イシュバール殲滅作戦中のある夜、小さなコテージ。
マスタング少佐の元を訪れたリザ。
敬礼の姿勢に同じ姿勢、同じ軍服、記憶との違和感に少しだけ微笑んだ。
「呼んだのは大したことではない。昔話でも、と思ってな」
長椅子に腰かける。
彼女は凛々しく少佐を見つめ、返事をした。
机をとんとんと中指で叩く。
「あ……申し訳ありません」
彼女はいそいそと立ち上がった。
「少佐はいつもコーヒーでしたよね。
何を飲みますか?」
食料棚からコップを二つ取り出した。
その彼女の肩へと、後ろから右手を置いた。
彼女の身体は、小刻みに震えていた。
「…どうした?」
「夜になると、嫌なことを思い出してしまいますね。
考えてもしょうがないのに、考えてしまう」
彼女が考えているのは、死んだ父親のことだろう。
「……少尉もですか?」
言われて気がつく。
彼女の肩に置いた右手が、震えていた。
これは恐怖などではない。怒りだ。
悲しみも、痛みも、ただ一点、煮えたぎる怒りへと変換していく。
イシュバールには善も悪もなく、殺す者と殺される者のみが存在する。
理不尽な命令に従い、やるせない感情を抱えたまま、
残酷な行為を行っている現実。
破壊衝動に任せたまま、敵も味方も一切合切焼き尽くしてしまえたら、
さぞ気分がいいだろう。
「悲しいのは、君だけじゃない」
その言葉は、自分でも驚くほど無感情だった。
悲しみとはどんなものだったか、思い返せなくなっている……
「……今日殺した者たちの、家族はどうなるのだろうと考えていました。
父が死んだとき、あんなに泣いたのに――――」
後ろから絡みつくように彼女を抱きしめる。
「私の相手をしろ。
少し、汚れた方が楽になる……」
「……はい」
「手加減はできんぞ」
「……滅茶苦茶に…
して…下さい……
その方が、気が晴れますから……」
リザの瞳は涙をはらみ、潤む。