私は自分の体の変調に戸惑っていた。  
異変を感じたのは帰り掛け、給湯室に置いてあったコーヒーを飲んでからだった。体の中心にじん、と鈍く響く感覚が生じ始めた。意識すればするほど、下腹の疼きが助長されるような気がして、私はとにかく歩くことに集中して家へと向かった。  
 
一日が終わる少し前に自宅に着く。疼きは相変わらず続いていて徐々に私の精神を侵していく。風呂に入る気にもなれず、上の下着を取り払うとハーフパンツとTシャツに着替えた。  
食事をねだる愛犬にドッグフードをやろうと箱を開ける。が、中身は既に空になっていた。  
(確か、上の戸棚に買い置きがあったわよね…)  
そう思い、背伸びをして少し高い位置にある戸棚の扉に手を掛けようとしたところで――  
「は、…ん」  
剥き出しの乳頭にTシャツが擦れ当たったらしい。無意識に、口から妙な声が漏れ下腹に集中していた疼きが胸の突端に飛び火した。「や…だ」  
両腕を胸の前で抱え、必死に疼きを散らそうと試みるが、いつのまにか固く尖った先端は自分の腕の感覚すら刺激にすげ替え、痛いほどにその存在を主張する。  
「ふ…ッ」  
どうにも力が抜け、とうとう私はその場にへたりこんでしまった。両手を床について呼吸を整える。  
 
あのコーヒーに何か入っていたのかもしれない。真新しそうだからと、迂闊に口にした自分を今更ながらに呪う。  
そして、張り詰めた乳首に加えてさらに、私は自分の秘所が熱く湿ってきているのも感じた。じゅくじゅくとした不愉快な感触が思考能力をマヒさせていく。  
 
『触れたい。』  
 
何とか立ち上がり、愛犬の餌を取ろうと背伸びした際、再び乳頭に刺激が走った。そのとき、私は確かにそう思ってしまった。  
 
寝室に入り、ドアを閉める。いつものように何くわぬ表情でベッドに入り、仰向けに寝転ぶ。ぬめる秘所の感触が不快で、無意識に膝を立てた。  
 
仰向けになったことでTシャツは体にぴたりと張り付き、疼く乳頭にさらなる刺激を与えてきた。  
羞恥と背徳的な気持ちに苛まれながらも、私はとうとう我慢できずにそろりと、より固く勃起した左の乳首を右手で摘み上げた。  
「ひぁ…う…」  
体の芯。いつも彼を銜え込む部分がきゅんと収縮する。  
一度踏み出すと後はもう済し崩しで、私は左手も使って両の乳房を激しく揉みしだいた。  
「ん、ッ……あぁ…ン」  
背筋を走り抜ける刺激に声が漏れる。強弱や緩急をつけて揉むことで例えようのない快感が全身を襲う。  
 
しばらく自らの手で胸を愛撫していたが、次第にそれだけでは物足りなく感じてきた。すっかり濡れそぼった秘所が切なくひくつく。  
(やだ…ぁ…)  
 
禁断の場所を自ら触れることに、なけなしの理性が拒絶感を顕にするがそんなものは何の役に立つはずもなく。  
僅かに腰を浮かべ、私は湿り気を帯びる場所に自らの右手を宛行った。  
 
「ん、あ…ぅ…」  
 
ハーフパンツの上からでも十分に濡れていることが分かるそこに触れた途端、口からみっともない喘ぎ声が漏れた。  
陰核を中心に、割れ目にそって衣服の上から中指を前後にゆっくりと動かす。  
 
「は…ひぃ…」  
 
ぷくりと膨れた陰核を指が撫でる度、体がびくんと揺れる。その感覚が気持ち良くて、無意識に陰核を重点的に撫で付ける。  
 
最初は固く閉じていた両足はすでにより強い快感を得るために開かれている。  
ハーフパンツの上からでも分かるほどに固くコリコリとした手触りの陰核を撫でる手が、徐々に早まる。  
 
「あ…ひィ…」  
 
蜜でじとりと濡れるそこを触れながら、私は自分が達しようとしているのが分かった。  
腰は彼の性器を受け入れるときのように高く持ち上がり、情けなく漏れる喘ぎ声はどんどん大きくなる。  
 
「やだぁ……ダメ…ぇ」  
 
それでも頭の片隅に残る理性は自慰で達することをひどく拒む。だが、上り詰めようとする本能にあっけなく飲み込まれてしまった。  
 
「やだ…、ぁひい…っ!」  
どくどくと心臓が早鐘のように鳴り響く。絶頂が近い。こうなってはもう、ひいひいと喘ぎながら快感に身を委ねるしかない。  
 
「い、あ…あぁぁァァっっ!!!」  
 
ぐり、と陰核を押し潰して私は達した。  
びくびくと跳ねる体。したたる愛液。  
 
(……私…)  
 
初めての自慰で達したことへのショックから、私は意識を手放した。  
 
おわり  
 
 

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