「ねぇ、それって愛されているの?」
なんて友人のレベッカが言うものだから心配になる。
事の起こりは半年前。部下のハボック少尉が
「ち…ちち中尉。俺と…俺と付き合って下さい」
なんて言うものだから首を縦に振ったけれど半年の間で手を繋いでキスをしたのが精一杯。そのくせすれ違う女性の胸には目が行くらしく更に気にくわない。
悶々とした気持ちを弾に込めて引金を引くと射撃の的のど真ん中を貫く。しかし気分は晴れない。
射撃訓練を終え執務室に戻ると山積みの書類を見てさらにストレスが溜まる。しかも仕事をしているはずの上司と部下が行方不明だ。
「あ、中尉お帰りなさい。大佐とハボック少尉は休憩ですよ」
その休憩が長いことは知っている。またため息が漏れた。
街が闇に包まれて行き交う人が少なくなる。終業時間が過ぎてサボりのツケで残業に終われた上司と部下は放置してリザは家に帰った。
家では愛犬が尻尾をぱたぱた揺らして待っていた。その愛犬の頭を撫でてから夕飯の支度をする。
ビーフシチューを煮込んでいると家のチャイムがなった。
「……開いているわよ」
ドアを開けて部下兼恋人のハボックの姿を見るとため息をつく。
「入ってくればいいじゃない。何のために合鍵を渡しているのよ」
「だって何か勝手に入ったら悪いかなって」
よく言えば真面目になる。しかし、もどかしい。
ビーフシチューを出すとお腹が空いていたのか勢いよく食べる。その姿に少し癒されてくすりと笑う。
「…リザさん?」
「いや、あのね。すごくお腹が空いた時のハヤテ号みたいだなぁって思って」
「俺は犬じゃありません」
「わかっているわ」
つまらなそうに見上げているハヤテ号を抱き上げてソファーに座る。そこにご飯を食べ終わったハボックが来る。
「リザさんはハヤテ号といると楽しそうですよね」
「……それは…私がジャンといる時は楽しそうじゃないという事?私…そんなにつまらなそうにしてる?」
意外な発言に彼は固まる。
「何を……そういう意味ではありませんよ」
「ならどういう意味?私といても他の女を目で追ってる事くらい知っているのよ」
少しキツイ言い方をしているという自覚はあるが一度言ってしまった手前取り消すことは出来なかった。
「リザさん…勘違いですよ」
「勘違いなんかじゃないわ。ジャンはいつも家に来てご飯さえ食べれればいいんでしょ。私は初めから愛されていなかったのよ」
言いきるとハヤテ号をケージに入れて部屋に籠ってしまう。真っ暗な部屋の中で電気もつけずにベッドに倒れ込む。
「……リザさん」
心配そうに部屋を覗きに来た彼に鍵をかけて帰ってと言い放つ。
「リザさん、急にどうしちゃったんスか?…もしかして受付のピアを見ていた事を怒ってます?それとも電話交換手のチハネ…いや掃除のサウスか…」
呆れて口が塞がらない。正直で嘘をつけないといわれればその通りだが男としてはどうか。
「誤解ッスよ?別に深い意味はないんですよ。ちょっと見ていただけで……もしかしてリザさん妬いてます?」
「!そんなわけないでしょ」
慌てて起き上がると否定する。
「リザさん可愛いー」
「な…な…」
からかいながら頬をつつかれると体が火照り恥ずかしい。
「……キスしていい?」
いちいち許可を取るのが彼の悪い癖だ。そして素直に許可を出せないのが彼女の悪い癖だ。
「…知らない」
顔を背けると唇に暖かい温もり。抱き締められるとその温もりは全身に及ぶ。禁煙をしろと何度も言っているのに実行出来ていないのはシャツの匂いでわかる。
「……リザさん、抱いていい?」
「もう抱いているじゃない」
「そうなんだけど…もっとリザさんの全身も中も…全てを抱きたい……いい?」
「…………いちいち私に許可を求められても困るのだけど…」
恥ずかしくて顔を合わせることが出来なかった。
暗い部屋の中に熱い吐息と艶声が響く。
「あっ…ジャン…」
さっきまで斜めだった機嫌も最早直っていた。半年目にしてようやく一つになれた二人はベッドの上で肌をぶつけている。
彼を受け入れたリザは髪を乱しながら白いシーツの上で声を上げ中を締め付ける。
男の方は彼女の脚を掴みながら腰を動かして中を堪能する。動くたびに水音が響き、溢れた液体はシーツに染みを作る。
「…リザさん、勘違いしていますが、他の女の子を見ていたのは髪を見ていたんです」
「か…み…?」
「もうすぐリザさん誕生日でしょう。だからどういう髪飾りが似合うかなと思って色々な髪飾りをリサーチしていたんです」
「……仕事もそれくらい真剣にやればいいのに」
また素直でない事をいいため息をつく。
「俺は肉体労働派なんですよ。ちまちま書類なんて合いません」
こんな風にと呟きながら更に奥を突くと声が上がる。
「……他の女を見るなら…そんなものいらないわ」
体の疼きを我慢しながらぼそりと呟く。
「…リザさん、何か言いました?」
「別に」
ふいとそっぽを向く。
「……気になる。」
「そうかしら?」
「気になるッス。よし、今夜は言うまで寝かせませんよ」
「?!」
こうして淫声は朝まで続き……ハヤテ号は寝不足だったそうな。
終