  
美しくもなまめかしい姿を見せ付けられ、背中の一点がぞくりと痺れた。  
そろそろ私も限界だ。  
ズボンのファスナーを下ろし、熱く尖ったものを外へ解放してやりながら、リザの身体をぐいと引き寄せた。  
「…たいさ…?」  
壁に押さえ付けていたリザの腰を掴み抱き寄せると、ガラスに手をついた彼女が私に向かって尻を突き出すという恰好になった。  
「…いやっ、こんなの…!」  
獣が交わるかのような体勢に、リザが悲鳴をあげる。  
「しっかり捕まっていないと駄目だぞ」  
「…や、だ…っ!」  
「もう遅い。それにここはこんなに欲しがっている」  
「あんっ!」  
私のものを膣の入口に押し当てると、リザがその刺激に腰をくねらせた。  
白い尻をか弱く震わせる様子に目眩がしそうだ。  
「…うっ…あ…」  
性器同士が絡み合う部分がひどく熱く、互いを欲している。  
窓ガラスは先ほどからリザの息で白く染まるばかりで、もう月など誰も気にしていない。  
「…んんぅ…っ!」  
真っ赤なリザの中にゆっくりと自身を埋めていく。  
膣が溢れんばかりに濡れているために、いつもよりも簡単に入り込むことができた。  
私を受け入れたリザは、圧迫感の苦しさに喘ぐというより、ようやく肉棒を迎えられたという喜びの声を上げたように思えた。  
 
「あぁっ!うぁっ、あぁ、あ…!」  
リザの括れた腰を掴み、激しく揺さ振る度に乳房が美味しそうに揺れる。  
平らのガラスに必死に縋り付くリザの指を見ると、爪が白くなっていた。  
「…気持ちいいか?」  
「…はっ…んぁっ!」  
喘ぎながらリザが必死にこくこくと頷く。  
今になってようやく素直になったようだ。  
しかし残念ながら終わりが近い。  
久しぶりに私を受け入れるリザの濡れた肉は心地良く、彼女の媚態を見せられたせいもあって限界が近い。  
「…た、いさ…!大佐…っ!」  
「…どうした…っ?」  
「もう…っ立てない…!」  
白い尻の間に赤黒い自身を出し入れしている様子に見惚れていると、涙交じりにリザが叫んだ。  
「も…っ駄目です…っ!立ってられな…!」  
助けて、とリザが甘い声で鳴く。  
窓ガラスについたリザの手は今にもだらりと力が抜けてしまいそうで、腰を掴む手を離せば彼女は崩れ落ちるに違いない。  
「ああ…分かった」  
「んあぁっ!」  
リザの蜜を纏った自身を抜けるぎりぎりまで引き出し、そしてまた奥をめがけて一気に押し込む。  
互いの体液を掻き混ぜるように激しく水音をたてながら、リザをさらに強く突き上げた。  
「…リザ、もう…」  
「あぁっ!…そこ、は…っ!」  
リザが嬉しさと怖さを交ぜたような悲鳴を上げた。  
金色の繁みの奥へ手を伸ばし、先ほどより硬さを増した突起を指先で撫でる。  
「ふああぁッ!」  
「…リザ…ッ!」  
ぬめる突起を摘み上げるとリザは膣をきつく締め付けながら達し、私も彼女に数秒遅れて達した。  
リザの白い尻に思いきり精液をぶちまける。  
「…あ…」  
気持ち良いというより、痛いほどの刺激を与えられてイったであろうリザは、手を放すと力なく床に横たわった。  
 
自分から始めたこととはいえ、司令部内ですると後片付けが面倒だ。  
行為の処理を終え、ぐったりとしているリザの身体も清め、私は彼女を胸に抱いたまま客間のソファーに寝そべっていた。  
「…ん…」  
私の上着を布団代わりに羽織らせたリザを軍服ごと抱き締めると、眠りの淵にいる彼女が腕の中で小さな声を上げた。  
そういえばまだ今日は口付けをしていなかった。  
上に乗せているリザの身体の脇に手を差し入れて引き上げ、視線が合うほどになった彼女の唇をくすぐるように舌で舐めてみた。  
「…ふぁ…」  
それに応じるようにリザが夢見心地で唇を薄く開き、私はその中に舌を差し入れた。  
リザも控え目に私の舌の動きに応じ、しばしの間、互いに絡め合うことを楽しんだ。  
「…は…っ」  
いつもより大分短い口付けを終え、リザを離してやると、また彼女はうとうととし始めた。  
胸に縋り付くリザの重みや、首をくすぐる金髪が心地良い。  
リザに月のものがくるまでの間、あと数回ほど私が満足するまでこの身体を可愛がる必要がある。  
しかし今はリザにも私にも睡眠が必要だ。  
これからたくさん楽しむためにも。  
次はどんなことをしてリザの顔を真っ赤に染めてやろうかと考えているうちに、胸に彼女を抱きながら心地良い眠りについていた。  
 
 
 
終わり  
 

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