「あっ!やめてくださ…ん…っ!」
先ほど男が満足するまで荒らされ、おまけに吐き出された欲望までもすべて飲み干した口は、今度は絶え間無く喘ぎ声を放っていた。
汗ばんだ肌に中途半端に下着を纏ったまま、シーツをきつく握り締め、体の中に生まれる熱を逃すようにベッドの上で身をよじる。
――口だけでいいから。
男に切ない声で切羽詰まったように求められたから先ほどの行為を渋々許したのに、男は果てるとさらなる快楽を求めて、堂々と約束を破り暴走を始めた。
男の下から何とか這い出そうと背中を向けると、逆に男が背中に覆いかぶさり、両手首をシーツの上に強く押さえ付けられてしまった。
「大佐っ、嫌です離して…!ああっ!」
背中の錬成陣をただ舌で軽く舐められただけなのに、大袈裟なほど肩が震えて、濡れた声が漏れる。
男はその敏感な反応に満足したのか、にやりと笑ったのが背中越しでも分かった。
「ふうん。この時期に性欲が高まる女性がいるそうだが…。どうやら君はそのようだね、リザ」
「そんなことな…っ!はうっ!」
首を振って必死に否定していると、指先で痛いほどに胸の頂を摘まれる。
「でもこんなに固くなってる」
「痛…っ、あ…ん…っ!」
「痛いのがいいのかい?」
尖りを転がすように指先で弄られるだけで、いつも以上に体の力が抜け、とうとう腕の支えをなくしてベッドに伏せてしまう。
しかし、男はそれは許さないと言わんばかりに大きな手で胸をわし掴みにして、無理やり力のない体を起こした。
そして、先ほどの乱暴な扱いとは打って変わって、弾力を楽しむように丁寧に揉みほぐし始めた。
男にひどくされても優しくされても、ただ触られるだけで肌が粟立ち体が震える。
もはや、頬を涙で濡らしながら、髪をぐしゃぐしゃに乱し首を振ってでしか抵抗を示せない。
男の指が胸に食い込んでいるのがふとぼやけた視界に入ってきて、たったそれだけで、この行為が嫌にも関わらず甘い吐息が漏れた。
「…はう…っ」
「いい声」
耳の形を執拗に何度も舌でなぞりながら、男は楽しそうに囁く。
「ほら、もっと声を出して」
「い、いつも嫌だって言って…っ!」
「ん、何?」
「嫌だって…あっ…言ってるのに…!」
「何が?」
涙声で何とか訴える言葉に、男は腹が立つほど優しく応じる。
男の手が上半身をそっと撫で回すだけで、体が溶けてしまいそうなくらい熱くなり、また目に涙が滲む。
「胸だけでこんなに乱れるなんて可愛いよ、リザ」
認めたくなかった事実を、首筋を舐め上げながら男が面白そうに言う。
しかし悔しいことに、だらしなく開いた口から漏れるのは否定ではなく浅くて速い呼吸のみだ。
「…私ももう我慢の限界だ」
腰が高く掲げられ、何事かと思っていると、太ももに焼けそうなほど熱いものが触れる。
「え…っ!?…た、いさ…っ!?やっ、いやあっ!」
それが先ほど私の口の中を犯していたものだと気付いた瞬間、死に物狂いで逃げようとしたが、素早く腰を強く掴まれる。
「いや…っ!いやあっ!」
「ん、リザ…もっと締め付けて」
熱いものが執拗に内股の間を往復し始める。
あまりの異様な行為に、この場から逃げ出すことしか頭になくなりやみくもに暴れる。
しかし、男は身をよじることすら許さないように胸と腰を痛いほど掴みあげ、さらに背中に覆いかぶさって完全に体を固定した。
体の自由を奪った男は、好き勝手に腰を動かし自らの快楽を高めていく。
「いやっ、やめて…!やめてください!」
「大丈夫、中には挿れないよ」
「駄目ですっ!離して…んあっ!」
否定ばかりを紡ぐ唇が気に入らなかったのか、男は再び上半身に手を這わせ、胸をいじくり始めた。
行為の独特の匂いのこもった寝室に、二つの悩ましげな吐息が響き渡る。
「そ、こ…っ!や、駄目…っ!」
「じゃあここはいい?」
「あっ、んあ…っ!」
胸の敏感な部分を小刻みに刺激しながら、さらに首筋や脇腹など弱い部分に男が歯を立て、もはや抵抗の言葉すら紡げない。
男の熱を持った塊が、時折下着越しに女の部分を刺激する時には、もう口から出るのは意味を持たない音だけだった。
「…んあっ!はう…っ!」
「…リザ、そろそろ…」
「あっ!あっ、たい、さ…っ!たいさ…っ!」
余裕のない男の吐息が耳元を掠め、体全体がぶるりと震えた。
嫌悪しか感じられなかった内股を動く熱がとうとう心地良くなり始めた頃、無理やり与えられる快楽以外は何も考えられなくなった。
私ももう限界だった。
「ひゃ…あっ!やああっ!」
胸の頂を強く掴まれ、同時に肩に噛み付かれた瞬間、背筋に言いようのない強い痺れが駆け抜けた。
意識を失いかけ、ようやく頭が今の状況を認識し始めた頃、太ももは白濁とした熱い液体で汚れていた。
「…この時期に無理やりやるなんて最低です変態です消えてください」
ベッドに力なく横になり、男を罵倒する。
が、まだまだ足りない。
とっくにばれているにも関わらず、男に涙で濡れた頬を見られたくなくて、男に見えないように隠しつつ指先で拭った。
「…誰が紳士で親切で惚れる女はいない男なんです?ただの性欲の塊の変態です」
「我慢できなかったんだよ…。他の女じゃ嫌だしそれに何より君だって気持ち良さそうだった…いいや、何でもない」
自らが汚した太ももを丁寧に拭いている男をひと睨みすると、男は顔を青くしてさっと視線を逸らした。
しかし、ぶつぶつと「この時期にやるといつもと違って新鮮で癖になりそうだな…」などど呟いている。
本当に最低な男だ。
変な意図なしに太ももに触れられるだけで揺れてしまう体をごまかすように、私も男から盛大に顔を逸らした。
「…ねえ、リザちゃん」
「その呼び方、気持ち悪いです」
「じゃあリザ」
「馴れ馴れしいです」
「あー、もう…。あのさ、いつ終わるの?」
「知りません」
「終わったらまたたくさん…」
懲りないのか、甘えるように胸に擦り寄ってきた男の顔に、溜まりに溜まった渾身の一撃をお見舞いしてやった。
終