地下の暗闇から抜けて地上に戻ると空は紅く染まっていた。  
この国のトップに染まるキング・ブラッドレイは部下や有能な補佐官が前処理しておいた仕事を片付けると自宅に向かった。  
用意された車に乗り込み用意された運転手が用意された家に向かう。そこには訓練を受けたボディーガードとこれまた用意された息子がいる。全てが「あの人」が計画を立てたものの上で生活している。  
いや、自分すら計画された物でしかないのだが。  
家に到着すると使用人が当たり前のようにドアを開けてくれる。  
「おかえりなさい、あなた」  
全て用意されたものの中で唯一自分で選んだもの。それは画一的な空間の中で一際異質に感じた。そうだ、与えられ作られた家族ならば妻もまたホムンクルスでもよかった筈だったのだ。  
「外は寒かったでしょう。もう秋ですものね」  
妻が私の手を取る。人間ではないので寒いとか暑いなどは感じる訳ではない。服は人間生活に紛れ込む為の目眩ましのようなものだし、着飾る意味もない。  
それゆえ寒い、と言われても答えに困るのだがそれが人間の挨拶のようなものだとするなら致し方ないであろう。  
妻の手は柔らかく暖かかった。その手に不釣り合いなものが貼られていた。  
「どうした?」  
「いえ、ちょっと夕食を作ろうとしたら…恥ずかしいわ…」  
料理など調理師を雇っているのだから任せればいいのだが、時々作ると言っては1つか2つ傷を作るのだ。傷は(ホムンクルスに比べたら)治りずらいのだから止めろと言うのだが、妻は妻なりに努力しているらしい。それにグラトニーと違い食べなくても何とかはなるのだ。  
「無理はするな」  
「申し訳ありません」  
ダイニングテーブルの上には湯気を上げているシチュー皿があった。  
「…………では食べるとするか」  
「あ、はい」  
何が嬉しいのか妻は笑った。恥ずかしがったりしょげたり喜んだり人間は忙しい生き物だ。よくわからない。  
でもそのわからない生き物が確実に私に一石を投じていた。一石は波紋になりやがて広がっていく。  
変革の予感がした。  
 
 
終  
 
 

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