※エロなしバレンタインネタです
「…なぁ、中尉…チョコを…」
「馬鹿なことを仰らないでください。私達は監視されている身ですよ」
そういって大総統の部屋に向かって行く君はとても遠くに見えた気がした。
そしてバレンタインデー当日。
執務室に入るとロイの机の上には山程のチョコが積んであった。モテモテですねと通りすがりの軍人が囃し立てる。
「よかったら持っていくか?」
義理も貰えない哀れな男たちに言う。彼らも嫌みかよと思いつつも一つも持って帰れないのは男としては寂しいと言いながらいくつかを手にとる。
「ナギにマリーにクリノッペ…だって」
「こっちはラゼルだとよ。モテモテじゃないか。お…こっちはエリザベスだってさ」
彼らは女性の名前を見て声を上げてうらやましいと連呼する。
「ちょっと待て…。エリザベスだと?」
ロイがコートをかけながら振り向く。
「エリザベスからのチョコはどれだ…」
ロイの剣幕に彼らは無言でチョコを差し出す。破られた包みからは手作りチョコの甘い香りが広がる。
「こ…これは私のものだ。他のを持っていくんだ」
彼らの抗議の声を聞き流してロイは自分のカバンにしまった。
その夜、リザの家では作り損ねて形の歪なチョコを一人で食べていた。足元にはハヤテ号がちょこんとお座りをしておこぼれを待っていたが犬にチョコをあげるわけにはいかないので一人で食べている。
「今頃、大佐も食べているかしら…」
もしかしたら気付かずに他の人にあげたかも知れないわねとため息をつく。
「出来れば一緒に食べたかったのだけれど…」
仕方ないわねと呟いてまた一つ食べようとすると電話がかかってきた。電話はロイからであった。
「……何か御用ですか?」
「甘い癒し系手作りチョコのお礼を言わねばと思ってな」
「…………どなたかと勘違いなさっていませんか?」
「私が君の手作りの味を間違える訳がない。ちゃんと味を確認してから電話したよ。料理上手なエリザベスさん」
「…身に覚えがありません…」
リザの声が次第にか細くなっていく。
「とても美味しかったよ」
「…………ならば三倍返しを期待しております」
それだけを言うと受話器を置いてしまう。 不思議そうに見上げるハヤテ号を抱き上げる。
「…大佐って本当に馬鹿ね…。チョコなんて誰が作っても同じ味なのに…」
そういうと彼女はまたチョコを食べた。その顔はとても幸せそうにハヤテ号には見えたという。