ロイの指と舌だけで二回も絶頂を迎え、身体の隅々まで快楽に支配されたかのような錯覚を覚えた。  
どこもかしこも熱くとろけて力が入らず、ロイがわずかに肌に触れるだけで身体は敏感に反応する。  
汗と体液にまみれた身体をシーツの上に横たえ、ぼんやりと天井を見上げたまま浅い呼吸を繰り返していた。  
「リザ」  
寝そべる私の耳元で、ロイが名を低く囁いた。  
目尻に浮かんでいた涙を指先で拭い取ってくれ、ロイが優しく微笑む。  
それだけでつま先から頭のてっぺんへと、痺れが一気に身体の中を駆け抜ける。  
ロイは、未だ絶頂の余韻から抜け出せていない私の身体をそっと転がし、俯せへと変えた。  
「…ちゅう、さ…?」  
ロイはとても優しい人だけれど、性行為の間は私の言葉が聞こえなくなるほど見境をなくし、たまに暴走をすることがある。  
これからこの体勢で何をされるのかという不安から後ろを振り向こうとすると、その前にロイの手が伸びてきて頭を撫でられた。  
安心して良いというように汗ばんだ髪の毛を丁寧に撫でられ、振り向くことを止めて身体の力を抜いた。  
少年と間違われるほど短い髪をロイが愛おしげに梳いてくれて、気持ち良さから自然と目が細まる。  
ロイの手はうなじを優しく撫で、そして背中に刻まれた陣に敬意をはらうようにそっと丁寧に触れた。  
「…マスタングさん…」  
「うん?」  
温かで大きな手に包まれて、ずっとロイの優しい声を聞いていたい。  
知らずとロイの名前を昔の呼び方でうっとりと囁いていた。  
今日のロイは敏感な部分ばかり執拗に攻めてきて、妙に性急だと怖くなった瞬間もあったが、それを溶かすかのようにロイの手が私の身体を余すことなく愛でる。  
背中に何度も口付けを落とされ、眠気が訪れそうなほど気持ち良かった。  
「…あ…っ」  
しかし、背骨を伝い、ロイの手がだんだんと下半身へ下りていくことに弱々しい声がもれた。  
背骨から下を愛撫されることは滅多になく、まだまったくと言いほど慣れていない。  
「やぁ…っ」  
そっと尻を手の平でひと撫でされ、咄嗟に目の前にあったシーツを握った。  
太ももがぞわりと粟立つ。  
ロイの手の平は、尻の形や柔らかさを確かめるかのように肌を遠慮なく撫で回す。  
ロイの手に力がこもり、まるで胸を愛撫する時と同じように捏るように尻に触れ、ただただ恥ずかしかい。  
何故このような場所を、と思う前に、私は息を飲んだ。  
ロイの指が再び背骨を伝い始めたかと思えば、下までどんどんと辿り、指の腹が菊門でぴたりと止まったのだ。  
「…え…?」  
驚きのあまり声が震えていたかもしれない。  
安らいでいた身体が一気に凍るような思いがした。  
「うぁ…っ!」  
ロイの指先が菊門の周りをくるりとなぞり、嫌悪感から悲鳴を上げた。  
身体中にぞくぞくと鳥肌がたち、唇をきつく噛む。  
「…リザ…いいかな?」  
ロイが静かに問い掛けてきた瞬間、頭が真っ白になった。  
身体を強張らせ、目を見開いたまま心身共に固まってしまう。  
尻を性行為に使うなど今の今まで知らなかったが、そういう行為もあるのだということを冷静に理解した。  
そしてロイは、多分その行為の了承を得たいのだろう。  
頭は素早く状況を飲み込み、落ち着いてロイの要求も理解できたが、心が受け入れることができない。  
 
