規則正しく、時に乱れて荒々しく。
普段の冷たい響きからは信じがたいほど、艶かしさの滲む吐息が室内に満ちている。
「ハッ、……は、ぁ、…ぅンッ…!」
長い髪が上気した首筋に張り付いている。
きめ細やかな白い肌は触れるとしっとりと汗ばんで、
手放したくないと思わせるには十分だった。
弾み、自在に形を変える柔らかく豊かな乳房。
張りのある腰のなだらかなライン。
これがすべて自分のものであれば、欲望の赴くままに触れるのだが。
(これはこれで気持ちいい。だが……)
腰の動きを支えるように両手は添えていたけれど、
動くなと命じられていたから、それ以上は何もできずじっとお預けを食らっていたのだ。
出口を求めて体内で暴れまわる快楽と、ほんの少し倒錯した思いの狭間で、
マイルズは思いのままに快楽を貪っている上司の姿を見上げた。
「……はぁ、…ふ………なんだ、マイルズ。不服そうだな」
仰のいたまま眉をきつく寄せて快感を貪っていたオリヴィエは
視線に気づいたのか不意に動きを止めると、
自分が跨っている男の姿を見下ろして薄く笑みを浮かべた。
褐色の肌に浮かぶ汗を、伸ばした舌で舐め取る。
やわらかい舌先が胸板に触れ、ぞくりとマイルズの背筋を震えが駆け抜けた。
「…ええ、不服ですよ。どうせなら俺が上になりたいんですが」
ただ寝転がっていればいい、上司命令だ。
そう言われて衣服を脱がされ(もちろん手伝わされたが)
ソファに押し倒されてからかれこれ1時間。
お互い裸であちこち弄り回され圧し掛かられては、
さしものマイルズでさえ勃起してしまうのは当然のことだろう。
衣服を脱ぎ落とした上司の裸体は、軍人らしく鍛えられてはいたものの、
欲情しないほうがおかしいくらい綺麗だった。
触れるな、自分がする。そう言われ、時折見せ付けるように自分の体に触れては
熱を帯びた視線を受け止めて笑うオリヴィエに、結局自分は逆らえない。
「主導権を握っているのは私だからな。…お前は私に付き合っているだけだろう?」
くっと肩を揺らして笑ったオリヴィエは、
押し付けて擦りあげるようにゆるやかに腰を使い始めた。
あぁ…、とあえかな吐息が漏れるのは、感じるところをマイルズの先端が擦っているからだろう。
動くたび、繋がった箇所から、ぐち、ぬちゅっと卑猥な水音が漏れる。
熱く絡みつく粘膜の感触。吸い付くような柔肌の滑らかさ。
普段決して見ることのない「女」の顔をした上司の姿。
マイルズがたまらず達しそうになると、気配を感じて動きを止める。
雪の女王様は、そのたびにいかにも楽しげに笑うのだ。
(……くそ…、引っ繰り返して鳴かせて喘がせてイかせてやったらどうだろう……)
……オリヴィエが泣きながらあんあんと喘ぐ姿を想像してみようとする。
だが自分に動くなと言った彼女が、ほかの女のようにおとなしく言いなりになるかどうか。
いや、それ以前に引っ繰り返そうとした時点で傍らの剣で刺される可能性のほうが高い。
――城塞の連中には泣いて羨ましがられるほどの悦楽の極みなのか。
それとも悲しい男のサガを利用された生き地獄なのか。
この後しばらく付き合わされることになるマイルズには、
今のところどちらとも判断がつかなかった。