かすかに不安を抱えながらも、ウィンリィは案内された部屋に入った。  
 コートとブーツを脱ぎ、髪を留めるゴムを外して寝台に横たわるなり、彼女は眠りに落ちた。  
 夢を見た。しばらく見なかった両親の夢を――。  
 仕事の話だというキンブリーに対し、扉一枚隔てた向こうの部屋では、エドワードが  
怒りを露わにしていた。この落ち着かなさは、その激昂ぶりに胸が騒いだせいか。それにしては、眠りが訪れるのが早いけれども……。  
 
 
 いくらも経たないうちに、ウィンリィは目を覚ました。手足ががんじがらめになっている。  
「ちょっと、これ何!」彼女は叫ぼうとしたが、愕然とした。猿ぐつわまで噛まされて  
いるので、くぐもった声しか出ない。  
 ウィンリィはしばらく悪戦苦闘した。  
 いくら手足に力を込めても、努力は実らなかった。  
「うそ……」  
 恐ろしいことだが、先刻手にした飲み物に何か仕込んであったのか。  
「助けて……」  
 ウィンリィの目は、空しく辺りを見回した。もとより拘束を解くのに役立ちそうなものはなく、  
扉はぴたりと閉ざされている。  
 何であたしが、こんな目に。  
 喘ぎつつウィンリィは、同じ建物のどこかにいるはずのエルリック兄弟に助けを求めた。  
   
 足音が近づいた。  
 扉が静かに開き、人影が立った。困惑の表情を顔に貼りつけたその人物は、  
見慣れた白いスーツの男。  
「よく休めましたか、ウィンリィさん」  
「キンブリーさん! 助けて!」という叫びは、空しく宙に消える。  
 男はその発した言葉と同じく、驚いた様子をまったく見せなかった。  
「どういう、こと、ですか」ウィンリィは喘ぎながら繰り返した。  
 彼は寝台の傍らに腰を下ろし、刺青の施された両の掌を少女の顎に添え、  
ついで肩に滑らせた。  
「まことに不本意ですが、一時的に手足の自由を奪わせてもらいました」  
彼は困ったように眉根を寄せた。「その必要がなくなれば、解いてさしあげられるのですが」  
「その必要、って……」と言いかけたウィンリィは、あまりの衝撃に息を呑んだ。  
今まで常に礼儀正しく振舞っていた彼が、後ろ手に縛られた彼女の服の上から、  
ゆっくりと胸を揉みしだき始めたのだ。  
「いや……」彼女は懸命に身をよじった。  
 男はもう片方の手で少女の長い金色の髪を梳きながら、合点がいったという  
ような微笑を浮かべた。  
「ほう。エドワード・エルリックただ一人のものというわけですか」  
「……やめて……」  
 紳士だと思っていた相手の豹変に、気が遠くなりそうだった。  
嬉し泣きするまで泣かないと約束したのに、涙が湧いてはこぼれ落ちる。  
「キンブリーさん……何で……」  
 刺青の施された手が襟ぐりから忍びこみ、乳首の在りかを探る。ウィンリィは  
その手を避けた。  
「何故か? 彼が、課せられた義務を果たさないからです」頭を振りながら  
キンブリーは溜息をついた。「軍属として当然の返事があるはずでしたが。  
極めて遺憾な……残念なことです」  
   
 涙声にかまわず、紅蓮の男はウィンリィの背中を探って留め金を引き下げた。  
少女は縛られた両足で男を蹴ろうと試みるが、うまく行かない。  
「こんな光景を見れば、彼はどう思うでしょうね。怒って私の首を締め上げるか、  
はたまた絶望するか」  
 左右に身をよじる彼女を仰向かせ、男は手慣れた様子でウィンリィの肌を露わにした。  
片方ずつ袖を引き下ろし、下着を押し上げると、豊かに盛り上がった乳白色の双丘が  
まろび出る。  
「おお……すばらしい。眩しいほどの美しさです」嘆息のような声が漏れた。  
 しばらく動きを止め、乳の揺れるさまを眺める。少女はもがいたり、宙を蹴飛ばしたりと  
空しい努力を続けていたが、その甲斐のない抵抗を見るのですら愉しかった。  
「ウィンリィさん。あの鋼の若者には、いつもどうされているのです」  
 恐怖と嫌悪に引きつった涙まみれの顔が、その答えを拒んだ。  
「なるほど、彼はつねづね、あなたのこの眩いような肌を心ゆくまで――  
愛撫しているわけですか」  
 そんなことしてません!という涙声の叫びは、ただ不明瞭なうめきになった。  
「顔をよく見せてほしいのです。あなたがどんな顔で悦ぶのか、興味がありますから」  
 乳白色の丘の薄赤い柔らかい先端を抓むと、少女の身体がわずかに跳ねた。  
 キンブリーの手が触れたあとがその都度、気味の悪い感触を残す。  
男がまるで茶を飲むように、蜘蛛の巣にかかった虫を眺めるように平然としているのに  
ウィンリィは気づいたが、もう怒ることもできないほど気力を失っていた。  
相手は掌を腰のくびれに沿って滑らせ、ゆっくりと上下させている。  
「彼のいつもすることを仰いなさい。そうでなければ、あなたの願望を言ってもいいのですよ」  
男は少女の全身に、舐めつくすような視線を浴びせた。  
   
 少女の胸の、弾力のある感覚を楽しんでいた男の手がつと下半身へ伸び、  
スカートの裾から膝の上あたりに軽く触れた。  
「……いや……」  
 ウィンリィは大きく喘ぎ、両の腿をかたく閉じた。  
「おや、まるで異性を受け入れたことのないような顔ですね?」彼は大仰に、  
その特徴のある眉を片方上げた。  
「これは失礼しました。見せていただきましたよ、あなた方のあの極めて自然な  
親密さ……てっきり、もう関係がおありなものと」  
 何という下品なことをいう人だろう。  
 助けて。  
 エド、助けて。  
 こんな悪い夢は終わりにして。  
 
 
「惜しいことですね。正しい手に導かれれば、ゆくゆくあなたは  
男が離れがたいような女性に生い育つでしょうに」  
 すすり泣く半裸の少女をなおも眺めた後、紅蓮の男は笑みを浮かべて立ち上がった。  
「ご安心なさい。若い娘さんの初花を摘む趣味はありませんから」  
 安心せよと言われても、それどころではなかった。せめて背中を向け、  
できるだけ男の目を逃れるより他はない。   
「よろしい。では、後はあなたの錬金術師に任せましょう」  
 その名を聞いて、ウィンリィの目に怯えが走った。  
「彼が助けに来てくれますよ。あなたが今願っている通りに」  
 四肢を縛める綱はそのままである。白い半身を晒したまま、  
ウィンリィは捨ておかれた。  
 
「あの若者の顔が見ものですね」扉を閉めた後、キンブリーはひとりごちた。  
 正確に何をされたかを彼女が誰にも――あの若者に惹かれているからこそ、なおさら  
――話さないだろうということに、彼は確信があった。もし話したとしても、あの激しやすい  
世間知らずの若造と、幾度も修羅場をくぐって来た自分とでは比較にならないだろう。  
 
 
 

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