自身ですらあまり見たことのない尻を触られることすら恥ずかしいのに、目にしたことのない菊門をどうにかされてしまうなんて羞恥よりも恐怖に近い。  
ロイが性行為中に私に仕掛けてくることはいつも驚くようなことばかりだが、今回はあまりにも未知の領域だ。  
しかし、ロイはそれを望んでいる。  
ロイと彼の恋人達は、かつて「そういうこと」をしてきたのかとふと頭を過ぎる。  
もしかしたら性行為に疎い私が知らないだけで、一般的な恋人達は「そういうこと」を普通に行っているのかもしれない。  
ロイは今まで、嫌だの恥ずかしいだの否定の言葉ばかりを言う私を気遣って、ずっと我慢をしていたのかもしれないと思うと、己の無知さが嫌になった。  
「…リザ、急にすまなかったな。やっぱり…」  
「…へ、平気…です」  
「え?」  
「大丈夫です…っ」  
ずっと無言でいた私の答えを拒否と受け取ったのか、静かに詫びてきたロイの言葉を遮る。  
緊張と恐怖のあまり声が上擦るが、必死に自分は平気なのだと訴えた。  
「…は、初めてなのでよく分からないですけど…大丈夫です」  
自分に言い聞かせるように大丈夫だと繰り返す。  
本当は逃げ出したいほど怖い。  
しかし、ロイしか男を知らない私はいつも彼にしてもらうばかりで、彼を気持ち良くさせてあげられているのか疑問に思うことがあるのだ。  
されるがままのこの身体でもロイが望むのなら、好きなように扱ってほしい。  
怖い。  
でも、ロイの願いを叶えたい。  
恐怖を押し殺すかのようにシーツを握った。  
「…リザ」  
ずっと強張っている身体を見兼ねてか、ロイがそっと背に唇を落とす。  
私がまったく平気でないことをロイは見抜いているだろうが、私が一度言い出したら曲げないことを彼は一番分かっている。  
「…無理だったらすぐに言うんだぞ」  
「…はい…」  
「痛くしないから、身体を楽にして」  
「…分かりました」  
ありがとうと小さく呟いて、ロイはまた背中に、今度は長く口付けた。  
 
ロイに四つん這いになってほしいと言われたけれど、すでに羞恥と恐怖から腕が頼りなく小刻みに震えている。  
「…う、あ…ッ」  
ロイは尻の穴の周りをひたすら指で撫で続けている。  
気持ち良さはまったくなく、自分も見たことのない場所を凝視されている恥ずかしさと嫌悪感が募る。  
羞恥心から顔が真っ赤に染まり、先ほど絶頂を迎えた時のように熱を発していた。  
「ふあッ!?」  
何か生暖かいものが菊門に触れ、驚きからついにがくんと腕が折れた。  
頭が勢いよく枕に沈む。  
「驚かせてすまない、リザ。大丈夫、ただのローションだよ」  
「…ローション…?」  
涙目でロイの方を振り返りながら呟く。  
ロイは中に液体の入った瓶を手にしながら再び謝る。  
いつの間にそのようなものを用意していたのだろうと疑問に思うが、考える暇もなく新たな刺激が与えられる。  
「…はっ、あぁ…」  
ローションのおかげで滑りのついた指先が、また小さな門の周りを優しくなぞる。  
触れられたことのない場所を急に執拗に撫でられ、言葉にできないむず痒さに声がもれる。  
「…う…っ」  
穴をほぐすかのように、だんだんと力を加えられながら指が動き出し、思わず枕に縋りついた。  
犬のように腰を高く掲げてロイに突き出している体勢に羞恥を感じていたことはすっかり忘れた。  
「リザ…力抜けるか?」  
「…え…?」  
菊門をひたすら撫でている指の動きに少し慣れてきた頃、ロイが問い掛けてきた。  
「…っ!」  
沈黙を破ったロイの言葉を不思議に思った時に腹からわずかに力が抜け、その隙を狙ったかのように、つぷりと菊門に何かが入ってきた。  
 
「…あっ、え…!?」  
「指先が入っているの…分かるか?」  
「…うぁ…!」  
本来ならば何かを入れるべき場所ではない穴に、ぬるりと潤んだ指先がどんどんと入り込む。  
歯を食いしばって身体の中に指が侵入してくる苦しさに耐える。  
「やはり一本でもきついな…」  
「…ひぅ…ッ」  
指先で穴を押し広げられ、異物を入れられているという不快感しか感じられない。  
指一本だというのに圧迫感がとてつもなく、ひどく恐ろしい。  
何かに征服されているような苦しさから枕に顔を強く埋めると、いつの間にか溢れていた涙と冷や汗が白い布に染み込んだ。  
「…入った」  
「…や、あ…ッ」  
「痛くない?」  
圧迫される苦しさを必死に受け入れようとしているうちに、指一本が入ったらしい。  
短い時間だったのかもしれないが、私には永遠に感じられた。  
「リザ?」  
耳元でロイが気遣わしげに名を呼ぶ。  
「…い、痛くないけど、苦しい、の…っ」  
「…そうか」  
「…うあぁっ!」  
残念そうな囁きと共に、門の奥まで入ったロイの手が、ゆっくりと引き抜かれる。  
指が去っていく動きが排泄感に酷似しており、不快感に目を見開いた。  
ぱたぱたとまた涙が枕に零れ落ちる。  
尻での性行為は背徳感に満ちており、こんなにも恥ずかしく辛いのかと打ちのめされる。  
「…はあ…」  
ロイの指が完全に引き抜かれ、知らないうちに力を入れていた身体がわずかに緩んだ。  
嵐が去ったような安堵からため息がもれる。  
しかしそれもつかの間だった。  
「リザ、指を増やすぞ」  
「えっ!?」  
私の返事を待たずに、ロイがまたローションを塗りたくったであろう指を小さな穴へと捩込んできた。  
「…うぁ…あ…っ!」  
先ほどよりも大きな塊に攻められ、冷や汗がまたじわりと額に浮かぶ。  
しかしロイの指達は隙を見ては容赦なく入り込んでくる。  
痛くはないが、腹に何か固いものを詰め込まれているようで苦しい。  
「…あ、あぁ…っ」  
「…リザ…」  
身体を震わせていることに気が付いたのか、ロイが指を差し込んだまま、背中に覆いかぶさってきた。  
「…辛いなら、やっぱり…」  
「やめないで…ッ」  
「リザ?」  
「…苦しいだけだから…っ、お願い、やめないで…!」  
辛く苦しく、経験不足のせいかこの行為を異常だと思うけれど、ロイが願うのならば最後までやり遂げたいという気持ちは譲れなかった。  
逃げ出したい衝動を堪え、これはロイがしたいことなのだと楽になる呪文のように何度も心で呟く。  
「…リザ…」  
うなじに口付けを落とされた。  
背中にロイの熱を感じ、耳元を彼の呼吸がくすぐり、少しだけ身体から力が抜ける。  
「無理をさせてすまない」  
「…は…、あっ!」  
力が抜けた瞬間を見逃さず、ロイの指が奥までどんどん滑り込む。  
「いつかここが膣のように気持ち良くなるよ」  
「はぅっ!」  
耳たぶを軽く噛まれ、強張る身体が緩むのと同時に穴の中で指がうごめく。  
「リザ、大丈夫だから…力を抜いて」  
「…は、い…」  
「ああ…すごく可愛いよ、リザ」  
愛していると耳元で何度も囁きながら、ロイは数本の指を抜き差しし始めた。  
気持ち良さはもちろんないが、ロイの言葉に身体が少しだけ熱を持ち始める。  
 
「…まだ今は気持ち良くないだろうけど…」  
「…んぅ…」  
狭い穴の中で指を広げられ、腹を押し広げられるような苦しさから首を弱々しく振る。  
「ここはすごく気持ち良いだろう?」  
「…ひゃあ…っ!」  
ロイは器用にも、尻を攻めている指の動きを止めぬまま、反対の指で繁みの中の突起を摘んだ。  
先ほど散々いじめられたそこはぬかるんでおり、ロイがわずかな刺激を与えるだけでまた潤ってくる。  
「…また濡れてきた。そんなにいい?」  
「あぁっ、あん…!」  
敏感な突起の上を指の腹が円を描くように動き、堪らず腰が震え出す。  
「ほら、リザ」  
「あっ、やだ…!そこは…ッ!」  
「いやらしいな」  
尖りを弄っていた手が膣の入口へと滑り込み、安々と中へ侵入してきた。  
ぐちゃりと卑猥な水音を立てて、膣の壁を強く押される。  
「何本も私の指を飲み込んでいる」  
「…い、言わないでください…!」  
二つの穴の中でロイの指が好き勝手に動き、ぐちゃぐちゃと音をたてて荒らしていく。  
尻を征服されていた苦しさは前を攻められている快楽に掻き消され、辛さを感じなくなっていた。  
「…すごくいやらしいよ、リザ…」  
「んぁあっ、あっ、ひぁ…!」  
びりびりとした痺れが背筋を駆け抜ける。  
先ほどまではあんなに苦しかったのに、今はロイの指をたくさんくわえこんでいる事実に羞恥を覚えながら、しかし快楽を感じてしまっていた。  
ローションではない生暖かい自身の液体が内股をとろりと汚す。  
「あぁっ、いやぁ…!はげし…い…ッ!」  
うるさく水音をたてながら、ロイは二つの穴を遠慮なく犯す。  
菊門の中を激しく抜き差しして犯すロイの指に気持ち良さを感じるのは、膣の中のざらつきを撫でられた時の錯覚だろうか。  
「ふぁあっ!そんなにたくさん…ッ!…だ、だめ…っ!」  
「いいよ、リザ…最高に淫らだ…」  
「うあ!やだぁ…っ、やだ…っ!マスタングさ…!」  
「もうイきそうなんだろう?」  
「あぁ…、あっ、うああぁッ!」  
ロイの親指がすっかり熱を持った突起を押し潰した瞬間、絶頂を迎えてしまった。  
ロイの手に私から噴き出た体液が大量にかかる。  
「ひぁっ!」  
両方の穴から勢いよくロイの指が抜き出され、双方のむず痒い刺激に声を上げてしまった。  
 
「…あ、あぁ…」  
たくさんの指に犯されて果ててしまった――  
羞恥に唇を震わせながら、どさりと身体がシーツの上に崩れ落ちる。  
「よく頑張ったね、リザ」  
「んぅ…」  
労うかのように尻の丸みをロイに撫でられ、休む間もなく悲鳴を上げる。  
「君があまりにも可愛いから、暴走を抑えるのに大変だったよ」  
新しい刺激を私に教えたことが嬉しいのか、ロイはぐったりとした私の身体を強く抱き締める。  
涙を舌で拭い取りながら、ロイはごめんと詫びるが、反省しているように感じられないのは気のせいだろうか。  
「私があそこでイけるようにしてやるからな、リザ」  
嬉しそうにロイが笑う。  
まだあの狭い門の中に大きな何かが入っているような違和感があり気持ちが悪い。  
先ほど絶頂を迎えたのは尻を攻められていたからではないと断言できるが、しかし、あそこが不快だという恐さはだいぶ消えた。  
これから先、あの小さな穴を愛撫されるだけで果ててしまうのだろうか。  
「楽しみにしててくれ」  
私が気持ち良くなるというより、ロイの楽しみのために身体を差し出しているということに、彼はきっと気が付いていない。  
しかしロイが満足するのなら多少のことは我慢し、これからも羞恥や苦しさと戦い続けようと思ってしまう。  
新しい発見をして喜ぶ子供のような笑顔を見せられたのならなおさらだ。  
「君は最高だ。愛してるよ、リザ」  
「…マスタングさん…」  
「うん?」  
「…私も…です…」  
喜びから気分が高揚しているロイに身体を預けながら呟く。  
このまま眠ってしまいたいが、次は背中に当たっているロイの猛りが容赦なく私を貫くのだろう。  
しばしの間だけでも、疲れた身体を休ませ、ロイの言葉と熱を味わっていたかった。  
 
 
 
終わり  
 
 

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